税理士法人プライムパートナーズ

親からの貸付と贈与どっちが得?相続税・贈与税を比較して有利な方法を解説

2025-03-15
目次

お子さんの住宅購入や事業の立ち上げなど、まとまった資金が必要なとき、親御さんから援助を受けたいと考える方も多いのではないでしょうか。その際、「貸してもらう(貸付)」のか「もらう(贈与)」のかで、かかる税金が大きく変わってきます。今回は、親からの貸付と贈与、それぞれの税金の仕組みを比較し、将来の相続税まで見据えたときにどちらが有利になるのかを、わかりやすく解説していきますね。

貸付と贈与の基本的な違い

まず、親子間のお金のやり取りにおける「貸付」と「贈与」の基本的な違いから確認しましょう。この二つは似ているようで、税法上の扱いは全く異なります。税務署は形式だけでなく、その実態を見て判断するため、正しく理解しておくことがとても大切です。

貸付(金銭消費貸借契約)とは?

貸付とは、「将来返すことを約束してお金を借りること」を指します。法律的には「金銭消費貸借契約」といいます。親子間であっても、単なる口約束ではなく、きちんと契約書を交わし、実際に返済していくことが重要です。もし契約書がなかったり、返済の実績がなかったりすると、税務署から「それは実質的な贈与ですよね?」と指摘され、贈与税が課せられる可能性があります。

贈与とは?

贈与とは、「返済する必要なく、無償で財産をもらうこと」です。これは、あげる側(贈与者)の「あげます」という意思と、もらう側(受贈者)の「もらいます」という双方の合意によって成立します。贈与された財産には、その金額に応じて贈与税がかかる場合があります。

税務署はどう判断する?

税務署が貸付か贈与かを判断する際は、以下の点を総合的に見ています。

  • 金銭消費貸借契約書の有無:貸主、借主、金額、返済期間、利息などが明記されているか。
  • 返済の事実:実際に契約書通りに返済が行われているか。手渡しではなく、銀行振込などで記録が残っているかが重要です。
  • 利息の設定:無利息や市場金利と比べて著しく低い金利ではないか。
  • 借主の返済能力:借りた側に返済できるだけの収入や資力があるか。

これらの要件を満たしていないと、「貸付」と主張しても「贈与」と認定され、思わぬ税金がかかってしまうことがあるので注意しましょう。

貸付金にかかる税金

次に、親から「貸付」という形でお金を受け取った場合に、どのような税金が関係してくるのかを見ていきましょう。贈与税はかからないと思われがちですが、注意点があります。

貸付金に贈与税はかかる?

親子間の貸付が、契約書や返済実績など、客観的な事実をもって「貸付」であると証明できれば、原則として贈与税はかかりません。ただし、注意したいのが「利息」です。
親子間ということで無利息にするケースも多いですが、税法上、お金を貸した側は本来得られるはずだった利息をもらっていない、借りた側は利息を払わずに得をしている、とみなされることがあります。この「得をした部分(利息相当額)」が贈与とみなされ、贈与税の対象となる可能性があるのです。
特に金額が大きい場合は、少なくとも市場の金利(例えば、2024年時点での銀行の長期プライムレートなどを参考に年1.5%程度)を参考に、適正な利息を設定し、実際に支払いましょう。

親が亡くなった場合、貸付金はどうなる?

親が亡くなった場合、子どもへの貸付金のうち、まだ返済されていない残額(未返済分)は、「貸付金債権」というプラスの財産として親の相続財産に含まれます。
つまり、子どもが親から借りていたお金は、親の相続財産の一部となり、相続税の課税対象になるのです。もし子ども自身が相続人であれば、自分が借りている借金も含めた財産全体を相続し、それに対して相続税を支払うことになります。貸付は生前の財産を減らす効果はない、ということを覚えておきましょう。

贈与にかかる税金

続いて、「贈与」としてお金を受け取った場合の税金についてです。贈与税にはいくつかの制度があり、うまく活用することで税負担を抑えることが可能です。

贈与税の基礎知識(暦年贈与)

