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近傍宅地評価額とは?相続税の土地評価で損しないための知識

2025-03-22
目次

ご家族が亡くなられて土地を相続したとき、「この土地の価値は一体いくらなんだろう?」と不安に感じますよね。特に、都市部から少し離れた地域など、道路に値段がついていない「路線価」が定められていない土地の評価は、とても複雑で分かりにくいものです。そこで登場するのが「近傍宅地評価額(きんぼうたくちひょうかがく)」というキーワードです。この評価額を正しく理解することが、適正な相続税申告の第一歩になります。この記事では、近傍宅地評価額とは何か、どのように調べて計算するのか、初心者の方にも分かりやすく、丁寧にご説明していきますね。

近傍宅地評価額ってそもそも何?

まずは、「近傍宅地」という言葉そのものから見ていきましょう。聞き慣れない言葉かもしれませんが、意味が分かれば「なるほど!」となるはずですよ。

近傍宅地(きんぼうたくち)とは

近傍宅地とは、簡単に言うと「評価したい土地のご近所にある、状況が似ている宅地」のことです。評価対象の土地そのものではなく、その土地を評価するための「ものさし」として使われる、近所の代表的な宅地を指します。具体的には、評価したい土地に最も近くて、道路からの位置や土地の形、周辺の環境などが一番似ている宅地が選ばれます。

なぜ近傍宅地評価額が必要になるの?

では、なぜわざわざご近所の土地の評価額が必要になるのでしょうか。それは、すべての土地に相続税評価の基準となる「路線価」が設定されているわけではないからです。路線価が定められていない地域にある土地の評価額を出すために、代わりに近傍宅地の評価額を参考にする必要があるのです。主に、次のような土地を評価する際に使われます。

  • 市街地にある農地(市街地農地)
  • 山林や原野
  • 駐車場や資材置き場などの雑種地(ざっしゅち)

これらの土地は宅地ではありませんが、「もしこの土地が宅地だったらいくらになるか」という考え方で評価するため、基準となる近傍「宅地」の評価額が必要になるんですね。

「倍率地域」と「路線価地域」の違い

土地の相続税評価方法は、その土地が「路線価地域」にあるか「倍率地域」にあるかで大きく異なります。近傍宅地評価額が重要になるのは、主に「倍率地域」です。ご自身の土地がどちらに該当するのか、国税庁のウェブサイトで確認できますので、一度調べてみましょう。

路線価地域 主に市街地にあり、道路ごとに1㎡あたりの価格(路線価)が定められている地域です。土地の評価は「路線価 × 面積」を基本に計算します。
倍率地域 主に郊外や農村部にあり、路線価が定められていない地域です。土地の評価は「固定資産税評価額 × 国税庁が定める倍率」で計算するのが基本ですが、雑種地などの評価では近傍宅地を基準にする「近傍地比準価額方式」が使われます。

近傍宅地評価額の調べ方

近傍宅地の評価額は、自分で勝手に決めることはできません。公的な機関で確認する必要があります。調べ方は意外とシンプルですので、安心してくださいね。

市区町村の役所で確認するのが基本

近傍宅地の1㎡あたりの固定資産税評価額は、評価したい土地がある市区町村の役所(資産税課など)で調べることができます。具体的には、評価対象地の「固定資産税評価証明書」を取得する際に、窓口で「備考欄に近傍宅地の評価額を記載してください」とお願いする方法が一般的です。

申請時に伝えるべきこと

役所の窓口でスムーズに手続きを進めるために、なぜその情報が必要なのかを明確に伝えることが大切です。例えば、以下のように伝えてみましょう。

「相続税申告のために、この土地(評価対象地)の評価額を計算する必要があります。つきましては、評価の基準となる近傍宅地の1平方メートルあたりの固定資産税評価額を、評価証明書の備考欄などに記載していただけますでしょうか。」

このように伝えれば、担当の方も理解しやすく、対応してもらいやすくなりますよ。

近傍宅地を使った土地評価額の計算方法

近傍宅地の評価額が分かったら、いよいよ評価対象の土地の評価額を計算します。少し専門的になりますが、計算式の仕組みを理解すれば、流れはつかめるはずです。

基本的な計算方法「近傍地比準価額方式」

倍率地域にある雑種地などを評価する際には、「近傍地比準価額方式(きんぼうちひじゅんかがくほうしき)」という方法が使われます。これは、調べた近傍宅地の評価額をベースに、評価対象地ならではの個別の事情(土地の形が悪い、宅地にするのに費用がかかるなど)を考慮して、評価額を調整していく計算方法です。

計算式を分解して見てみよう

市街化区域にある雑種地を評価する場合の計算式は、おおむね以下のようになります。

(近傍宅地の1㎡あたり評価額 × 各種補正率 - 1㎡あたりの造成費) × 土地の面積 = 土地の評価額

この式の中にある「各種補正率」や「造成費」が、評価額を適正な価格に調整するための重要な要素になります。これらについては、次の章で詳しくご説明しますね。

具体的な計算例

少しイメージが湧きやすいように、簡単な例で見てみましょう。

  • 評価したい土地:市街化区域にある雑種地 200㎡
  • 近傍宅地の1㎡あたり固定資産税評価額:100,000円
  • 宅地の評価倍率:1.1
  • 画地補正率など:考慮しない(1.0とする)
  • 1㎡あたりの造成費:3,000円

この場合、まず近傍宅地の1㎡あたりの相続税評価額を計算します。
100,000円 × 1.1 = 110,000円

次に、造成費を引いて評価対象地の1㎡あたりの単価を出します。
110,000円 - 3,000円 = 107,000円

最後に、土地の面積を掛け合わせます。
107,000円 × 200㎡ = 21,400,000円

これがこの雑種地の評価額となります。実際には、土地の形状などに応じた補正が入るため、計算はさらに複雑になります。

評価額を左右する重要なポイント「画地補正」と「造成費」

先ほどの計算式に出てきた「補正率」や「造成費」は、土地の評価額を大きく下げる可能性がある、とても大切な要素です。知っているかどうかで、相続税額が変わることもあります。

画地補正(がくちほせい)とは?

