ご家族が遺した財産の中に、「車は通行できないけれど、通り抜けはできる公衆用道路」が含まれていたら、その土地の価値をどう評価すればいいか悩んでしまいますよね。見た目はただの小道や階段なので、評価はゼロで良いのでは?と思いがちですが、実は相続税の計算では評価が必要になるケースもあるんです。この記事では、そんな少し特殊な公衆用道路の評価について、基本的なルールから具体的な判断ポイントまで、分かりやすく解説していきます。
まずは基本!公衆用道路の相続税評価の考え方
相続税の土地評価において、その土地が「道路」としてどのように利用されているかは、評価額を左右する非常に大切なポイントです。まずは、基本となる「公衆用道路」の評価ルールについておさらいしておきましょう。
不特定多数が利用する道は評価ゼロが原則
公道から別の公道へ通り抜けができる私道や、その道の先に公園や商店街などがあって、近所の人だけでなく誰もが日常的に利用するような道は、「公共性が非常に高い」と判断されます。このような不特定多数の者の通行の用に供されている私道は、土地の所有者であっても自由にフェンスを立てたり、売却したりすることができないため、財産的な価値はほとんどないと考えられています。そのため、相続税評価額は原則として0円(評価しない)として扱われます。
特定の人しか使わない道は30%評価
一方で、いわゆる「行き止まり私道」や「袋小路」のように、その道に面した家の人など、利用者が特定の人に限られる私道もありますよね。このような私道は、公共の通行はありますが、利用者が限定的です。そのため、完全に自由に使えないという制約を考慮しつつも、一定の財産価値があると考えられています。具体的には、その私道を通常の宅地(自用地)として評価した価額の30%に相当する価額で評価することになります。
「公衆用道路」の登記と固定資産税の非課税は別問題
ここで一つ注意したいのが、「登記地目が公衆用道路で、固定資産税も非課税だから、相続税もかからないはず」という思い込みです。固定資産税と相続税は、それぞれ異なる目的を持つ税金です。そのため、市町村が固定資産税を非課税としていても、相続税の評価では現況の利用状況が優先されます。もし、その道が特定の人しか利用していない「行き止まり私道」のような状況であれば、たとえ固定資産税が0円でも、相続税の評価(30%評価)は必要になるので注意しましょう。
【本題】車が通れない公衆用道路はどう評価する?
それでは、今回のテーマである「袋小路ではないが、車は通行できない公衆用道路」の評価はどうなるのでしょうか。例えば、遊歩道やあぜ道、階段になっている通路などがこれにあたります。この評価の最大のポイントは、やはり「不特定多数の者の通行の用に供されているか」という利用実態をどう判断するか、という点に尽きます。
「通り抜け可能」でも評価が必要なケース
たとえ公道から公道へ通り抜けできる形状であっても、その道が非常に狭かったり、階段だったりして、実質的に利用するのが近隣住民に限られるような場合はどうでしょうか。このような道は、形式的には通り抜けが可能でも、実態としては「専ら特定の者の通行の用に供するもの」、つまり行き止まり私道と同じように扱われる可能性があります。その場合、評価額は0円ではなく、30%評価が必要になるのです。車が通れない道は、このケースに当てはまるかどうかを慎重に検討する必要があります。
評価は利用者の範囲で決まる
結局のところ、車が通れるかどうかは直接の判断基準ではありません。重要なのは、その道が「誰のためにあるのか」です。
評価が0円になる可能性が高いケース | その道を通らないと駅やバス停、商店街、公共施設などに行けず、不特定多数の人が日常的に利用している場合。 |
30%評価になる可能性が高いケース | 主にその道沿いの住民だけが利用する生活道路で、他の人が通る必要性があまりない場合。 |
このように、見た目や形状だけでなく、その道が地域社会で果たしている役割を客観的に見て判断することが大切です。
歩道状空地との違い
マンションや店舗の敷地内で、公道に沿って歩道のように整備されたスペースを「歩道状空地」といいます。これも評価が似ていますが、以下の要件を満たす場合に評価が0円となります。
1. 開発行為の許可を受けるために、地方公共団体の指導などによって整備されたものであること。
2. 道路に沿って、歩道として舗装されていること。
3. 居住者など以外の人でも自由に通行できる状態であること。
ご自身の土地がこれに該当するかどうかも確認してみましょう。
私道(公衆用道路)の評価方法を具体的に見てみよう
もし、お持ちの公衆用道路が30%評価の対象となった場合、具体的にどのように評価額を計算するのかを見ていきましょう。評価方法は、その土地が「路線価地域」にあるか「倍率地域」にあるかで異なります。
路線価地域の場合
路線価が定められている地域では、まずその私道を通常の宅地と仮定して評価額を計算します。そして、その計算結果に30%を掛けて最終的な評価額を算出します。
計算式: (路線価 × 各種補正率 × 地積) × 30%
各種補正率には、土地の形や奥行きに応じた補正が含まれます。
倍率地域の場合
