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親の資金管理で生計は同一?相続税で損しないための重要ポイント

2025-03-14
目次

ご親族が亡くなられた後の相続税申告では、「生計を一にしていた」かどうかで税額が大きく変わることがあります。特に、節税効果の大きい「小規模宅地等の特例」を使うためには、この要件がとても重要になります。
「親の生活費は親の年金から出ていたけど、支払いの手配や通帳の管理は私がやっていた」という場合、はたして「生計を一にしていた」と認められるのでしょうか?この疑問について、具体的に、そして分かりやすく解説していきますね。

「生計を一にする」の基本的な考え方

税金の話で出てくる「生計を一にする」という言葉、少し難しく聞こえますよね。これは簡単に言うと、「同じお財布で生活している家族」というイメージです。一緒に住んでいるかどうか(同居・別居)は、必ずしも関係ありません。大切なのは、生活のためのお金がどこから出ていて、それを共有しているかどうかなんです。

税法上の定義を知っておきましょう

国税庁では、「生計を一にする」とは「日常の生活の資を共にすること」と説明されています。「生活の資」というのは、生活費のことですね。つまり、日常の生活費を共有している状態を指します。必ずしも同居している必要はなく、離れて暮らしていても、常に生活費や学費、療養費などを送金している場合は、「生計を一にする」と認められることがあります。

同居の場合と別居の場合

「生計を一にする」かどうかは、同居か別居かで少し考え方が異なります。

  • 同居している場合
    同じ家で暮らしているご家族は、明らかに独立した生活を送っていると認められる場合(例えば、完全分離型の二世帯住宅で、水道光熱費や食費も完全に別々にしているなど)を除いて、原則として「生計を一にする」とみなされます。
  • 別居している場合
    離れて暮らしている場合は、経済的なつながりがより重要になります。具体的には、以下のようなケースが該当します。

    • 勤務や修学、療養などの都合で別居しているけれど、週末や長期休暇には一緒に生活している。
    • 常に生活費や学費、療養費などの送金が行われている

    特に、親への仕送りをしている場合は、その事実が「生計を一にする」と判断されるための重要なポイントになります。

所得税と相続税では判断が少し違う?

「生計を一にする」という言葉は、所得税の扶養控除や、相続税の小規模宅地等の特例など、様々な場面で使われます。実は、どの税金の話かによって、その判断の厳しさが少し変わってくることがあるんです。特に相続税の小規模宅地等の特例では、特例の趣旨(残された家族の生活を守ること)から、より実態に即した経済的なつながりが厳しく見られる傾向にあります。

親の費用は親負担、子が資金管理していたケース

さて、今回の本題です。親の生活費(家賃、光熱費、食費など)は親自身の年金や預貯金から支払われていたけれど、その支払いの手配や通帳の管理を相続人である子が行っていた場合、これは「生計を一にする」と言えるのでしょうか。

結論:原則として「生計を一にする」とは認められにくいです

残念ながら、このケースでは「生計を一にする」とは認められない可能性が高いです。なぜなら、生活費の原資(もととなるお金)が親自身の財産だからです。子が親の通帳を預かって支払いの手続きを代行していたとしても、それはあくまで「資金管理のお手伝い」や「財産管理の代行」と見なされます。子が自分の財産からお金を出して親の生活を支えている「経済的な援助」とは判断されないため、「同じお財布で生活している」とは言えないのです。

実際の裁決事例から見る税務署の判断

過去の国税不服審判所の裁決でも、同様のケースで厳しい判断が下されています。例えば、老人ホームに入居していた親の費用を、親自身の預金口座から子が引き出して支払っていた事例がありました。この事例では、「生活費用の主要な部分を被相続人(親)自身が負担していた」として、「生計を一にしていた」とは認められませんでした。
ここでのポイントは、「日常の生活にかかる費用の大部分を、実質的に誰が負担していたか」という点です。たとえ子が食費や日用品の一部を負担していたとしても、家賃や施設利用料といった生活費の大部分を親が負担していれば、生計は別だと判断されるのです。

「資金管理」と「経済的援助」は全くの別物です

この二つの違いをしっかり理解しておくことが大切です。

行為 内  容
資金管理 親の口座からお金を引き出し、親のために支払いを行うこと。お金の出どころは親の財産。
経済的援助 子の口座からお金を出し、親の生活費として仕送りしたり、直接支払ったりすること。お金の出どころは子の財産。

税務署が「生計を一にする」と判断する際に重視するのは、後者の「経済的援助」があったかどうかという客観的な事実です。

「生計を一にする」と認められるためのポイント

では、どうすれば「生計を一にする」関係だと認めてもらえるのでしょうか。特に別居している親を支えている場合に、将来の相続に備えて押さえておきたいポイントをご紹介します。

客観的な「経済的援助」の実態を作る

最も重要なのは、お子さん自身の財産から親御さんへ経済的な援助をしていたという客観的な事実です。例えば、親御さんの年金収入だけでは生活が苦しい場合に、不足分を補う形で毎月一定額を仕送りする、といった形です。この「援助がないと生活が成り立たない」という状況が、生計を共にしていることの強い証明になります。

証拠をきちんと残しておく

口約束だけでは、税務署に認めてもらうのは難しいです。誰が見てもわかるような客観的な証拠を残しておきましょう。

  • 銀行振込を利用する:仕送りは手渡しではなく、必ず銀行振込で行いましょう。「誰から誰へ、いつ、いくら送金したか」が通帳に記録として残ります。
  • 費用の支払い記録を残す:親の医療費や介護費用などを子が直接支払った場合は、その領収書を保管しておきましょう。クレジットカードで支払って、その利用明細を残しておくのも有効です。

