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経営者の死亡退職金は自社株評価を下げる?相続税への影響を解説

2024-12-01
目次

同族会社の経営者の方が亡くなったとき、ご遺族に支払われる死亡退職金。実はこの死亡退職金が、会社の株式評価に影響を与えることをご存知でしょうか。相続財産の中でも大きな割合を占めることの多い自社株式。その評価額を適正に下げることができれば、相続税の負担を軽減できる可能性があります。この記事では、死亡退職金が自社株評価に与える影響や、相続税対策としての活用法について、わかりやすく解説していきますね。

死亡退職金と自社株評価の基本

同族会社の経営者の方がお亡くなりになった場合、その方が所有していた自社株式は相続財産として評価され、相続税の課税対象になります。この自社株式の評価額は、会社の財産状況によって大きく変動します。ここでポイントになるのが「死亡退職金」です。会社がご遺族に死亡退職金を支払うと、会社の資産が減少し、負債が増えることになります。これが結果的に、自社株式の評価額を引き下げる効果につながるんですよ。

死亡退職金は「みなし相続財産」

まず知っておきたいのは、死亡退職金は税法上「みなし相続財産」として扱われるということです。これは、本来の相続財産ではないものの、相続によって得た財産と同じように相続税の課税対象になる、という意味ですね。ただし、ご遺族の生活保障という側面も考慮されていて、一定の非課税枠が設けられています。

非課税限度額の計算式 500万円 × 法定相続人の数

例えば、法定相続人が配偶者と子供2人の合計3人なら、500万円 × 3人 = 1,500万円までが非課税になります。この非課税枠を上手に活用することが、相続税対策の第一歩になります。

自社株式(非上場株式)の評価方法

次に、自社株式の評価方法について見ていきましょう。上場していない同族会社の株式(非上場株式)の評価方法は、主に次の2つを組み合わせて計算されます。会社の規模によって、どちらの評価方法をどのくらいの割合で使うかが決まっています。

類似業種比準価額方式 事業内容が似ている上場企業の株価を参考にして評価する方法です。「株価」「配当」「利益」「純資産」の4つの要素で計算します。
純資産価額方式 会社の総資産から負債を差し引いた純資産額を基に評価する方法です。会社の財産そのものの価値を評価するイメージですね。

死亡退職金の支払いが直接的に影響を与えるのは、このうち「純資産価額方式」です。どういうことか、次で詳しく見ていきましょう。

なぜ死亡退職金で株価が下がるの?

死亡退職金を支払うと、会社の「純資産価額」が下がります。これは、死亡退職金が会社の「負債」として計上されるためです。相続税の計算上、株式の評価は相続開始日(亡くなった日)の時点で行いますが、このとき、まだ支払われていなくても支給が決まった死亡退職金は「未払金」として負債に含めることができるんです。
会社の純資産は「資産 − 負債」で計算されますから、負債が増えれば純資産は減りますよね。純資産が減ることで、それを基に計算される純資産価額も下がり、結果として株式の評価額が引き下げられる、という仕組みです。

会社の規模で変わる株価評価への影響

自社株式の評価方法は、会社の規模(大会社・中会社・小会社)によって異なります。そのため、死亡退職金を支払ったときの影響の仕方も、会社の規模によって少しずつ違ってくるんですよ。ご自身の会社がどれに当てはまるか考えながら見てみてくださいね。

大会社の場合

大会社は、原則として「類似業種比準価額方式」で評価します。この方法は、過去の事業年度の利益や純資産を基に計算するため、相続が発生してから死亡退職金を支払っても、相続税申告時の株価評価には直接影響しません。
ただし、大会社であっても「純資産価額方式」で評価することも認められており、類似業種比準価額と比べて低い方の価額を選択できます。そのため、多額の死亡退職金を支払うことで純資産価額が大きく下がれば、結果的に株価を引き下げる効果が期待できます。「大会社だから関係ない」と決めつけずに、両方の方法で試算してみることが大切です。

中会社の場合

中会社は、「類似業種比準価額方式」と「純資産価額方式」を一定の割合で組み合わせて(ミックスして)評価します。そのため、死亡退職金を支払って純資産価額が下がれば、その分は直接株価の引き下げにつながります。純資産価額方式の割合が大きい会社ほど、その効果は大きくなりますよ。

小会社の場合

小会社は、原則として「純資産価額方式」で評価します。そのため、死亡退職金の支払いが株価評価に与える影響が最も大きいと言えます。負債として計上した死亡退職金の額だけ、純資産価額がストレートに減少しますから、節税効果も高くなります。
ただし、小会社でも「類似業種比準価額方式」と「純資産価額方式」を50%ずつミックスして評価することも認められています。会社の業績によっては、ミックスした方が評価額が低くなるケースもあるので、どちらが有利になるか、しっかりシミュレーションすることが重要です。

死亡退職金を活用した相続税対策

死亡退職金の支払いは、単に株価を下げるだけでなく、相続税の納税資金対策としても非常に有効です。ここでは、具体的な活用法と注意点についてお話ししますね。

納税資金の確保

相続財産が自社株式や不動産ばかりだと、いざ相続税を納める段階になって「現金が足りない」という事態に陥ることが少なくありません。自社株式はすぐに換金できるわけではないですからね。
その点、死亡退職金は会社からご遺族へ「現金」で支払われます。これにより、ご遺族は相続税の納税資金を確保しやすくなります。株価評価を下げつつ、納税資金も準備できる、まさに一石二鳥の方法と言えるでしょう。

