ご家族が亡くなられた後の相続手続きでは、預貯金や不動産だけでなく、故人が大切にされていた自動車や家具、骨董品なども相続財産として申告する必要があります。その際に作成するのが「一般動産及び船舶の評価明細書」です。一見難しそうに聞こえるかもしれませんが、ポイントを押さえればご自身でも作成できます。この記事では、誰にでも分かるように、評価明細書の書き方をステップごとに優しく解説していきますね。
一般動産及び船舶の評価明細書とは?
この書類は、相続税を計算する上で、不動産や預貯金以外の財産、つまり「動く財産(動産)」の価値がいくらになるのかを計算し、税務署に報告するための公式な書類です。故人が所有していた自動車や貴金属、船舶などの価値を一つひとつ評価し、その明細を記載します。正しく財産を評価し、申告漏れを防ぐためにとても大切な書類なんですよ。
どんなものが「一般動産」にあたるの?
「一般動産」と聞いてもピンとこないかもしれませんが、私たちの身の回りにある多くのものが該当します。具体的には、以下のようなものが挙げられます。
- 家庭用財産:テレビ、冷蔵庫、パソコン、家具、応接セットなど
- 車両・運搬具:自動車、バイクなど
- 貴金属・美術品など:宝石、時計、絵画、書画、骨董品、彫刻など
- その他:ゴルフ会員権(※)、電話加入権、事業用の機械や器具備品など
- 船舶:プレジャーボート、ヨットなど
※ゴルフ会員権は専用の評価明細書がないため、この様式を使うことがあります。
評価の基本ルール「時価」とは
相続財産を評価するときの基本中の基本は、相続が開始した日(故人が亡くなった日)の「時価」で評価するということです。「時価」とは、簡単に言うと「その時点でもし売ったらいくらになるか」という客観的な価値のことです。専門的には、実際に同じようなものが売買された価格である「売買実例価額」や、その道のプロ(鑑定士など)が評価した「精通者意見価格」などを参考にして決められます。
評価単位の考え方
原則として、財産は1個または1組ごとに評価します。例えば、自動車なら1台ごと、応接セットなら1組ごとですね。ただし、例外もあります。テレビや冷蔵庫、タンスといった家庭用財産で、1個または1組の価額が5万円以下のものについては、個別に評価せず「家庭用財産一式」としてまとめて評価することが認められています。これにより、手続きの負担が少し軽くなりますね。
評価明細書の入手方法と基本情報の書き方
「一般動産及び船舶の評価明細書」の用紙は、国税庁のウェブサイトからダウンロードできますので、まずはそちらを準備しましょう。書類を手に入れたら、上部にある基本情報から記入していきます。
被相続人情報と相続開始日の記入
書類の一番上には、亡くなられた方(被相続人)の情報を書く欄があります。
- 被相続人の氏名:故人のお名前を正確に記入します。
- 相続開始年月日:故人が亡くなられた年月日を記入します。
これらの情報は、戸籍謄本や死亡診断書で確認しながら、間違いのないように丁寧に書きましょう。
提出先税務署の確認
書類の左上には提出先の税務署名を記入する欄があります。提出先は、故人(被相続人)が亡くなった時点での住所地を管轄する税務署になります。どこの税務署か分からない場合は、国税庁のウェブサイトで調べることができますよ。
「財産の明細」欄の具体的な書き方
ここからが評価明細書のメイン部分です。故人が残された財産について、一つひとつ詳しく情報を書き込んでいきます。項目ごとに見ていきましょう。
種類・銘柄・作者号・形式・年式等
この欄には、誰が見てもその財産を特定できるように、できるだけ詳しい情報を記入します。情報の詳しさが、評価の客観性を高めるポイントになります。
財産の種類 | 記入例 |
---|---|
自動車 | トヨタ プリウス、年式:令和2年、車台番号:ZVW51-1234567 |
絵画 | 東山魁夷「緑響く」、リトグラフ、限定200部のうち第50番 |
家庭用財産(まとめて評価) | 家庭用財産(家具・家電製品)一式 |
数量
財産の数を記入します。「1台」「1点」「1客」「1式」など、その財産に合った単位で書きましょう。家庭用財産をまとめて評価する場合は「1式」と記入します。
所在場所
その財産が相続開始時にどこにあったのかを記入します。具体的に「被相続人宅の居間」「〇〇銀行△△支店の貸金庫」のように書くと分かりやすいです。
評価額の計算方法
評価額をどのように算出したのか、その根拠を記入する最も重要な部分です。評価額そのものではなく、「なぜその金額になったのか」という計算の過程を示します。例えば、「〇〇自動車査定価格」「〇〇美術商の鑑定評価額」のように記載します。
ケース別!一般動産の評価額の求め方
「時価で評価すると言っても、どうやって調べればいいの?」と迷ってしまいますよね。ここでは、代表的な財産の種類別に、具体的な評価額の調べ方をご紹介します。
自動車・バイク
