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親が老人ホームでも使える?小規模宅地等の特例「生計を一」を解説

2025-03-13
目次

ご両親が老人ホームに入居された後、ご自宅の土地を相続することになった場合、「小規模宅地等の特例」という制度が使えるのか、気になりますよね。この特例は、相続税の負担を大きく軽減できる可能性がある大切な制度です。特に「被相続人と生計を一にしていた親族」というキーワードが重要になります。今回は、親御さんが老人ホームに入居していても、この特例の要件を満たせるのか、そして、そのために何をどう説明すれば良いのかを、わかりやすく解説していきます。

「生計を一にする」とは?

相続税の話でよく出てくる「生計を一にする」という言葉ですが、具体的にどのような状態を指すのでしょうか。まずはこの言葉の意味からしっかり理解していきましょう。

「お財布が一緒」というイメージ

国税庁によると、「生計を一にする」とは「日常の生活の資を共にすること」とされています。少し難しい言葉ですが、簡単に言うと「お財布が一緒で、生活費を共有している状態」とイメージすると分かりやすいです。必ずしも同居している必要はなく、たとえば離れて暮らす親に生活費を仕送りしている場合なども含まれます。所得税の扶養親族であるかどうかは関係ありません。

「生計を一にする」と認められる具体例

では、どのような場合に「生計を一にする」と認められるのでしょうか。具体例を見てみましょう。

  • 勤務や修学、療養などの都合で別居しているが、生活費や学費、療養費などを常に送金している。
  • 別居しているが、週末や長期休暇などには一緒に生活している。
  • 同居していて、生活費を共同で負担している(どちらか一方がすべて負担している場合も含む)。

大切なのは、お互いに経済的な支え合いがあるかどうか、という点です。

「生計を一にする」と認められないケース

一方で、たとえ同居していても、それぞれが完全に独立して生計を立てている場合は「生計を一にする」とは認められません。例えば、二世帯住宅で水道光熱費や食費などを完全に別々に管理し、お互いに金銭的な援助がない場合は、生計が別だと判断される可能性があります。

小規模宅地等の特例とは

次に、今回のテーマの核となる「小規模宅地等の特例」について、基本的な内容をおさらいしておきましょう。この特例を正しく理解することが、節税への第一歩です。

土地の評価額を最大80%減額できる制度

小規模宅地等の特例とは、亡くなった方(被相続人)が住んでいた土地や事業をしていた土地などを相続した場合に、一定の要件を満たせば、その土地の相続税評価額を最大で80%も減額できる制度です。相続財産の中で不動産、特に土地の占める割合は大きいことが多く、この特例を使えるかどうかで相続税額が大きく変わってきます。

特例の対象となる宅地等の種類

この特例の対象となる宅地は、その使われ方によっていくつかの種類に分けられています。それぞれ限度面積や減額割合が異なります。

宅地等の種類 主な内容
特定居住用宅地等 被相続人が住んでいた自宅の敷地。330㎡まで80%減額。
特定事業用宅地等 被相続人が事業を営んでいた土地。400㎡まで80%減額。
貸付事業用宅地等 被相続人がアパート経営などをしていた土地。200㎡まで50%減額。

今回は、この中の「特定居住用宅地等」について、特に被相続人が老人ホームに入居していたケースに焦点を当てて解説していきます。

親が老人ホームに入居した場合の特例適用のポイント

「亡くなった親は、亡くなる直前は自宅ではなく老人ホームにいたから、特例は使えないのでは?」と心配される方もいらっしゃるかもしれません。ご安心ください。一定の要件を満たせば、老人ホームに入居していた場合でも特例の適用が可能です。これを「老人ホーム特例」と呼ぶこともあります。

特例を適用するための3つの要件

被相続人が老人ホームに入居していた場合に特例を適用するためには、主に以下の3つの要件をすべて満たす必要があります。

  1. 被相続人が亡くなる直前に、要介護認定や要支援認定を受けていたこと。
  2. 被相続人が入居していた施設が、法律で定められた特定の老人ホームなどであること。
  3. 老人ホーム入居後、その自宅を事業用や賃貸、他の人の居住用に使っていないこと。

これらの要件を一つずつ詳しく見ていきましょう。

要件①:要介護認定・要支援認定

まず、被相続人が亡くなる直前に、介護保険法の「要介護認定」または「要支援認定」を受けている必要があります。もし、認定を申請中に亡くなられた場合でも、その後認定が下りれば要件を満たすことができます。また、障害者総合支援法に規定する「障害支援区分」の認定を受けていた場合も対象となります。

要件②:対象となる老人ホームの種類

次に入居していた施設の種類も重要です。どんな施設でも良いわけではなく、法律で定められた施設に限られます。具体的には、都道府県などに届け出が出されている以下のような施設が対象です。

  • 特別養護老人ホーム、養護老人ホーム、軽費老人ホーム、有料老人ホーム
  • 介護老人保健施設、介護医療院
  • サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)
  • 認知症対応型老人共同生活援助事業が行われる住居(グループホーム)
  • 障害者支援施設 など

入居されていた施設が対象になるか不明な場合は、施設の契約書を確認したり、施設側に問い合わせてみましょう。

要件③:自宅の利用状況に関する注意点

最後に、被相続人が老人ホームに入居した後、空き家になった自宅をどのように利用していたかが問われます。もし、その家を誰かに貸して家賃収入を得ていたり、事業用に使っていたりした場合は、原則として「特定居住用宅地等」としての80%減額は受けられなくなります。ただし、貸付事業用宅地等として50%の減額を受けられる可能性はあります。

