税理士法人プライムパートナーズ

被相続人の現金と配偶者の預金が混在!相続税申告の注意点を解説

2026-01-03
目次

ご家族が亡くなられ、相続手続きを進める中で、「亡くなった夫の口座に、私のパート代も混ぜて貯めていた」「タンスから出てきた現金は、夫婦で貯めたものだけど、どう申告すればいいの?」といったお悩みに直面することは少なくありません。このように、被相続人の財産と配偶者の財産が混ざってしまっている場合、相続税の申告はどのように扱えばよいのでしょうか。このブログでは、夫婦の財産が混在している場合の相続税申告の基本的な考え方から、具体的な対処法、税務調査で指摘されないためのポイントまで、わかりやすく解説していきます。

なぜ夫婦の財産が混ざっていると問題になるの?

相続税は、亡くなった方(被相続人)が所有していた財産に対して課される税金です。そのため、どの財産が被相続人のもので、どの財産が配偶者や家族のものなのかを正確に分ける必要があります。しかし、長年連れ添ったご夫婦の場合、家計を一緒にして財産を管理していることが多く、お互いの財産が混ざってしまうのは自然なことです。税務署は、口座の名義人だけで判断するのではなく、そのお金の「真の所有者」が誰なのかを実質的に判断します。そのため、配偶者名義の預金であっても、その原資(元手)が被相続人の収入であると判断されれば、「名義預金」として相続財産に含めるよう指摘される可能性があります。これは、税務調査で特に厳しくチェックされるポイントの一つです。

名義預金と判断される基準

配偶者や子、孫の名義になっている預金が「名義預金」と判断されるかどうかは、いくつかの要素を総合的に見て判断されます。ご自身の状況が当てはまらないか、チェックしてみましょう。

  • 預金の原資は誰の収入か: 口座に入っているお金が、主に被相続人の給与や年金、不動産収入などから拠出されている場合、名義預金とみなされる可能性が高くなります。例えば、専業主婦である配偶者の口座に、収入に見合わない多額の預金があるケースなどが該当します。
  • 口座の管理・運用は誰が行っていたか: 通帳や印鑑を被相続人が保管し、口座名義人である配偶者がその存在を知らなかったり、自由にお金を引き出せなかったりした場合も、被相続人の財産と判断されやすくなります。
  • 贈与の事実はあるか: 被相続人から配偶者へ、年間110万円の基礎控除を超える贈与があったにもかかわらず、贈与契約書がなく、贈与税の申告もされていない場合、それは贈与ではなく名義預金であると指摘されることがあります。

タンス預金(現金)も対象になる

ご自宅で保管している現金、いわゆる「タンス預金」も相続財産です。特に、相続が開始する直前に被相続人の口座から多額の現金が引き出されている場合、税務署はその現金の行方を必ず確認します。その現金が自宅に保管されていれば、被相続人の相続財産として申告しなければなりません。配偶者が「これは私が長年貯めてきたお金だ」と主張しても、そのお金の出所を客観的な証拠で証明できなければ、被相続人の財産とみなされてしまう可能性が高いのです。

税務調査で指摘されやすいポイント

税務署は、KSK(国税総合管理)システムというデータベースを用いて、被相続人だけでなく、そのご家族の過去の収入や納税状況、財産の動きを詳細に把握しています。そのため、以下のようなケースは特に税務調査で指摘されやすくなりますので注意が必要です。

  • 被相続人の過去の収入額に比べて、申告された相続財産の金額が著しく少ない。
  • 配偶者に多額の預金があるが、それに見合う収入の実績がない(専業主婦であった期間が長いなど)。
  • 相続開始の直前(亡くなる前数年以内)に、被相続人の口座から数百万円単位の多額の出金がある。

被相続人の財産か配偶者の財産かを見分ける方法

混ざってしまった財産を正しく申告するためには、そのお金が「誰の努力や収入によって得られたものか」という実質的な所有者を特定することが重要です。これは「実質所有者主義」という税務上の基本的な考え方に基づいています。ここでは、具体的に財産をどのように見分けるかを解説します。

収入の記録を確認する

まずは、被相続人と配偶者、それぞれの過去の収入を証明できる資料を集めましょう。これにより、夫婦それぞれがどれだけの財産を築くことができたかの裏付けになります。

被相続人の収入資料 源泉徴収票、確定申告書、年金の源泉徴収票、退職金の明細書など
配偶者の収入資料 パートや正社員としての給与明細、源泉徴収票、年金の通知書、不動産収入の記録など

