ご自身の所有する土地に、自宅とアパートが一緒になった「賃貸併用住宅」をお持ちの方もいらっしゃるのではないでしょうか。もしもの時、この賃貸併用住宅の相続税評価はどうなるんだろう?と疑問に思ったことはありませんか。実は、賃貸併用住宅の評価は少し複雑で、その仕組みを知っているかどうかで相続税額が大きく変わることもあるんです。この記事では、賃貸併用住宅の土地と建物の評価方法、そして大きな節税につながる特例について、分かりやすく解説していきます。
賃貸併用住宅の相続税評価のキホン
賃貸併用住宅の相続税評価を考える上で最も大切なポイントは、「自宅として使っている部分」と「アパートとして貸している部分」を分けて考えるということです。なぜなら、税法上、自分で使う不動産と、人に貸して収益を得る不動産とでは、財産としての価値の考え方が異なるためです。この違いを理解することが、適切な評価と節税への第一歩になります。
なぜ「自宅部分」と「賃貸部分」で評価を分けるの?
建物を誰かに貸している場合、所有者はその建物を自由に使えませんよね。土地も同様に、上に建つ建物が貸家であれば、土地の利用も制限されます。このように、所有者の権利が一部制限されている状態を考慮して、人に貸している不動産は、自分で使っている不動産よりも評価額が低くなる仕組みになっています。そのため、一つの建物であっても、利用状況の異なる「自宅部分」と「賃貸部分」をきちんと区別して、それぞれに適した方法で評価する必要があるのです。
評価するのは「土地」と「建物」の2つ
不動産は、「土地」と「建物」という2つの財産から成り立っています。相続税評価においても、この2つを別々に評価します。賃貸併用住宅の場合、「土地」と「建物」それぞれについて、「自宅部分」と「賃貸部分」の評価額を算出し、それらを合計して全体の評価額を求めることになります。少し手間がかかるように感じますが、このステップを丁寧に行うことが大切です。
賃貸併用住宅の「土地」の評価方法
それでは、具体的な評価方法を見ていきましょう。まずは「土地」の評価です。土地の評価は、まず土地全体の評価額(自用地評価額)を算出し、その後に建物の利用状況に応じて評価額を按分(あんぶん)していきます。
土地を「自宅部分」と「賃貸部分」に按分する
一つの土地の上に自宅とアパートが建っている場合、どの部分が自宅用で、どの部分がアパート用かを分ける必要があります。この按分は、一般的に建物の「床面積の割合」で行います。
例えば、土地面積が200㎡で、その上の建物の総床面積が150㎡(自宅部分50㎡、賃貸部分100㎡)だったとしましょう。
自宅に対応する土地面積 | 200㎡ × (自宅床面積 50㎡ ÷ 総床面積 150㎡) = 約66.7㎡ |
賃貸に対応する土地面積 | 200㎡ × (賃貸床面積 100㎡ ÷ 総床面積 150㎡) = 約133.3㎡ |
このようにして、それぞれの用途に対応する土地の面積を計算します。
自宅部分の土地評価:「自用地」評価
自宅として使っている部分に対応する土地は、「自用地(じようち)」として評価されます。これは、所有者が自由に使える土地としての評価で、一般的には「路線価方式」または「倍率方式」という方法で計算されます。路線価が定められている市街地の土地であれば、路線価を基に評価額が算出されます。
賃貸部分の土地評価:「貸家建付地」評価で減額!
一方、アパートなど賃貸部分に対応する土地は、「貸家建付地(かしやたてつけち)」として評価されます。これは、貸家の敷地として利用が制限される分、自用地評価額から一定額が減額されるというものです。この減額が、相続税対策として非常に有効になります。計算式は以下の通りです。
貸家建付地の評価額 = 自用地評価額 × (1 – 借地権割合 × 借家権割合 × 賃貸割合)
ここでポイントとなるのが「借地権割合」と「借家権割合」です。
借地権割合 | 地域によって異なり、路線価図で確認できます(例:60%や70%など)。 |
借家権割合 | 全国一律で30%と定められています。 |
賃貸割合は、通常100%(すべて満室)で計算します。例えば、借地権割合が60%の地域であれば、自用地評価額から「60% × 30% = 18%」も評価額が下がることになり、大きな節税効果が期待できます。
賃貸併用住宅の「建物」の評価方法
次に、「建物」の評価方法です。建物も土地と同じように、「自宅部分」と「賃貸部分」に分けて評価します。評価の基礎となるのは、市区町村が定めている「固定資産税評価額」です。
自宅部分の建物評価:「自用家屋」評価
自宅として使っている部分の建物は、「自用家屋(じようかおく)」として評価されます。計算はとてもシンプルで、固定資産税評価額がそのまま相続税評価額となります。
自用家屋の評価額 = 固定資産税評価額 × 1.0
賃貸部分の建物評価:「貸家」評価で減額!
