遺産分割協議が終わった後、「やっぱり財産の分け方を変更したい」と思うことがあるかもしれません。実は、民法上はやり直しが可能ですが、税法上は「贈与」とみなされて思わぬ税金がかかることがあります。なぜ法律によって扱いが違うのか、どのような税金がかかるのかについて、わかりやすく解説します。
遺産分割協議のやり直しに対する民法と税法の考え方の違い
同じ日本の法律でも、民法と税法では遺産分割のやり直しの捉え方が大きく異なります。それぞれの考え方を見ていきましょう。
民法では相続人全員の合意があれば何度でも修正可能
民法では、契約の自由が認められています。そのため、相続人全員の合意さえあれば、一度まとまった遺産分割協議書を白紙に戻し、何度でも新しく作り直すことができます。ご家族全員が納得しているのであれば、分け方を変更すること自体は法律違反にはなりません。
税法では当初の遺産分割で財産の帰属が確定したとみなす
一方で税法では、最初の遺産分割協議が成立した時点で、「誰がどの財産をもらうか」が完全に確定したと考えます。税金の世界では、一度確定した事実を後から無かったことにして、さかのぼって税金の計算をやり直すことは原則として認められていません。
税務署がやり直しを「贈与」や「譲渡」と判断する理由
税務署は、一度確定した財産を後から別の相続人に移す行為を、相続ではなく個人の財産の受け渡しとみなします。たとえば、お兄さんが一度相続した土地を弟さんに無償で渡せば「贈与」になり、代金をもらって渡せば「譲渡」として扱われます。これが、やり直しによって新たな税金が発生する理由です。
遺産分割協議をやり直したときにかかる具体的な税金
実際に遺産分割をやり直すと、どのような税金がかかるのかを具体的な要件とともに解説します。
年間110万円を超えると発生する贈与税
無償で財産を別の相続人に渡した場合、受け取った人に対して贈与税がかかります。贈与税には年間110万円の基礎控除がありますが、これを超える部分には重い税率がかけられます。たとえば、評価額2,000万円の不動産をやり直しによって譲り受けた場合、110万円を差し引いた1,890万円に対して多額の贈与税が課税されてしまいます。
対価を受け取った場合に発生する譲渡所得税
財産を渡す代わりに現金などの対価を受け取った場合は、譲渡所得税の対象になります。たとえば、お兄さんが相続した土地を弟さんに渡し、代わりに弟さんから現金500万円を受け取った場合、お兄さんはその土地を売却して利益を得たとみなされ、所得税を納める必要があります。
不動産を移転した際にかかる登録免許税と不動産取得税
土地や建物の名義を変える場合、名義変更の手数料である登録免許税や、不動産を取得した際にかかる不動産取得税が発生します。通常の相続であれば不動産取得税はかかりませんが、やり直しによる移転は贈与や売買とみなされるため、固定資産税評価額の3%から4%の不動産取得税が課税されます。
| かかる可能性のある税金 | 課税される具体的な理由 |
|---|---|
| 贈与税 | 無償で年間110万円を超える財産を譲り受けたため |
| 譲渡所得税 | 財産を渡す代わりに現金などの対価を受け取ったため |
| 登録免許税・不動産取得税 | 不動産の名義変更を行い、新たに所有権を取得したため |
税金がかからずに遺産分割協議をやり直せる例外ケース
基本的には贈与税などがかかってしまいますが、例外的に課税されずにやり直せるケースもあります。
法的に無効または取り消しになる場合
最初から一部の相続人が話し合いに参加していなかったり、詐欺や脅迫によって無理やり合意させられたりした場合は、当初の遺産分割協議そのものが無効、または取り消しとなります。この場合は「最初の協議がなかったこと」になるため、やり直しても贈与税はかかりません。
未成年者の特別代理人が選任されていなかった場合
未成年の子どもとその親が一緒に相続人になる場合、家庭裁判所で子どものために特別代理人を立てる必要があります。この手続きを忘れたまま行った遺産分割協議は無効となるため、正しく特別代理人を立ててやり直す際には贈与税はかかりません。
