誰かから財産をもらったときにかかる「贈与税」。実は、財産をもらった人(受贈者)がどこに住んでいるか、どの国の国籍かによって、税金がかかる財産の範囲が変わってくるんです。特に、ご家族が海外に住んでいたり、国際結婚をされていたりすると、「これって贈与税の対象になるの?」と不安になりますよね。この記事では、少し複雑な贈与税の納税義務者について、「無制限納税義務者」と「制限納税義務者」という2つのキーワードを軸に、居住者・非居住者の違いも交えながら、できるだけ分かりやすく解説していきます。
贈与税の納税義務者には種類がある?
贈与税を納める義務がある人を「納税義務者」といいます。この納税義務者は、財産をもらった人(受贈者)の状況によって、大きく2つのタイプに分けられます。それが「無制限納税義務者」と「制限納税義務者」です。この2つの最も大きな違いは、「どの範囲の財産に税金がかかるか」という点です。この区分を理解するために、まずは「居住者」と「非居住者」という言葉を知っておきましょう。
納税義務者の2つの区分:無制限納税義務者と制限納税義務者
贈与税の納税義務者は、課税される財産の範囲によって2つに分類されます。この違いを理解することが、国際的な贈与を考える上での第一歩になります。
| 無制限納税義務者 | 日本国内にある財産はもちろん、海外にある財産もすべて贈与税の課税対象になります。 |
| 制限納税義務者 | 日本国内にある財産のみが贈与税の課税対象となり、海外の財産には課税されません。 |
このように、自分がどちらに当てはまるかで、納税の範囲が大きく変わってくるんですね。
「住所」の考え方がカギ!居住者と非居住者
納税義務者を分ける重要なポイントが、財産をもらった時点での「住所」です。税法上の「住所」は、単純に住民票がある場所ではなく、「生活の本拠(生活の中心地)」がどこにあるかで判断されます。たとえば、留学や海外出張などで一時的に海外にいても、生活の基盤が日本にあれば「居住者」と判断されることがあります。
| 居住者 | 贈与を受けた時に、日本国内に住所がある人を指します。 |
| 非居住者 | 贈与を受けた時に、日本国内に住所がない人を指します。 |
国内も国外もすべて課税対象!無制限納税義務者とは
無制限納税義務者に該当すると、贈与された財産が日本にあっても海外にあっても、そのすべてが日本の贈与税の課税対象となります。無制限納税義務者は、さらに「居住」か「非居住」かで2つのタイプに分けられます。
居住無制限納税義務者
財産をもらった時に日本国内に住所がある人が「居住無制限納税義務者」です。これは最もシンプルなケースで、国籍に関わらず、日本に住んでいる人が財産をもらったら、国内外すべての財産に贈与税がかかります。
例えば、日本に住んでいるAさんが、アメリカに住む親からハワイの不動産を贈与された場合、そのハワイの不動産も日本の贈与税の対象となるのです。
非居住無制限納税義務者
こちらは少し複雑です。財産をもらった時に日本に住んでいない(非居住者)けれど、特定の条件を満たす人が「非居住無制限納税義務者」となります。主な条件は以下の通りです。
- 財産をもらった人が日本国籍であること
- 財産をあげた人(贈与者)またはもらった人(受贈者)のどちらかが、贈与があった日からさかのぼって10年以内に日本に住所があったこと
これは、贈与税を避けるために一時的に海外へ移住する、といったケースを防ぐためのルールです。海外に住んでいても、比較的最近まで日本に住んでいた場合は、日本に住んでいる人と同じように、全世界の財産が課税対象になるということですね。
国内財産のみが課税対象!制限納税義務者とは
制限納税義務者は、贈与税が課される範囲が日本国内にある財産に限定(制限)される人です。つまり、海外にある財産を贈与されても、日本の贈与税はかかりません。
どんな人が制限納税義務者になるの?
簡単に言うと、これまで説明してきた「無制限納税義務者」に当てはまらない人が「制限納税義務者」になります。具体的には、以下のようなケースが考えられます。
- ケース1:財産をもらった時に日本国籍がなく、日本国内に住所もない人(贈与者も一定の条件を満たす必要があります)。
- ケース2:財産をもらった時に日本国籍はあるものの日本国内に住所はなく、かつ、財産をあげた人ももらった人も過去10年間、日本に住所がなかった人。
例えば、ずっとアメリカに住んでいるアメリカ国籍のBさんが、同じくアメリカ在住の親からアメリカ国内の預金を贈与されても、日本の贈与税はかかりません。しかし、もし日本の不動産を贈与された場合は、その不動産に対しては日本の贈与税がかかることになります。
ちょっと特殊なケース:一時居住者とは?
