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議決権の有無で相続税評価額は変わる?非上場株式の評価方法を解説

2025-02-21
目次

会社の株式を相続することになったとき、「この株には議決権があるのか、ないのか」で相続税の評価額が変わるのか、気になりますよね。特に、市場で売買されていない非上場会社の株式は、評価方法がとても複雑です。議決権がある株式とない株式では、会社の経営への関わり方が大きく違うため、その価値にも影響が出そうですよね。この記事では、議決権の有無が非上場株式の相続税評価額にどう影響するのか、具体的な評価方法や知っておきたいポイントを、わかりやすく丁寧にご説明します。

株式の議決権とは?相続税評価の基本

まず、基本となる「議決権」について簡単におさらいしましょう。株式の議決権とは、会社の経営方針を決める株主総会で、議案に対して賛成や反対の意思表示をする権利のことです。この権利があるからこそ、株主は会社の重要な意思決定に参加できます。非上場株式の相続税評価において、この議決権の有無や保有割合は、株式の価値を測るうえで非常に重要な要素となるのです。

議決権のある株式(普通株式)

一般的に「株式」というと、この議決権のある普通株式を指します。1株につき1つの議決権が与えられ、株主総会で役員の選任や合併、定款の変更といった会社の重要事項について投票できます。つまり、財産としての価値だけでなく、会社の経営をコントロールする力も持っているため、相続税評価でもその点が考慮されます。

議決権のない株式(無議決権株式)

一方、議決権がない、または一部の事項にしか議決権がない株式を「無議決権株式」といいます。これは会社法で認められている「種類株式」の一種です。経営には参加できませんが、その代わりに配当を普通株式より多く受け取れる「配当優先」の条件が付いていることがよくあります。経営に参加できないという点で、議決権のある株式とは性質が異なるため、評価方法にも違いが出てくる場合があります。

議決権の有無で相続税評価額は変わるのか?

では、本題の「議決権のある株式とない株式で、相続税評価額は変わるのか?」についてです。結論から言うと、「原則として同じように評価するが、特定の条件下で評価額の調整が認められる」というのが答えになります。少し複雑なので、詳しく見ていきましょう。

原則的な考え方:議決権の有無は直接考慮しない

相続税のルールを定めた財産評価基本通達では、無議決権株式であっても、原則としては議決権のある普通株式と同じ方法で評価することになっています。つまり、計算のスタートラインでは、「議決権がないから価値が低い」といった直接的な減額は行われないのが基本です。会社の純資産や収益力など、同じ会社の株式としての価値は等しいと考えるのが原則です。

例外的な取り扱い:5%の評価減が可能なケース

ただし、議決権がないことによる価値の違いを全く考慮しないわけではありません。納税者の選択によって、一定の要件をすべて満たす場合には、無議決権株式の評価額を5%減額できる特例的な取り扱いが認められています。

要件 内  容
遺産分割の確定 相続税の申告期限までに、誰がどの株式を相続するかの遺産分割協議がまとまっていること。
全員の同意と届出 株式を取得した同族株主の全員が、この評価額の調整計算をすることに同意し、その旨を記載した届出書を税務署に提出していること。
申告書への記載 相続税申告書の「取引相場のない株式の評価明細書」に、この調整計算を行った旨とその計算根拠を記載していること。

これらの要件を満たすことで、経営に参加できないというデメリットを評価額に反映させることができるのです。

評価減した5%分の行方

無議決権株式の評価額を5%減額した場合、その減額分はどこへ行くのでしょうか。これは単純に消えてなくなるわけではありません。減額された金額は、その会社の議決権のある株式の評価額に上乗せされます。つまり、会社全体の株式の評価総額は変わらず、議決権の有無に応じて評価額を株主間で付け替えるようなイメージです。これにより、課税の公平性が保たれる仕組みになっています。

非上場株式の評価方法と議決権

非上場株式の相続税評価は、誰が株式を相続するか、つまり株主の立場によって評価方法そのものが大きく変わることがあります。そして、その判定に大きく関わってくるのが「議決権の保有割合」なのです。

評価方法を決める「同族株主」の判定

非上場株式の評価では、まず株式を取得した人が会社の「同族株主」に該当するかどうかを判定します。同族株主とは、簡単に言うと、株主1人とその親族などのグループ(同族関係者グループ)で、会社の議決権の30%以上(場合によっては50%超)を保有している場合の、そのグループに属する株主のことです。会社の経営に大きな影響力を持つ株主かどうか、という視点で判定されます。

原則的評価方式(支配的な株主向け)

同族株主など、会社の経営権に影響力のある株主が株式を相続した場合には、原則として「原則的評価方式」で評価します。この方法は、会社の規模に応じて、事業内容が似ている上場企業の株価を参考にする「類似業種比準価額方式」と、会社の純資産に着目する「純資産価額方式」を組み合わせて評価額を算出します。会社の価値を多角的に評価するため、一般的に評価額は高くなる傾向があります。

特例的評価方式(少数株主向け)

一方、同族株主以外の株主や、同族株主であっても経営への影響力が小さい少数の株式しか持っていない株主は、「特例的評価方式」である「配当還元方式」で評価できます。これは、その株式から受け取る年間の配当金額をもとに評価額を計算する方法です。会社の資産や収益力ではなく、配当金という投資的な側面から評価するため、原則的評価方式に比べて評価額が著しく低くなるのが特徴です。

