従業員を雇ったり、会社を設立したりしたときに必要になるのが「給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書」です。名前が長くて少し難しそうに聞こえるかもしれませんが、これは給与を支払う側にとって、とても大切な手続きなんです。この記事では、どんな時にこの届出が必要で、どのように書けばいいのか、提出方法までを優しく丁寧に解説していきますね。
給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書ってどんな書類?
この届出書は、事業主が「これから従業員や役員に給与を支払いますよ」ということを、税務署にお知らせするための書類です。給与を支払う事業主には、従業員の給与から所得税を預かり(源泉徴しゅう)、本人に代わって国に納める「源泉徴収義務」があります。この届出を出すことで、税務署はあなたの事業所を源泉徴収義務者として把握し、納税に必要な納付書などを送ってくれるようになるんです。
提出が必要な理由:源泉徴収のため
会社や個人事業主は、従業員に給与を支払う際に、所得税を天引き(源泉徴収)して、それを国に納める義務があります。これを源泉徴収義務といいます。「給与支払事務所等の開設届出書」を提出することは、この源泉徴収をきちんと行いますよ、という意思表示のようなものです。この届出をすることで、税務署から源泉所得税の納付書や年末調整に関する書類が送られてくるようになり、スムーズな納税手続きにつながります。
提出しないとどうなるの?
この届出書を期限までに提出しなかったとしても、直接的な罰則や罰金はありません。しかし、提出しないと税務署から納付書が送られてこないため、源泉所得税の納付をうっかり忘れてしまう可能性があります。もし納付が遅れてしまうと、延滞税や不納付加算税といったペナルティが課されてしまうことがあるので、注意が必要です。忘れずに提出しておくのが安心ですね。
届出が必要な3つのケース
この届出書は、事務所の状況が変わったときに提出します。主に「開設」「移転」「廃止」の3つのタイミングで必要になります。
| 届出の種類 | どんなとき? |
| 開設 | 新たに事業を開始し従業員を雇ったとき、または会社を設立したとき |
| 移転 | 給与を支払っている事務所の所在地が変わったとき |
| 廃止 | 事業をやめて給与の支払いがなくなったとき、または事務所を閉鎖したとき |
【ケース別】こんな時は提出が必要?不要?
具体的にどんな場合に提出が必要になるのか、迷いやすいケースを見ていきましょう。
会社を設立した場合
たとえ従業員を雇っておらず、社長一人の会社であっても、社長自身に役員報酬を支払う場合は「給与の支払い」に該当します。そのため、会社を設立したら必ず提出が必要です。「従業員がいないから不要」というわけではないので、設立手続きの一環として忘れずに提出しましょう。
個人事業主が初めて従業員を雇った場合
個人事業主の方が、事業が軌道に乗って初めて従業員を雇うことになった場合も、この届出書の提出が必要になります。ただし、ひとつ例外があります。事業を始める際に提出する「個人事業の開業・廃業等届出書」の「給与等の支払の状況」という欄に従業員の情報を記載して提出している場合は、この届出書の提出は不要です。
家族を青色事業専従者にする場合
個人事業主の方が、生計を一つにする家族に給与を支払い、それを経費として計上できる「青色事業専従者給与」の制度を利用する場合も、家族への支払いは「給与」にあたります。そのため、「青色事業専従者給与に関する届出書」とあわせて、この「給与支払事務所等の開設届出書」の提出が必要になります。
給与が少額で源泉徴収が0円の場合
従業員の給与が月額88,000円未満など、源泉徴収税額が0円になる場合でも、給与を支払っている事実には変わりありません。そのため、この届出書の提出は必要です。税務署は納税状況を把握する必要があるため、納税額が0円の場合でも、その旨を記載した納付書(所得税徴収高計算書)を提出する必要があるんですよ。
届出書の書き方を分かりやすく解説!
