定年退職などで受け取る退職金は、長年働いてきたご褒美であり、これからの生活を支える大切なお金ですよね。でも、まとまった金額になるからこそ、「税金はどれくらいかかるんだろう?」と不安に思う方も多いのではないでしょうか。実は、退職金にかかる税金は、受け取り方や勤続年数によって大きく変わります。この仕組みを知っているのと知らないのとでは、手元に残る金額に大きな差が出ることも。この記事では、少し複雑に感じる退職所得の税率や計算方法について、どなたにも分かりやすく、優しく解説していきますね。
退職金にかかる税金の種類と仕組み
まず、退職金にはどんな税金がかかるのか見ていきましょう。退職金にかかる税金は、主に「所得税」「復興特別所得税」「住民税」の3種類です。普段のお給料と同じように聞こえるかもしれませんが、退職金は「退職所得」という特別な区分で扱われます。これは、長年の功労に報いるため、税金の負担が軽くなるように、たくさんの優遇措置が用意されているんですよ。
所得税と復興特別所得税
退職金を一時金で受け取った場合、その所得は給与所得や事業所得など、他の所得とは合算せずに税額を計算する「分離課税」という方式がとられます。これにより、他の所得が多くても、退職金の税額が急に高くならないようになっています。所得税の額が決まったら、その金額に対して2.1%の復興特別所得税が加わります。これは2037年まで続く税金です。
住民税
住民税も所得税と同じように、他の所得とは分けて計算されます。税率は所得に関わらず一律で10%(都道府県民税4%+市区町村民税6%)です。通常、住民税は前年の所得に対して翌年支払いますが、退職金の場合は、支払われる際に会社が天引き(特別徴収)してくれるので、自分で納付する必要はありません。
退職所得税額の具体的な計算方法
それでは、実際に税額を計算する手順を3つのステップに分けて、一緒に確認していきましょう。少し数字が出てきますが、一つひとつ見ていけば大丈夫ですよ。
ステップ1:退職所得控除額を計算する
退職金にかかる税金を計算する上で、最も重要なのが「退職所得控除」です。これは、退職金から非課税として差し引ける金額のことで、勤続年数が長いほど控除額が大きくなります。計算方法は以下の表の通りです。
| 勤続年数 | 計算式 |
| 20年以下 | 40万円 × 勤続年数 |
| 20年超 | 800万円 + 70万円 × (勤続年数 – 20年) |
ポイントは、勤続年数に1年未満の端数がある場合は、1年に切り上げて計算することです。例えば、勤続年数が25年3ヶ月なら「26年」として計算します。また、計算した控除額が80万円に満たない場合は、80万円が控除額となります。
ステップ2:課税退職所得金額を求める
次に、税金の計算対象となる「課税退職所得金額」を求めます。計算式はとてもシンプルです。
(退職金の収入金額 - 退職所得控除額) × 1/2 = 課税退職所得金額
ここで注目したいのが「× 1/2」の部分です。退職所得控除を差し引いた後の金額を、さらに半分にしてくれるという、とても大きな優遇措置なんです。ただし、注意点もあります。勤続年数が5年以下の役員などが受け取る退職金や、勤続年数5年以下の一般従業員が受け取る退職金で、退職所得控除を引いた後の金額が300万円を超える部分については、この1/2のルールが適用されません。
ステップ3:所得税・住民税を計算する
最後に、ステップ2で計算した課税退職所得金額を使って、所得税と住民税を計算します。所得税は、下の速算表に当てはめて計算します。
| 課税退職所得金額 | 税率 |
| 195万円以下 | 5% |
| 195万円超 330万円以下 | 10% |
| 330万円超 695万円以下 | 20% |
| 695万円超 900万円以下 | 23% |
| 900万円超 1,800万円以下 | 33% |
| 1,800万円超 4,000万円以下 | 40% |
| 4,000万円超 | 45% |
所得税額が計算できたら、その金額に2.1%をかけたものが復興特別所得税です。住民税はシンプルに、課税退職所得金額に10%をかけて計算します。これらを合計したものが、退職金にかかる税金の総額になります。
受け取り方で税金が変わる!3つのパターン
退職金は、会社によっては受け取り方を選べる場合があります。「一時金」「年金」「併用」の3つのパターンがあり、どれを選ぶかで税金の計算方法がまったく異なります。ご自身のライフプランに合わせて最適な方法を選びましょう。
一時金で受け取る場合(退職所得)
退職金を一括で受け取る方法です。これまで説明してきた「退職所得控除」や「1/2課税」といった税制上の大きなメリットを受けられるため、一般的に最も税負担が軽くなる受け取り方と言われています。また、受け取ったお金は社会保険料の計算対象にならないのも嬉しいポイントです。ただし、一度に大きなお金が手に入るため、計画的に使わないと無駄遣いしてしまうリスクもあります。
年金で受け取る場合(雑所得)
退職金を分割して、年金のように定期的に受け取る方法です。この場合、税金の区分は「雑所得」となり、公的年金など他の雑所得と合算して税金を計算する「総合課税」になります。適用される控除は「公的年金等控除」ですが、一時金で受け取る場合に比べて税負担は重くなる傾向があります。また、年金収入は国民健康保険料などの算定基礎に含まれるため、社会保険料の負担が増える可能性も考慮しておく必要があります。
