ご家族が自宅で亡くなられた場合、動揺してしまい、何から手をつけていいかわからなくなってしまうのは当然のことです。病院で亡くなる場合とは流れが異なるため、事前にやるべきことを知っておくと、いざという時に落ち着いて対応できます。この記事では、ご自宅で大切な方を見送る際に必要な手続きや連絡先、注意点、そしてその後の相続について、順を追って優しく解説します。
まず行うべきこと:連絡先の判断
ご家族が自宅で亡くなられた時、まず最初に行うべきことは、状況に応じた適切な場所への連絡です。連絡先は、故人にかかりつけ医がいたかどうかで大きく変わります。この初動が、その後の手続きをスムーズに進めるための重要な第一歩となります。
かかりつけ医がいる場合
もし故人に訪問診療などのかかりつけ医がいた場合は、まずその医師または医療機関に連絡してください。生前の病状を把握している医師が死亡を確認すれば、「死亡診断書」を発行してもらえます。医師法により、死亡後24時間以内に診察していれば、改めて診察しなくても死亡診断書を交付できるとされています。24時間以上経過していても、医師が自宅に来て死亡を確認すれば発行可能です。
かかりつけ医がいない・連絡がつかない場合
かかりつけ医がいない場合や、深夜などで連絡がつかない場合は、警察(110番)に連絡します。事件性がないかを確認するため、警察による検視が行われます。事件性がないと判断されれば、監察医によって「死体検案書」が発行されます。これは死亡診断書と同じ法的効力を持つ書類です。突然死や原因が不明な場合は、この流れになります。
救急車を呼ぶべきか迷った場合
生きている可能性があるか、判断に迷う場合は、迷わず救急車(119番)を呼んでください。救急隊員が蘇生の可能性があると判断すれば病院へ搬送されます。しかし、明らかに亡くなっている状態だと判断された場合は、救急車は遺体を搬送できないため、警察への連絡に切り替わります。慌ててしまう状況ですが、まずは生存の可能性を最優先に考えましょう。
ご逝去後の具体的な流れ
死亡が確認され、「死亡診断書」または「死体検案書」を受け取った後の流れは多岐にわたります。葬儀の準備から行政手続きまで、ご遺族が協力して進めていく必要があります。ここでは、具体的なステップを順番に見ていきましょう。
死亡診断書・死体検案書の受け取り
医師または警察から、「死亡診断書」または「死体検案書」を必ず受け取ります。この書類は、後の死亡届の提出や火葬許可の申請、保険金請求など、あらゆる手続きで必要になる非常に重要なものです。通常、数通コピーを取っておくと便利です。発行費用は、死亡診断書で3,000円~10,000円、死体検案書では30,000円~100,000円程度が目安です。
葬儀社の手配とご遺体の安置
次に、葬儀社へ連絡し、ご遺体の搬送と安置を依頼します。生前に葬儀社を決めていればスムーズですが、決まっていない場合は複数の会社から見積もりを取ることも可能です。安置場所は、ご自宅か葬儀社の安置施設を選ぶことができます。ご自宅で安置する場合は、故人とゆっくり最後の時間を過ごせるメリットがありますが、室温を18度以下に保つなど、ご遺体を適切に保つための配慮が必要です。
役所への届出(死亡届・火葬許可申請)
死亡の事実を知った日から7日以内(国外で亡くなった場合は3ヶ月以内)に、市区町村役場へ「死亡届」を提出する必要があります。この手続きは葬儀社が代行してくれることが多いです。死亡届を提出すると、「火葬許可証(埋火葬許可証)」が交付されます。これがなければ火葬ができませんので、必ず受け取りましょう。
提出書類 | 死亡届(死亡診断書または死体検案書と一体になっています) |
提出期限 | 死亡を知った日から7日以内 |
自宅で亡くなった場合の注意点
ご自宅というプライベートな空間でご家族が亡くなられた場合、特有の注意点があります。冷静な対応を心がけることで、後のトラブルを防ぎ、故人を穏やかに送ることができます。
ご遺体をむやみに動かさない
医師や警察が到着する前に、ご遺体をむやみに動かしたり、衣服を変えたりしないでください。特に、かかりつけ医がおらず警察を呼ぶ場合は、現場の状況を保つことが重要です。善意の行動であっても、死因の特定を困難にしたり、事件性を疑われたりする原因になりかねません。お辛い状況ですが、専門家が到着するまで現状を維持するようお願いします。
ご遺体の保全(安置中の温度管理)
ご自宅で安置する場合、ご遺体の状態を良好に保つために室温管理が非常に重要です。夏場はエアコンを低めに設定し(18度以下が理想)、冬場でも暖房は切ってください。葬儀社が用意してくれるドライアイスや保冷剤を適切に使用し、直射日光が当たらないように配慮しましょう。
自宅の相続と税金の問題
ご自宅で亡くなられた場合、その家や土地は相続財産となります。相続手続きを進める中で、相続税についても考えなくてはなりません。特にご自宅の不動産は評価額が大きくなることが多く、税金に大きく影響します。