誰が相続するかで評価額が大きく変わる具体例

同じ会社の株式でも、誰がどれくらいの議決権割合で相続するかによって、適用される評価方法が変わり、結果として相続税評価額に大きな差が出ることがあります。具体的な例で見てみましょう。

「同族株主」の評価方法判定フロー

同族株主グループに属する人が株式を相続した場合でも、全員が原則的評価方式で評価されるわけではありません。相続後の状況によって、評価方法が分かれます。

取得者の状況 適用される評価方法
相続後の議決権割合が5%以上ある 原則的評価方式
相続後の議決権割合が5%未満で、会社の役員ではない(かつ中心的な同族株主ではない) 特例的評価方式(配当還元方式)

具体例:社長の長男と孫が株式を相続したケース

例えば、創業者である社長(被相続人)が亡くなり、会社の株式を後継者である長男と、経営には関与していない孫が相続したとします。

  • 長男(会社の役員):相続により会社の議決権の96%を保有することになった。
  • 孫(役員ではない):相続により会社の議決権の4%を保有することになった。

この場合、二人の相続税評価額は次のようになります。

長男は、相続後の議決権割合が5%以上あるため、原則的評価方式で株式を評価します。会社の業績が良ければ、株価は非常に高くなる可能性があります。

一方、孫は、相続後の議決権割合が5%未満であり、役員でもありません。この場合、経営への影響力が小さいと判断され、特例的評価方式(配当還元方式)で評価することができます。これにより、長男が評価した株価と比べて、はるかに低い金額で評価されることになります。

このように、議決権保有割合が評価方法の分かれ目となり、相続税額に何倍もの差を生むことがあるのです。

生前対策としての種類株式の活用

議決権のない株式(種類株式)は、その特性を活かして、事業承継などの生前対策に活用されることがあります。スムーズな事業承継と円満な相続を実現するための有効な手段となり得ます。

経営権を後継者に集中させる

会社の経営を安定させるためには、後継者に議決権を集中させることが重要です。しかし、財産を公平に分けるために他の相続人にも株式を渡すと、議決権が分散してしまい、経営が不安定になるリスクがあります。そこで、後継者には議決権のある普通株式を、経営に関与しない他の相続人には議決権のない配当優先株式を相続させることで、経営権の分散を防ぎつつ、財産価値の面で公平な分配を目指すことが可能になります。

種類株式を発行する際の注意点

種類株式を新たに発行するには、定款を変更したり、株主総会で特別な決議をしたりと、会社法に定められた手続きが必要です。また、税務上の評価も複雑になりがちです。安易な判断で進めると、思わぬ税金問題に発展することもあります。種類株式の活用を検討する際は、必ず事前に会社法務や相続に詳しい税理士などの専門家に相談し、慎重に計画を進めることが大切です。

まとめ

議決権のある株式とない株式の相続税評価について、ポイントをまとめます。

  • 非上場株式の評価では、議決権の有無が直接的に評価額を大きく変えるわけではありません。原則として同じ方法で評価します。
  • ただし、一定の要件を満たせば、納税者の選択で無議決権株式の評価額を5%減額できる特例があります。
  • 評価額に最も大きな影響を与えるのは、株式を相続した人の議決権保有割合です。この割合によって、評価額が高くなる「原則的評価方式」か、低くなる「特例的評価方式」かが決まります。
  • 同じ会社の株式でも、誰が相続するかによって評価額が大きく異なる可能性があるため、遺産分割の際には注意が必要です。

非上場株式の相続は、評価方法が非常に複雑で専門的な知識が求められます。ご自身のケースで評価額がどうなるか不安な場合は、自己判断せず、必ず相続税に詳しい税理士に相談するようにしましょう。

参考文献

議決権の有無と株式相続税評価のよくある質問まとめ

Q.議決権のある株式とない株式で、相続税評価額は変わりますか?

A.原則として、議決権の有無だけで相続税評価額が変わることはありません。どちらも財産評価基本通達に基づき、同じ方法で評価されます。

Q.なぜ議決権の有無で相続税評価額が変わらないのですか?

A.相続税の評価では、会社の経営に参加する権利(議決権)よりも、配当を受ける権利が重視されるためです。議決権のない株式も通常は配当を受けられるため、財産的価値は同じとみなされます。

Q.議決権のない株式(無議決権株式)とはどのような株式ですか?

A.株主総会での議決権が全くない、または一部制限されている株式のことです。その代わり、配当を優先的に受けられる「優先株式」として発行されることが多くあります。

Q.非公開株式(取引相場のない株式)の評価でも同じですか?

A.はい、非公開株式の評価においても同様です。会社の支配権を持つ同族株主か、それ以外の株主かによって評価方法は異なりますが、その中で議決権の有無が評価額に直接影響することはありません。

Q.議決権のない株式を事業承継で活用するメリットは何ですか?

A.後継者には議決権のある株式を、経営に関与しない他の相続人には議決権のない株式を渡すことで、経営権の集中と財産の公平な分配を両立させやすいというメリットがあります。

Q.例外的に議決権の有無が評価に影響するケースはありますか?

A.株式の種類によって配当の有無や金額に明確な差が設けられているなど、財産的な価値に実質的な差異が生じる場合は、その内容を考慮して評価される可能性があります。ただし、これは極めて特殊なケースです。

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