ご自身の土地の上に、ご自身で建てたアパートと、他人に土地を貸してその人が家を建てている部分がある…このように、1つの土地(一筆の土地)に「貸家建付地」と「貸宅地」が混在しているケースは少なくありません。いざ相続となったとき、「この土地の評価はどうなるの?」「面積はどうやって分けるの?わざわざ測量しないといけないの?」と悩んでしまいますよね。相続税の土地評価はとても複雑ですが、基本的なルールさえ押さえれば、ご自身の状況を整理しやすくなります。この記事では、一筆の土地に貸家建付地と貸宅地がある場合の評価方法や面積の分け方、測量の必要性について、分かりやすく解説していきます。
まずは基本!貸家建付地と貸宅地の違い
相続税の計算において、土地の評価は非常に重要です。特に、1つの土地が複数の方法で利用されている場合、それぞれの利用状況に応じて正しく評価する必要があります。まずは、今回のテーマである「貸家建付地」と「貸宅地」の基本的な違いから確認していきましょう。この2つの違いを理解することが、正しい評価の第一歩となります。
貸家建付地とは?
貸家建付地(かしやたてつけち)とは、ご自身が所有する土地の上に、ご自身で建てたアパートやマンション、貸家などの建物を第三者に貸している場合の、その土地のことを指します。ポイントは、土地と建物の両方を所有している点です。賃貸アパートや賃貸マンションの敷地が、これに該当します。土地の所有者は、入居者がいるため土地を自由に使ったり売却したりすることが難しく、その利用上の制約が考慮されて、自分で使う土地(自用地)よりも評価額が低くなります。
貸宅地とは?
一方、貸宅地(かしたくち)とは、ご自身が所有する土地を、第三者が建物を建てる目的で借りている場合の、その土地のことを指します。いわゆる「底地(そこち)」とも呼ばれます。このケースでは、土地の所有者はご自身ですが、その上に建っている建物は借主のものです。借地借家法によって借主の権利が強く保護されているため、土地の所有者は自由に土地を利用できず、貸家建付地よりもさらに評価額が低くなるのが一般的です。
貸家建付地と貸宅地の違いまとめ
両者の最も大きな違いは、「土地の上にある建物の所有者が誰か」という点です。この違いを理解しておかないと、評価額の計算を間違えてしまう可能性があります。下の表で整理しておきましょう。
種類 | 内容 |
---|---|
貸家建付地 | 土地と建物の所有者が同じ(自分で建てたアパートの敷地など) |
貸宅地 | 土地と建物の所有者が異なる(他人に貸し、その他人が家を建てている土地) |
一筆の土地に2つの利用形態がある場合の評価原則
「土地の登記は1つ(一筆)なのに、利用方法が複数ある場合はどうやって評価するの?」という疑問にお答えします。相続税のルールでは、登記上の単位(筆)ではなく、実際の利用状況に応じた単位で評価するのが基本です。
評価の基本単位は「画地」
相続税で土地を評価するときの単位は、登記簿上の「一筆、二筆…」という数え方ではなく、「一画地(いっかくち)」という単位で考えます。一画地とは、「利用の単位となっている一区画の宅地」のことです。つまり、たとえ登記上一筆の土地であっても、利用状況が異なれば、それぞれの利用部分を別々の画地として評価します。
今回のケースでは、一筆の土地の中に「貸家建付地」として利用している部分と、「貸宅地」として利用している部分があるので、この2つは別々の画地として、それぞれ分けて評価することになります。
面積の分け方|測量は必須?
「じゃあ、それぞれの面積を正確に知るために測量が必要なの?」と心配になる方もいらっしゃるかもしれません。結論から言うと、原則として必ずしも測量が必要なわけではありません。
税務署への申告では、客観的な資料に基づいて合理的に面積を按分できていれば問題ありません。例えば、以下のような資料を使って面積を算出します。
- 賃貸借契約書:貸宅地の場合、契約書に貸している土地の面積が明記されていることが多いです。
- 建築確認済証や建物の図面:貸家建付地の場合、建物の建築面積や敷地面積がわかる資料から面積を特定できます。
- 公図や地積測量図:法務局で取得できる図面を参考に、それぞれの利用部分をおおよそ区分けします。
これらの資料を基に、土地全体の面積から貸宅地部分の面積を差し引いて貸家建付地部分の面積を算出するなど、合理的な方法で面積を分けることができれば、高額な費用がかかる測量をしなくても申告は可能です。ただし、境界が不明確で相続人間で揉めそうな場合や、将来的に土地を分筆して売却する予定がある場合などは、測量士に依頼して正確な面積を確定させておくと安心です。
具体的な評価額の計算方法
それでは、貸家建付地と貸宅地の評価額を具体的にどのように計算するのか見ていきましょう。どちらも、まずはその土地が更地だった場合の評価額(自用地評価額)を算出することから始まります。
貸家建付地の評価額
貸家建付地の評価額は、以下の計算式で求めます。
自用地評価額 × (1 – 借地権割合 × 借家権割合 × 賃貸割合)
- 自用地評価額:路線価方式または倍率方式で計算した、その土地が更地だった場合の評価額。
- 借地権割合:路線価図に定められている割合(30%~90%)。地域によって異なります。
- 借家権割合:全国一律で30%と定められています。
- 賃貸割合:建物の床面積のうち、実際に賃貸されている部分の割合。例えば、10室中8室が賃貸中なら80%となります。
貸宅地の評価額
貸宅地の評価額は、以下の計算式で求めます。こちらは貸家建付地よりもシンプルな計算式です。
自用地評価額 × (1 – 借地権割合)
他人に土地を貸していることで、その土地の価値から借地権の価値を差し引いたものが貸宅地の評価額になる、という考え方です。
計算例でシミュレーション
言葉だけだと難しいので、具体的な数字を使って計算してみましょう。
【前提条件】
- 土地全体の面積:500㎡
- 路線価:30万円/㎡
- 利用状況:
- 貸家建付地部分の面積:300㎡
- 貸宅地部分の面積:200㎡
- 借地権割合:60%
- 借家権割合:30%
- 賃貸割合:100%(全室満室)
1. 各部分の自用地評価額を計算
- 貸家建付地部分:30万円/㎡ × 300㎡ = 9,000万円
- 貸宅地部分:30万円/㎡ × 200㎡ = 6,000万円
2. 各部分の評価額を計算
- 貸家建付地の評価額
9,000万円 × (1 – 60% × 30% × 100%) = 9,000万円 × (1 – 0.18) = 7,380万円 - 貸宅地の評価額
6,000万円 × (1 – 60%) = 6,000万円 × 0.4 = 2,400万円
3. 土地全体の評価額
- 合計評価額:7,380万円 + 2,400万円 = 9,780万円
このように、同じ一筆の土地でも利用状況に応じて評価額を計算し、それらを合算して土地全体の相続税評価額を算出します。
小規模宅地等の特例は使える?
