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資産管理会社の役員報酬はいくらが妥当?損しない金額設定を解説

2025-06-16
目次

資産管理会社を設立したものの、役員報酬をいくらに設定すればいいか悩んでいませんか?役員報酬は、高すぎると税務上のリスクがあり、低すぎると節税効果が薄れてしまいます。この記事では、資産管理会社の妥当な役員報酬額について、具体的な金額や注意点を交えながら分かりやすく解説します。ご自身の状況に合った最適な金額を見つけるお手伝いができれば嬉しいです。

資産管理会社の役員報酬を決める基本ルール

役員報酬は「これくらい欲しいな」と自由に決められるわけではなく、税法上の大切なルールがあります。このルールを守らないと、せっかく支払った報酬が会社の経費として認められず、かえって税金が増えてしまうこともあるんです。まずは、これだけは押さえておきたい基本のルールを一緒に確認していきましょう。

事業年度開始から3ヶ月以内に決定する

役員報酬は、原則として「定期同額給与」というルールに沿って支払う必要があります。これは、事業年度が始まってから3ヶ月以内に株主総会などで金額を決定し、その事業年度が終わるまで毎月同じ額を支払い続ける、という決まりです。特別な理由なく事業年度の途中で金額を変えてしまうと、変更した部分が経費として認められなくなる可能性があるので注意が必要ですよ。

不相当に高額でないこと

役員報酬の金額が、その役員の仕事内容や会社の利益状況、同じような規模や業種の会社の役員報酬と比べて、あまりにも高すぎると判断された場合、税務調査で「過大役員報酬」と見なされてしまうことがあります。どのくらいの金額なら大丈夫、という明確な線引きはありませんが、常識の範囲内で、客観的に見て妥当な金額に設定することがとても大切です。

議事録を必ず作成・保管する

役員報酬の金額を決めた際には、その証拠として「株主総会議事録」や「取締役会議事録」を必ず作成し、大切に保管しておきましょう。これは、いつ、誰が、どのようにして役員報酬の金額を決めたのかを証明するための、法的にとても重要な書類です。税務調査の際にも提示を求められることがあるので、きちんと整備しておくことが安心につながります。

役員報酬額を決める3つの判断基準

「じゃあ、具体的にどうやって金額を決めればいいの?」と思いますよね。妥当な役員報酬額は、会社の状況や目的によって変わってきます。ここでは、金額を決める上で考えたい3つの大切な判断基準をご紹介します。この3つのバランスを取ることがポイントですよ。

会社の利益から考える

まず基本となるのが、会社の利益計画から逆算する方法です。役員報酬を支払った後に、会社にどれくらいの利益(内部留保)を残したいかを考えます。会社の成長のために再投資する資金や、いざという時のための運転資金を確保することはとても重要です。一般的には、役員報酬は年間の会社利益の20%以内が一つの目安とされています。まずは会社の財務を安定させることが第一歩ですね。

個人と法人の税率バランスで考える

次に考えたいのが、税金のバランスです。個人の所得にかかる所得税は、収入が増えるほど税率が高くなる「累進課税」(住民税と合わせて最大約55%)です。一方、法人税の実効税率は最大でも約33%です。個人の課税所得が900万円を超えてくると、所得税率が法人税率を上回るため、役員報酬として個人で受け取るよりも会社に利益として残した方が、全体で支払う税金が少なくなる可能性があります。この税率の境目を意識してシミュレーションすることが、賢い節税の鍵となります。

社会保険料の負担から考える

見落としがちですが、社会保険料の負担も非常に大きな要素です。役員報酬を支払うと、会社と個人の両方で健康保険料や厚生年金保険料を負担することになります。もちろん、報酬額が高くなるほど、この負担額も大きくなります。特に、報酬額が一定のラインを超えると保険料が上限に達し、それ以上報酬を増やしても手取り額があまり増えなくなるゾーンがあります。この社会保険料の負担額も計算に入れて、手取り額がどう変化するのかを確認することが大切です。

【目的別】資産管理会社の役員報酬モデルケース

あなたの目的によって、最適な役員報酬の額は変わってきます。ここでは、よくある3つの目的別に、具体的なモデルケースをご紹介します。ご自身の状況に一番近いものを参考にしてみてくださいね。

個人の手取りを最大化したい場合

「とにかく個人の手取り額を一番多くしたい!」という場合は、法人税、所得税・住民税、社会保険料の合計額が最も少なくなる「最適ポイント」を探すことになります。これは会社の利益額によって変動しますが、一般的には個人の課税所得が800万円前後になるように役員報酬を設定すると、税負担のバランスが良くなりやすいと言われています。ただし、これはあくまで目安なので、税理士などの専門家と一緒にご自身の状況に合わせた詳細なシミュレーションを行うことを強くおすすめします。

社会保険料を抑えたい場合

「社会保険料の負担をできるだけ軽くしたい」という場合は、役員報酬を意図的に低く設定する方法があります。例えば、常勤でないなどの一定の条件を満たせば、役員報酬を月額45,000円未満に設定することで、社会保険の加入義務が発生しない場合があります。また、扶養に入りたい場合など、年間収入を103万円以下130万円未満に抑えるといった調整も考えられます。ただし、将来受け取る年金額が少なくなるなどのデメリットもあるので、慎重に検討してくださいね。

相続税対策(生前贈与)をしたい場合

相続税対策として資産管理会社を活用する方法もあります。例えば、配偶者やお子さんを会社の役員にして、その働きに見合った役員報酬を支払うのです。これにより、年間110万円の非課税枠がある暦年贈与よりも効率的に、ご自身の資産を次の世代へ移転させることができます。この場合、役員報酬の金額は、そのご家族が実際に行う業務(書類整理、物件の簡単な管理、情報収集など)内容に対して妥当な金額であることが絶対条件です。例えば、年間100万円~300万円程度を支払うといった設定が考えられます。