贈与税の最も基本的な仕組みが「暦年贈与」です。これは、1人の人が1月1日から12月31日までの1年間にもらった財産の合計額から、基礎控除額110万円を差し引いた残りの金額に対して贈与税がかかるというものです。
つまり、年間の贈与額が110万円以下であれば贈与税はかからず、申告も不要です。この非課税枠を使い、毎年コツコツと贈与していくことで、将来の相続財産を計画的に減らし、相続税対策につなげることができます。

贈与税の速算表(特例贈与財産用:親や祖父母から18歳以上の子や孫への贈与)
基礎控除後の課税価格 税率
200万円以下 10%
400万円以下 15%
600万円以下 20%
1,000万円以下 30%

(注)上記は一部抜粋です。金額によって税率と控除額が変わります。

相続時精算課税制度とは?

「相続時精算課税制度」は、原則として60歳以上の親や祖父母から、18歳以上の子や孫へ贈与する際に選択できる制度です。この制度を選ぶと、合計2,500万円までの贈与には贈与税がかかりません。ただし、贈与した人が亡くなったとき、この制度で贈与した財産は相続財産に加算して相続税を計算する必要があります。
2024年1月1日以降の贈与からは、この2,500万円の特別控除とは別に、年間110万円の基礎控除が新設されました。この110万円以下の部分については、贈与税の申告も不要で、将来の相続財産に加算する必要もありません。これにより、以前よりも使いやすい制度になりました。

相続開始前の贈与加算に注意

亡くなる直前に駆け込みで贈与して相続税を不当に免れることを防ぐため、相続開始前の一期間内に行われた贈与は、相続財産に持ち戻して相続税を計算するというルールがあります。これを「生前贈与加算」といいます。
この期間は、2024年1月1日以降の贈与から、亡くなる前3年から7年に延長されました。つまり、せっかく暦年贈与で財産を移しても、贈与から7年以内に親が亡くなってしまうと、その贈与は相続税対策としては無効になってしまう可能性があるため、贈与は早めに計画的に行うことが重要です。

貸付と贈与、どっちが有利?ケース別シミュレーション

では、具体的にどちらの方法が有利になるのでしょうか。いくつかのケースを想定して比較してみましょう。

ケース1:住宅購入資金として3,000万円の援助を受ける場合

【貸付の場合】
3,000万円の借金として、契約書に基づき返済していくことになります。親が亡くなった時点で残っている返済額は、相続財産として相続税の対象となります。

【贈与の場合】
「住宅取得等資金の贈与税の非課税措置」という特例が使える可能性があります。この特例は、一定の要件を満たす住宅の購入資金であれば、最大1,000万円まで贈与税が非課税になるというものです。暦年贈与の110万円と併用することも可能です。
このケースでは、贈与税の特例を最大限活用できる「贈与」の方が、税負担を大きく軽減できる可能性が高く、有利と言えるでしょう。

ケース2:生活費の補填として5年間で合計500万円の援助を受ける場合

【貸付の場合】
500万円の借金となり、親の相続財産は減りません。親が亡くなった時に相続税がかかる可能性があります。

【贈与の場合】
毎年100万円ずつ5年間に分けて贈与を受ければ、暦年贈与の基礎控除(110万円)の範囲内なので、贈与税は一切かかりません。そして、親の財産は確実に500万円減少するため、将来の相続税の節税につながります。ただし、贈与から7年以内に相続が発生すると、その分は相続財産に加算される点には注意が必要です。このケースでも、計画的な「贈与」が有利になることが多いです。

親子間の貸付で注意すべきポイント

もし「貸付」を選択する場合には、税務署から「贈与」とみなされないために、以下のポイントを必ず守るようにしてください。

必ず金銭消費貸借契約書を作成する

口約束は絶対に避け、正式な契約書を作成しましょう。契約書には、貸主と借主の氏名・住所、貸付日、貸付金額、返済期間、返済方法、利息の利率などを具体的に明記します。貸付金額によっては収入印紙の貼付も必要です。

