税理士法人プライムパートナーズ

親が契約者、子が被保険者のがん保険は相続財産?生命保険契約に関する権利を解説

2025-04-11
目次

親御さんが亡くなられた際、残された保険契約の扱いに戸惑う方は少なくありません。特に、親が契約者で子供が被保険者となっているがん保険のようなケース。これは「生命保険契約に関する権利」として相続財産になるのでしょうか?この記事では、この権利の基本から相続税の課税関係、注意点まで、わかりやすく解説していきます。

生命保険契約に関する権利とは?

まず、「生命保険契約に関する権利」とは何か、基本的なところからご説明しますね。これは、亡くなった方(被相続人)が保険料を負担していた保険契約で、亡くなった時点ではまだ保険金が支払われていないものについて、解約した場合に受け取れるはずだった解約返戻金などを受け取る権利のことを指します。
通常の死亡保険は、被保険者が亡くなった時に死亡保険金が支払われますよね。しかし、今回のような「契約者:親、被保険者:子」というケースでは、親(契約者)が亡くなっても、子(被保険者)は存命なので、がん保険の保険金は支払われません。でも、その保険契約自体には財産的な価値があります。この「財産的な価値」こそが「生命保険契約に関する権利」なのです。

「生命保険契約に関する権利」に該当するケース

具体的にどのような保険契約が「生命保険契約に関する権利」に該当するのでしょうか。今回のキーワードである「亡くなった親が契約者(兼保険料負担者)で、子供が被保険者のがん保険」は、まさにこの典型的な例です。

契約者(保険料負担者) 亡くなった親
被保険者 子供

この契約形態では、親が亡くなったことで保険契約を引き継ぐことになります。被保険者である子供が亡くなったわけではないため、死亡保険金は支払われません。しかし、その保険契約には解約返戻金などの財産的価値があるため、これが「生命保険契約に関する権利」として相続財産と見なされるのです。

死亡保険金との違い

「生命保険契約に関する権利」と、一般的な「死亡保険金」は全くの別物です。違いを理解しておくことがとても重要ですよ。
一番大きな違いは、お金を受け取るタイミングと理由です。

死亡保険金 被保険者が亡くなったことを理由に、保険金受取人に支払われるお金。
生命保険契約に関する権利 契約者(保険料負担者)が亡くなったことで相続される、保険契約そのものが持つ財産的価値(権利)。実際に現金を受け取るわけではない。

死亡保険金は、受取人固有の財産とされ、原則として遺産分割の対象にはなりません(ただし、税法上は「みなし相続財産」として相続税の課税対象になります)。一方で、「生命保険契約に関する権利」は、その契約内容によって「本来の相続財産」または「みなし相続財産」として扱われ、相続手続きや課税関係が変わってきます。

生命保険契約に関する権利は相続財産になる!2つのパターン

結論から言うと、「亡くなった親が契約者で、子が被保険者のがん保険」は、「生命保険契約に関する権利」として相続財産になります。そして、この権利は契約内容によって「本来の相続財産」と「みなし相続財産」の2つのパターンに分けられます。どちらに該当するかで、遺産分割協議の要否などが変わってくるので、しっかり確認しましょう。

通常の相続財産(本来の相続財産)になる場合

「通常の相続財産(本来の相続財産)」として扱われるのは、亡くなった方が契約者、保険料負担者、そして保険金受取人のすべてを兼ねていたケースです。

契約者 亡くなった親
保険料負担者 亡くなった親
被保険者 子供
保険金受取人 亡くなった親

この場合、解約返戻金などは本来、亡くなった親が受け取るはずだった財産とみなされます。そのため、預貯金や不動産などと同じように「本来の相続財産」として扱われ、遺産分割協議の対象となります。相続人全員で話し合って、誰がこの保険契約を引き継ぐかを決める必要があります。

みなし相続財産になる場合

一方、「みなし相続財産」として扱われるのは、契約者と保険料負担者が異なる場合などです。例えば、契約者は子供自身になっているけれど、保険料は親が支払っていた、というケースが考えられます。

契約者 子供
保険料負担者 亡くなった親
被保険者 子供

この場合、形式上の契約者は子供ですが、実質的に保険料を負担していたのは亡くなった親です。そのため、親から子へ財産が移転したとみなされ、「みなし相続財産」として相続税の課税対象になります。このケースでは、保険契約はもともと子供の名義(契約者)であるため、遺産分割協議の対象にはなりません。その権利は契約者である子供固有のものとされます。

重要なのは「誰が契約者か」よりも「誰が実質的に保険料を負担していたか」という点です。これを間違えると、申告漏れにつながる可能性があるので注意しましょう。

相続税の評価額はどう計算する?

