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老齢基礎年金の未収入金は相続財産?相続税の対象か徹底解説!

2025-03-10
目次

大切な方が亡くなられた後、様々な手続きに追われる中で、「まだ受け取っていない年金(未収入金)はどうなるの?」と疑問に思う方も多いのではないでしょうか。特に、多くの方が受給されている老齢基礎年金。その未収入金が相続財産に含まれるのか、相続税はかかるのか、とても気になるところですよね。この記事では、老齢基礎年金の未収入金(未支給年金)の扱いや必要な手続き、税金の関係について、わかりやすく解説していきます。

そもそも未支給年金(未収入金)とは?

未支給年金(みしきゅうねんきん)とは、亡くなられた年金受給者の方が、亡くなる日までに受け取るはずだったにもかかわらず、まだ受け取っていなかった年金のことを指します。「未収入金」も同じ意味で使われることがあります。

なぜ未支給年金が発生するの?

国民年金や厚生年金などの公的年金は、受給者が亡くなった月分まで支給されます。しかし、年金の支払いは2ヶ月分を後払いする仕組みになっています。具体的には、毎年偶数月(2月, 4月, 6月, 8月, 10月, 12月)の15日に、それぞれの前月と前々月の2ヶ月分が振り込まれます。

例えば、9月20日に亡くなられた場合、最後に受け取った年金は8月15日に振り込まれた6月・7月分です。亡くなった9月分までの年金を受け取る権利がありますが、8月分と9月分はまだ受け取っていません。この、本来10月15日に支払われるはずだった8月分と9月分の年金が「未支給年金」となるのです。このように、年金の支払い制度上、未支給年金は必ず発生する仕組みになっています。

年金の種類によって扱いが違う?

年金には、国が運営する公的年金と、企業や個人が任意で加入する私的年金があります。亡くなられた方がどの年金に加入していたかによって、未支給年金の税金の扱いが変わってくるため注意が必要です。

年金の種類 具体例
公的年金 老齢基礎年金、老齢厚生年金、障害年金、遺族年金など
私的年金 企業年金、個人年金保険、確定拠出年金(iDeCo)など

この記事では、主に老齢基礎年金などの公的年金について解説しますが、後半で私的年金との違いにも触れていきますね。

【結論】老齢基礎年金の未支給年金は相続財産にならない

さっそく結論からお伝えしますと、老齢基礎年金などの公的年金の未支給年金は、相続財産には含まれません。したがって、遺産分割の対象にならず、相続税もかからないのです。

なぜ相続財産ではないの?

「亡くなった人がもらうはずだったお金なら、相続財産になるのでは?」と思われるかもしれません。しかし、未支給年金は法律上、相続財産とは異なる特別なものとして扱われています。

国民年金法などの法律では、未支給年金は「亡くなった受給権者の遺族の生活保障」という目的のために、特定の遺族に直接支払われるものと定められています。つまり、亡くなった方の財産を「引き継ぐ」のではなく、受け取った遺族の方自身の「固有の財産」となるのです。この考え方に基づき、国税庁も公的年金の未支給年金は相続税の課税対象にならないとの見解を示しています。

未支給年金を受け取れる遺族の範囲と順位

未支給年金は、誰でも請求できるわけではありません。法律で定められた範囲と優先順位があります。最も大切な要件は、亡くなった方と「生計を同一にしていた」ことです。

生計を同一にしていたとは?

「生計を同一にしていた」とは、簡単に言うと、亡くなった方と同じお財布で生活していた、あるいは経済的な援助を受けていた関係を指します。同居している場合はもちろん、別居していても、仕送りを受けていたり、健康保険の扶養に入っていたりする場合も含まれることがあります。

受け取れる遺族の優先順位

未支給年金を受け取れる方には、以下の通り優先順位が決められています。最も順位の高い方がいる場合、それより後の順位の方は請求することができません。

優先順位 続  柄
第1位 配偶者
第2位
第3位 父母
第4位
第5位 祖父母
第6位 兄弟姉妹
第7位 上記以外の3親等内の親族(甥、姪、おじ、おばなど)

例えば、亡くなった方に生計を共にしていた配偶者と子がいる場合、優先順位が最も高い配偶者だけが請求できます。もし同じ順位の人が複数人いる場合(例えば子が3人いる場合)は、そのうちの1人が代表して請求し、受け取ったお金は全員のものとして扱われます。

未支給年金の請求手続きと注意点

未支給年金は自動的に振り込まれるものではなく、ご遺族からの請求手続きが必要です。忘れないように、他の相続手続きと合わせて進めましょう。

手続きの場所と必要な書類

手続きは、お近くの年金事務所または街角の年金相談センターで行います。主な必要書類は以下の通りですが、状況によって異なる場合があるため、事前に窓口へ確認すると安心です。

  • 未支給年金・未支払給付金請求書
  • 亡くなった方の年金証書
  • 亡くなった方と請求する方の続柄がわかる書類(戸籍謄本など)
  • 亡くなった方と請求する方が生計を同一にしていたことがわかる書類(住民票の除票、請求者の世帯全員の住民票など)
  • 受け取りを希望する金融機関の通帳
  • 請求者の本人確認書類

忘れずに提出したい「年金受給権者死亡届」

未支給年金の請求とあわせて、「年金受給権者死亡届(報告書)」の提出も必要です。これを提出しないと、年金の支給が止まらず、後で返還手続きが必要になる場合があります。ただし、日本年金機構にマイナンバーが登録されている場合は、原則として死亡届の提出は不要です。

請求には5年の時効があります

未支給年金を請求する権利には、5年間の時効があります。年金の支払日の翌月の初日から5年を過ぎると、時効によって請求できなくなってしまいます。大切な権利を失わないためにも、なるべく早めに手続きを行いましょう。

相続税はかからないけど…所得税に注意!