これらの資料をもとに、夫婦それぞれの生涯にわたる収入を大まかに計算し、現在の預金額との整合性を確認します。

お金の流れを追跡する

次に、問題となっている預金口座の過去の取引履歴を確認することが有効です。金融機関に依頼すれば、通常、過去10年程度の取引履歴を取り寄せることができます。履歴を調べることで、お金の「入口」と「出口」が明確になります。

  • 入金の原資: 誰の給与振込口座からお金が移動してきたのか、保険の満期金は誰が保険料を支払っていたのか、などを確認します。
  • 出金の使途: 生活費として日常的に使われていたのか、被相続人個人の趣味や高額な買い物に使われていたのか、などを確認します。

お金の流れを具体的に明らかにすることで、その預金が誰の財産であるかを客観的に説明しやすくなります。

配偶者の固有財産を明確にする

配偶者が結婚前から持っていた預貯金や、ご自身の親からの相続で得た財産は「固有財産」と呼ばれ、夫婦の共有財産とはならず、もちろん被相続人の相続財産にも含まれません。もし、これらの固有財産が被相続人の財産と混ざってしまっている場合は、その金額を証明できる資料(過去の通帳、遺産分割協議書など)を探し出し、明確に区別することが非常に重要です。

財産の帰属が不明確な場合の申告方法

夫婦双方の収入資料を集め、お金の流れを追っても、長年の生活の中で完全に混ざり合ってしまい、どうしても財産の帰属を明確に分けられないケースもあります。このような場合の申告方法について解説します。

合理的な基準で按分する

明確な区分が難しい場合、客観的で合理的な基準を用いて財産を按分する方法が考えられます。その一つの方法が、「夫婦の生涯収入の比率」で按分する方法です。
例えば、被相続人の生涯収入が2億円、配偶者の生涯収入が5,000万円だった場合、収入比率は4:1になります。夫婦の財産とみられる預金が合計で1億円あるとすれば、被相続人の相続財産は8,000万円、配偶者の固有財産は2,000万円と計算して申告するという考え方です。
ただし、この方法はあくまで最終的な手段です。税務署に対して、その計算の合理性をきちんと説明できるかどうかが鍵となります。最近の裁決例(令和4年2月15日裁決)では、税務署が主張する生涯収入の推計額に合理性が担保されていないとして、納税者の主張が認められたケースもあります。安易な按分は避け、慎重に検討する必要があります。

「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出する

財産の帰属について相続人間で話し合いが必要となり、相続税の申告期限(相続開始を知った日の翌日から10か月以内)までに遺産分割協議がまとまらないこともあります。この場合、ひとまず法定相続分で取得したものとして申告・納税を行います。
この時点では、「配偶者の税額軽減」や「小規模宅地等の特例」といった税額を大きく減らせる特例は使えません。しかし、申告書に「申告期限後3年以内の分割見込書」という書類を添付しておくことで、申告期限から3年以内に分割が確定すれば、これらの特例を適用して納めすぎた税金を還付してもらう(更正の請求)ことが可能になります。

未分割申告のポイント
手続き 申告期限までに法定相続分で申告し、「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付する。
注意点 申告時点では有利な特例が適用できないため、一時的に納税額が高くなる可能性がある。

生前にできる対策

このような相続時のトラブルや申告の複雑さを避けるためには、生前からの対策が非常に重要です。将来、大切なご家族が困らないように、今からできることを考えてみましょう。

財産管理の口座を明確に分ける

最も基本的で効果的な対策は、夫婦それぞれの財産を管理する口座を明確に分けることです。口座の役割をはっきりさせましょう。

  • 生活費用口座: 夫婦共有で使う生活費を入れる口座を一つに決める。
  • 個人用口座: それぞれの収入から個人的な貯蓄をする口座、趣味に使うお金を入れる口座などを別々に持つ。

このように口座の役割を明確にし、必要以上にお金を移動させないことで、財産の混在を未然に防ぐことができます。

贈与の記録を残す

夫婦間であっても、年間110万円の基礎控除額を超えるお金の移動は贈与とみなされる可能性があります。もし、生活費とは別に相手に財産を渡す(贈与する)のであれば、その都度「贈与契約書」を作成し、記録を残しておくことが大切です。
贈与契約書があれば、そのお金が名義を借りただけのものではなく、正式に「あげたもの」であることが明確になり、名義預金と疑われるリスクを大きく減らすことができます。また、基礎控除額を超える場合は、きちんと贈与税の申告・納税を行いましょう。

