税理士法人プライムパートナーズ

賃貸マンションと底地が混在?
複雑な土地の相続税評価額を徹底解説

2025-05-27
目次

ご所有の土地について、相続税がいくらになるかご心配ではありませんか?特に、一つの土地にご自身で建てた賃貸マンションと、第三者に土地を貸して建物が建っている「底地」が混在している場合、その評価方法は非常に複雑になります。一体どのように評価額を計算すれば良いのでしょうか。この記事では、そのような複雑な土地の相続税評価額について、計算方法や具体的なシミュレーションを交えながら、初心者の方にも分かりやすく解説していきます。

土地の相続税評価は3つの利用形態で変わる

土地の相続税評価額は、その土地がどのように利用されているかによって大きく変わります。まずは基本となる3つの土地の利用形態と評価方法の違いを理解しておきましょう。

自分で利用している土地「自用地」

「自用地(じようち)」とは、土地の所有者が自分で使用している土地のことです。ご自身の自宅が建っている土地や、更地のまま所有している土地などがこれにあたります。所有者が何の制約もなく自由に利用できるため、土地評価の基本となり、評価額が最も高くなります。相続税を計算する上での基準となる評価額です。

賃貸物件を建てている土地「貸家建付地」

「貸家建付地(かしやたてつけち)」とは、ご自身が所有する土地の上に、ご自身で賃貸アパートやマンションを建てて、第三者に貸している場合の土地を指します。土地の所有者は自分ですが、入居者(借家人)の権利があるため、自用地のように自由には使えません。この利用上の制限が考慮され、自用地よりも評価額が低くなります。

土地を第三者に貸している「貸宅地(底地)」

「貸宅地(かしたくち)」とは、土地を第三者に貸し、その借りた人(借地人)が建物を建てて利用している土地のことです。土地の所有者(地主)から見た場合、この土地は「底地(そこち)」とも呼ばれます。借地人の権利(借地権)は非常に強く、地主は土地を自由に利用・処分することができません。そのため、3つの形態の中で最も評価額が低くなります。

土地の利用形態 概要
自用地 土地所有者が自分で利用している土地(自宅敷地、更地など)
貸家建付地 土地所有者がアパート等を建て、第三者に貸している土地
貸宅地(底地) 土地を第三者に貸し、借主が建物を建てている土地

賃貸マンション部分の土地(貸家建付地)の評価方法

それでは、ご自身の賃貸マンションが建っている部分の土地、つまり「貸家建付地」の評価方法から見ていきましょう。

貸家建付地の評価額の計算式

貸家建付地の評価額は、以下の計算式で求められます。自用地評価額から、利用が制限されている分を差し引く、という考え方です。

貸家建付地の評価額 = 自用地評価額 ×(1 - 借地権割合 × 借家権割合 × 賃貸割合)

計算式に出てくる「3つの割合」とは?

計算式には「借地権割合」「借家権割合」「賃貸割合」という3つの専門用語が出てきます。それぞれ分かりやすく解説します。

借地権割合 その土地の価値のうち、借地権が占める割合のことです。土地の利用価値が高い都心部ほど割合が高くなる傾向にあります。国税庁の「路線価図」で地域ごとに定められており、30%~90%の範囲でA~Gの記号で示されています。
借家権割合 建物の借主(入居者)の権利を評価した割合です。これは全国一律で30%と定められています。
賃貸割合 アパートやマンションの全床面積のうち、実際に賃貸されている部分の床面積の割合を指します。例えば、10部屋あるアパートで全室入居していれば100%、8部屋入居なら80%となります。相続開始時に一時的に空室でも、すぐに次の入居者募集をかけている場合などは賃貸しているものとして認められることがあります。

貸家建付地の計算シミュレーション

具体的な数字で計算してみましょう。

  • 自用地評価額:8,000万円
  • 借地権割合:60%(路線価図で「60D」と記載)
  • 借家権割合:30%
  • 賃貸割合:90%(10室中9室が賃貸中)

計算式:
8,000万円 × {1 – (60% × 30% × 90%)}
= 8,000万円 × {1 – (0.6 × 0.3 × 0.9)}
= 8,000万円 × {1 – 0.162}
= 8,000万円 × 0.838
= 6,704万円