実際に返済し、記録を残す

契約書通りに、毎月きちんと返済を続けることが最も重要です。返済の証拠を残すため、手渡しではなく、必ず銀行振込を利用しましょう。通帳に「〇〇(子)から〇〇(親)へ」という記録が残ることで、客観的な証拠となります。

無利息や低すぎる金利は避ける

前述の通り、無利息の貸付は利息相当額が贈与とみなされるリスクがあります。特に高額な貸付の場合は、トラブルを避けるためにも、年1%~1.5%程度の利息を設定しておくのが安全です。実際に支払った利息は、親の所得(雑所得)として確定申告が必要になる場合もあります。

まとめ

親からの資金援助において、「貸付」と「贈与」のどちらが有利かは、その目的、金額、ご家庭の資産状況によって異なります。それぞれのメリット・デメリットをしっかり理解して、最適な方法を選びましょう。

貸  付
メリット ・贈与税がかからない(適正な契約・返済が前提)
・一度に多額の資金を動かせる
デメリット 相続財産が減らないため、相続税対策にはならない
・契約書の作成や返済の手間がかかる
・贈与とみなされるリスクがある
贈  与
メリット ・暦年贈与(年間110万円)の非課税枠が使える
・計画的に行うことで相続財産を減らせる(相続税対策)
・各種特例を使える場合がある
デメリット ・非課税枠を超えると贈与税がかかる
・相続開始前7年以内の贈与は相続財産に加算される
・一度に多額の資金を非課税で動かすのは難しい

結論として、将来の相続税まで考慮すると、多くの場合で非課税枠や特例をうまく活用した「贈与」の方が有利になることが多いと言えます。ただし、判断に迷う場合や、ご自身の状況に最適な方法を知りたい場合は、税理士などの専門家に相談することをおすすめします。

参考文献

親からの貸付と贈与に関するよくある質問まとめ

Q.親から資金援助を受ける場合、「貸付」と「贈与」ではどちらが税金面で有利ですか?

A.状況によりますが、一般的に年間110万円以下の贈与であれば贈与税がかからないため有利です。それを超える金額の場合、返済義務などを伴う「貸付」の方が税負担を抑えられる可能性があります。

Q.親からの貸付が「贈与」と見なされないためには、何に注意すればいいですか?

A.贈与と認定されないためには、①金銭消費貸借契約書(借用書)を作成する、②返済能力に見合った返済計画を立てる、③実際に定期的に返済した記録を残す、④適正な利息を設定する、といった客観的な証拠が重要です。

Q.贈与税がかからない金額はいくらまでですか?

A.暦年贈与の場合、1年間(1月1日~12月31日)に贈与を受けた金額の合計が110万円までであれば、贈与税はかからず申告も不要です。これは贈与を受けた側(もらった人)の合計額で計算されます。

Q.親から借りたお金を返済中に親が亡くなった場合、その借金はどうなりますか?

A.親からの借金(貸付金)は親の「相続財産」として扱われ、相続税の課税対象となります。借金の残額は、相続人が引き継ぐ債権となり、基本的にはその相続人に返済を続けることになります。

Q.高額な資金援助を受けたい場合、年間110万円の非課税枠以外に使える制度はありますか?

A.はい、「相続時精算課税制度」や、住宅購入資金のための「住宅取得等資金の贈与税の非課税措置」、教育資金のための「教育資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置」など、特定の目的や条件を満たす場合に利用できる特例制度があります。

Q.結局、私の場合「貸付」と「贈与」のどちらを選べば良いのでしょうか?

A.返済能力があり、将来的に親の相続財産を減らすことを考慮するなら「貸付」が有効な場合があります。一方、年間110万円以下の少額な援助や、非課税特例を使える場合は「贈与」が手軽で有利です。金額や目的に応じて選択しましょう。

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