ご両親や祖父母から、住宅購入や事業の開業資金などを援助してもらうことは、とてもありがたいことですよね。でも、そのお金のやり取り、「贈与」とみなされて思わぬ税金がかかってしまう可能性があることをご存知でしたか?親子だからといって口約束で済ませてしまうと、税務署から「贈与税」を課されるリスクがあるんです。この記事では、そんな事態を避けるために不可欠な「金銭消費貸借契約書」について、作成する際の留意点を分かりやすく解説していきます。
なぜ親子間でも金銭消費貸借契約書が必要なの?
「家族の間で契約書なんて、なんだか堅苦しい…」と感じる方もいらっしゃるかもしれませんね。ですが、親子間の金銭の貸し借りにおいて契約書を作成することは、税金の問題や将来のトラブルを防ぐためにとても重要な役割を果たします。
税務署から「贈与」とみなされるリスク
税務署は、個人のお金の動き、特に親子間のような親しい間柄での高額な資金移動に注目しています。もし、親子間で数百万円単位のお金が動いたにもかかわらず、その返済の実態や貸し借りである証明がなければ、税務署はそれを「贈与」と判断する可能性が高いです。口約束だけでは、「貸した」「借りた」という事実を客観的に証明することが難しいため、金銭消費貸借契約書という形で証拠を残すことが大切なのです。
贈与とみなされた場合のデメリット
もし、借りたつもりのお金が贈与と判断されると、「贈与税」がかかってきます。贈与税には年間110万円の基礎控除がありますが、それを超える金額に対しては税金が課されます。例えば、親から住宅資金として500万円を借りたつもりが贈与とみなされた場合、以下のような贈与税が発生する可能性があります。
(500万円(贈与額) – 110万円(基礎控除))× 15%(税率) – 10万円(控除額) = 48万5,000円
このように、契約書がなかったばかりに、本来支払う必要のなかったはずの多額の税金を納めなければならなくなるケースもあるのです。
親子間のトラブルを防止するため
お金の貸し借りは、残念ながら親子間であってもトラブルの原因になることがあります。「いつまでに返す約束だった」「利息は払うと言ったはず」など、後から「言った、言わない」の水掛け論になるのを防ぐためにも、契約書は有効です。貸した側も借りた側も、お互いが安心してやり取りできるよう、条件を書面で明確にしておきましょう。
贈与とみなされないための契約書の必須項目
では、実際に金銭消費貸借契約書にはどのようなことを書けばよいのでしょうか。以下の項目は、貸し借りの事実を証明するために最低限記載しておきたい大切なポイントです。分かりやすく表にまとめましたので、参考にしてくださいね。
| 項目 | 記載内容のポイント |
| 表題 | 「金銭消費貸借契約書」または「借用書」と記載します。 |
| 貸主・借主の情報 | お金を貸す人(親など)と借りる人(子など)双方の氏名、住所を正確に記載し、署名・押印します。 |
| 契約年月日 | 実際に金銭の受け渡しがあった日付を記載します。 |
| 借入金額 | 貸し借りした金額を正確に記載します。改ざん防止のため、漢数字の大字(だいじ)を使うのがおすすめです。 |
| 利息(利率) | 年利何パーセントにするかを具体的に記載します。無利息は避け、少しでも設定するのが望ましいです。 |
| 返済方法・返済期日 | 「毎月末日に〇万円を貸主指定の銀行口座へ振り込む」など、誰が読んでも分かるように具体的に記載します。最終的な返済完了日も明記しましょう。 |
| 遅延損害金 | 返済が遅れた場合のペナルティについても記載しておくと、より契約としての信頼性が高まります。 |
契約書作成時の7つの重要ポイント
必須項目を押さえた上で、さらに契約書としての効力を高め、税務署に「これは正式な貸し借りですね」と認めてもらうための、より具体的なポイントを7つご紹介します。
契約日はお金を受け取った日にする
契約書に記載する日付は、契約書を作成した日ではなく、実際に金銭を受け取った日にしましょう。例えば、4月10日にお金を受け取ったのであれば、契約書作成日が4月20日だとしても、契約日は「令和〇年4月10日」と記載します。
金額は改ざん防止のため大字(だいじ)で書く
借入金額を記載する際は、普段使う「一、二、三」ではなく、「壱、弐、参」といった大字(だいじ)を使いましょう。これは、後から一本線を足して金額を改ざんされるのを防ぐためです。例えば300万円なら「金参百萬円也」と記載します。
返済期日は具体的に「〇年〇月〇日」と明記する
「出世払いで」「余裕があるときに」といった曖昧な返済期日は、贈与とみなされる原因になります。「令和〇年〇月〇日限り」のように、最終的な返済期限を日付まで明確に記載することが非常に重要です。
返済方法は証拠が残る銀行振込にする
返済は、手渡しではなく銀行振込で行いましょう。手渡しだと返済した証拠が残りませんが、銀行振込なら通帳に「いつ、誰から誰へ、いくら支払われたか」が客観的な記録として残ります。これは、きちんと返済していることを証明する強力な証拠になります。
