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認知症対策にもなる?相続対策としての民事信託をわかりやすく解説

2025-08-20
目次

「自分が元気なうちに、財産の承継先を決めておきたい」「もし自分が認知症になったら、家族が困らないだろうか」そんなお悩みはありませんか?大切な財産を、ご自身の想い通りに、そしてスムーズに次の世代へ引き継ぐための方法として、近年民事信託(特に家族信託)が注目されています。遺言や成年後見制度とはまた違う、柔軟な相続対策が可能です。この記事では、民事信託の仕組みからメリット・デメリット、注意点まで、わかりやすく解説していきますね。

そもそも民事信託とは?

民事信託とは、ご自身の財産(預貯金、不動産、株式など)の管理や処分を、信頼できる家族などに託す契約のことです。営利を目的としない信託のことで、特に家族を受託者(財産を託される人)にする場合を「家族信託」と呼びます。目的は、財産の持ち主が元気なうちから、将来の認知症や相続に備えて、財産の管理・承継方法を具体的に決めておくことです。

登場人物は3人!信託の仕組み

民事信託には、主に3人の登場人物がいます。この関係性を理解することが、信託を理解する第一歩ですよ。

委託者(いたくしゃ) 財産を託す人(財産の元の所有者)
受託者(じゅたくしゃ) 財産を託され、管理・処分する人(信頼できる家族など)
受益者(じゅえきしゃ) 信託された財産から生じる利益(家賃収入や預金の利息など)を受け取る人

例えば、「父(委託者)が、所有するアパートの管理を長男(受託者)に託し、アパートから得られる家賃収入は、引き続き父(受益者)が受け取る」といった形です。この場合、委託者と受益者は同じ人物になりますが、別の人を指定することも可能です。

「家族信託」との違いは?

ニュースや雑誌などで「家族信託」という言葉をよく耳にするかもしれませんね。「民事信託」と「家族信託」はどう違うのでしょうか。実は、民事信託という大きな枠組みの中に、家族信託が含まれているイメージです。信託銀行などが行う営利目的の信託を「商事信託」と呼ぶのに対し、営利を目的としない個人間の信託を「民事信託」と呼びます。そして、その民事信託の中でも、特に信頼できる家族を受託者として財産を託すものを、一般的に「家族信託」と呼んでいます。ですので、ほぼ同じ意味合いで使われることが多いと覚えておくと良いでしょう。

遺言や成年後見制度との比較

民事信託は、既存の「遺言」や「成年後見制度」とどう違うのでしょうか。それぞれの特徴を比較してみましょう。

民事信託 契約後すぐ(生前)から効力が発生します。財産管理と承継方法を、ご自身の意思で柔軟に設計できるのが最大の特長です。認知症になった後も、受託者が計画通りに財産を管理できます。
遺言 亡くなった後に効力が発生します。誰にどの財産を遺すかを指定できますが、生前の財産管理はできません。
成年後見制度 判断能力が不十分になった後、家庭裁判所が後見人を選任します。本人の財産を守ることが最優先のため、資産活用や相続対策といった柔軟な財産管理は原則として認められません。

このように、民事信託は「生前の財産管理」と「死後の財産承継」の両方をカバーできる、非常に自由度の高い制度なのです。

民事信託でできる相続対策

民事信託を活用することで、従来の相続対策では難しかった、さまざまなことが可能になります。具体的にどのような対策ができるのか見ていきましょう。

認知症による資産凍結を防ぐ

最大のメリットの一つが、認知症による資産凍結対策です。認知症などで判断能力が低下すると、ご本人名義の銀行口座から多額の出金ができなくなったり、定期預金を解約できなくなったりします。また、不動産の売却や建て替えといった法律行為も一切できなくなってしまいます。これが「資産凍結」です。事前に民事信託契約を結んでおけば、たとえご本人(委託者)が認知症になっても、権限を託された受託者(例えば長男)が、信託契約の内容に従って預金の管理や不動産の売却などをスムーズに行うことができます。これにより、介護費用や生活費の支払いに困る事態を防げます。