また、被相続人や生計を一にする親族以外の人が住んでいた場合も、この特例の対象外となってしまうので注意が必要です。

「生計を一にする親族」が土地を相続する場合

では、今回のキーワードである「被相続人と生計を一にしていた親族の居住の用に供されていた宅地等」とは、どのようなケースでしょうか。これは、被相続人が所有する土地に、被相続人と生計を一にする親族が住んでいる場合のことを指します。

親の土地に子が家を建てて住んでいるケース

例えば、お父様名義の土地に、お父様と生計を共にしている息子さん一家が家を建てて住んでいるような場合がこれに該当します。この場合、お父様が亡くなられた際に、その息子さんが土地を相続すれば、小規模宅地等の特例の対象となる可能性があります。

相続後も継続して居住・所有することが必要

このケースで特例の適用を受けるためには、土地を相続した親族が、相続が開始される前から相続税の申告期限まで、引き続きその土地の上にある建物に住み、かつその土地を所有し続ける必要があります。もし、申告期限前にその家を売却したり、引っ越してしまったりすると、特例は使えなくなりますのでご注意ください。

何をもって説明すればよい?必要書類と証明のポイント

特例の適用を受けるためには、税務署に対して「私たちは要件を満たしています」と客観的な資料で証明する必要があります。具体的にどのような書類を準備すればよいのか、確認していきましょう。

「老人ホーム特例」の適用に必要な書類

被相続人が老人ホームに入居していた場合に、特例の適用を証明するために必要となる主な書類は以下の通りです。相続税の申告書に添付して提出します。

書類の種類 証明する内容
介護保険の被保険者証の写し など 被相続人が要介護認定や要支援認定を受けていたことを証明します。
施設の入所契約書の写し など 被相続人が特例の対象となる施設に入居していたことを証明します。
戸籍の附票の写し 被相続人の住所の変遷を確認し、老人ホーム入居直前まで自宅に居住していたことを示します。

これらの書類は、被保険者証などは施設や役所に返還してしまう前に、必ずコピーを取っておくようにしましょう。

「生計を一にしていたこと」をどう証明するか

「生計を一にしていた」ことを客観的に証明するのは、時として難しい場合があります。税務署に質問された際にスムーズに説明できるよう、以下のような資料が手元にあると安心です。

  • 生活費を送金していたことがわかる預金通帳のコピーや振込記録
  • 被相続人名義の家の公共料金などを親族の口座から支払っていた記録
  • 被相続人が親族の健康保険の扶養に入っていたことがわかる書類
  • 被相続人の医療費を親族が支払っていた領収書 など

明確な一つの書類で証明するというよりは、複数の資料から総合的に生活の実態を説明することが大切になります。

まとめ

今回は、「被相続人と生計を一にしていた親族」というキーワードと、親が老人ホームに入居していた場合の小規模宅地等の特例の適用について解説しました。ポイントをまとめます。

  • 生計を一にする」とは、同居・別居にかかわらず「お財布が一緒」の状態を指します。
  • 親が老人ホームに入居していても、「要介護認定」「施設の要件」「自宅の利用状況」の3つの要件を満たせば、小規模宅地等の特例を適用できる可能性があります。
  • 特例の適用を主張するためには、介護保険被保険者証の写しや施設の契約書などの客観的な書類を準備することが不可欠です。
  • 「生計を一にしていた」ことの証明には、送金の記録や費用の支払記録などが有効です。

小規模宅地等の特例は、要件が非常に細かく複雑です。ご自身のケースで適用できるかどうかの判断に迷った場合は、税務の専門家である税理士に相談することをおすすめします。正しい知識で、大切な財産をしっかりと守りましょう。

参考文献

小規模宅地等の特例(生計一親族・老人ホーム)のよくある質問まとめ

Q.小規模宅地等の特例でいう「被相続人と生計を一にしていた親族の居住の用に供されていた宅地等」とは何ですか?

A.亡くなった方(被相続人)と生計を共にしていた親族が住んでいた土地のことです。この親族が土地を相続し、相続税の申告期限まで所有・居住を続けるなど一定の要件を満たすと、土地の評価額を最大80%減額できる「小規模宅地等の特例」の対象となります。

Q.親(被相続人)が老人ホームに入っていても、子供は「生計を一にしていた」と認められますか?

A.認められる可能性があります。例えば、親の預貯金や年金から子供の生活費が支払われていたり、自宅の光熱費が引き落とされたりしていた場合など、経済的な一体性があれば「生計を一にしていた」と判断されやすいです。

Q.「生計を一にする」とは具体的にどのような状態ですか?

A.必ずしも同居している必要はありません。親から子へ生活費の仕送りがある、親名義の口座から生活費が引き落とされているなど、財布が一つであると客観的に認められる状態を指します。扶養に入っているかは直接関係ありません。

Q.親が老人ホーム入居後も「生計を一にしていた」ことを何で説明すればよいですか?

A.客観的な資料で説明します。具体的には、親の口座から生活費が送金されていた通帳の写し、親名義のクレジットカード(家族カード)の利用明細、自宅の公共料金が親の口座から支払われていた記録などが有効です。

Q.親が老人ホームに入居していた場合、小規模宅地等の特例が使えないケースはありますか?

A.はい、あります。例えば、親が入居した老人ホームが「終身利用権方式」などで、そこが新たな生活の拠点と判断された場合です。また、親が要介護認定を受けていないなど、自宅に戻れない明確な理由がない場合も適用が難しくなることがあります。

Q.二世帯住宅の場合、「生計を一にしていた」と認められますか?

A.建物の構造や生活の実態によります。玄関が別々でも、内部で自由に行き来でき、食事を共にしたり光熱費の支払いがまとめられたりしている場合は「生計を一にしていた」と認められる可能性が高まります。

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