日本で働く外国人の方などに関係するのが「一時居住者」という考え方です。これは、無制限納税義務者の中でも少しだけ扱いが異なる特別なケースです。
一時居住者の定義
一時居住者とは、以下の両方を満たす人です。
- 贈与を受けた時に、在留資格をもって日本に住んでいる。
- 贈与があった日からさかのぼって15年間のうち、日本に住所があった期間の合計が10年以下である。
一時居住者の課税範囲
一時居住者が、海外に住んでいる人(贈与前10年以内に日本に住所がないなどの条件を満たす非居住者)から国外財産をもらった場合、その国外財産は日本の贈与税の対象外となります。
これは、日本で働くために短期的に滞在している外国人の方の、本国にある財産のやり取りにまで日本の税金が及ばないようにするための配慮と言えます。
納税義務者の判定フローとまとめの表
ここまで見てきたように、贈与税の納税義務者の判定は少し複雑です。ご自身がどのタイプに当てはまるか、フローチャートと一覧表で確認してみましょう。
私はどれ?納税義務者判定フロー(簡易版)
Step 1: 贈与を受けた時、日本に住所はありますか?
- はい → 基本的に「居住無制限納税義務者」です。(ただし一時居住者の特例あり)
- いいえ → Step 2へ
Step 2: 日本国籍を持っていますか?
- はい → Step 3へ
- いいえ → 基本的に「制限納税義務者」です。(ただし贈与者の状況により無制限納税義務者になる場合あり)
Step 3: あなた、または財産をくれた人が、過去10年以内に日本に住んでいましたか?
- はい → 「非居住無制限納税義務者」です。
- いいえ → 「制限納税義務者」です。
※上記はあくまで簡易的な判定です。正確な判定には贈与者の状況なども含めた詳細な確認が必要です。
納税義務者の種類と課税範囲の一覧表
最後に、納税義務者の種類と課税対象となる財産の範囲を一覧表で整理します。
| 納税義務者の種類 | 課税対象となる財産の範囲 |
| 居住無制限納税義務者 | 国内財産 + 国外財産(全世界の財産) |
| 非居住無制限納税義務者 | 国内財産 + 国外財産(全世界の財産) |
| 制限納税義務者 | 国内財産のみ |
まとめ
贈与税の納税義務者は、財産をもらった人の「住所」「国籍」「過去の居住歴」など、様々な要因で決まります。特に重要なポイントは、無制限納税義務者になれば国内外すべての財産が、制限納税義務者であれば国内財産のみが課税対象になるという点です。
グローバル化が進む現代では、海外の家族との間で財産のやり取りをすることも珍しくありません。そのような時に思わぬ税金の負担で慌てないためにも、ご自身の状況を正しく把握することが大切です。もし判断に迷う場合や、具体的な手続きについて不安な点がある場合は、税理士などの専門家に相談することをおすすめします。
参考文献
贈与税の納税義務者に関するよくある質問まとめ
Q. 贈与税は誰が払うのですか?
A. 贈与税は、原則として財産をもらった人(受贈者)が納税義務者となります。財産をあげた人(贈与者)ではありません。
Q. 贈与税の「無制限納税義務者」とは何ですか?
A. 「無制限納税義務者」とは、国内・国外を問わず、もらった全ての財産に対して贈与税が課される人のことです。贈与時に日本国内に住所がある「居住者」などが該当します。
Q. 贈与税の「制限納税義務者」とはどんな人ですか?
A. 「制限納税義務者」とは、日本国内にある財産をもらった場合にのみ贈与税が課される人のことです。贈与時に日本国内に住所がない「非居住者」などが該当します。
Q. 贈与税の「居住者」と「非居住者」の区別は何ですか?
A. 贈与税法上、「居住者」は日本国内に住所がある人、または1年以上日本に居所がある人のことです。「非居住者」はそれ以外の人を指します。この区別によって、課税される財産の範囲が変わります。
Q. 海外に住んでいる親から、海外の銀行預金をもらいました。贈与税はかかりますか?
A. はい、あなたが日本に住んでいる「居住者」であれば、無制限納税義務者となるため、もらった財産が海外にあっても贈与税の対象となります。基礎控除額を超える場合は申告が必要です。
Q. 私も親もずっと海外暮らしです。日本の贈与税は関係ありますか?
A. 贈与者・受贈者の国籍や居住期間によりますが、日本国内にある不動産などをもらった場合は、「制限納税義務者」としてその国内財産に対して贈与税が課されます。国外財産については課税されない場合があります。