ご家族が亡くなられ、突然アパートやマンションなどの賃貸物件を相続することになったら、どうすればよいか戸惑ってしまいますよね。そのまま大家さんとして経営を続けるべきか、売却して現金化するべきか、あるいは負担が大きい場合は相続放棄という選択肢もあります。どの方法が一番良いのかは、物件の状況や相続人の方々の状況によって大きく異なります。この記事では、賃貸物件の相続で考えられる3つの選択肢「経営継続」「売却」「放棄」について、それぞれのメリット・デメリットや手続きの流れ、税金の話まで、わかりやすく解説していきます。
賃貸物件を相続したら考えるべき3つの選択肢
賃貸物件を相続した場合、まず検討すべき選択肢は大きく分けて3つあります。それぞれの特徴を理解し、ご自身の状況に最も合う方法を見つけるための第一歩としましょう。
選択肢①:賃貸経営を「継続」する
被相続人(亡くなった方)から物件と大家さんとしての立場を引き継ぎ、賃貸経営を続けていく方法です。安定した収益が見込める物件であれば、有力な選択肢となります。
| メリット | ・毎月の家賃収入(インカムゲイン)が継続的に得られる ・相続税評価額が更地や自宅より低く抑えられる ・インフレ対策として資産価値が目減りしにくい |
| デメリット | ・空室や家賃滞納のリスクがある ・建物の修繕費や固定資産税などの維持管理コストがかかる ・入居者対応や清掃など管理の手間がかかる(管理会社への委託費用も必要) |
選択肢②:賃貸物件を「売却」する
相続した物件を第三者に売却し、現金化する方法です。管理の手間から解放されたい場合や、相続人が複数いて遺産を公平に分けたい場合に適しています。
| メリット | ・まとまった現金を一度に手に入れられる(相続税の納税資金にも充当可能) ・空室リスクや維持管理の負担から完全に解放される ・現金化することで、相続人間での遺産分割が容易になる |
| デメリット | ・将来にわたる家賃収入がなくなる ・売却益(譲渡所得)に対して所得税や住民税がかかる ・物件の状態や立地によっては希望価格で売れなかったり、買い手が見つかるまで時間がかかったりする |
選択肢③:「相続放棄」する
物件だけでなく、預貯金などのプラスの財産も、借金などのマイナスの財産もすべて引き継がない手続きです。物件の赤字が大きく、被相続人に多額の借金がある場合に検討されます。
| メリット | ・赤字物件の維持義務や被相続人の借金など、すべての負債から逃れられる |
| デメリット | ・預貯金などプラスの財産もすべて放棄する必要がある ・一度手続きをすると撤回できない ・自分が放棄すると、次の順位の相続人(親や兄弟姉妹など)に相続権が移るため、親族間の相談が必要 |
相続放棄は、ご自身が相続人であることを知った時から原則として3か月以内に家庭裁判所へ申述する必要があります。期限が短いため、早めの判断が重要です。
【ケース別】賃貸物件の相続、最適な選択肢は?
では、具体的にどのような場合にどの選択肢を選べばよいのでしょうか。ここでは代表的な4つのケースに分けて、判断のポイントを見ていきましょう。
ケース1:物件が黒字経営で収益性が高い場合
空室が少なく、安定した家賃収入が見込める優良物件であれば、経営継続が最も有力な選択肢です。毎月の収入は生活の安定につながりますし、相続税対策としても有効です。ただし、将来必要になる大規模修繕に備えた修繕計画や資金の積み立て状況は必ず確認しておきましょう。相続人が複数いる場合は、誰が中心となって経営するのか、収益をどう分配するのかを事前にしっかり話し合うことが大切です。
ケース2:物件が赤字経営で維持が負担な場合
まず、なぜ赤字なのか原因を分析することが重要です。家賃設定が相場より低い、空室が多い、修繕費がかさむなど、原因によって対策は変わります。リフォームや管理会社の見直しなどで経営改善が見込めるなら、継続を検討する価値はあります。しかし、改善が難しい、あるいはこれ以上負担を負いたくない場合は、売却を検討しましょう。もし、物件以外にも多額の借金があり、財産全体がマイナスである場合は、相続放棄も視野に入れる必要があります。
ケース3:物件が遠方で管理が難しい場合
ご自身で直接管理することが難しい遠方の物件の場合、選択肢は主に2つです。1つは、物件所在地の信頼できる不動産管理会社に管理を全面的に委託する方法です。もう1つは、管理の手間や将来のリスクを考えて売却してしまう方法です。売却して現金化すれば、ご自身の近くで新たな投資を行うなど、より管理しやすい資産に組み替えることも可能になります。
ケース4:相続人が複数いて分割が難しい場合
不動産は現金のように簡単に分割できないため、相続人が複数いる場合はトラブルになりやすい財産です。相続人全員が納得できる分割方法を検討する必要があります。
共有名義にすることもできますが、将来の売却や大規模修繕などで全員の同意が必要になるため、さらなるトラブルの火種になる可能性があります。そのため、相続人のうちの一人が物件を相続し、他の相続人には相当額の現金を支払う「代償分割」や、物件を売却して現金を公平に分ける「換価分割」が現実的な解決策となることが多いです。
賃貸物件の相続手続きの流れ
実際に賃貸物件を相続する際の手続きは、いくつかのステップに分かれています。期限が定められているものも多いため、全体の流れを把握しておきましょう。
ステップ1:現状把握と相続人調査
まず、相続する賃貸物件の状況を正確に把握します。賃貸借契約書、登記事項証明書(登記簿謄本)、固定資産税納税通知書、ローンの返済予定表などを確認し、家賃収入、経費、ローン残高などをリストアップしましょう。同時に、被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本をすべて集め、法的に誰が相続人になるのかを確定させます。
ステップ2:準確定申告
