財産債務調書を作成する際、最も頭を悩ませるのが「それぞれの財産をいくらで評価して記載すればよいのか」という点ではないでしょうか。たくさんの財産を一つひとつ評価するのは、とても時間と手間がかかりますよね。しかし、ルールを正しく理解し、見積価額という考え方を上手に活用すれば、申告にかかる事務負担をぐっと軽くすることができます。この記事では、具体的な金額や計算方法を交えながら、財産債務調書の価額の決め方についてわかりやすく解説していきます。
財産債務調書に記載する財産の価額とは?基本的な考え方
財産債務調書に記載する金額は、自分勝手に決めてよいわけではありません。国税庁が定めた明確なルールに従って評価する必要があります。まずは、その基本的な考え方を一緒に確認していきましょう。
時価と見積価額の違いをわかりやすく解説
財産債務調書に記載する価額は、原則としてその年の12月31日時点における時価で記載することになっています。時価とは、世の中で自由に売り買いされた場合に通常成立する価格のことです。たとえば、上場株式であれば、年末の証券取引所での最終価格が時価となるため、とてもわかりやすいですね。しかし、すべての財産に明確な時価があるわけではありません。そこで、時価がわからない場合に代わりに用いるのが見積価額です。
財産ごとに異なる価額の算定ルール
見積価額は「時価に準ずるもの」として扱われますが、財産の種類によってその計算方法は異なります。不動産や非上場企業の株式、美術品など、それぞれの性質に合わせた合理的な計算方法が国税庁から提示されています。完璧な時価を調べようと無理をするのではなく、国が認めている見積価額の算定ルールに当てはめて計算することが、正しい申告への第一歩となります。
事務負担を減らすために見積価額を活用しよう
もしすべての財産について専門家に時価の鑑定を依頼した場合、莫大な費用と時間がかかってしまいます。見積価額の制度は、そうした納税者の事務負担を軽減するために設けられている側面があります。手元にある固定資産税の通知書や会社の決算書などの資料を使って、無理なく合理的に計算できる方法を選んでいきましょう。
財産の種類別!見積価額の具体的な算定方法
それでは、具体的にどのような方法で見積価額を算出すればよいのか、代表的な財産ごとに見ていきましょう。以下の表に主な財産ごとの算定方法の例をまとめましたので、参考にしてください。
| 財産の種類 | 見積価額の算定方法の例 |
|---|---|
| 土地・建物などの不動産 | その年の固定資産税評価額、または取得価額をベースに計算した金額 |
| 非上場株式 | 純資産価額(帳簿価額)に自己の持株割合を掛けて算出した金額 |
| 書画骨董・美術品など | 売買実例価額、または取得価額 |
| 生命保険に関する権利 | 12月31日時点で解約した場合に支払われる解約返戻金の額 |
土地や建物などの不動産の見積価額
土地や建物の時価を毎年正確に把握するのは困難です。そのため、不動産の見積価額は、毎年送られてくる固定資産税の課税明細書に記載されている固定資産税評価額を使うのが最も簡単で確実です。また、事業に使っていない建物であれば、購入したときの取得価額から年末までの減価償却費を差し引いた金額を見積価額とすることも認められています。
非上場株式や有価証券の評価方法
証券取引所で売買されていない非上場企業の株式は、株価の把握が難しい財産の代表例です。この場合は、対象となる会社の直近の決算書をもとに計算します。具体的には、決算書上の純資産価額に自分が持っている株式の割合を掛けた金額を見積価額とするなど、合理的な方法で算出した金額を記載します。もし計算が難しい場合は、株式を取得したときの金額(取得価額)を記載しても問題ありません。
暗号資産(仮想通貨)や美術品などの見積価額
最近保有する方が増えている暗号資産(仮想通貨)も、立派な財産として記載が必要です。活発に取引されている銘柄であれば、12月31日時点の取引所の価格を時価とします。一方で、新しい銘柄などで時価がわからない場合は、取得価額を記載します。また、書画骨董や美術品についても、実際の売買データがない場合は、購入したときの取得価額を見積価額として記載して構いません。
預貯金や生命保険はどう記載する?