役員報酬と合わせて活用したい節税策

役員報酬の金額を決めるだけでなく、他の制度と組み合わせることで、さらに手取り額を増やしたり、会社の経費を増やしたりすることができます。ここでは代表的な3つの方法をご紹介します。

社宅制度の活用

役員が住む家を会社名義で賃貸契約し、「社宅」として役員に貸し出す方法です。役員は会社に対して一定の家賃(賃貸料相当額)を支払う必要がありますが、この金額は一般の家賃相場よりもかなり低く設定することができます。例えば、家賃20万円の物件でも、役員の負担は1万円~2万円程度で済むケースもあります。会社が支払う家賃の大部分を経費にできるため、これは非常に節税効果の高い方法です。

出張手当(日当)の支給

会社の業務で遠方の物件を見に行ったり、研修に参加したりといった出張をした場合に、「旅費規程」という社内ルールに基づいて出張手当(日当)を支給する方法です。この日当は、受け取った役員側では所得税がかからず(非課税)、会社側では経費として計上できるという、双方にとって嬉しいメリットがあります。金額は、国内出張で1日あたり2,000円~5,000円程度が一般的な相場です。

生命保険の活用

役員を被保険者とする生命保険に会社名義で加入し、会社が保険料を支払う方法です。保険の種類や契約内容によりますが、支払った保険料の全部または一部を経費として計上することができます。将来の退職金の準備資金として活用することもでき、万が一の保障と節税を両立できる可能性があります。

役員報酬で注意すべき「過大役員報酬」とは?

役員報酬を設定する上で、最も気をつけなければいけないのが、税務署から「過大役員報酬」と判断されてしまうことです。これは、簡単に言うと「会社の状況に対して、役員報酬が高すぎますよ」と指摘されることです。そうなると大変なので、どのような場合にそう判断されるのか、しっかり理解しておきましょう。

過大と判断される基準

「いくら以上だと過大」という明確な金額基準はありません。税務署は、以下の3つのような観点から総合的に見て、その役員報酬が妥当かどうかを判断します。

判断基準 内容
実質基準 役員の仕事内容、会社の収益状況、従業員への給与の支払い状況などと比べて、不相当に高額ではないか。
形式基準 株主総会の決議など、法律で定められた正式な手続きを経て金額が決められているか。
同業他社比較 同じくらいの規模や同じ業種の会社の役員報酬の水準と比べて、著しく高額ではないか。

過大役員報酬と判断された場合のリスク

もし税務調査で過大役員報酬だと判断されてしまうと、その「高すぎる」とされた部分の金額は、会社の経費(損金)として認められなくなります。経費が減るということは、その分会社の利益が増えることになるので、追加で法人税を納めなければならなくなります。さらに、本来納めるべきだった税金を期限内に納めていなかったとして、延滞税などのペナルティも課されてしまい、結果的に大きな損失につながってしまいます。

まとめ

資産管理会社の妥当な役員報酬額は、①会社の利益、②法人税と所得税の税率バランス、③社会保険料の負担、という3つの視点から総合的に判断することが大切です。「年間利益の20%以内」「個人の課税所得が800万円前後」といった目安を参考にしつつ、社宅制度や出張手当なども賢く活用して、あなたの会社とあなた自身にとって最適な金額を見つけてくださいね。金額設定に迷ったり、具体的な税額のシミュレーションをしたくなったりした場合は、税理士などの専門家に相談することが、失敗しないための最も確実な方法です。適切な役員報酬の設定は、資産管理会社を成功させるための重要な鍵となります。

参考文献

資産管理会社の役員報酬に関するよくある質問

Q.資産管理会社の役員報酬はどのように決めるのですか?

A.株主総会の決議で上限額を定め、その範囲内で取締役会などで個別の金額を決定します。役員の職務内容、会社の利益状況、同業他社の水準などを総合的に勘案し、社会通念上妥当な金額に設定することが重要です。

Q.役員報酬をゼロ(無報酬)に設定することは可能ですか?

A.はい、役員報酬をゼロに設定することは可能です。ただし、社会保険の加入義務などに影響が出る場合があるため、専門家と相談の上で決定することをおすすめします。

Q.役員報酬が高すぎると、税務上のデメリットはありますか?

A.はい、あります。職務内容や会社の業績に比べて不相当に高額と判断された部分は、税務上の経費(損金)として認められないリスクがあります。これを「役員給与の損金不算入」といいます。

Q.資産管理会社の役員報酬に具体的な相場はありますか?

A.会社の規模や収益、役員の業務実態によって大きく異なるため、明確な相場はありません。重要なのは、なぜその金額にしたのか客観的な根拠を持って説明できることです。同業他社の水準も参考にされます。

Q.役員報酬は事業年度の途中で変更できますか?

A.原則として、事業年度の途中での自由な変更は認められていません。変更した場合、増額分などが経費として認められない可能性があります。期首から3ヶ月以内や、役員の地位の変更など特別な事情がある場合に限り変更が可能です。

Q.役員報酬を支払うと社会保険への加入は必要ですか?

A.はい、役員報酬が支払われる場合、原則として健康保険・厚生年金保険といった社会保険への加入義務が発生します。保険料は会社と役員個人で負担します。

事務所概要
社名
税理士法人プライムパートナーズ
住所
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電話番号
対応責任者
税理士 島本 雅史

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