被相続人が不動産所得を得ていた場合、亡くなった年の1月1日から死亡日までの所得について、所得税の申告と納税(準確定申告)が必要です。この手続きは、相続の開始があったことを知った日の翌日から4か月以内に行う必要があります。
ステップ3:遺産分割協議
相続人全員で、誰がどの財産をどのように相続するのかを話し合います。賃貸物件を誰が相続するのか、売却して分けるのかなどを決め、合意した内容を「遺産分割協議書」という書面にまとめます。この書類は、後の手続きで必要になります。
ステップ4:名義変更(相続登記)と各種連絡
遺産分割協議で物件を相続することが決まったら、法務局で不動産の名義を被相続人からご自身へ変更する「相続登記」を行います。この相続登記は、2024年4月1日から義務化されています。また、入居者には大家さんが変更になったことと、新しい家賃の振込先口座を速やかに書面で通知する必要があります。管理会社や火災保険会社への連絡も忘れずに行いましょう。
ステップ5:相続税申告・納税
相続した財産の総額が基礎控除額(3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数)を超える場合、相続税の申告と納税が必要です。期限は、被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内です。期限内に申告・納税を済ませましょう。
知っておきたい!賃貸物件の相続税評価額
相続税を計算する際、賃貸物件の価値(評価額)は、ご自身で住んでいる家よりも低く評価される仕組みになっています。これにより、相続税の負担が軽減される効果があります。
土地(貸家建付地)の評価方法
他人に貸している建物が建っている土地は「貸家建付地(かしやたてつけち)」と呼ばれ、自分で使用している土地(自用地)よりも評価額が低くなります。これは、入居者がいることで土地の利用に制約があるためです。
計算式は以下のようになります。
貸家建付地の評価額 = 自用地としての評価額 × (1 – 借地権割合 × 借家権割合 × 賃貸割合)
※借家権割合は全国一律で30%と定められています。
建物(貸家)の評価方法
他人に貸しているアパートやマンションなどの建物は「貸家(かしや)」として評価されます。こちらも土地と同様に、利用が制限されるため、建物の固定資産税評価額から一定額が控除されます。
計算式は以下のようになります。
貸家の評価額 = 建物の固定資産税評価額 × (1 – 借家権割合 × 賃貸割合)
このように、入居者がいる(賃貸割合が高い)ほど、土地と建物の評価額は下がり、相続税を抑えることにつながります。
相続税を抑える「小規模宅地等の特例」
小規模宅地等の特例は、亡くなった方が住んでいた土地や事業に使っていた土地を相続した場合に、その土地の評価額を大幅に減額できる非常に有利な制度です。賃貸アパートや駐車場の敷地も「貸付事業用宅地等」として、この特例の対象となります。
貸付事業用宅地等の場合、200㎡までの部分について土地の評価額を50%減額することができます。ただし、この特例を受けるためには、相続人が事業を引き継ぎ、申告期限までその土地を保有し続けるなどの要件を満たし、相続税の申告書で適用を受ける旨を記載する必要があります。
| 宅地の種類 | 限度面積 | 減額割合 |
| 特定居住用宅地等(自宅の敷地など) | 330㎡ | 80% |
| 特定事業用宅地等(貸付事業以外) | 400㎡ | 80% |
| 貸付事業用宅地等(賃貸物件の敷地など) | 200㎡ | 50% |
まとめ
賃貸物件の相続は、突然のことで戸惑うことも多いかと思いますが、まずは落ち着いて物件の現状を把握することから始めましょう。その上で、ご紹介した「経営継続」「売却」「相続放棄」という3つの選択肢のメリット・デメリットを比較し、ご自身の家族構成やライフプランに合った最適な方法を慎重に検討することが大切です。手続きには期限があるものも多いので、早めに動き出すことをお勧めします。もし判断に迷ったり、手続きが複雑で難しいと感じたりした場合は、税理士などの専門家に相談することも有効な手段です。
参考文献
国税庁 No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)
国税庁 No.2022 納税者が死亡したときの確定申告(準確定申告)
賃貸物件の相続に関するよくある質問まとめ
Q.賃貸物件を相続したら、まず何をすればいいですか?
A.まずは相続人全員で遺産分割協議を行い、誰が物件を相続するかを決めます。その後、相続登記(名義変更)が必要です。並行して、売却、経営継続、相続放棄のどれを選択するか検討しましょう。
Q.賃貸経営を続けるメリット・デメリットは何ですか?
A.メリットは家賃収入が継続的に得られる点です。デメリットは、空室リスクや修繕費、管理の手間がかかる点です。入居者とのトラブル対応も必要になります。
Q.相続した賃貸物件を売却する際の手順と注意点は?
A.まず不動産会社に査定を依頼し、売却価格を決めます。売却には相続登記が必須です。また、入居者がいる状態(オーナーチェンジ)で売るか、退去後に売るかで価格や売却期間が変わる点に注意が必要です。
Q.借金もある場合、相続放棄はできますか?
A.はい、可能です。相続開始を知った時から3ヶ月以内に家庭裁判所に申述すれば相続放棄ができます。物件の価値より借入金が多い場合や、管理が困難な場合に検討されます。ただし、他の財産もすべて放棄することになります。
Q.相続した賃貸物件にかかる税金には何がありますか?
A.主に「相続税」がかかります。基礎控除額を超える場合に課税対象となります。また、物件を売却して利益が出た場合は「譲渡所得税」、経営を続ける場合は家賃収入に対して「所得税」や「住民税」がかかります。
Q.相続後、入居者との契約はどうなりますか?
A.入居者との賃貸借契約は、新しいオーナー(相続人)にそのまま引き継がれます。家賃の振込先変更などを速やかに入居者に通知する必要があります。