この場合、貸家建付地の評価額は6,704万円となり、自用地評価額の8,000万円よりも約1,300万円も低く評価されることがわかります。

※令和6年1月1日以降、いわゆる「タワマン節税」を抑制するため、分譲マンションの評価方法が改正されました。ただし、今回のような一棟所有の賃貸マンションは、区分所有登記されていないため、この改正の直接的な対象にはなりません。

第三者に貸している土地(貸宅地・底地)の評価方法

次に、土地の一部を第三者に貸し、その人が家を建てている「貸宅地(底地)」部分の評価方法です。

貸宅地(底地)の評価額の計算式

貸宅地の評価額は、貸家建付地よりもシンプルです。自用地評価額から、借地人の権利である「借地権」の価値を差し引いて計算します。

貸宅地の評価額 = 自用地評価額 ×(1 - 借地権割合)

この計算式から分かるように、借地権割合が高い地域ほど、貸宅地の評価額は低くなります。例えば、借地権割合が70%の地域では、自用地評価額の30%で評価されることになり、大幅な評価減が期待できます。

貸宅地の計算シミュレーション

先ほどの貸家建付地と同じ条件で、貸宅地の場合を計算してみましょう。

  • 自用地評価額:8,000万円
  • 借地権割合:60%

計算式:
8,000万円 × (1 – 60%)
= 8,000万円 × (1 – 0.6)
= 8,000万円 × 0.4
= 3,200万円

貸宅地としての評価額は3,200万円となり、貸家建付地の6,704万円よりもさらに低く評価されます。これは、土地の利用制限がより強いことが評価に反映されているためです。

【本題】賃貸マンションと底地が混在する土地の評価方法

お待たせしました。ここからが本題です。1つの土地に「貸家建付地」と「貸宅地」が混在している場合、どのように評価額を計算するのでしょうか。基本は、それぞれの利用状況に応じて土地を分け、別々に評価額を計算してから合算します。

評価の基本は「利用単位」で分けること

相続税法では、土地は登記上の1筆ごとではなく、「利用の単位となっている1区画(画地)」ごとに評価するのが原則です。今回のケースでは、1つの土地が「賃貸マンションの敷地」と「第三者への貸地」という2つの異なる利用単位に分かれていると考えます。そのため、まずは土地全体をそれぞれの利用面積に応じて按分(あんぶん)する必要があります。

評価額の計算手順【5ステップ】

以下の5つのステップで計算を進めていきます。

  1. 土地全体の自用地評価額を計算する
    まずは土地全体の価値を把握します。
    (計算式)路線価 × 土地全体の面積
  2. 各利用部分の面積を確定する
    賃貸マンションが建っている部分(貸家建付地)の面積と、第三者に貸している部分(貸宅地)の面積を正確に測ります。
  3. 各部分の自用地評価額を面積で按分する
    ステップ1で計算した全体の自用地評価額を、ステップ2の面積割合でそれぞれの部分に割り振ります。
  4. 各部分の最終的な相続税評価額を計算する
    按分した自用地評価額を基に、「貸家建付地」と「貸宅地」それぞれの計算式を使って評価額を算出します。
  5. 各部分の評価額を合算する
    ステップ4で計算した2つの評価額を合計したものが、土地全体の最終的な相続税評価額となります。

具体例でシミュレーションしてみよう!

以下の条件で、実際に評価額を計算してみましょう。

  • 土地全体の面積:800㎡
  • 路線価:1㎡あたり30万円
  • 利用状況:
    • 賃貸マンション部分(貸家建付地):500㎡
    • 第三者への貸地部分(貸宅地):300㎡
  • 借地権割合:60%
  • 借家権割合:30%
  • 賃貸割合:100%(満室稼働)

【ステップ1】土地全体の自用地評価額
30万円/㎡ × 800㎡ = 2億4,000万円

【ステップ2】各利用部分の面積
貸家建付地:500㎡
貸宅地:300㎡

【ステップ3】各部分の自用地評価額を按分
・貸家建付地部分の自用地評価額
2億4,000万円 × (500㎡ / 800㎡) = 1億5,000万円
・貸宅地部分の自用地評価額
2億4,000万円 × (300㎡ / 800㎡) = 9,000万円

【ステップ4】各部分の最終評価額を計算
・貸家建付地部分の評価額
1億5,000万円 × {1 – (60% × 30% × 100%)}
= 1億5,000万円 × 0.82 = 1億2,300万円