それでは、実際に届出書はどのように書けばよいのでしょうか。ここでは、法人が「開設」する場合を例に、書き方のポイントを解説します。
届出書の入手方法
届出書の用紙は、お近くの税務署の窓口でもらうことができます。また、国税庁のウェブサイトからもPDF形式でダウンロードして印刷することが可能です。いつでも手軽に入手できるので便利ですね。
各項目の記入例(開設の場合)
書き方に迷いやすい主な項目をまとめました。これを見ながら書けば、スムーズに進められますよ。
| 項目名 | 記入内容のポイント |
| 提出日・税務署名 | 書類を税務署に提出する日付と、事務所の所在地を管轄する税務署の名前を書きます。「〇〇税務署長 殿」となります。 |
| 提出者情報 | 法人の場合は、登記した本店所在地、法人名、法人番号(13桁)、代表者氏名を記入します。個人事業主の場合は、住所、氏名、マイナンバー(個人番号)を記入します。 |
| 開設・移転・廃止年月日 | 「開設」に〇をつけ、事務所を開設した日を記入します。法人の場合は、登記簿謄本に記載されている「会社成立の年月日」と同じ日付になります。 |
| 届出の内容及び理由 | 「開設」の欄にある「開業又は法人の設立」にチェックを入れます。 |
| 従事員数 | 給与を支払う人の人数を「役員」「常勤」「非常勤(日雇含む)」の区分ごとに記入します。社長一人の会社の場合は、「役員」の欄に「1」人と記入します。 |
提出期限と提出先は?
書類が完成したら、期限内に正しい場所へ提出しましょう。
提出期限はいつまで?
提出期限は、給与支払事務所などを開設、移転、または廃止した日から1か月以内です。例えば、4月1日に会社を設立した場合、5月1日までに提出する必要があります。期限を過ぎてしまわないよう、早めに準備を進めましょう。
どこに提出するの?
提出先は、給与を支払う事務所の所在地を管轄している税務署です。提出方法は、税務署の窓口へ直接持っていく方法のほか、郵送や、e-Tax(電子申告)を利用してオンラインで提出することも可能です。ご自身の都合の良い方法を選んでくださいね。
一緒に提出すると便利な書類
「給与支払事務所等の開設届出書」を提出する際に、あわせて提出しておくと後々の手間が省ける便利な書類があります。
源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書
これは、給与を支払う従業員が常時10人未満の場合に提出できる書類です。本来、源泉徴収した所得税は毎月納付する必要がありますが、この申請書を提出して承認されると、納付が年2回(7月と翌年1月)にまとめられます。毎月の納付手続きの手間を大幅に減らすことができるので、対象となる場合はぜひ活用を検討してみてください。
まとめ
今回は、「給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書」について解説しました。この届出は、従業員や役員に給与を支払うすべての事業主にとって、源泉徴収義務を果たすための第一歩となる重要な手続きです。提出を忘れると、納税漏れにつながり、後から延滞税などのペナルティが発生するリスクもあります。事務所の開設や会社設立の際には、事実があった日から1か月以内という期限を守り、忘れずに手続きを行いましょう。もし不安な点があれば、管轄の税務署に相談してみるのも良い方法ですよ。
参考文献
給与支払事務所等の開設届出書のよくある質問まとめ
Q. 給与支払事務所等の開設届出書は、どんな時に提出が必要ですか?
A. 従業員を雇って給与を支払い始めたとき、会社を設立したとき、事務所を移転・廃止したときなどに提出が必要です。
Q. 提出期限はいつまでですか?
A. 給与支払事務所を開設、移転、廃止した日から1か月以内です。
Q. 提出しなかった場合、罰則はありますか?
A. 直接的な罰則はありませんが、源泉所得税の納付書が届かず、納税漏れにつながる可能性があります。その場合、延滞税などが課されることがあります。
Q. 社長一人の会社でも提出は必要ですか?
A. はい、社長に役員報酬を支払う場合は「給与の支払い」にあたるため、提出が必要です。
Q. 届出書はどこで手に入りますか?
A. 全国の税務署の窓口、または国税庁のウェブサイトからダウンロードできます。
Q. 個人事業主が開業届を出していれば、この届出は不要ですか?
A. 開業届の「給与等の支払の状況」欄に従業員の情報を記載して提出していれば、原則として不要です。記載していない場合は別途提出が必要です。