相続財産としての自宅の評価
相続税を計算する際、自宅の土地と建物はそれぞれ評価額を算出します。土地は国税庁が定める「路線価」を基に、建物は市町村が管理する「固定資産税評価額」を基に評価するのが一般的です。これらの評価額が、相続税の課税対象となります。
相続税を軽減する「小規模宅地等の特例」
亡くなった方の自宅敷地を配偶者や同居の親族が相続する場合、「小規模宅地等の特例」という制度を利用できる可能性があります。この特例が適用されると、土地の評価額を最大で80%減額できます。例えば、5,000万円と評価された土地が1,000万円の評価になるため、相続税の負担を大幅に軽減できる非常に重要な制度です。
適用対象 | 亡くなった方の居住用宅地(330㎡まで) |
減額割合 | 評価額の80% |
空き家になった実家を売却する場合の特例
相続したものの誰も住まなくなり「空き家」となった実家を売却する場合、一定の要件を満たせば「被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例」が利用できます。この特例を使うと、売却によって得た利益(譲渡所得)から最高3,000万円まで控除することができ、所得税・住民税の負担を軽くできます。ただし、相続開始から3年後の年末までに売却することなど、細かい要件があるため注意が必要です。
自宅の片付けと遺品整理
葬儀や行政手続きが一段落したら、故人が暮らしていたご自宅の片付け、いわゆる遺品整理を進めることになります。時間も労力もかかる作業ですが、故人を偲びながら、ご自身の気持ちを整理する大切な時間にもなります。
遺品整理を始めるタイミング
遺品整理を始めるタイミングに決まりはありませんが、一般的には四十九日の法要が終わった後など、ご遺族の気持ちが少し落ち着いた頃に始めることが多いようです。まずは賃貸物件の退去期限や、相続税の申告期限(相続開始を知った日の翌日から10ヶ月)などを考慮し、スケジュールを立てましょう。
重要な書類や貴重品の捜索
片付けを始める前に、まずは遺言書、預金通帳、不動産の権利証、保険証券、有価証券、借金の契約書といった相続手続きに必要な重要書類や貴重品を探しましょう。これらは財産目録の作成や名義変更手続きに不可欠です。見つかった書類は一か所にまとめて保管しておくと安心です。
まとめ
ご家族が自宅で亡くなられた際は、誰もが動揺し、冷静な判断が難しくなります。しかし、やるべきことを一つひとつ整理していくことが大切です。まずは、かかりつけ医の有無で連絡先を判断し、「死亡診断書」を受け取ります。その後、葬儀社と連携しながら、ご遺体の安置、役所への届出、葬儀の準備を進めていきましょう。そして、ご自宅が相続財産となるため、相続税の特例なども視野に入れながら、その後の手続きを進める必要があります。いざという時に慌てないためにも、この記事でご紹介した流れを心に留めておいていただけると幸いです。
参考文献
亡くなった親の家に同居していた場合には、相続税の特例があると聞きましたが、どういうものですか? : 財務省
No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例|国税庁
自宅で亡くなった場合のよくある質問まとめ
Q.自宅で家族が亡くなっているのを発見した場合、まず何をすればいいですか?
A.まずは落ち着いて119番に電話し、救急車を呼んでください。かかりつけ医がいる場合は、そちらにも連絡します。事件性が疑われる場合は警察の現場検証が入ることもあります。
Q.警察の現場検証は必ず行われるのですか?
A.かかりつけ医がおらず、突然死や孤独死、死因が不明な場合は、事件性の有無を調べるために警察の現場検証が行われます。かかりつけ医が死亡診断書を書ける場合は、警察の介入がないこともあります。
Q.死亡診断書は誰が作成してくれるのですか?
A.亡くなった原因が病死であると明確で、かかりつけ医がいる場合はその医師が作成します。死因が不明な場合や事件性が疑われる場合は、警察の検視後に監察医が死体検案書を作成します。
Q.葬儀社にはいつ連絡すればいいですか?
A.警察の現場検証や医師による死亡確認が終わり、ご遺体を搬送できる状態になってから連絡するのが一般的です。事前に葬儀社を決めておくと、いざという時にスムーズです。
Q.賃貸物件で亡くなった場合、大家さんへの連絡は必要ですか?
A.はい、必要です。速やかに管理会社や大家さんへ連絡してください。今後の手続きや原状回復について相談する必要があります。
Q.亡くなった後の手続きにはどのようなものがありますか?
A.死亡届の提出、火葬許可証の取得、世帯主変更届、年金や健康保険の資格喪失手続き、公共料金の名義変更や解約など、多くの手続きが必要です。