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遺産分割協議で何を話し合う?揉めないためのポイントを実例つきで解説

2025-09-11
目次

ご家族が亡くなられた後、遺された財産をどのように分けるか、相続人の皆さんで話し合うのが遺産分割協議です。初めて経験される方がほとんどで、「何を、どのように話し合えばいいの?」と不安に感じますよね。この話し合いがこじれてしまうと、家族関係にひびが入ってしまうことも少なくありません。この記事では、遺産分割協議で話し合うべき具体的な内容や、スムーズに進めるためのポイントを、実例を交えながら優しく解説していきます。円満な相続のために、ぜひ参考にしてくださいね。

そもそも遺産分割協議って何?

遺産分割協議とは、亡くなられた方(被相続人)が遺した財産(遺産)について、相続人全員で「誰が」「何を」「どれくらい」相続するのかを決める話し合いのことです。遺言書がない場合や、遺言書に書かれていない財産が見つかった場合、また相続人全員が遺言書とは違う分け方にしたいと合意した場合などに行われます。この協議で決まった内容は法的な効力を持ち、後の相続手続きの基礎となる、とても大切な話し合いなんですよ。

遺産分割協議はいつまでにやるべき?

遺産分割協議そのものに、法律で定められた明確な期限はありません。しかし、相続税の申告期限である「相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内」に協議を終えるのが一般的です。なぜなら、この期限内に申告をしないと、税金が安くなる特例が使えなくなる可能性があるからです。

特例の例 内容
配偶者の税額軽減 配偶者が相続した財産のうち、1億6,000万円または法定相続分のいずれか多い金額までは相続税がかからない制度です。
小規模宅地等の特例 亡くなった方の自宅や事業で使っていた土地の評価額を最大80%減額できる制度です。

これらの特例は節税効果が非常に大きいため、期限内に遺産分割協議をまとめて、相続税の申告を済ませることがとても重要になります。

誰が参加するの?

遺産分割協議には、法律で定められた相続人(法定相続人)全員が参加しなければなりません。もし、一人でも参加していない相続人がいると、その遺産分割協議は無効になってしまいます。例えば、連絡を取っていない親族や、前の配偶者との間の子なども相続人になるケースがあるので、まずは誰が相続人なのかを戸籍謄本などで正確に確定させることが第一歩です。

協議に参加できない相続人がいる場合は?

相続人の中に、ご自身の意思で話し合いに参加することが難しい方がいる場合もあります。そのような場合は、法律に基づいた代理人を立てて協議を進める必要があります。

ケース 対応方法
未成年者がいる場合 親が代理人になりますが、その親も相続人である場合は利益が相反するため、家庭裁判所で「特別代理人」を選任してもらう必要があります。
認知症などで判断能力が不十分な方がいる場合 家庭裁判所で「成年後見人」を選任してもらい、その方が本人に代わって協議に参加します。
行方不明者がいる場合 家庭裁判所で「不在者財産管理人」を選任してもらい、その方が本人に代わって協議に参加します。

これらの手続きには時間がかかることもあるため、早めに状況を把握し、準備を始めることが大切です。

遺産分割協議で話し合うべき5つのこと【実例つき】

それでは、具体的に遺産分割協議では何を話し合うのでしょうか。主に以下の5つのテーマについて話し合い、相続人全員の合意を目指します。それぞれ実例を挙げて見ていきましょう。

相続財産の範囲と評価額の確認

まず最初にやるべきことは、「何を分けるのか」を全員で正確に把握することです。預貯金や不動産といったプラスの財産だけでなく、借金やローンなどのマイナスの財産もすべてリストアップし、「財産目録」を作成します。
特に不動産は、「いくらの価値があるのか」という評価額で意見が分かれやすいポイントです。評価方法はいくつかあり、どれを使うかで分割内容が大きく変わるため、全員が納得できる基準を決めることが重要です。

【実例】
父が亡くなり、相続人は長男と次男。遺産は評価額3,000万円の実家と、預金1,000万円。
長男:「固定資産税評価額(2,500万円)を基準にしたい」
次男:「いや、実際に売れるであろう時価(3,000万円)で計算すべきだ」
→話し合いの結果、複数の不動産会社に査定を依頼し、その平均額である2,800万円を評価額とすることで合意しました。

誰がどの財産をどれだけ相続する?(分割方法の決定)

財産の全体像が固まったら、次に「どう分けるか」を決めます。遺産の分け方には、主に4つの方法があります。それぞれの財産の状況や相続人の希望に合わせて、最適な方法を選びましょう。

分割方法 内容
現物分割 「自宅は長男、預金は次男」というように、財産をそのままの形で分ける方法。最もシンプルな方法です。
代償分割 長男が3,000万円の不動産を相続する代わりに、次男に代償として現金1,500万円を支払うなど、特定の人が多く相続する分を現金で精算する方法。
換価分割 不動産などを売却して現金に換え、その現金を相続人で分ける方法。公平に分けやすいですが、売却に時間がかかったり、譲渡所得税がかかる場合があります。
共有分割 一つの不動産を「長男2分の1、次男2分の1」のように、複数の相続人の共有名義にする方法。将来的に売却や活用をする際に全員の同意が必要になり、トラブルの原因になりやすいため、あまりお勧めできません。

【実例】
母の遺産は実家のマンション(評価額2,000万円)のみ。相続人は長女と次女。
長女は実家に住み続けたいと希望。次女は現金を希望。
→長女がマンションを相続する代わりに、自己資金から次女へ代償金として1,000万円を支払う「代償分割」で合意しました。

特別受益や寄与分の考慮

相続人の中に、亡くなった方から生前に特別な援助を受けていた人(特別受益)や、逆に亡くなった方の財産の維持・増加に大きく貢献した人(寄与分)がいる場合、それらを考慮して相続分を調整することがあります。これは、相続人間の公平を保つための制度です。