路線価が定められていない地域では、固定資産税評価額に国税庁が定める倍率を掛けて評価額を計算します。ここで注意が必要なのは、私道であることを理由に減額された固定資産税評価額をそのまま使わないことです。市役所などで「私道でないものとして評価した固定資産税評価額」を確認し、その金額を使って計算する必要があります。
計算式: (私道でないとした場合の固定資産税評価額 × 倍率) × 30%
評価を間違えないための注意点
公衆用道路の評価は判断が難しく、評価を誤ると納税額に大きな影響が出てしまいます。評価を行う際には、以下の点に注意してください。
現地確認と資料収集は必須
土地評価の基本は「現況主義」です。登記簿や公図などの書類だけでなく、必ず現地を訪れて、誰がどのようにその道を利用しているかを自分の目で確認することが不可欠です。周辺の地図や航空写真で人の流れを確認することも、客観的な判断材料として非常に役立ちます。
共有私道の場合は持ち分で按分する
私道を近隣の住民と複数人で共有しているケースも多いです。この場合、まず私道全体を一つの土地として評価額を計算します。その後、その評価額にご自身が所有している共有持分の割合を掛けて、相続財産としての評価額を算出します。全体の評価額をそのまま計上しないように注意してください。
小規模宅地等の特例が使えることも
もしその私道が、アパートの敷地(貸付事業用宅地)など、小規模宅地等の特例の対象となる宅地の維持や利用に欠かせないものである場合、その私道部分も特例の対象に含められる可能性があります。これが適用できれば相続税を大幅に抑えることができるので、見逃さないようにしましょう。
判断に迷ったら専門家へ相談を
「この道は不特定多数が使っていると言えるのだろうか?」「近所の人しか通らないけど、たまに配達員も通る場合は?」など、公衆用道路の評価は、個別の事情によって判断が大きく分かれる非常に難しい分野です。評価額を0円とするか30%とするかで、相続税額は何十万円、何百万円と変わってくることもあります。
ご自身での判断に少しでも不安を感じたら、相続案件の経験が豊富な税理士に相談することをおすすめします。専門家は、現地の状況や過去の裁決事例などを基に、適切な評価方法を導き出してくれます。
まとめ
今回は、袋小路ではないが車が通行できない公衆用道路の評価について解説しました。重要なのは、土地の形状や登記地目といった形式的なことではなく、「不特定多数の人が日常的に利用しているか」という利用実態で判断するということです。評価額が0円になるか30%評価になるかで納税額が大きく変わるため、慎重な判断が求められます。
評価のポイント | 内 容 |
評価ゼロの道 | 不特定多数の人が通行の用に供している公共性の高い道。 |
30%評価の道 | 特定の人のみが通行の用に供している私的な利用が主となる道。 |
判断基準 | 登記地目や固定資産税の課税状況ではなく、現況の利用実態で判断する。 |
注意点 | 車が通れない道でも、利用者が限定的なら30%評価の可能性あり。 |
ご自身のケースでどちらに該当するのか判断に迷う場合は、決して自己判断せず、必ず専門家である税理士に相談しましょう。正しい評価で、適切な相続税申告を行うことが、後々のトラブルを防ぐ最善の方法です。
参考文献
車が通れない道路に面した土地評価のよくある質問まとめ
Q. 車が通れない公衆用道路に接する土地は、評価が低くなりますか?
A. はい、一般的に評価額は低くなる傾向があります。車両が進入できないため、建築時の資材搬入コストの増加や、日常生活での利便性が低いと判断されることが主な理由です。
Q. 車が通れない道ですが、家の建て替え(再建築)は可能ですか?
A. 建築基準法上の道路に2m以上接道していれば、原則として再建築は可能です。ただし、道路の状況や自治体の条例によって判断が異なるため、購入や建築前には必ず役所の建築指導課への確認が必要です。
Q. 評価額は、周辺の相場と比べてどのくらい下がりますか?
A. 一概には言えませんが、周辺相場の10%~30%程度、場合によってはそれ以上減額されることがあります。道路の幅や状態、最寄りの駐車可能な場所からの距離など、個別の条件によって減価割合は変動します。
Q. 車両が通行できない土地は、売却しにくいのでしょうか?
A. 一般的な土地に比べると買い手が限定されるため、売却に時間がかかるケースはあります。しかし、価格設定を適正にしたり、隣地の所有者に購入を打診したり、専門の不動産会社に依頼したりすることで売却の可能性は高まります。
Q. 相続税を計算する際の評価額も低くなりますか?
A. はい、相続税評価額(路線価方式)を計算する際にも、車両が通行できない状況は「利用価値が著しく低い宅地」として減額要因になります。専門的な判断が必要なため、税理士や不動産鑑定士への相談をおすすめします。
Q. 車が通れないことによるメリットはありますか?
A. 車両の通行がないため、排気ガスや騒音が少なく、静かで安全な住環境が保たれやすいというメリットがあります。また、相場より安く購入できる可能性があるため、立地や価格を重視する方には魅力的な物件となることもあります。