認められやすいケース・認められにくいケースの比較

具体的にどのような状況だと認められやすいのか、表で比較してみましょう。

認められやすいケース 認められにくいケース
子が毎月10万円を親の生活費として銀行口座に振り込んでいる。 親の年金が振り込まれる口座を子が預かり、そこから生活費を支払っている。
親の収入だけでは生活が苦しく、子が不足分を継続的に補填している。 親は十分な年金と預貯金があり、生活費はすべてそれで賄われている。
親の入院費や介護施設の費用を、子の預金から支払っている。 子が親の代理で公共料金の支払い手続きや買い物の代行をしている。

関連する税金の特例:小規模宅地等の特例

「生計を一にする」という要件がなぜこれほど重要視されるのかというと、相続税の中でも特に節税効果の大きい「小規模宅地等の特例」に関わってくるからです。

小規模宅地等の特例とは?

小規模宅地等の特例とは、亡くなった方(被相続人)が住んでいた土地などを相続した場合に、一定の要件を満たせば、その土地の評価額を最大で80%も減額できるという、非常に強力な制度です。例えば、5,000万円の土地の評価額が1,000万円になる計算ですから、相続税額に与えるインパクトは絶大です。

「生計一親族」が満たすべき要件

この特例を適用できる人の一人に、「被相続人と生計を一にしていた親族」がいます。例えば、亡くなった親名義の家に、生活の援助を受けながら住んでいた子がその家を相続した場合などが考えられます。別居している親族がこの特例を使おうとする場合、この「生計を一にしていた」という要件が非常に厳しく審査されることになります。資金管理をしていただけ、という理由ではこの要件を満たすことはできません。

その他に「生計を一にする」が問われる税金の制度

相続税以外にも、「生計を一にする」という考え方は使われています。参考までにご紹介しますね。

所得税の扶養控除

年末調整や確定申告でおなじみの扶養控除です。お子さんや親御さんを扶養に入れるための要件の一つに「納税者と生計を一にしていること」があります。親を扶養に入れる場合、親の合計所得金額が48万円以下(公的年金等のみの場合は、65歳未満なら収入108万円以下、65歳以上なら収入158万円以下)であることと、生計が同一であることが必要です。

医療費控除

年間の医療費がたくさんかかった場合に受けられる医療費控除も、「生計を一にする配偶者やその他の親族のために支払った医療費」を合算して申告することができます。こちらは、扶養控除と違って親族が扶養に入っている必要はありません。共働きのご夫婦で、奥様の医療費を旦那様が支払った場合でも、生計が同一であれば旦那様の医療費控除の対象に含めることができます。

まとめ

いかがでしたでしょうか。今回のポイントをまとめます。

  • 「生計を一にする」とは、基本的には「同じお財布で生活している」ということです。
  • 親の費用を親自身の財産から支払い、子がその資金管理を代行しているだけでは、「生計を一にする」とは認められません
  • 重要なのは、子の財産から親へ「経済的な援助」をしていたという客観的な事実と、その証拠です。
  • この要件は、相続税の「小規模宅地等の特例」が使えるかどうかを左右する非常に大切なポイントです。

相続は、亡くなってから慌てて対策をしても間に合わないことが多くあります。もし、将来的に小規模宅地等の特例の適用を考えているのであれば、生前のうちから「生計を一にしている」と胸を張って言えるような生活実態を整え、その証拠をきちんと残しておくことが何よりも大切です。ご自身の状況に不安がある場合は、一度専門家にご相談されることをお勧めします。

参考文献

【相続税】親の資金管理代行は「生計を一にする」に該当?よくある質問まとめ

Q.「生計を一にする」とは、具体的にどのような状態を指しますか?

A.同居している、または別居でも生活費や療養費などの送金が日常的に行われ、同じお財布で生活しているような状態を指します。必ずしも同居している必要はありません。

Q.親の費用を親自身の預金から、子が代わりに支払っていた場合「生計を一にする」に該当しますか?

A.いいえ、原則として該当しません。親自身の資産で生活が賄われているため、単なる「財産管理の代行」とみなされる可能性が高いです。生計を一にするとは、子が自身の財産で親の生活を支えている実態が必要です。

Q.「生計を一にする」と認められるには、どのような証拠が必要ですか?

A.子自身の口座から親の生活費(家賃、光熱費、医療費など)を定期的に支払っていた記録や、親の口座へ定期的に送金していた履歴などが客観的な証拠となります。資金の出所が子の財産であることが重要です。

Q.相続において「生計を一にする」という要件は、なぜ重要なのでしょうか?

A.相続税の「小規模宅地等の特例」を適用するための重要な要件の一つだからです。この特例が適用できると、自宅の土地などの評価額が最大80%減額され、相続税の負担を大幅に軽減できる可能性があります。

Q.別居している親に、毎月一定額の仕送りをしていた場合は「生計を一にする」と認められますか?

A.はい、認められる可能性が高いです。その仕送りが親の生活を支えるためのものであり、継続的に行われていた実態があれば、別居していても「生計を一にしていた」と判断されやすくなります。

Q.親の年金だけでは足りない生活費を、子が補填していた場合はどうなりますか?

A.子が自身の財産から不足分を継続的に補填していた場合、その事実をもって「生計を一にしていた」と認められる可能性があります。生活費の補填が一時的ではなく、恒常的であったことを客観的に示すことが大切です。

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