負担付贈与という言葉をお聞きになったことはありますか。財産を渡す代わりに、住宅ローンの返済や介護などの条件をお願いできる制度です。ご自身の希望を叶えつつ財産を引き継げる魅力がある一方で、税金の計算が少し複雑になるなどの注意点も存在します。この記事では、負担付贈与のメリットとデメリットをはじめ、通常の贈与との違いや税金の仕組みについて、具体例を交えながらわかりやすくお話ししていきます。
負担付贈与とは?通常の贈与との違いをわかりやすく解説
負担付贈与は、財産をただ渡すだけでなく、お互いに約束を交わす特別な贈与の方法です。具体的にどのような仕組みなのか、通常の贈与とどう違うのかを見ていきましょう。
負担付贈与の基本的な仕組みと具体例
負担付贈与とは、財産を受け取る人(受贈者)が、財産を渡す人(贈与者)の抱えている債務を引き受けたり、特定の義務を果たしたりすることを条件に行う贈与契約のことです。たとえば、評価額3,000万円のマンションを贈与する代わりに、残っている住宅ローン1,200万円の返済を引き継いでもらうといったケースが当てはまります。また、毎月一定の現金をお渡しする代わりに、ご自身の老後の介護をお願いするといった取り決めも負担付贈与に含まれます。
通常の贈与との明確な違い
一番の違いは、財産を受け取る側に義務(負担)があるかどうかです。通常の贈与は、財産を渡した時点で契約が完了しますが、負担付贈与では贈与後もローンの返済などの義務が継続します。また、不動産を贈与する際の財産の評価方法にも大きな違いがあります。わかりやすく表にまとめました。
| 比較項目 | 負担付贈与と通常の贈与の違い |
|---|---|
| 受贈者(もらう人)の負担 | 通常の贈与は「なし」、負担付贈与は「あり」 |
| 不動産の評価方法 | 通常の贈与は「相続税評価額」、負担付贈与は「時価(市場価格)」 |
| 贈与者(あげる人)への課税 | 通常の贈与は「非課税」、負担付贈与は「所得税がかかる可能性あり」 |
賃貸物件の贈与が負担付贈与になるケース
アパートやマンションなどの賃貸物件をお子様などに贈与する場合、気づかないうちに負担付贈与になっていることがあります。賃貸物件には入居者からお預かりしている敷金が存在するからです。敷金は将来退去する際に入居者へ返還する義務(債務)があるため、物件と一緒に敷金の返還義務を引き継ぐと負担付贈与とみなされます。これを防ぐためには、敷金と同じ金額の現金もセットで贈与し、実質的な負担をなくすことが大切です。
負担付贈与にかかる税金の仕組みと課税関係
負担付贈与をお考えの際、最も気をつけたいのが税金の問題です。もらった人に贈与税がかかるだけでなく、状況によっては財産をあげた人にも税金がかかることがあります。
もらった人(受贈者)にかかる贈与税の計算
負担付贈与でもらった財産には贈与税がかかります。計算のベースとなる金額は、もらった財産の価値から引き受けた借金などの負担額を差し引いた金額です。注意点として、土地や建物などの不動産をもらった場合、通常の贈与では評価額が低くなる相続税評価額(時価の8割程度)を使いますが、負担付贈与では実際の市場価格である時価を使います。そのため、通常の贈与よりも贈与税が高くなりやすい傾向があります。
親から子への贈与で活用できる節税のポイント
親子間で負担付贈与を行う場合、贈与税の負担を軽くするために相続時精算課税制度の活用をご検討ください。この制度は、原則として60歳以上の親や祖父母から18歳以上の子や孫へ贈与する際に選べる課税方法です。累計2,500万円までの特別控除があり、これを超えた部分にのみ一律20%の税率がかかります。ただし、将来相続が発生したときには、この制度でもらった財産を相続財産に足して相続税を計算することになるため、全体のバランスを見極めることが重要です。
あげた人(贈与者)にかかる所得税(譲渡所得)
負担付贈与の落とし穴として、財産をあげた人にも所得税や住民税がかかる可能性があります。これは、借金を引き受けてもらうことで、ご自身が経済的な利益を得たとみなされるためです。たとえば、過去に1,000万円で購入した不動産を、1,200万円の借金と一緒に贈与した場合、差額の200万円に対して譲渡所得が発生し、あげた人に所得税などが課税されてしまいます。
負担付贈与の課税シミュレーション
言葉だけでは少し分かりにくいかもしれませんので、具体的な金額を使って負担付贈与の税金シミュレーションをしてみましょう。父親が過去に1,000万円で購入し、現在は時価3,000万円になっている土地を子供に贈与し、代わりに父親の借金1,200万円を子供が引き継ぐケースで計算します。
もらった人(子供)の贈与税の具体例