では、この「生命保険契約に関する権利」は、相続財産としていくらの価値があると評価されるのでしょうか。これは相続税を計算する上で非常に大切なポイントです。

評価額は「解約返戻金」の額

生命保険契約に関する権利の評価額は、原則として、亡くなった日(相続開始日)にその保険契約を解約したとした場合に支払われる「解約返戻金」の額となります。
自分で計算するのは難しいので、保険会社に連絡して「相続税申告のために、被相続人が亡くなった日時点での解約返戻金額の証明書を発行してください」と依頼しましょう。

解約返戻金以外に加算されるもの

評価額には、解約返戻金の他にも加算されるものがあります。

既経過期間に対応する配当金(剰余金) まだ支払われていない配当金などがある場合に加算します。
前納保険料 保険料を前払いしていた部分があれば、それも加算の対象です。

これらの金額も、解約返戻金の証明書に記載されていることが多いので、合わせて確認してください。もし、解約時に源泉徴収される所得税などがある場合は、その金額を差し引いて評価額を計算します。

生命保険契約に関する権利を相続する際の4つの注意点

生命保険契約に関する権利を相続する際には、いくつか知っておくべき重要な注意点があります。思わぬトラブルや税金の申告漏れを防ぐために、しっかり押さえておきましょう。

生命保険の非課税枠は使えない

相続税には、死亡保険金を受け取った場合に適用される「500万円 × 法定相続人の数」という非課税枠があります。しかし、「生命保険契約に関する権利」には、この非課税枠を適用することはできません
これは、この権利が「死亡によって支払われる保険金」ではないためです。評価額がそのまま相続税の課税対象財産に加算されることになるので、注意が必要です。

相続放棄の扱いが変わる

相続放棄をする場合も、この権利が「本来の相続財産」か「みなし相続財産」かで扱いが異なります。

  • 本来の相続財産の場合: 相続放棄の対象となります。つまり、他の財産と一緒に権利も放棄することができます。
  • みなし相続財産の場合: 契約者固有の財産とみなされるため、相続放棄の対象になりません。仮に他の財産をすべて相続放棄したとしても、この権利(とそれに伴う相続税の納税義務)は残ります。

特に、亡くなった親に多額の借金があり相続放棄を検討している場合は、この点をしっかり理解しておく必要があります。

契約者変更(名義変更)の手続きが必要

親が契約者だった保険契約は、相続によって契約者の地位を引き継ぐことになります。そのため、保険会社で契約者を相続人へ変更する手続き(名義変更)が必要です。
この手続きをしないと、いざ保険金を受け取ろうとしたり、解約しようとしたりする際にスムーズに進まない可能性があります。遺産分割協議がまとまったら、速やかに手続きを行いましょう。必要書類は保険会社によって異なるため、事前に確認してください。

税務調査で指摘されやすいポイント

生命保険契約に関する権利は、現金や預貯金のように目に見える形ではないため、相続税の申告から漏れやすい財産のひとつです。税務署は、保険会社から提出される支払調書などから保険契約の情報を把握しているため、申告漏れは税務調査で指摘される可能性が非常に高いです。
特に、生前に契約者を親から子へ変更していた場合でも、それまでに親が支払っていた保険料に対応する部分は相続財産と見なされることがあります。意図せず申告漏れとなってしまわないよう、亡くなった方が保険料を負担していた契約がなかったか、しっかりと確認することが大切です。

相続後の手続きの流れ

実際に生命保険契約に関する権利を相続した場合、どのような手続きが必要になるのでしょうか。ここでは、大まかな流れをご説明します。

保険会社への連絡と必要書類の確認

まずは、保険契約のある保険会社へ連絡し、契約者が亡くなった旨を伝えます。そして、今後の手続き(名義変更など)に必要な書類を確認しましょう。一般的には、以下のような書類が必要になります。

  • 保険証券
  • 被相続人の死亡が確認できる戸籍謄本(除籍謄本)
  • 相続人全員の戸籍謄本
  • 遺産分割協議書(「本来の相続財産」の場合)
  • 新しい契約者の本人確認書類・印鑑証明書