利息は低くても設定するのがおすすめ
親子間だと無利息にしがちですが、税務上は利息分の利益を贈与されたとみなされる可能性があります。年間の利益が110万円の基礎控除内であれば実質的に贈与税はかかりませんが、「貸し借り」の信憑性を高めるためにも、年1%程度の低い利率でも設定しておくことをおすすめします。
署名は直筆、押印は実印が望ましい
貸主と借主の氏名は、パソコン入力ではなく自筆で署名しましょう。印鑑は認印でも構いませんが、より契約の信頼性を高めるためには、市区町村に登録した実印を使用し、印鑑証明書を添付すると万全です。
借入金額に応じた収入印紙を貼る
借入金額が1万円以上の場合、契約書に収入印紙を貼付する義務があります。金額は借入額によって異なります。もし収入印紙を貼り忘れると、本来の印紙税額の3倍の過怠税が課される可能性があるので注意しましょう。
| 契約金額(借入金額) | 印紙税額 |
| 1万円未満 | 非課税 |
| 10万円以下 | 200円 |
| 10万円超 50万円以下 | 400円 |
| 50万円超 100万円以下 | 1,000円 |
| 100万円超 500万円以下 | 2,000円 |
※500万円を超える場合も印紙税額は定められています。
いくらまでなら大丈夫?金額と利息の目安
契約書を作成する上で、借入金額や利息をいくらに設定すればよいか迷いますよね。ここでも税務署に贈与と判断されないための目安があります。
借入金額は返済能力に見合った額にする
最も大切なのは、借主(子など)の収入や資産状況から見て、現実的に返済可能な金額であることです。例えば、年収300万円の人が親から1億円を借り入れた場合、どう考えても返済は不可能ですよね。このようなケースでは、契約書があっても「初めから返すつもりのない贈与だ」と判断されてしまいます。貸す側も、相手の返済能力を十分に考慮して金額を決めることが重要です。
利息の決め方(利息制限法を参考に)
利息を設定する場合、法律で上限金利が定められています(利息制限法)。個人間のお金の貸し借りもこの法律の対象となりますので、参考にしましょう。親子間であれば、上限金利よりも低い、例えば年1.0%~1.5%程度に設定することが一般的です。
| 借入金額 | 上限金利(年率) |
| 10万円未満 | 20% |
| 10万円以上100万円未満 | 18% |
| 100万円以上 | 15% |
契約書作成後の注意点
契約書を無事に作成できても、それで終わりではありません。最も重要なのは、その契約書の内容をきちんと実行することです。
契約書通りに返済を実行する
契約書を作成しただけで満足してしまい、実際の返済が滞っていては意味がありません。契約書に定めた通り、毎月決まった日に、決まった金額を、銀行振込で返済していくこと。この「返済している事実」こそが、贈与ではないことを証明する何よりの証拠となります。
契約書は貸主が原本を保管する
作成した金銭消費貸借契約書は、お金を貸した側(親など)が原本を大切に保管するのが一般的です。借りた側(子など)は、そのコピーを持っておくと良いでしょう。契約書は2通作成し、貸主と借主が1通ずつ保管する方法でも問題ありません。
まとめ
親子間の金銭の貸し借りは、お互いの信頼関係のもとで行われるものですが、税務上のリスクや将来のトラブルを避けるためには、「金銭消費貸借契約書」の作成が不可欠です。契約書を作成し、その内容通りに返済を行うことで、それは「贈与」ではなく正当な「貸借」であると証明できます。少し手間だと感じるかもしれませんが、大切な家族との関係を守り、余計な税金を支払うことがないよう、この記事を参考にして、ぜひ適切な契約書を作成してくださいね。
参考文献
親子間の金銭消費貸借契約に関するよくある質問まとめ
Q.親子間でお金の貸し借りをする場合、なぜ契約書が必要なのですか?
A.税務署から「贈与」とみなされ、贈与税が課されるリスクを避けるためです。貸し借りである明確な証拠として契約書が重要になります。
Q.契約書にはどのような内容を記載すればよいですか?
A.貸主・借主の氏名、貸付日、貸付金額、返済方法、返済期間、利息の有無などを具体的に記載します。
Q.親子間の貸し借りでも利息は設定しないといけないのでしょうか?
A.無利息でも契約は有効ですが、高額な場合は利息分が贈与とみなされる可能性があります。市場金利を参考に、妥当な利率を設定することが推奨されます。
Q.返済はどのように行えば証拠が残りますか?
A.手渡しではなく、銀行振込を利用しましょう。通帳に記録が残るため、返済の事実を客観的に証明できます。
Q.親子間の金銭消費貸借契約書に印紙は必要ですか?
A.はい、金銭消費貸借契約書は課税文書のため、記載された金額に応じた収入印紙を貼付し、消印する必要があります。
Q.作成した契約書は公正証書にした方がよいですか?
A.必須ではありませんが、公正証書にすると契約の証明力が高まり、返済が滞った場合に強制執行が可能になるなどのメリットがあります。高額な場合は特に検討する価値があります。