弔慰金との違いと注意点

死亡退職金と似たものに「弔慰金」があります。弔慰金は、亡くなった方の功労に報い、ご遺族を慰めるために支払われるもので、こちらも一定額まで非課税になります。

弔慰金の非課税限度額 ・業務上の死亡:死亡時の普通給与の3年分
・業務外の死亡:死亡時の普通給与の半年分

ただし、一つ大きな注意点があります。株価評価の計算上、死亡退職金は負債として計上できますが、弔慰金は原則として負債に計上できません。そのため、株価を引き下げる効果があるのは死亡退職金の方です。非課税限度額を超えた弔慰金は死亡退職金として扱われるため、両方のバランスを考えて支給額を決めることが大切になります。

死亡保険金を受け取っている場合

経営者の方が亡くなった際に、会社が受取人となる生命保険金(死亡保険金)が支払われるケースも多いですよね。この死亡保険金は、会社の資産として計上されるため、株価を押し上げる要因になります。
死亡退職金を支払うと、この保険金による資産増加を相殺する効果が期待できます。具体的には、保険金から死亡退職金などを差し引いた「保険差益」に対して法人税がかかりますが、その法人税等相当額(差益の37%)も未払法人税等として負債に計上できるため、さらに株価を引き下げる効果があります。保険金と退職金をセットで考えることで、より効果的な対策が可能になります。

適正な死亡退職金の金額は?

死亡退職金はいくらでも支払って良いわけではありません。税務上、不相当に高額だと判断されると、その超える部分が会社の経費(損金)として認められない可能性があります。適正な金額の目安は、一般的に功績倍率法という計算式で算出されます。

功績倍率法による計算

功績倍率法は、役員退職金の適正額を計算する際によく用いられる方法です。

計算式 最終報酬月額 × 役員在任年数 × 功績倍率

功績倍率は、亡くなった方の役職や会社への貢献度によって変わりますが、一般的に社長で3.0倍、専務・常務で2.5倍、その他の役員で2.0倍程度が目安とされています。例えば、最終報酬月額100万円、在任年数30年、功績倍率3.0倍の社長であれば、100万円 × 30年 × 3.0 = 9,000万円が適正な退職金の目安となります。

将来の事業承継への活用

死亡退職金の支払いは、今回の相続だけでなく、その先の事業承継対策としても有効な一手となり得ます。
相続時の株価評価では、類似業種比準価額は直前の事業年度までの数字を使うため、死亡退職金の影響を受けません。しかし、死亡退職金を支払った事業年度の「翌事業年度以降」は、会社の利益や純資産が減少するため、類似業種比準価額も下がります。
この株価が下がったタイミングを狙って、後継者へ株式を贈与するという方法も考えられます。例えば、いったん配偶者が株式を相続し(配偶者の税額軽減で相続税を抑え)、翌年度以降に株価が下がったところで後継者である子供に贈与する、といったプランです。これにより、将来の相続税や贈与税の負担を軽減できる可能性があります。

まとめ

今回は、経営者の死亡退職金が同族会社の株式評価に与える影響について解説しました。死亡退職金を支払うことは、会社の純資産を減少させ、結果的に自社株の評価額を引き下げる効果があります。これは、会社の規模に応じて、特に純資産価額方式で評価される部分に影響します。

さらに、死亡退職金には「500万円 × 法定相続人の数」という非課税枠があり、ご遺族の相続税負担を軽減すると同時に、納税資金を現金で確保できるという大きなメリットもあります。

ただし、弔慰金との違いや、会社が受け取る死亡保険金との兼ね合い、そして税務上適正と認められる金額の範囲など、注意すべき点もいくつかあります。

経営者の相続は、自社株式という特殊な財産が関わるため、専門的な知識が不可欠です。最適な対策を行うためにも、相続に詳しい税理士などの専門家へ早めに相談することをおすすめします。

参考文献

国税庁 No.4117 相続税の課税対象になる死亡退職金

国税庁 No.4120 弔慰金を受け取ったときの取扱い

経営者の死亡退職金と自社株評価に関するよくある質問まとめ

Q.経営者に死亡退職金を支払うと、会社の株式評価に影響はありますか?

A.はい、大きく影響します。死亡退職金を支払うと会社の純資産が減少し、相続財産となる自社株式の評価額が下がります。これは相続税対策として非常に重要です。

Q.死亡退職金の支払いは、株式評価のどの計算方法に影響しますか?

A.主に「純資産価額方式」と「類似業種比準価額方式」の両方に影響します。純資産価額は直接的に減少し、類似業種比準価額も利益の減少を通じて評価額を引き下げる効果があります。

Q.死亡退職金はいつまでに支払う必要がありますか?

A.相続税の申告において株価引き下げの効果を得るためには、被相続人の死亡後3年以内に支給が確定している必要があります。一般的には、死亡後の株主総会で決議し、申告期限までに支払います。

Q.死亡退職金の金額はいくらに設定すればよいですか?

A.税務上、不相当に高額と判断されない「適正額」の範囲内で設定する必要があります。一般的には「最終月額報酬 × 功績倍率 × 勤続年数」という功績倍率法で算定します。

Q.死亡退職金を支払うデメリットはありますか?

A.デメリットは、会社のキャッシュが流出するため、資金繰りが悪化する可能性がある点です。また、適正額を超えた部分は損金として認められず、税務上のリスクが生じます。

Q.死亡退職金と弔慰金は株式評価上、どう違いますか?

A.死亡退職金は給与所得として扱われ、会社の損金になります。一方、一定額までの弔慰金は相続税の非課税財産となり、会社の損金にもなります。両方をうまく活用することで、より効果的な節税が可能です。

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