子供は3,000万円の土地をもらい、1,200万円の借金を引き受けます。この場合、実質的にもらった金額は差額の1,800万円となります。ここから暦年課税の基礎控除110万円を引いた1,690万円に対して贈与税がかかります。特例税率(親から18歳以上の子への贈与)を適用すると、計算式は「1,690万円 × 45% - 265万円 = 495万5,000円」となります。子供はこの金額を贈与税として納める必要があります。
あげた人(父親)の所得税の具体例
一方の父親は、1,200万円の借金がなくなるため、税務上は「1,200万円で土地を売却した」と同じ扱いになります。過去に1,000万円で購入した土地を1,200万円で手放したことになるため、差し引き200万円の利益(譲渡所得)が出たと考えられます。この土地の所有期間が5年を超えている場合、長期譲渡所得として約20.315%の税率がかかるため、父親は約40万6,300円の所得税および住民税を負担することになります。
負担付贈与を活用するメリット
税金の計算が少し複雑になる負担付贈与ですが、上手く活用すればご家族にとって非常に有益な方法になります。ここからは負担付贈与ならではのメリットを詳しく解説します。
財産を渡す代わりに希望する負担をお願いできる
最大のメリットは、ご自身の希望する条件を相手に引き受けてもらえることです。「住宅ローンの支払いが厳しくなってきたので、家を譲るから残りのローンを払ってほしい」「まとまったお金を渡すので、これからの通院の送迎や生活のサポートをお願いしたい」など、ご家族間で直接話しにくいことも、契約という形にすることでスムーズに交渉しやすくなります。
約束が守られなければ契約を解除できる安心感
負担付贈与は、お互いに義務を負う契約です。そのため、もし財産を受け取った人が約束した負担(ローンの返済や介護など)を果たしてくれない場合、贈与した側は贈与契約自体を解除して財産を取り戻すことが可能です。もちろん、いきなり解除するのではなく、まずは期間を定めてお願いをする必要がありますが、万が一のときに契約を白紙に戻せる仕組みがあることは、財産を渡す側にとって大きな安心材料となります。
負担付贈与の注意すべきデメリット
一方で、負担付贈与にはいくつか気をつけておきたいデメリットも存在します。後々のトラブルを防ぐためにも、事前にしっかりと確認しておきましょう。
相手が約束を果たしてくれないリスク
契約で決めたとはいえ、相手が必ずしも最後まで義務を果たしてくれるとは限りません。もし約束を守ってくれない場合、契約を解除して財産の返還を求めることになりますが、すでに不動産の名義変更が終わっていたり、お金を使ってしまっていたりすると、財産を取り戻すために裁判などの法的な手続きが必要になることもあります。また、負担の一部がすでに実行されている場合は、お互いの合意がないと簡単には解除できない点にも注意が必要です。
不動産の贈与は税金の負担が重くなりやすい
先ほどのシミュレーションでもお話しした通り、不動産を負担付贈与する場合、財産の評価に相続税評価額ではなく時価が用いられます。相続税評価額は市場価格の8割程度になることが多いため、時価で評価される負担付贈与は、通常の贈与と比べて税金の負担がどうしても重くなってしまいます。さらに、あげた人にまで所得税がかかるケースもあるため、実行する前には必ず綿密な税金の試算を行うことが欠かせません。
負担付贈与を失敗しないための注意点とまとめ
負担付贈与は、財産を譲ると同時にご自身の希望も叶えられる便利な方法ですが、口約束だけで進めるのは非常に危険です。後々の「言った、言わない」のトラブルを防ぐためにも、誰が、いつ、何を、どのように負担するのか、もし約束が守られなかったらどうするのかを明記した負担付贈与契約書を必ず作成しましょう。また、税金が予想以上に高額になることもありますので、事前にしっかりとした計画を立てて、ご家族皆様が安心できるような対策になさってください。
参考文献
負担付贈与のよくある質問まとめ
Q.負担付贈与とはどのようなものですか?
A.財産を無償で渡す代わりに、住宅ローンの返済や介護などの負担を条件とする贈与のことです。
Q.通常の贈与と何が違うのですか?
A.もらった人に義務がある点と、不動産の評価を時価で行う点、そしてあげた人にも税金がかかる可能性がある点が異なります。
Q.負担付贈与にはどんなメリットがありますか?
A.財産を渡す代わりに希望するサポートを受けられることや、約束が守られなければ契約を解除できる点です。
Q.デメリットは何ですか?
A.不動産を贈与する際の税金が高くなりやすいことや、相手が約束を果たさない場合にトラブルになるリスクがあることです。
Q.賃貸アパートの贈与は負担付贈与になりますか?
A.敷金の返還義務を引き継ぐため負担付贈与になります。これを防ぐには敷金と同額の現金も一緒に贈与する必要があります。
Q.口約束でも負担付贈与は成立しますか?
A.法律上は口約束でも成立しますが、トラブルを防ぐためにも負担内容や解除条件を記載した負担付贈与契約書を作成することを強くおすすめします。