一時金と年金を併用する場合
退職金の一部を一時金で、残りを年金で受け取る方法です。例えば、「退職所得控除で非課税になる範囲だけを一時金で受け取り、残りを年金で受け取る」といった戦略的な選択が可能です。税負担をコントロールしやすいのがメリットですが、勤務先の制度で併用が可能かどうか、事前に確認しておくことが大切です。
iDeCoや複数の退職金を受け取る場合の注意点
最近は、会社の退職金制度だけでなく、iDeCo(個人型確定拠出年金)に加入している方も増えています。iDeCoを一時金で受け取る場合も「退職所得」として扱われるため、会社の退職金と一緒に受け取るときには少し注意が必要です。
同じ年に受け取る場合
同じ年に会社の退職金とiDeCoの一時金を両方受け取る場合、それぞれの収入金額を合算して税額を計算します。退職所得控除は一度しか使えませんが、勤続年数とiDeCoの加入期間を通算して控除額を計算できるため、控除額が大きくなるメリットがあります。
違う年に受け取る場合(重複期間の調整ルール)
受け取る年をずらすと、それぞれのタイミングで退職所得控除が使えますが、受け取る間隔が近いと控除額が調整されるルールがあります。これを「重複期間の調整」と言います。
例えば、iDeCoを先に受け取り、その数年後に会社の退職金を受け取る場合、以前は5年以上空ければ調整されませんでしたが、法改正によりこの期間が長くなる可能性があります。逆に、会社の退職金を先に受け取り、その後にiDeCoを受け取る場合は、19年以上(令和4年4月1日以後の受取の場合)の間隔を空ければ、控除額は調整されずに済みます。受け取る順番とタイミングが、手取り額に大きく影響する重要なポイントになります。
退職金を受け取ったら確定申告は必要?
「退職金をもらったら確定申告が必要なの?」と心配される方もいらっしゃいますが、ほとんどの場合は不要です。ただし、申告した方がお得になるケースもありますよ。
原則、確定申告は不要
退職金を受け取る前に、会社へ「退職所得の受給に関する申告書」という書類を提出していれば、会社が正しい税額を計算して天引き(源泉徴収)してくれます。この手続きが済んでいれば、税金の支払いは完了しているので、ご自身で確定申告をする必要は基本的にありません。もし、この書類を提出し忘れると、一律20.42%という高い税率で源泉徴収されてしまうので、後から確定申告をして払い過ぎた税金を取り戻す手続きが必要になります。
確定申告をした方が良いケース
退職した年に高額な医療費を支払った場合の「医療費控除」や、ふるさと納税をした場合の「寄附金控除」などを受けたい方は、確定申告をすることで税金が戻ってくる可能性があります。また、年の途中で退職して年末調整を受けていない場合も、生命保険料控除などが適用されることで還付を受けられることがありますので、該当する方は確定申告を検討してみましょう。
まとめ
退職金にかかる税金は、退職所得控除や1/2課税といった手厚い優遇措置があるため、他の所得に比べて負担が軽くなるように設計されています。しかし、その恩恵を最大限に受けるためには、仕組みをきちんと理解しておくことがとても大切です。特に、受け取り方を「一時金」にするか「年金」にするか、またiDeCoなど他の退職所得がある場合は、どの順番でいつ受け取るかによって、手取り額が大きく変わってきます。まずはご自身の勤続年数や退職金の概算額を確認し、この記事を参考にしながら、一度シミュレーションしてみてはいかがでしょうか。それが、大切な老後資金を守るための第一歩になりますよ。
参考文献
- 国税庁「退職金と税」
- 国税庁 No.2732「退職手当等に対する源泉徴収」
- 国税庁 No.2740「勤続年数が5年以下の者に対する退職手当等(短期退職手当等)」
- 国税庁 No.2735「同じ年に2か所以上から退職手当等が支払われるとき」
退職金の税金に関するよくある質問まとめ
Q.退職金の税金はどうやって計算しますか?
A.(退職金の額面 – 退職所得控除額)× 1/2 × 所得税率で計算します。勤続年数によって控除額が大きく変わるのが特徴です。
Q.退職所得控除とは何ですか?
A.退職金にかかる税負担を軽くするための制度です。勤続年数が長いほど控除額が大きくなり、税金が安くなります。
Q.勤続年数が20年を超えると税金は優遇されますか?
A.はい、優遇されます。勤続年数が20年を超えると、1年あたりの退職所得控除額が40万円から70万円に増えるため、税負担が軽くなります。
Q.退職金をもらったら確定申告は必要ですか?
A.退職時に「退職所得の受給に関する申告書」を勤務先に提出していれば、源泉徴収で課税が完結するため原則不要です。未提出の場合は確定申告が必要です。
Q.「退職所得の受給に関する申告書」を提出しないとどうなりますか?
A.退職金の額面金額に一律20.42%の税率が課され、税金を多く納めることになります。払い過ぎた税金は確定申告で還付請求できます。
Q.退職金が退職所得控除額より少ない場合はどうなりますか?
A.退職金の額が退職所得控除額以下の場合、退職所得は0円となり、所得税・住民税はかかりません。