【実例】
父の遺産は4,000万円。相続人は長男と長女。
・長女は結婚時に父から1,000万円の資金援助を受けていた(特別受益)。
・長男は父の事業を無給で5年間手伝い、財産維持に貢献した(寄与分として500万円を主張)。
→遺産4,000万円に特別受益1,000万円を足し、そこから寄与分500万円を引いた4,500万円をベースに相続分を計算。長男は2,250万円+寄与分500万円、長女は2,250万円-特別受益1,000万円、という形で調整し、合意しました。

祭祀財産の承継者を決める

お墓や仏壇、系図といった祭祀財産は、一般的な相続財産とは区別されます。これらは分割するものではなく、先祖を祀る役割を引き継ぐ一人の「祭祀承継者」が受け継ぎます。誰が今後、お墓の管理などをしていくのかをこの機会に話し合って決めておきましょう。

葬儀費用や未払金の精算

葬儀費用を誰が立て替えて支払ったのか、また、亡くなった方の入院費や税金の未払い分が残っていないかなども確認し、精算方法を話し合います。一般的には、遺産の中から支払うことが多いですが、相続人がそれぞれの相続分に応じて負担する方法もあります。誰がいくら負担するのかを明確にしておくと、後のトラブルを防げます。

話し合いがまとまったら「遺産分割協議書」を作成する

相続人全員の話し合いがまとまったら、その内容を証明するために「遺産分割協議書」という書類を作成します。これは、誰がどの財産を相続したかを明確に記載した契約書のようなもので、相続手続きを進める上で非常に重要な書類となります。

なぜ遺産分割協議書が必要なの?

遺産分割協議書は、単なる話し合いの記録ではありません。以下のような公的な手続きで提出を求められます。

  • 不動産の名義変更(相続登記)
  • 預貯金の解約や名義変更
  • 株式などの有価証券の名義変更
  • 自動車の名義変更
  • 相続税の申告

また、後になって「そんな約束はしていない」といったトラブルが再燃するのを防ぐための、法的な証拠としても大きな役割を果たします。

遺産分割協議書に記載する内容

遺産分割協議書には決まった形式はありませんが、以下の内容は必ず記載しましょう。

  • 亡くなった方(被相続人)の本籍、最後の住所、氏名、死亡日
  • 相続人全員が遺産分割協議に合意した旨
  • 誰がどの財産を取得したかの具体的な内容(不動産は登記簿謄本通りに正確に記載)
  • 協議が成立した日付
  • 相続人全員の住所、氏名(自署)、実印での押印

相続人全員が署名し、実印を押印することで、この書類は正式な効力を持ちます。各相続人が1通ずつ保管するのが一般的です。

まとめ

遺産分割協議は、故人の遺産を円満に引き継ぐための大切な手続きです。感情的にならず、お互いの気持ちを尊重しながら冷静に話し合うことが何よりも重要です。まずは財産の全体像を正確に把握し、全員が納得できる分け方をじっくりと話し合いましょう。もし、当事者だけでの話し合いが難しいと感じたら、弁護士や司法書士などの専門家に相談するのも一つの良い方法です。この記事が、皆さんの円満な遺産分割協議の一助となれば幸いです。

参考文献

遺産分割協議のよくある質問まとめ

Q. 遺産分割協議では、具体的に何を話し合うのですか?

A. 誰が、どの遺産を、どれくらいの割合で相続するかを決めます。具体的には、不動産(家や土地)、預貯金、株式などのプラスの財産だけでなく、借金などのマイナスの財産も対象になります。全員が納得するまで話し合い、その内容を「遺産分割協議書」にまとめます。

Q. 遺産分割協議はいつまでに行う必要がありますか?期限はありますか?

A. 遺産分割協議自体に法律上の明確な期限はありません。しかし、相続税の申告・納付は「相続開始を知った日の翌日から10ヶ月以内」に行う必要があり、それまでに協議を終えておくのが一般的です。期限を過ぎると、税金の特例が使えなくなるなどのデメリットがあります。

Q. 遺産に不動産(実家など)が含まれる場合、どうやって分けるのですか?

A. 分け方は主に4つあります。①現物分割:特定の相続人が不動産そのものを相続する。②代償分割:不動産を相続する人が、他の相続人に相当額の現金を支払う。③換価分割:不動産を売却し、その代金を相続人で分ける。④共有分割:複数の相続人で共有名義にする。どの方法が最適か、状況に応じて話し合います。

Q. 亡くなった親の預貯金は、どうやって分ければいいですか?

A. まず金融機関で残高証明書を取得し、相続開始時点の正確な預貯金額を確定させます。その上で、法定相続分通りに分ける、特定の相続人が多く受け取るなど、相続人全員の合意で分け方を決めます。解約・名義変更手続きには、遺産分割協議書や戸籍謄本などが必要です。

Q. 相続人の中に連絡が取れない人や、話し合いに参加しない人がいる場合はどうなりますか?

A. 遺産分割協議は、相続人全員の参加と合意がなければ成立しません。連絡が取れない場合は、戸籍の附票などで現住所を調査します。それでも話し合いができない、または合意に至らない場合は、家庭裁判所に「遺産分割調停」や「審判」を申し立てて解決を図ることになります。

Q. 遺産分割協議書は必ず作成しないといけませんか?

A. 法律上の作成義務はありませんが、作成することを強くお勧めします。協議書がないと、不動産の名義変更(相続登記)や預貯金の解約手続きができません。また、後々の「言った・言わない」といったトラブルを防ぐためにも、相続人全員が署名・捺印した協議書を作成しておくことが重要です。

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