遺言ではできない「二次相続」以降の指定

遺言では、ご自身が亡くなった際の財産の承継先(一次相続)しか指定できません。しかし、民事信託を使えば、その先の承継先まで決めておくことができます。これを「受益者連続型信託」と呼びます。例えば、「私が亡くなったら、財産の利益を受け取る権利(受益権)は妻へ。その妻が亡くなったら、次は長男へ」といった指定が可能です。先祖代々の土地を特定の家系に引き継がせたい場合や、ご自身の想いを数世代にわたって実現したい場合に非常に有効な手段です。

障がいのある子どものための財産管理

「自分たちがいなくなった後、障がいのあるこの子の生活が心配だ」という親御さんの想いに応えられるのも民事信託の特長です。これを「福祉型信託」とも呼びます。親が元気なうちに、信頼できる親族(兄弟など)や専門家を受託者とし、財産を信託します。そして、親が亡くなった後は、受託者が信託契約の内容に従って、障がいのある子(受益者)に毎月決まった額の生活費を渡す、といった仕組みを作ることができます。これにより、親亡き後も、お子さんが安定した生活を送れるように生活を支えることができます。

民事信託のメリット・デメリット

非常に便利な民事信託ですが、もちろん良い面ばかりではありません。メリットとデメリットの両方を正しく理解した上で、ご自身にとって最適な方法か判断することが大切です。

メリット:柔軟な財産管理と承継

これまでお話ししてきたように、最大のメリットは、ご自身の意思に基づいた柔軟な財産管理と承継が実現できる点です。

  • 認知症などによる資産凍結を防げる
  • 遺言では不可能な二次相続以降の承継先を指定できる
  • 障がいのある子の生活を守る仕組みを作れる
  • 不動産の共有化によるトラブルを避けられる
  • 倒産隔離機能(委託者や受託者が破産しても信託財産は影響を受けない)がある

など、ご家族の状況に合わせてオーダーメイドの設計が可能です。

デメリット:費用と手間がかかる

一方で、デメリットも存在します。まず、契約内容の設計や契約書の作成は非常に専門的で複雑なため、司法書士や弁護士といった専門家のサポートが不可欠です。そのため、専門家への報酬などの初期費用がかかります。また、不動産を信託財産にする場合は、信託登記が必要となり、登録免許税や司法書士への報酬が発生します。そして、財産管理を託される受託者には、帳簿の作成や税務申告など、相応の責任と負担がかかることも理解しておく必要があります。

民事信託にかかる費用

実際に民事信託を利用する場合、どのくらいの費用がかかるのでしょうか。信託する財産の内容や契約の複雑さによって大きく変わりますが、一般的な目安は以下の通りです。

専門家へのコンサルティング費用 信託する財産の評価額の0.5%~1%程度が目安で、一般的には30万円~100万円以上かかるケースが多いです。
公正証書作成費用 信託契約書を公正証書にする場合にかかる費用です。財産の価額に応じて変動しますが、おおよそ5万円~10万円程度です。
信託登記の登録免許税(不動産) 不動産を信託する場合に必要です。
・土地:固定資産税評価額の0.3%(令和8年3月31日まで)
・建物:固定資産税評価額の0.4%
司法書士への登記依頼費用 信託登記を司法書士に依頼する場合の報酬で、10万円~15万円程度が目安です。

民事信託を始めるときの注意点

民事信託を検討する際には、いくつか注意すべき点があります。後で「こんなはずではなかった」とならないように、しっかり確認しておきましょう。

受託者を誰にするか慎重に選ぶ

受託者は、ご自身の代わりに大切な財産を管理する、非常に重要な役割を担います。そのため、誰に託すかは最も慎重に決めるべきポイントです。信頼できることはもちろん、財産管理を的確に行える能力や、長期にわたって責任を果たせる健康状態なども考慮する必要があります。また、受託者には大きな責任と負担がかかるため、候補者本人にしっかりと説明し、納得してもらった上で依頼することが不可欠です。家族間で十分に話し合いましょう。