保険会社所定の書類もありますので、必ず事前に問い合わせて準備を進めてください。

遺産分割協議と協議書の作成

その保険契約が「本来の相続財産」に該当する場合、相続人全員で遺産分割協議を行い、誰がその契約を引き継ぐのかを決めなければなりません。
協議がまとまったら、その内容を遺産分割協議書に明記します。書き方としては、保険会社名、証券番号、被保険者名などを特定できるように記載します。

(記載例)
相続人〇〇は、下記生命保険契約に関する権利を相続する。
(1) 保険会社:〇〇生命保険株式会社
(2) 証券番号:123456789
(3) 被保険者:相続人〇〇

この遺産分割協議書は、保険会社での名義変更手続きや、相続税申告の際にも必要となる重要な書類です。

相続税申告書への記載

相続財産の総額が基礎控除額(3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数)を超える場合は、相続税の申告が必要です。
生命保険契約に関する権利は、相続税申告書の第11表「相続税がかかる財産の明細書」に記載します。「財産の名称」欄には「生命保険契約に関する権利(〇〇生命)」のように記載し、「評価額」の欄には先ほど計算した解約返戻金相当額を記入します。
死亡保険金を記載する第9表ではないので、間違えないようにしましょう。

まとめ

今回は、「亡くなった親が契約者で、子供が被保険者のがん保険」が相続財産になるのか、というテーマについて解説しました。

ポイントをまとめると以下の通りです。

  • 親が契約者・保険料負担者、子が被保険者の保険は「生命保険契約に関する権利」として相続財産になる
  • 評価額は、亡くなった日時点の解約返戻金相当額で計算する。
  • 契約内容によって「本来の相続財産」か「みなし相続財産」に分かれ、遺産分割や相続放棄の扱いが異なる。
  • 死亡保険金の非課税枠(500万円 × 法定相続人の数)は適用できない
  • 相続税の申告漏れが起きやすい財産なので、契約内容をしっかり確認することが重要。

生命保険は複雑な部分も多く、判断に迷うこともあるかと思います。特に相続税が関わってくると、手続きはさらに煩雑になります。ご自身での判断が難しい場合や、少しでも不安がある場合は、相続に詳しい税理士などの専門家に相談することをおすすめします。大切な財産を適切に引き継ぐために、正しい知識を持って手続きを進めていきましょう。

参考文献

国税庁 No.4660 生命保険契約に関する権利の評価

国税庁 相続税の申告のしかた(令和5年分用)9 申告の誤りの多い事例

親が契約者のがん保険と相続のよくある質問まとめ

Q. 親が契約者で子供が被保険者のがん保険は、親が亡くなると相続財産になりますか?

A. はい、相続財産になります。この保険は「生命保険契約に関する権利」として扱われ、亡くなった親(契約者)の財産として相続税の課税対象となります。

Q. 「生命保険契約に関する権利」とは具体的に何ですか?

A. 契約者が亡くなった時点で保険契約を解約した場合に支払われる「解約返戻金」を受け取る権利のことです。この解約返戻金の額が相続財産としての評価額になります。

Q. がん保険の相続財産としての評価額はどのように計算しますか?

A. 親(契約者)が亡くなった日の「解約返戻金相当額」で評価されます。保険会社に問い合わせることで、その時点での正確な金額を確認できます。

Q. この場合、保険金は受け取っていませんが、なぜ相続税がかかるのですか?

A. 相続税の対象は、亡くなった方が所有していた「財産的価値のあるもの」全てです。このがん保険契約は、解約すれば現金化できる「解約返戻金」という価値があるため、財産として扱われます。死亡保険金のような「みなし相続財産」とは異なります。

Q. 親が亡くなった後、このがん保険契約はどうなりますか?

A. 相続人が契約を引き継ぐ(名義変更する)か、解約するかを選択します。契約を引き継ぐ場合は、新たな契約者が保険料を支払い続けることで、子供(被保険者)の保障を継続できます。

Q. 相続税の申告で、この保険契約を見落とした場合はどうなりますか?

A. 申告漏れとなり、後日税務調査で指摘される可能性があります。その場合、本来の税額に加えて延滞税や過少申告加算税などのペナルティが課される恐れがあるため、必ず申告に含める必要があります。

事務所概要
社名
税理士法人プライムパートナーズ
住所
〒107-0052
東京都港区赤坂5丁目2−33
IsaI AkasakA 17階
電話番号
対応責任者
税理士 島本 雅史

本記事は正確な情報提供を心掛けておりますが、執筆時点の情報に基づいているため、法改正や人的ミス、個別のケースにより適用が異なる可能性があります。最新の情報や具体的なご相談については、お気軽に弊法人の税理士までお問い合わせください。