現金や預貯金、生命保険などは、不動産などに比べると価格の把握がしやすい財産です。令和5年分以降の制度改正で記載の手間が少し省けるようになった部分もありますので、しっかりと確認しておきましょう。
現金や預貯金の記載方法と省略できる特例
現金や預貯金は、12月31日時点の残高をそのまま記載します。しかし、少額の口座をいくつも持っている場合、すべてを細かく記載するのは大変ですよね。そこで令和5年分以後の特例として、預入高が50万円未満の預貯金については金額の記載を省略し、備考欄などに口座番号だけを記載すればよいことになりました。このルールを活用すれば、事務負担を大幅に減らすことができます。
生命保険契約は解約返戻金を目安にする
掛け捨てではない生命保険(貯蓄型保険など)を契約している場合、その保険契約に関する権利も財産として記載する必要があります。この場合の価額は、12月31日時点でその保険を解約したらいくら戻ってくるか(解約返戻金)を基準にします。解約返戻金の正確な金額は、保険会社から送られてくる案内状を確認するか、直接保険会社に問い合わせることで簡単に把握できます。
財産債務調書の提出要件と対象者(令和5年以降の改正対応)
そもそも、自分は財産債務調書を提出しなければならないのか疑問に思っている方もいらっしゃるでしょう。令和5年分の申告から提出対象者のルールが拡大されたため、注意が必要です。
所得2,000万円超かつ財産3億円以上などの要件
これまで通り、以下の2つの条件を両方とも満たす方は提出義務があります。
1つ目は、退職金を除いた1年間の所得金額の合計が2,000万円を超えること。
2つ目は、その年の12月31日時点で保有する財産の合計額が3億円以上、または株や投資信託などの有価証券の合計額が1億円以上あることです。
所得に関わらず財産10億円以上の方も対象に
令和5年分以降から新しく追加されたのが、その年の12月31日時点で保有する財産の合計額が10億円以上ある方です。この条件に当てはまる場合、その年の所得が2,000万円以下であっても、提出が義務付けられます。さらに、提出期限も翌年の3月15日から翌年の6月30日へと延長されましたので、余裕を持って準備を進めましょう。
提出しない場合のペナルティと提出するメリット
「手間がかかるから提出しなくてもいいかな…」と考えるのは非常に危険です。財産債務調書には、提出しなかった場合の厳しいペナルティと、正しく提出した場合の嬉しいメリットが用意されています。
提出漏れや未提出による加算税のペナルティ
提出期限までに財産債務調書を提出しなかった場合や、本来記載すべき財産をわざと載せなかった場合、後から税務調査で申告漏れが発覚すると重いペナルティが課されます。具体的には、その財産に関する所得税などの過少申告加算税が5%も加重されてしまいます。余計な税金を払わないためにも、漏れなく記載することが大切です。
正しく提出した場合の優遇措置
一方で、期限内にしっかりと財産債務調書を提出している方には優遇措置があります。もし後から計算間違いなどで所得税の申告漏れが見つかったとしても、それが調書に記載されている財産に関するものであれば、過少申告加算税が5%軽減されます。つまり、正直にすべてを申告しておくことが、いざというときの自分を守る保険になるのです。
まとめ
財産債務調書の作成は一見するとハードルが高く感じられますが、見積価額のルールを正しく使えば、無理なく準備を進めることができます。不動産は固定資産税評価額を活用し、50万円未満の少額な預貯金は記載を簡略化するなど、事務負担を減らす工夫を取り入れてみてください。令和5年分からは提出期限が6月30日になったため、年末の残高証明書などが揃い次第、少しずつ集計を始めておくことをおすすめします。正しく申告をして、ペナルティを防ぐとともに安心を手に入れましょう。
参考文献
財産債務調書の価額に関するよくある質問まとめ
Q.財産債務調書に記載する価額はいつの時点のものですか?
A.その年の12月31日時点の時価、または時価に準ずる見積価額を記載します。
Q.時価がわからない場合、どうすればよいですか?
A.時価が把握しにくい不動産や非上場株式などの場合は、国税庁が認める合理的な計算方法で算出した見積価額を記載することができます。
Q.不動産の見積価額はどのように計算しますか?
A.固定資産税評価額をベースに計算する方法や、取得価額から減価償却費を差し引いた金額を記載するなど、複数の方法から選ぶことができます。
Q.預貯金の記載を省略できる条件はありますか?
A.令和5年分以降、預入高が50万円未満の預貯金については金額の記載を省略し、口座番号のみを記載することが認められています。
Q.暗号資産(仮想通貨)も記載する必要がありますか?
A.はい、暗号資産も財産に含まれるため、活発な市場がある場合は12月31日時点の取引価格を、ない場合は取得価額などを記載する必要があります。
Q.財産債務調書を提出しなかった場合、どうなりますか?
A.提出期限までに提出しなかった場合や記載漏れがあった場合、その財産に関して申告漏れが発覚した際の過少申告加算税などが5%加重されるペナルティがあります。