民事信託では直接的な節税効果はない

「信託を使えば相続税が安くなる」というイメージをお持ちの方もいるかもしれませんが、それは誤解です。民事信託には、直接的な相続税の節税効果はありません。信託をしても財産の評価額は変わらず、財産から生じる利益を受け取る受益者が税金を納める義務を負います。したがって、委託者=受益者の場合は、信託前と課税関係は変わりません。ただし、二次相続以降の承継先を指定することで、結果として次の世代の相続税負担を軽減できる可能性はあります。節税が主目的の場合は、他の生前贈与などの対策と組み合わせて検討する必要があります。

専門家への相談が不可欠

民事信託の契約書は、ご家族の状況や想いを反映させたオーダーメイドのものです。法律の要件を満たし、かつ将来起こりうる様々な事態を想定して作成する必要があり、非常に専門的な知識が求められます。もし契約書に不備があれば、信託そのものが無効になってしまうリスクもあります。そのため、必ず民事信託(家族信託)に精通した司法書士や弁護士、税理士などの専門家に相談しながら進めるようにしましょう。

まとめ

民事信託は、ご自身の判断能力がしっかりしているうちに、将来の財産管理と承継について想いを形にできる、非常に有効な相続対策の手段です。特に、認知症による資産凍結への備えや、遺言では実現できない数世代にわたる資産承継の指定ができる点は、大きな魅力と言えるでしょう。費用や手間がかかること、受託者の負担が大きいことなどの注意点もありますが、それらを乗り越えるだけの価値がある制度です。ご家族の未来を守り、ご自身の想いを確実に繋いでいくために、選択肢の一つとして民事信託を検討してみてはいかがでしょうか。まずは一度、専門家に相談してみることをお勧めします。

相続対策としての民事信託に関するよくある質問まとめ

Q.相続対策の「民事信託」とは何ですか?

A.信頼できる家族などに自分の財産を託し、契約で決めた目的に沿って管理や承継をしてもらう制度です。認知症による資産凍結の防止や、遺言では難しい柔軟な資産承継を実現できるため、新しい相続対策として注目されています。

Q.民事信託は遺言や成年後見制度とどう違いますか?

A.遺言は亡くなった後の財産承継しか定められませんが、民事信託は生前の財産管理から指定できます。また、成年後見制度は本人の判断能力低下後の財産「保護」が目的ですが、民事信託は積極的な資産活用やスムーズな承継が可能です。

Q.民事信託にはどのようなメリットがありますか?

A.主なメリットは「認知症などによる資産凍結の防止」「二次相続以降の承継先を指定できる」「不動産の共有化を防げる」などです。自分の意思を長期間にわたって反映させることができます。

Q.民事信託を始めるのに費用はどれくらいかかりますか?

A.専門家に依頼する場合、信託する財産の評価額にもよりますが、コンサルティングや契約書作成費用として30万円~100万円以上が目安です。その他、公正証書作成費用や不動産登記費用などが別途かかります。

Q.民事信託は誰に相談すればよいですか?

A.民事信託に詳しい司法書士、弁護士、行政書士などの専門家への相談が一般的です。特に信託契約書の作成や登記手続きには専門知識が必要なため、実績の豊富な専門家を選ぶことが重要です。

Q.どんな人が民事信託を利用するべきですか?

A.認知症に備えて財産管理を家族に託したい方、障がいのある子どもの将来のために財産を残したい方、事業や不動産をスムーズに後継者に引き継ぎたい方などにおすすめの制度です。

事務所概要
社名
税理士法人プライムパートナーズ
住所
〒107-0052
東京都港区赤坂5丁目2−33
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電話番号
対応責任者
税理士 島本 雅史

本記事は正確な情報提供を心掛けておりますが、執筆時点の情報に基づいているため、法改正や人的ミス、個別のケースにより適用が異なる可能性があります。最新の情報や具体的なご相談については、お気軽に弊法人の税理士までお問い合わせください。

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