事業承継や農業経営の引き継ぎで活用される「贈与税の納税猶予制度」。もし、この制度を利用している最中に、財産をくれた贈与者の方が亡くなられたら、猶予されていた税金はどうなるのでしょうか?「免除されるの?」「何か手続きが必要なの?」といった疑問や不安が湧いてきますよね。この制度は手続きがとても複雑で、期限を過ぎてしまうと大変なことになりかねません。今回は、贈与税の納税猶予(一般措置)を受けている間に贈与者が死亡した場合の適用措置について、やるべきことの流れや注意点を分かりやすく解説していきます。
贈与税の納税猶予(一般措置)とは?
まずは、この制度がどのようなものか、簡単におさらいしておきましょう。贈与税の納税猶予制度は、後継者が会社の株式(非上場株式)や農地などを先代経営者から贈与された際に、一定の要件を満たすことで、その贈与税の納税が猶予されるというものです。高額になりがちな贈与税の負担を一旦なくすことで、スムーズな事業承継や農業経営の継続を後押しすることを目的としています。
制度の概要と目的
この制度は、単に税金が安くなるというわけではなく、あくまで「納税が猶予される(待ってもらえる)」制度です。受贈者(財産をもらった後継者)が事業や農業を継続している限り、納税が猶予され続けます。そして、最終的に贈与者か受贈者が亡くなられた場合などに、猶予されていた税金が免除される仕組みになっています。事業などを次世代に円滑にバトンタッチするための、とても重要な制度なんです。
対象となる主な財産
納税猶予の対象となる財産は、主に事業用や農業用の財産です。代表的なものとして、以下の2つが挙げられます。
| 非上場株式等 | 後継者が会社の経営を引き継ぐために贈与された、中小企業の株式が対象です。 |
| 農地等 | 農業を続ける後継者に贈与された農地や採草放牧地などが対象となります。 |
主な適用要件
この制度を利用するには、贈与する側(贈与者)、もらう側(受贈者)、そして対象となる会社など、それぞれに細かい要件が定められています。ここでは、ごく一部ですが、主な要件をご紹介します。
| 贈与者の要件 | ・会社の元代表者であること ・農地等を3年以上営農していたこと など |
| 受贈者の要件 | ・贈与者の親族(推定相続人)であること ・18歳以上で、役員就任から一定期間が経過していること ・贈与後に会社の代表者になること など |
これらの要件は非常に複雑ですので、実際に適用を検討する際は、必ず専門家にご相談くださいね。
贈与者が死亡した場合の基本的な流れ
それでは、本題である「贈与税の納税猶予を受けている間に贈与者が亡くなられた場合」の流れを見ていきましょう。結論から言うと、猶予されていた贈与税は免除されますが、その代わりに相続税の対象に切り替わります。
猶予されていた贈与税は免除される
贈与者の方が亡くなられた場合、その時点で納税が猶予されていた贈与税は、全額が免除されます。これは受贈者にとって非常に大きなポイントです。もし、この免除がなければ、高額な贈与税を一括で納めなければならず、事業の継続が困難になる可能性もあります。贈与者の死亡によって、この贈与税の納税義務がなくなるのです。
相続税の課税対象に切り替わる(みなし相続)
贈与税は免除されますが、話はここで終わりではありません。納税猶予の対象となっていた財産(非上場株式や農地など)は、「贈与者の死亡時に、相続によって取得したもの」とみなされます。これを「みなし相続」と呼びます。
つまり、その財産は贈与者の本来の相続財産に加算され、相続税の課税対象として計算し直されることになるのです。評価額は、贈与を受けた時点の価額が適用されます。これにより、贈与税から相続税へと課税のステージが移る、とイメージしていただくと分かりやすいかもしれません。
相続税への切り替えに必要な手続き
贈与税の免除を受け、相続税の課税にスムーズに移行するためには、期限内に決められた手続きをきちんと行う必要があります。この手続きを忘れると、猶予が打ち切られてしまうので注意が必要です。
税務署への「免除届出書」の提出
まず、猶予されていた贈与税を免除してもらうために、「非上場株式等についての贈与税・相続税の納税猶予の免除届出書」といった書類を税務署に提出しなければなりません。この届出は非常に重要です。
- 提出先:受贈者(財産をもらった人)の納税地を所轄する税務署
- 提出期限:贈与者の死亡があったことを知った日から6ヶ月以内(農地等の場合)など、財産の種類によって期限が定められています。
相続税の申告
次に、みなし相続財産を含めたすべての相続財産について、相続税の申告を行う必要があります。贈与された財産を、亡くなった贈与者の遺産に加えて相続税額を計算し、申告・納税します。
- 申告期限:相続の開始があったことを知った日の翌日から10ヶ月以内
この期限も絶対に守らなければならない大切な期限です。また、贈与税の納税猶予を申請した際に税務署に提供した担保は、贈与者の死亡によって一度返還されることになります。
相続税の納税猶予への移行
みなし相続財産として相続税の対象になった後も、多くの場合、すぐに相続税を納める必要はありません。一定の要件を満たせば、今度は「相続税の納税猶予制度」に移行し、引き続き納税を猶予してもらうことが可能です。
相続税の納税猶予制度とは?