・貸宅地部分の評価額
9,000万円 × (1 – 60%)
= 9,000万円 × 0.4 = 3,600万円

【ステップ5】各評価額を合算
1億2,300万円(貸家建付地) + 3,600万円(貸宅地) = 1億5,900万円

この結果、土地全体の相続税評価額は1億5,900万円となります。もしこの土地がすべて自用地だったら評価額は2億4,000万円ですから、土地活用によって8,100万円もの評価額圧縮が実現できていることがわかります。

評価額をさらに下げる「小規模宅地等の特例」の活用

算出した評価額をさらに下げることができる強力な制度が「小規模宅地等の特例」です。要件を満たせば、土地の評価額を大幅に減額できます。

貸付事業用宅地等としての適用

賃貸マンションの敷地(貸家建付地)や第三者への貸地(貸宅地)は、「貸付事業用宅地等」として小規模宅地等の特例の対象となる可能性があります。この特例を適用できれば、200㎡を上限として、その部分の評価額を50%減額できます。

適用を受けるための主な要件

特例を受けるには、以下のような要件を満たす必要があります。

  • 相続人が、被相続人の貸付事業を引き継ぐこと
  • その事業を相続税の申告期限まで継続すること
  • その土地を申告期限まで保有し続けること

今回のケースでは、貸家建付地と貸宅地を合わせた面積のうち200㎡部分について、50%の評価減を受けられる可能性があります。ただし、適用要件は細かく定められているため、ご自身が対象となるかどうかは専門家への確認が不可欠です。

まとめ

一つの土地に賃貸マンションと底地が混在する場合の相続税評価は、一見すると非常に難解です。しかし、以下のポイントを押さえることで、基本的な考え方を理解することができます。

  • 土地の評価は「自用地」「貸家建付地」「貸宅地」の3つの利用形態が基本となる。
  • 1つの土地に複数の利用形態がある場合は、利用単位ごとに面積で按分して評価額を計算する。
  • 貸家建付地と貸宅地では評価額の計算式が異なる。
  • 要件を満たせば「小規模宅地等の特例」を適用でき、さらに評価額を下げられる可能性がある。

土地の評価は、面積の測量や各種割合の確認、特例適用の判断など、専門的な知識が求められる場面が多々あります。特に、今回のような複雑なケースでは、計算を誤ると納税額に大きな影響が出かねません。少しでも不安な点があれば、相続を専門とする税理士に相談することを強くおすすめします。

【参考文献】

土地の一部に賃貸マンション、残りは底地の場合の相続税評価額 よくある質問まとめ

Q. 土地の一部に賃貸マンション、残りを底地として貸している場合、土地の相続税評価はどうなりますか?

A. 賃貸マンションが建っている土地は「貸家建付地」、第三者に貸している土地(底地)は「貸宅地」として、それぞれの利用状況に応じて別々に評価額を計算します。

Q. 賃貸マンション部分の「貸家建付地」とは何ですか?

A. 自分で建てた賃貸住宅の敷地のことです。更地の評価額(自用地評価額)から、借地権割合や借家権割合を基にした一定額が控除されるため、相続税評価額が低くなります。

Q. 第三者に貸している土地(底地)の「貸宅地」とは何ですか?

A. 第三者が建物を建てるために貸している土地(底地)のことです。土地の所有権に制限があるため、更地の評価額から借地権の価値を差し引いた金額で評価され、評価額が下がります。

Q. なぜこのように土地を活用すると相続税対策になるのですか?

A. 更地のまま保有するよりも、「貸家建付地」や「貸宅地」として評価されることで、土地の評価額が減額されるからです。これにより、相続税の課税対象となる財産の総額を抑える効果が期待できます。

Q. 評価する際の注意点はありますか?

A. 賃貸マンションの入居状況(賃貸割合)や、土地の形状、利用状況が一体と見なされるかなど、専門的な判断が必要です。また、路線価や借地権割合は地域によって異なるため、税理士などの専門家への相談をおすすめします。

Q. 「貸家建付地」と「貸宅地」は一体として評価されることはないのですか?

A. 原則として別々に評価しますが、例えば駐車場をマンション入居者と底地の借地人が共用しているなど、利用状況が一体不可分と判断される場合は、全体を一つの土地として評価することもあります。この場合、評価方法が複雑になります。

事務所概要
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