アパートなど賃貸部分の建物は、「貸家(かしや)」として評価されます。こちらも入居者がいることで所有者の権利が制限されるため、評価額が減額されます。
貸家の評価額 = 固定資産税評価額 × (1 – 借家権割合)
借家権割合は全国一律で30%ですので、計算式は「固定資産税評価額 × (1 – 0.3)」、つまり「固定資産税評価額 × 0.7」となります。固定資産税評価額から30%も評価額が下がるため、節税効果は大きいと言えるでしょう。
【節税のキモ】小規模宅地等の特例を活用しよう
賃貸併用住宅の相続において、最も大きな節税効果が期待できるのが「小規模宅地等の特例」です。この特例を適用できるかどうかで、納税額が数千万円単位で変わることもあります。賃貸併用住宅の場合、土地の「自宅部分」と「賃貸部分」それぞれに、異なる種類の特例を適用できる可能性があります。
自宅部分には「特定居住用宅地等」
亡くなった方(被相続人)の自宅敷地だった部分については、一定の要件を満たす相続人(例えば、配偶者や同居していた親族など)が相続した場合に、「特定居住用宅地等」の特例を適用できます。この特例が適用されると、なんと土地の評価額が最大330㎡まで80%も減額されます。非常に強力な特例です。
賃貸部分には「貸付事業用宅地等」
アパートなど賃貸事業に使われていた敷地の部分については、その事業を引き継ぐ相続人が一定の要件を満たした場合に、「貸付事業用宅地等」の特例を適用できます。こちらは、土地の評価額が最大200㎡まで50%減額される特例です。
特例を併用する場合の注意点
「特定居住用宅地等」と「貸付事業用宅地等」は、併用して適用することが可能です。ただし、適用できる面積には上限があり、単純に330㎡と200㎡を足した530㎡まで適用できるわけではありません。それぞれの特例の適用面積を調整する計算が必要になります。この計算は複雑ですので、どちらの特例を優先的に使うのが有利かなど、専門家である税理士に相談することをおすすめします。
具体例で見る!賃貸併用住宅の評価シミュレーション
では、具体的な数字を使って、どれくらい評価額が変わるのか見てみましょう。
【前提条件】
土地の面積 | 200㎡ |
土地の自用地評価額 | 6,000万円 (路線価30万円/㎡) |
借地権割合 | 60% |
建物の総床面積 | 160㎡ (自宅80㎡、賃貸80㎡) |
建物の固定資産税評価額 | 2,000万円 (自宅1,000万円、賃貸1,000万円) |
【評価額の計算】
1. 土地の評価
- 床面積割合が自宅50%、賃貸50%なので、土地も100㎡ずつに按分します。
- 自宅部分(100㎡):自用地評価なので 6,000万円 × (100㎡/200㎡) = 3,000万円
- 賃貸部分(100㎡):貸家建付地評価
3,000万円 × (1 – 60% × 30%) = 3,000万円 × 0.82 = 2,460万円
- 土地評価額合計:3,000万円 + 2,460万円 = 5,460万円
2. 建物の評価
- 自宅部分:自用家屋評価なので 1,000万円
- 賃貸部分:貸家評価なので 1,000万円 × 0.7 = 700万円
- 建物評価額合計:1,000万円 + 700万円 = 1,700万円
3. 相続財産の評価額合計
- 5,460万円 (土地) + 1,700万円 (建物) = 7,160万円
もしこの物件がすべて自宅だった場合、土地6,000万円+建物2,000万円=8,000万円の評価です。賃貸併用にするだけで、840万円も評価額が下がりました。
さらに、ここから小規模宅地等の特例を適用すると、土地の評価額はもっと下がります。仮に特例を最大限適用できた場合、納税額がゼロになるケースも少なくありません。
まとめ
賃貸併用住宅の相続税評価について、ポイントをまとめます。
- 土地も建物も、必ず「自宅部分」と「賃貸部分」に分けて評価します。
- 賃貸部分は「貸家建付地」や「貸家」として評価されるため、相続税評価額が減額されます。
- 「小規模宅地等の特例」を活用することで、土地の評価額を大幅に下げることが可能です。
- 自宅部分には「特定居住用宅地等(80%減額)」、賃貸部分には「貸付事業用宅地等(50%減額)」の適用を検討しましょう。
- 評価や特例の適用は計算が複雑なため、相続専門の税理士に相談するのが安心です。
賃貸併用住宅は、相続税対策として非常に有効な資産です。その仕組みを正しく理解し、専門家のアドバイスを受けながら、大切な資産を次の世代へスムーズに引き継いでいきましょう。
参考文献
No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)|国税庁
自宅兼アパートの土地・建物評価に関するよくある質問まとめ
Q.自宅とアパートが一体になった建物の土地は、どのように評価されますか?
A.自宅部分は「自用地」、アパート部分は「貸家建付地」として評価されます。貸家建付地は、土地の利用に制限があるため、更地の評価額から一定割合が減額されます。
Q.賃貸併用住宅の土地は、相続税の「小規模宅地等の特例」を使えますか?
A.はい、適用できる可能性があります。自宅部分には「特定居住用宅地等」、アパート部分には「貸付事業用宅地等」の特例がそれぞれ適用されますが、面積の上限や適用要件を満たす必要があります。
Q.「貸家建付地」とは何ですか?評価額が下がるのはなぜですか?
A.貸家建付地とは、アパートなど貸している家が建っている土地のことです。入居者がいるため土地の所有者が自由に利用できず、その権利の制約がある分、相続税評価額が減額されます。
Q.建物自体の評価はどのようになりますか?
A.固定資産税評価額を基に評価します。アパート部分は「貸家」として評価され、入居者の権利(借家権)の分だけ評価額が控除されるため、自分で使用している自宅部分より低く評価されます。
Q.自宅とアパート部分の割合はどのように計算しますか?
A.原則として、建物の総床面積に対する各部分の床面積の割合で按分します。この割合を使って、土地の評価(自用地と貸家建付地)や小規模宅地等の特例の適用面積を計算します。
Q.賃貸併用住宅にすると固定資産税は安くなりますか?
A.はい、安くなる場合があります。土地は「住宅用地の特例」により課税標準が最大で1/6に軽減されます。また、新築の建物についても一定期間、固定資産税が減額される措置があります。