最も一般的で信頼性が高い方法は、中古車買取業者に査定を依頼し、査定書を出してもらうことです。複数の業者に見積もりを取ると、より客観的な価格が分かります。インターネットの一括査-定サイトなどを参考に、相続開始日時点での買取価格相場を調べて記載することも可能です。その場合は、参考にしたサイトのページを印刷して保管しておきましょう。
家具・家電などの家庭用財産
前述のとおり、1点5万円以下のものは「家庭用財産一式」としてまとめて評価できます。明確な売値がつきにくいものがほとんどなので、リサイクルショップの買取相場などを参考に、社会通念上妥当と思われる金額(例えば5万円~30万円程度)を一括で計上することが実務上多いです。明らかに高価なブランド家具などがある場合は、個別に評価が必要です。
貴金属・宝石類
金やプラチナなどの地金は、相続開始日の貴金属買取業者の買取価格(グラム単価)に重量を掛けて計算します。宝石がついたジュエリーなどは、専門の買取業者に査定を依頼するのが確実です。査定書は必ず保管しておきましょう。
書画・骨董品・美術品
これらの品物は価値の判断が非常に難しいため、専門の美術商や鑑定士に評価を依頼するのが最も安全です。専門家による評価は「精通者意見価格」として、税務署も認める信頼性の高い評価額となります。鑑定には費用がかかる場合もありますが、高額な相続税を避けるため、また後のトラブルを防ぐためにも専門家の力を借りることをお勧めします。
船舶(ボート・ヨットなど)
船舶も自動車と同じように考えます。船舶を専門に扱う販売店や買取業者に連絡し、査定を依頼しましょう。年式や状態、装備品などによって価格が大きく変わるため、専門家による査定額を基に評価するのが最も適切な方法です。
減価償却による評価額の計算方法(参考)
売買実例や専門家の査定額がどうしても分からない場合の最終手段として、減価償却という方法で評価額を計算することが認められています。これは「新品価格から、使った年数分の価値の目減り分を差し引く」という考え方です。
計算式
計算は以下の式で行います。償却方法は「定率法」という方法を用いるのが一般的です。
評価額 = 新品の小売価額 - 償却費の合計額(過去の経過年数分)
少し複雑に感じるかもしれませんが、同じ製品の現在の新品価格を調べ、そこから経過年数分の価値を引いていくイメージです。
耐用年数と償却率
減価償却の計算には、国税庁が定めた「法定耐用年数」と、それに対応する「償却率」を使います。主な動産の耐用年数は以下の通りです。
品目 | 法定耐用年数 |
---|---|
乗用自動車(普通車) | 6年 |
テレビ、パソコン、カメラ | 5年 |
冷蔵庫、洗濯機 | 6年 |
応接セット、ベッド | 8年 |
この方法は計算が複雑になるため、あくまで他の方法で評価できない場合の参考として知っておくと良いでしょう。
まとめ
「一般動産及び船舶の評価明細書」の書き方について、ご理解いただけたでしょうか。最後にポイントをまとめますね。
- 評価の基本は相続開始日時点の「時価」です。
- 自動車や美術品など、専門性が高いものは専門業者や鑑定士に査定を依頼するのが最も確実です。
- 家庭用財産は「一式」としてまとめて評価できる場合があります。
- 評価の根拠となった査定書や見積書、参考にしたウェブサイトの資料などは、必ず保管しておきましょう。
一つひとつの財産は少額でも、合計すると大きな金額になることがあります。財産の申告漏れは後から追徴課税の対象になる可能性もあるため、慎重に進めることが大切です。もし、ご自身での評価や書類作成に不安がある場合は、無理せず税理士などの専門家に相談してみてくださいね。
参考文献
一般動産及び船舶の評価明細書の書き方に関するよくある質問まとめ
Q.一般動産及び船舶の評価明細書とは何ですか?
A.相続税の申告において、家庭用財産や事業用動産、船舶などの価値を計算し、その詳細を記載するための書類です。第11の2表にあたります。
Q.評価明細書の具体的な書き方を教えてください。
A.財産の「種類」「細目」「所在場所」「数量」「単価」「評価額」などの項目を記載します。例えば、家庭用財産であれば「家具」「応接セット」「〇〇市〇〇区」のように記入します。
Q.評価明細書にはどのようなものを記載すればよいですか?
A.家具、家電、自動車、貴金属、書画骨董、事業用の機械設備、船舶などが対象です。ただし、1つあたりの評価額が5万円以下のものは「家庭用財産一式」としてまとめて記載することも可能です。
Q.動産の評価額はどのように計算すればよいですか?
A.原則として、相続開始日時点での時価(売買実例価額や専門家の意見価格など)で評価します。不明な場合は、同じものを新品で購入した場合の価格から、経過年数に応じた減価償却費を差し引いて計算する方法もあります。
Q.船舶を相続した場合の評価方法を教えてください。
A.船舶も動産と同様に、相続開始日時点の時価で評価します。売買実例や専門家の査定額を参考に評価額を算出するのが一般的です。
Q.この評価明細書の提出は必ず必要ですか?
A.相続財産に一般動産や船舶が含まれており、相続税の申告が必要な場合は、原則として提出が必要です。財産の詳細を明確にするための重要な添付書類となります。