画地補正とは、土地の個性や使いにくさを評価額に反映させるための調整のことです。例えば、きれいな長方形の土地と、いびつな三角形の土地では、使いやすさが全く違いますよね。画地補正では、そうしたマイナス面を評価額から差し引いてくれます。代表的な補正には以下のようなものがあります。

奥行価格補正 奥行きが長すぎたり短すぎたりする場合に評価額を減額します。
不整形地補正 土地の形が正方形や長方形でない場合に評価額を減額します。
間口狭小補正 道路に接している部分(間口)が狭い場合に評価額を減額します。

これらの補正を適用することで、土地の評価額を下げ、結果的に相続税の負担を軽くできる可能性があります。

造成費とは?

造成費とは、農地や山林、雑種地などを宅地として利用できるように、地面をならしたり、土を盛ったり、土留めの壁を作ったりするためにかかる工事費用のことです。評価対象の土地はまだ宅地ではないため、「宅地にするならこれくらいの費用がかかるはず」という金額を、評価額から差し引くことができるのです。この造成費の金額は、国税庁が都道府県ごとに定めており、ウェブサイトで確認できます。

雑種地の評価は特に注意が必要

近傍宅地評価額を使って評価することが多い「雑種地」は、その状況によって評価方法が大きく変わるため、特に注意が必要です。

雑種地とはどんな土地?

雑種地とは、不動産登記法で定められた23種類の地目のうち、宅地、田、畑、山林など他の22種類に当てはまらない土地のことを指します。具体的には、駐車場、資材置き場、ゴルフ場、テニスコート、そして特に利用されていない空き地などが該当します。

市街化調整区域にある雑種地の評価

特に評価が難しいのが、建物の建築などが制限されている「市街化調整区域」にある雑種地です。この区域にある雑種地は、周辺の状況によって評価額が大きく変わります。

  • 宅地に近いものとして評価する場合:周辺に住宅や店舗が立ち並び、実質的に宅地と変わらないような状況であれば、近傍宅地を基準に評価します。
  • 農地や山林に近いものとして評価する場合:周りが田んぼや山林ばかりで、宅地としての利用が見込めない場合は、農地や山林の評価額を基準にします。

さらに、宅地に近いものとして評価する場合でも、市街化調整区域という建築制限があることを考慮して、評価額を減額する「斟酌(しんしゃく)」という考え方があります。建物の建築が難しい地域などでは、評価額が最大で50%減額されることもあり、非常に大きな影響があります。

まとめ

今回は、近傍宅地評価額について詳しく解説しました。最後に、大切なポイントをもう一度おさらいしましょう。

  • 近傍宅地とは、路線価のない「倍率地域」の土地を評価するための基準となる、近所の類似した宅地のことです。
  • 近傍宅地の評価額は、市区町村の役所で固定資産税評価証明書を取得する際に確認できます。
  • 評価額の計算は、近傍宅地の評価額を基に、土地の形に応じた「画地補正」や、宅地にするための「造成費」を考慮して行います。
  • 特に駐車場や空き地などの雑種地の評価は複雑で、所在地や周辺環境によって評価方法が大きく変わるため注意が必要です。

土地の評価は相続税額に直結する非常に重要な作業ですが、専門的な知識が必要な場面も少なくありません。もしご自身での評価に少しでも不安を感じたら、相続に詳しい税理士などの専門家に相談することをおすすめします。正しい評価で、安心して相続手続きを進めてくださいね。

参考文献

近傍宅地評価額のよくある質問まとめ

Q.近傍宅地評価額とは何ですか?

A.路線価が設定されていない地域の土地を評価する際に基準となる、近隣の状況が似た宅地の1平方メートルあたりの評価額のことです。主に相続税や贈与税の計算で用いられます。

Q.近傍宅地評価額はどのような時に使いますか?

A.路線価が定められていない「倍率地域」にある土地の相続税評価額を算出する際に使用します。具体的には、その土地の固定資産税評価額に、評価倍率表に記載された一定の倍率を乗じて評価額を計算します。

Q.近傍宅地評価額はどこで調べられますか?

A.国税庁のホームページで公開されている「財産評価基準書 路線価図・評価倍率表」で確認できます。評価したい土地が所在する地域の評価倍率表をご覧ください。

Q.路線価や固定資産税評価額との違いは何ですか?

A.路線価は主要な道路に面する土地の評価額で、都市部で使われます。近傍宅地評価額は路線価がない地域での基準となります。固定資産税評価額は、固定資産税を計算するためのもので、相続税評価とは目的が異なります。

Q.近傍宅地評価額は自分で計算するものですか?

A.いいえ、近傍宅地評価額自体は国税庁が定めた金額であり、自分で計算するものではありません。この評価額を基に、所有する土地の相続税評価額を計算することになります。

Q.近傍宅地評価額は毎年変わりますか?

A.はい、地価の変動などを反映して毎年見直しが行われます。そのため、土地を評価する際は、その年の1月1日時点で公表されている最新の評価額を確認する必要があります。

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