遺言書を作成する

どの財産を誰に相続させるかを明確にするために、「遺言書」を作成しておくことも非常に有効な対策です。特に、配偶者名義の預金の中に被相続人の貢献分が含まれているような場合に、「〇〇銀行の妻名義の預金のうち、〇〇円は私の財産に由来するものであるため、すべて妻に相続させる」といった形で記載しておくことで、相続時の財産区分の助けとなり、相続人間の争いを防ぐ効果も期待できます。

税理士に相談するメリット

被相続人の現金と配偶者の預金が混ざっているケースは、判断が非常に難しく、相続税申告の中でも特に専門的な知識が求められる分野です。ご自身での判断に少しでも不安がある場合は、相続を専門とする税理士に相談することをおすすめします。

客観的な財産評価と区分

税理士は、過去の収入資料や取引履歴などを基に、税法の規定や過去の裁決例に照らし合わせて、客観的な視点で財産の評価と区分を行ってくれます。これにより、感情論ではなく、税務署に対しても説得力のある申告書を作成することができます。

税務調査への対応

万が一、税務調査の対象となった場合でも、税理士が代理人として専門的な立場で対応してくれます。申告内容の根拠を論理的に説明し、納税者の正当な権利を守るための交渉を行ってくれるため、安心して任せることができます。特に名義預金は税務調査の主要な論点となるため、専門家のサポートは心強い味方になります。

まとめ

被相続人の現金と配偶者の預金が混ざってしまっている場合、まずは口座の名義という形式ではなく、その財産の「真の所有者」が誰なのかという実質で判断することが最も重要です。そのためには、夫婦それぞれの収入の記録を確認し、お金の流れを丁寧に追跡して、客観的な証拠を集める作業が必要になります。

もし財産の帰属がどうしても不明確な場合は、安易に自己判断せず、合理的な根拠に基づいて申告することが求められます。判断が難しい場合や、税務調査が心配な場合は、相続税に詳しい税理士に早めに相談し、適切で安心な申告を行いましょう。そして何より、生前のうちから財産管理を明確にしておくことが、ご家族にとって一番の円満な相続対策となります。

参考文献

国税庁 No.4208 相続財産が分割されていないときの申告

被相続人と配偶者の預金が混在する場合のよくある質問まとめ

Q.配偶者名義の預金ですが、亡くなった夫の収入が原資です。これは相続財産になりますか?

A.はい、相続財産とみなされる可能性が高いです。預金の名義人ではなく、そのお金を実質的に誰が築いたか(実質的支配者)が重要になります。これを「名義預金」と呼び、被相続人の財産として申告が必要です。

Q.専業主婦(主夫)である私の預金も、亡くなった配偶者の相続財産になるのでしょうか?

A.生活費の残りや配偶者からの送金で形成された預金は、名義預金と判断され、相続財産に含まれる可能性があります。ただし、ご自身の固有財産(結婚前の預金や親からの相続財産など)であることが証明できれば、対象外となります。

Q.夫婦の生活費口座のお金は、どのように分けたらよいですか?

A.明確なルールはありませんが、実務上は、被相続人の死亡日時点の残高のうち、被相続人の収入や財産から拠出されたと合理的に考えられる部分を相続財産として計上します。夫婦の収入割合などで按分する方法も考えられますが、個別の事情によります。

Q.いわゆる「へそくり」や自宅に保管している現金(タンス預金)は申告しなくてもバレませんか?

A.税務署はKSK(国税総合管理)システム等で個人の資産状況を広範囲に把握しており、申告漏れは高い確率で発覚します。特に不動産の名義変更や多額の預金移動があった場合、税務調査の対象となりやすいです。正直に申告することが重要です。

Q.名義預金と判断されないためには、どうすればよかったのでしょうか?

A.生前から贈与契約書を作成し、年間110万円の基礎控除の範囲内で贈与を行う、贈与された側が口座を自分で管理する(通帳や印鑑を渡す)など、贈与の事実を明確にしておくことが対策となります。

Q.名義預金が申告漏れと指摘された場合、どうなりますか?

A.本来納めるべき相続税に加えて、過少申告加算税や延滞税といったペナルティが課されます。意図的な隠蔽と判断されれば、さらに重い重加算税が課される場合もありますので、注意が必要です。

事務所概要
社名
税理士法人プライムパートナーズ
住所
〒107-0052
東京都港区赤坂5丁目2−33
IsaI AkasakA 17階
対応責任者
税理士 島本 雅史

本記事は正確な情報提供を心掛けておりますが、執筆時点の情報に基づいているため、法改正や人的ミス、個別のケースにより適用が異なる可能性があります。最新の情報や具体的なご相談については、お気軽に弊法人の税理士までお問い合わせください。

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