自己株式の譲渡を検討しているけれど、思わぬ税金がかからないか心配という方はいませんか。実は、会社に自社株を低い金額で買い取ってもらうと、思わぬ税金が重なるトリプル課税という事態を招くことがあります。今回は、自己株式の低額譲渡で発生するトリプル課税の恐怖について、わかりやすく解説していきます。
自己株式の取得とは?基本的な仕組み
会社が株主から自社株を買い取ることを、自己株式の取得と呼びます。退職する従業員や、経営から身を引く前オーナーなどから株式を引き取る際によく使われる方法です。
時価で譲渡した場合の税金
会社に自社株を時価で買い取ってもらった場合、払い込んだ資本金等の額を超える部分は、配当が支払われたものとして扱われます。これをみなし配当と呼びます。たとえば、当初1株5,000円で取得した株式が、会社の成長で時価20,000円に値上がりしたとします。このとき1株あたり1,000円の資本金等の減少とみなされる場合、20,000円から1,000円を引いた19,000円がみなし配当となり、総合課税として課税される可能性があります。
なぜ低額譲渡が起きるのか
時価で譲渡すると多額の税金がかかるため、株主は税負担を抑えたいと考えます。一方で、会社側も自社株の買い取りで多額の現金を失うのを避けたいと考えます。お互いの利害が一致し、あえて本来の時価よりもかなり低い金額で譲渡を行うケースがあります。しかし、これが恐ろしい課税の引き金になります。
低額譲渡の基準とは
税務上、低額譲渡と判定される明確な基準があります。個人から法人への譲渡の場合、所得税法において、時価の2分の1未満の金額で譲渡すると著しく低い価額での取引とみなされます。先ほどの時価20,000円の株式であれば、10,000円未満の価格で売却した瞬間に、この厳しいルールが適用されます。
絶対避けたい!トリプル課税の正体
自社株を時価の2分の1未満という安い価格で会社に買い取ってもらうと、3つの税金が連鎖的に発生してしまいます。これがトリプル課税の正体です。具体的にどのような税金がかかるのか見ていきましょう。
売主にかかるみなし譲渡課税
まず、株を売った個人に対してかかります。たとえ1株2,000円で安く売ったとしても、税務署は時価である20,000円で売れたものとして所得税や住民税を計算します。これをみなし譲渡課税と呼びます。手元に入ってきた現金は少ないのに、多額の税金を支払わなければならず、手元資金が不足してしまう危険性があります。
会社にかかる受贈益課税
次に、買い取った会社側にも税金が発生します。会社は時価20,000円の価値があるものを2,000円で手に入れたため、差額の18,000円分だけ得をしたとみなされます。この得をした部分を受贈益と呼び、法人税が課税されます。安く済ませたつもりが、会社から多額の税金が流出することになります。
他の株主にかかるみなし贈与課税
最も注意すべきなのが、株を売買していない他の株主への影響です。会社が自社株を安く買い取ったことで、会社の資産価値に対して発行されている株式数が減り、残った株主が持つ株式の1株あたりの価値が上昇します。この価値の上昇分は、安く売ってくれた株主から残った株主への贈与とみなされ、みなし贈与として贈与税が課税されます。何もしていないのに突然税務署から多額の請求が来るという、非常に恐ろしい事態になります。
低額譲渡の課税関係まとめ
ここで、個人が会社へ自己株式を低額で譲渡した場合に発生するトリプル課税の対象者と税金の種類を、シンプルな表にまとめました。
| 対象者 | かかる税金の種類 |
|---|---|
| 株を売った株主(個人) | みなし譲渡課税(所得税・住民税)、みなし配当 |
| 自社株を買い取った会社(法人) | 受贈益に対する法人税 |
| 株を持ち続けている他の株主(個人) | みなし贈与(贈与税) |
みなし贈与の著しく低い価額とはいくらか
先ほど、所得税法では時価の2分の1未満が低額譲渡の基準とお伝えしましたが、贈与税に関する法律では少し扱いが異なります。
相続税法上のあいまいな基準
贈与税を定めた相続税法では、著しく低い価額という表現が使われており、2分の1といった明確な数字の基準がありません。そのため、時価の60%や70%といった価格で取引をした場合でも、状況によっては著しく低い価額とみなされ、他の株主へ贈与税がかかるリスクが残ります。
実務上の安全策
明確な基準がないからこそ、自己株式の売買価格を決める際は慎重にならざるを得ません。税務調査で否認されるリスクを減らすためには、国税庁が定めた財産評価基本通達に従って正しく株価を算定し、適正な時価で取引を行うことが最大の防御策となります。
適正な時価はどうやって決める?
非上場株式には市場価格がないため、税務上の正しい時価を導き出す必要があります。
支配株主か少数株主かで評価が変わる
株価の計算方法は、売却する株主の立場によって異なります。会社を経営しているような支配株主の場合は、類似業種比準方式や純資産価額方式といった原則的評価方式を用いて計算し、比較的株価が高くなります。一方、経営に関与していない少数株主の場合は、配当還元方式という特例的な計算が認められ、株価は低く算出される傾向にあります。
税務上の時価と取引価格のズレを防ぐ
当事者同士でこのくらいなら大丈夫だろうと勝手に価格を決めるのは大変危険です。後から税務署に客観的な交換価値がないと判断されれば、差額に対して容赦なく税金が課されます。事前にしっかりと評価を行い、算定された時価を基準に譲渡価格を決定してください。
まとめ
自己株式の低額譲渡で発生するトリプル課税の恐怖について解説しました。会社に自社株を買い取ってもらう際、安易に低い金額を設定してしまうと、売った本人、買い取った会社、そして残った株主にまで重い税金がのしかかります。このような事態を防ぐためには、事前の適正な株価評価が欠かせません。慎重に準備を進め、不測の事態を回避しましょう。
参考文献
国税庁 No.4423 個人から著しく低い価額で財産を譲り受けたとき
自己株式の低額譲渡に関するよくある質問まとめ
Q.自己株式の取得とは何ですか?
A.会社が自社の株主から自社株を買い取ることを指します。退職する従業員や前経営者の株を引き取る際などに利用されます。
Q.なぜ自己株式の低額譲渡は危険なのですか?
A.実際の取引額ではなく、高い時価を基準にして売主、会社、他の株主の3者に対して税金が課されるトリプル課税が発生するため非常に危険です。
Q.みなし譲渡課税とはどのような税金ですか?
A.株を時価より極端に安く売った場合でも、税務上は時価で売却したとみなされて、売却した個人に対して所得税や住民税がかかる仕組みです。
Q.会社にはどのような税金がかかりますか?
A.会社が自社株を時価よりも安く買い取った場合、本来の価値と買値の差額分を得したとみなされ、その受贈益に対して法人税が課税されます。
Q.売買に参加していない他の株主にも税金はかかりますか?
A.はい、かかります。会社が株を安く買い取ることで残存する株式の1株あたりの価値が上がり、その価値上昇分がみなし贈与として贈与税の対象になります。
Q.低額譲渡とみなされる基準はいくらですか?
A.所得税法では時価の2分の1未満が基準とされていますが、贈与税の法律には明確な数値の基準がないため、専門的な株価算定による適正な時価での取引が求められます。