隠し財産が後から見つかった場合の追加協議
当初の協議書に載っていなかった預金や土地が後から見つかった場合、その見つかった財産についてのみ追加で話し合うことができます。これはやり直しではなく新たな分割として扱われるため、通常通り相続税の対象となり、贈与税はかかりません。
| 例外のケース | 税務上の扱い |
|---|---|
| 協議が法的に無効・取り消し | 最初からなかったことになるため贈与税はかからない |
| 新たな財産の発見 | 見つかった財産のみ追加で分けるため贈与税はかからない |
遺産分割のやり直しで損をしないための注意点
遺産分割のやり直しには大きなリスクが伴います。後悔しないためのポイントを押さえておきましょう。
当初の遺産分割協議は慎重に行う
まずは最初の話し合いで、全員が心から納得するまでしっかり意見を合わせることが何より大切です。将来的に不動産をどうするか、誰が管理するのかなどを具体的に見据えて協議を行いましょう。
申告期限に間に合わせるためのとりあえず分割は危険
相続税の申告期限である死後10ヶ月以内に間に合わせるため、とりあえず適当に分割して、後でゆっくりやり直そうとするのは大変危険です。どうしても話し合いがまとまらない場合は、法定相続分で分けたと仮定して未分割のまま申告する「申告期限後3年以内の分割見込書」という制度を活用しましょう。
万が一やり直しが必要になった場合の手続き
どうしてもやり直しが必要になった場合の手続きの流れを説明します。
当初の遺産分割協議書の合意解除
まずは相続人全員の合意のもと、最初の遺産分割協議を解除することを書面などに残して明確にします。口約束ではなく、しっかりと記録を残すことが大切です。
新たな遺産分割協議書の作成と税務申告
新しい遺産分割協議書を作成し、実印を押して印鑑証明書を添付します。その後、やり直しによって財産をもらった人は、翌年の3月15日までに贈与税や譲渡所得税の確定申告を行います。
不動産登記の抹消と再登録
すでに不動産の名義変更(相続登記)を済ませていた場合は、法務局で一度その登記を抹消し、新しい所有者の名義に登録し直す手続きが必要になります。この際、再び登録免許税などの費用がかかります。
まとめ
遺産分割協議は、民法上は何度でもやり直しが可能ですが、税法上は贈与税や譲渡所得税などの重い税負担が発生する可能性が非常に高いです。これは、税務署がやり直しを「個人間の財産の移転」とみなすためです。とりあえずで分割を決めることは避け、最初の話し合いでしっかりと決着をつけることが最大の対策となります。
参考文献
国税庁:No.4208 相続財産が分割されていないときの申告
遺産分割協議のやり直しに関するよくある質問まとめ
Q. 遺産分割協議は後からやり直せますか?
A. 民法上は相続人全員の合意があればやり直せますが、税法上は贈与税などがかかる可能性があります。
Q. 遺産分割をやり直したときにかかる税金は何ですか?
A. 財産を無償で移した場合は贈与税、対価をもらった場合は譲渡所得税、不動産の場合は登録免許税や不動産取得税がかかります。
Q. なぜやり直すと贈与税がかかるのですか?
A. 税法では最初の分割で財産の所有者が確定したとみなすため、その後の変更は個人間の財産の受け渡し(贈与)と判断されるからです。
Q. 贈与税がかからずにやり直せるケースはありますか?
A. 最初から相続人が欠けていた場合や、詐欺による合意など、法的に当初の協議が無効・取り消しとなる場合は贈与税はかかりません。
Q. 後から新しい財産が見つかった場合はどうなりますか?
A. 見つかった財産についてのみ追加で協議を行う場合は、やり直しには当たらず、通常の相続として扱われるため贈与税はかかりません。
Q. とりあえず適当に分けて後でやり直すのは大丈夫ですか?
A. 贈与税が課税されるリスクが非常に高いため大変危険です。未分割のまま申告する制度を利用することをおすすめします。