ここまで、公的年金の未支給年金は相続税の対象外だとお伝えしてきましたが、税金が全くかからないわけではないので注意が必要です。未支給年金は、受け取った遺族の「一時所得」として、所得税の課税対象になります。

一時所得とは?

一時所得とは、給与所得や事業所得のように継続的な収入ではなく、臨時的に得た所得のことを指します。生命保険の一時金や懸賞の当せん金なども一時所得にあたります。

確定申告が必要になるケース

一時所得には、年間で合計50万円の特別控除があります。そのため、受け取った未支給年金の金額と、その年に受け取った他の一時所得の合計額が50万円を超えない場合は、確定申告は不要です。

【一時所得の計算式】
総収入金額 − 収入を得るために支出した金額 − 特別控除額(最高50万円) = 一時所得の金額

この計算で残った金額のさらに2分の1が、他の所得(給与所得など)と合算されて所得税が計算されます。

その年の「未支給年金」+「他の一時所得」の合計額 確定申告の必要性
50万円以下 原則、不要
50万円超 原則、必要

例えば、未支給年金を40万円受け取っただけなら確定申告は不要です。しかし、同じ年に生命保険の一時金を30万円受け取っていた場合、合計が70万円となり50万円を超えるため、確定申告が必要になります。

私的年金の未収入金は相続財産になるケースも

最後に、企業年金や個人年金保険といった私的年金の扱いは、公的年金とは異なる場合があるため注意が必要です。私的年金は、契約内容によって相続税の課税対象になることがあります。

企業年金の場合

企業年金の場合、未支給分は主に2つに分けられ、それぞれ課税関係が異なります。

  • 死亡した月までの未支給分:公的年金と同様に、受け取った遺族の一時所得となり、相続税はかかりません。
  • 保証期間の残り分(遺族給付金):契約に「保証期間10年」などと定められている場合、亡くなった後も残りの期間、遺族が年金を受け取れることがあります。この受け取る権利は「みなし相続財産」として相続税の対象になります。

個人年金保険の場合

亡くなった方がご自身で保険料を支払っていた個人年金保険で、亡くなった後も遺族が年金を受け取る場合、その年金を受け取る権利(年金受給権)相続税の課税対象となります。

まとめ

今回は、老齢基礎年金の未収入金(未支給年金)と相続財産の関係について解説しました。大切なポイントを最後におさらいしましょう。

  • 老齢基礎年金などの公的年金の未支給年金は、相続財産にはならず、相続税はかかりません。
  • 未支給年金は、受け取った遺族の「一時所得」として扱われ、年間の合計額が50万円を超えると確定申告が必要です。
  • 請求できるのは「生計を同一にしていた」遺族に限られ、優先順位があります。
  • 請求手続きには5年の時効があるため、早めに年金事務所で手続きをしましょう。
  • 企業年金や個人年金保険などの私的年金は、契約内容によって相続税の対象となる場合があるので注意が必要です。

年金の手続きや税金の扱いは少し複雑に感じるかもしれませんが、一つひとつ整理して進めていけば大丈夫です。もし手続きでわからないことや、相続税の申告で不安な点があれば、年金事務所や税理士などの専門家に相談してみてくださいね。

参考文献

国税庁 No.4123 相続税等の課税対象になる年金受給権

国税庁 No.1605 遺族の方に支給される公的年金等

国税庁 No.4117 相続税の課税対象になる死亡退職金

老齢基礎年金の未支給年金と相続に関するよくある質問

Q.亡くなった人の受け取っていない年金(未支給年金)は相続財産になりますか?

A.未支給年金は、相続財産には含まれません。民法上の相続財産ではなく、遺族が自己の権利として請求するものとされています。

Q.未支給年金は相続財産ではないなら、相続税はかからないのですか?

A.はい、未支給年金は相続税の課税対象にはなりません。ただし、受け取った遺族の一時所得となり、金額によっては所得税の課税対象になる場合があります。

Q.未支給年金を請求できる遺族の範囲と順位を教えてください。

A.請求できるのは、亡くなった方と生計を同じくしていた遺族です。順位は、①配偶者、②子、③父母、④孫、⑤祖父母、⑥兄弟姉妹、⑦その他3親等内の親族の順になります。

Q.未支給年金の請求手続きはどのようにすればよいですか?

A.お近くの年金事務所または街角の年金相談センターで「未支給年金・未支払給付金請求書」を入手し、必要書類を添えて提出します。請求には期限(死亡日の翌々月の初日から5年)があるのでご注意ください。

Q.未支給年金と死亡一時金の違いは何ですか?

A.未支給年金は、亡くなった方が受け取るはずだった年金そのものを指します。一方、死亡一時金は、国民年金の保険料を一定期間納めた方が老齢基礎年金や障害基礎年金を受けずに亡くなった場合に、遺族に支給される一時金です。

Q.遺族年金と未支給年金は一緒に受け取れますか?

A.はい、両方の受給要件を満たしていれば、一緒に受け取ることができます。未支給年金は亡くなった本人の年金の未払い分、遺族年金は遺族自身の生活保障のための年金であり、性質が異なります。

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