土地の評価額を大幅に引き下げられる制度として「小規模宅地等の特例」があります。このケースでは、この特例を適用できるのでしょうか。
貸付事業用宅地等の特例とは
小規模宅地等の特例の中には、「貸付事業用宅地等」という種類があります。これは、被相続人が不動産貸付業(アパート経営や土地の賃貸など)を行っていた土地について、200㎡を限度として評価額を50%減額できるという、非常に節税効果の高い制度です。
貸家建付地も貸宅地も特例の対象
今回のケースである貸家建付地と貸宅地は、どちらも「貸付事業用宅地等」に該当します。したがって、要件を満たせば小規模宅地等の特例を適用することが可能です。
適用する場合の注意点(限度面積)
ここで重要な注意点があります。貸付事業用宅地等の特例を適用できる面積は、合計で200㎡までという上限があります。
つまり、今回の例でいうと、貸家建付地の敷地(300㎡)と貸宅地(200㎡)を合わせて500㎡ありますが、そのうち200㎡分までしか50%の減額は受けられません。どちらの土地に特例を適用するか、あるいはどのように按分して適用するかは、相続人が有利になるように選択することができます。
一般的には、評価額の高い土地から優先的に特例を適用する方が節税効果は大きくなります。この判断は複雑になるため、税理士などの専門家に相談することをおすすめします。
まとめ
一筆の土地に貸家建付地と貸宅地が混在している場合の評価方法について、ポイントを整理します。
- 相続税の土地評価は、登記上の筆単位ではなく、利用状況に応じた「画地」単位で行います。
- 貸家建付地と貸宅地は、それぞれ別の画地として評価します。
- 面積の按分は、賃貸借契約書や建物の図面など客観的な資料に基づけばよく、必ずしも測量は必要ではありません。
- 貸家建付地も貸宅地も、小規模宅地等の特例(貸付事業用宅地等)の対象となり得ます。
- ただし、特例を適用できるのは合計で200㎡までという限度があるため、注意が必要です。
このように、利用形態が複数ある土地の評価は非常に複雑です。評価方法や特例の適用を一つ間違えるだけで、相続税額が大きく変わってしまうこともあります。ご自身での判断が難しいと感じたら、相続に詳しい税理士に相談し、最も有利な方法で申告できるように準備を進めましょう。
参考文献
貸家建付地と貸宅地の面積按分に関するよくある質問まとめ
Q. 一筆の土地に貸家建付地と貸宅地があるとは、どういう状況ですか?
A. 土地の所有者が、登記上ひとつの土地の一部にご自身で建てたアパートなどを貸し(貸家建付地)、残りの部分を他人に土地として貸してその人が家を建てている(貸宅地)、という状況を指します。
Q. なぜ貸家建付地と貸宅地の面積を分ける必要があるのですか?
A. 相続税や固定資産税の評価額を計算するためです。貸家建付地と貸宅地では、土地の評価方法や評価減の割合が異なります。そのため、それぞれの面積を把握し、正しく評価額を算出する必要があります。
Q. 土地の面積はどうやって分けるのが一般的ですか?
A. 最も正確なのは測量ですが、利用状況が明確な場合は、建物の配置図や賃貸借契約書、利用実態などに基づき、合理的に面積を按分する方法が一般的です。例えば、建物の敷地面積や通路、駐車場などで分けます。
Q. 面積を分けるために、必ず測量をする必要がありますか?
A. 必ずしも測量は必須ではありません。境界が不明確な場合や当事者間で争いがある場合を除き、航空写真や公図、建物の図面などから合理的に面積を按分できれば、測量を省略できるケースも多いです。
Q. 測量しない場合、面積はどう計算すればよいですか?
A. 登記簿上の総面積を基に、各建物の建築面積や敷地利用の割合に応じて按分します。例えば、建物全体の敷地面積に対する各建物の敷地面積の割合で分ける方法や、賃貸借契約書に記載された面積を参考にする方法があります。
Q. 面積の分け方によって、相続税評価額は変わりますか?
A. はい、変わります。貸家建付地と貸宅地では評価減の割合が異なるため、どちらの面積が広くなるかによって土地全体の評価額、ひいては相続税額に影響が出ます。そのため、実態に即した合理的な按分が重要です。