相続税の納税猶予制度も、贈与税のものと考え方は似ています。相続によって事業用の株式や農地を取得した後継者が、事業や農業を継続する場合に、その財産にかかる相続税の納税が猶予される制度です。これにより、後継者は相続税の負担を心配することなく、安心して経営に専念することができます。
移行するための手続き
相続税の納税猶予を受けるためには、相続税の申告期限(10ヶ月以内)までに、以下の手続きを行う必要があります。
- 相続税の申告書に、納税猶予の特例を受けたい旨を記載して提出する。
- 猶予される相続税額に見合った担保を新たに提供する。
この手続きをきちんと行うことで、贈与税の納税猶予から相続税の納税猶予へと切れ目なく移行することができます。
注意すべきポイント
この制度を利用する上で、特に気をつけていただきたい点を2つご紹介します。いずれも、忘れてしまうと大きなペナルティにつながる可能性があります。
各種手続きの期限は厳守!
これまで何度も触れてきましたが、この制度に関する手続きは、とにかく期限が命です。免除届出書の提出や相続税の申告、継続届出書の提出など、定められた期限を1日でも過ぎてしまうと、納税猶予が打ち切られてしまいます。その場合、猶予されていた税額の全額と、猶予期間に応じた利子税を合わせて一括で納付しなければならなくなります。スケジュール管理を徹底し、早め早めの準備を心がけましょう。
贈与者より先に受贈者が死亡した場合
万が一、贈与者よりも先に受贈者(後継者)が亡くなられた場合も、猶予されていた贈与税は免除されます。ただし、その財産は受贈者の相続財産として、その相続人(例えば受贈者の子など)に相続税が課税されることになります。この場合も、新たな相続人が事業などを引き継ぐのであれば、相続税の納税猶予を適用できる可能性があります。
まとめ
贈与税の納税猶予(一般措置)を受けている間に贈与者がお亡くなりになった場合、猶予されていた贈与税は免除され、相続税の課税へと切り替わります。そして、所定の手続きを行えば、引き続き相続税の納税猶予を受けることが可能です。ただし、そのためには「免除届出」や「相続税申告」といった手続きを、定められた厳しい期限内に正確に行うことが絶対条件です。手続きが複雑で期限も複数あるため、ご自身だけで管理するのは大変難しいかもしれません。この制度を利用されている方、またこれから利用を検討されている方は、必ず相続や事業承継に詳しい税理士などの専門家にご相談のうえ、万全の体制で進めるようにしてくださいね。
参考文献
贈与税の納税猶予に関するよくある質問まとめ
Q.贈与税の納税猶予中に贈与者が亡くなったら、猶予されていた税金はどうなりますか?
A.納税が猶予されていた贈与税は、全額免除されます。ただし、自動的に何もしなくて良いわけではなく、所定の手続きが必要です。
Q.贈与税が免除された後、何か手続きは必要ですか?
A.はい、必要です。贈与者の死亡を知った日から6ヶ月以内(農地等の場合)に、受贈者の納税地を所轄する税務署へ「免除届出書」を提出する必要があります。
Q.贈与された財産は相続税の対象になりますか?
A.はい、対象になります。贈与税が免除された財産は「相続によって取得したもの」とみなされ(みなし相続)、贈与者の相続財産に加算して相続税が計算されます。
Q.相続税も納税猶予を受けられますか?
A.はい、可能です。相続税の申告期限(相続開始を知った日の翌日から10ヶ月以内)までに、納税猶予を受けたい旨を記載した申告書を提出し、新たに担保を提供することで、相続税の納税猶予制度へ移行できます。
Q.手続きの期限はいつまでですか?
A.主に2つの期限があります。1つは贈与税の「免除届出書」の提出期限(死亡を知ってから6ヶ月以内など)、もう1つは「相続税の申告」の期限(死亡を知った日の翌日から10ヶ月以内)です。どちらも厳守する必要があります。
Q.もし手続きを忘れたらどうなりますか?
A.期限内に手続きを行わないと、納税猶予が打ち切りになります。その場合、猶予されていた贈与税の全額と、それに対する利子税を合わせて一括で納付しなければならなくなります。