ご家族が亡くなられた後、遺産をどのように分けるか話し合う遺産分割協議。これをスムーズに進めるためには、まず「誰が相続人なのか」を正確に確定させることが何よりも大切です。もし一人でも相続人が漏れてしまうと、せっかく決まった遺産分割協議が無効になってしまうことも…。そうしたトラブルを避けるためにも、最初の手続きを丁寧に行うことが重要です。この記事では、遺産分割協議を行ううえで相続人を確定させるための具体的な手続きについて、ステップごとに優しく解説していきますね。
なぜ相続人の確定が一番大切なの?
遺産分割協議は、法律で「相続人全員」が参加して合意することが定められています。つまり、一人でも参加していない相続人がいると、その協議は法的に無効となってしまうんです。例えば、後から知らなかった相続人(前妻の子など)が現れた場合、もう一度全員で話し合いをやり直さなければなりません。そうなると、手続きが複雑になるだけでなく、ご家族間の関係が気まずくなってしまう可能性もあります。だからこそ、遺産分割協議を始める前に、時間をかけてでも正確に相続人を確定させることが、円満な相続への一番の近道なんですよ。
相続人を確定させるための具体的な3ステップ
では、具体的にどうやって相続人を確定させるのでしょうか。手続きは大きく分けて3つのステップで進めていきます。戸籍謄本という少し難しそうな書類が出てきますが、一つずつ確認していけば大丈夫ですよ。
ステップ1:被相続人の「出生から死亡まで」の戸籍謄本などを集める
まず最初に行うのが、亡くなられた方(被相続人)の戸籍謄本などを集める作業です。ここで重要なのが、「出生から死亡まで」の連続した戸籍をすべて揃えること。なぜなら、結婚や離婚、養子縁組などによって戸籍は何度も作り変えられており、現在の戸籍だけでは、過去の配偶者との間の子どもや認知した子の存在がわからないからです。隠れた相続人がいないかを確認するために、必ず出生まで遡る必要があります。
集める書類は主に以下の3種類です。
| 書類の種類 | 内容 |
| 戸籍謄本(現在戸籍) | 現在の戸籍情報が記載されているもの。まずはこれを取得し、一つ前の本籍地を確認します。 |
| 除籍謄本 | 結婚や死亡、転籍などにより、その戸籍に誰もいなくなった状態のもの。 |
| 改製原戸籍謄本(かいせいげんこせきとうほん) | 法律の改正によって戸籍の様式が変更される前の古い戸籍のことです。 |
これらの書類は、被相続人の本籍地があった市区町村役場で取得できます。現在の本籍地から、一つ前の本籍地、さらにその前…というように、出生時の戸籍まで遡って請求を繰り返していきます。郵送での請求も可能ですし、2024年3月1日からは「広域交付制度」が始まり、最寄りの役場で他の市区町村の戸籍謄本もまとめて請求できるようになり、少し便利になりました。
ステップ2:集めた戸籍を読み解き、相続人を特定する
出生から死亡までの戸籍がすべて揃ったら、次はその内容を丁寧に読み解いていきます。戸籍には、いつ、誰と結婚し、子どもが何人生まれたか、養子縁組はあったか、といった情報がすべて記録されています。これらを時系列で追いながら、法律で定められた相続人(法定相続人)を特定していくのです。
法定相続人には順位が決まっています。
- 常に相続人:配偶者(夫または妻)
- 第1順位:子(子が既に亡くなっている場合は孫などの直系卑属)
- 第2順位:直系尊属(父母、祖父母など。第1順位がいない場合)
- 第3順位:兄弟姉妹(子が既に亡くなっている場合は甥・姪。第1・第2順位がいない場合)
戸籍を調査する際は、特に以下のような方がいないか注意深く確認しましょう。
- 前妻・前夫との間の子
- 養子
- 認知した子
これらの人もすべて法的な相続権を持つため、遺産分割協議に参加してもらう必要があります。
ステップ3:相続関係説明図を作成して分かりやすく整理する
戸籍を読み解いて相続人全員が確定したら、その関係性を一覧にした「相続関係説明図」を作成することをおすすめします。これは、被相続人を中心とした家系図のようなもので、誰が相続人なのかが一目でわかります。
相続関係説明図を作成するメリットはたくさんあります。
- 相続関係が複雑な場合でも、視覚的に整理できる。
- 銀行での預貯金の解約手続きや、法務局での不動産の名義変更(相続登記)の際に、戸籍謄本一式の代わりに提出できる場合がある(法定相続情報証明制度を利用した場合)。
- 他の相続人に説明する際に分かりやすい。
手書きでもパソコンでも作成できますが、法務局のウェブサイトに様式や記載例があるので、参考にすると良いでしょう。
こんな時はどうする?相続人確定で注意したい特別ケース
相続人の調査を進める中で、少し対応が難しいケースに直面することもあります。代表的な例をいくつかご紹介しますね。
相続人の中に行方不明者がいる場合
戸籍上は相続人だけれど、どこに住んでいるか分からず連絡が取れない…。そんな時は、家庭裁判所に「不在者財産管理人」の選任を申し立てる必要があります。選任された財産管理人が行方不明の方の代理人として遺産分割協議に参加します。また、7年以上生死が不明な場合は「失踪宣告」を申し立てることも考えられます。
相続人の中に未成年者がいる場合
未成年者も相続人ですが、一人で法律行為はできません。通常は親権者が代理人となりますが、その親権者自身も相続人である場合、利益が相反してしまいます(親が多く遺産をもらうと、子の取り分が減る可能性があるため)。このような場合は、家庭裁判所に「特別代理人」の選任を申し立て、その特別代理人が未成年者の代わりに協議に参加します。
相続人に海外在住者がいる場合
相続人が海外に住んでいる場合、日本での住民票や印鑑登録証明書がありません。その代わりに、現地の日本大使館や領事館で「在留証明書」や「サイン証明書」を取得してもらう必要があります。これらの書類を取り寄せるのに時間がかかることもあるので、早めに連絡を取って準備をお願いしましょう。
相続人調査にかかる費用と期間の目安
相続人を確定させるための調査には、費用と時間がかかります。事前に目安を知っておくと、計画的に進められますよ。
| 書類名 | 費用の目安(1通あたり) |
| 戸籍謄本 | 450円 |
| 除籍謄本・改製原戸籍謄本 | 750円 |
| 住民票の除票・戸籍の附票 | 300円前後(市区町村による) |
被相続人の転籍回数などにもよりますが、戸籍一式を揃えるのに合計で5,000円から15,000円程度かかることが多いです。期間については、すべての戸籍を集め終わるまでに早くて2週間、複雑なケースでは1ヶ月以上かかることもあります。相続税の申告期限(相続開始を知った日の翌日から10ヶ月以内)も考慮し、余裕を持って始めましょう。
自分での調査が難しい場合は専門家への依頼も検討しよう
「戸籍を集めるのが大変そう」「古い戸籍の文字が読めなくて自信がない」と感じる方もいらっしゃるかもしれません。相続人の調査は、相続手続きの中でも特に専門知識が必要で、時間も手間もかかる作業です。もしご自身で進めるのが難しいと感じたら、司法書士や行政書士、弁護士といった専門家に依頼することも一つの有効な方法です。
専門家に依頼すると、費用(一般的に数万円から)はかかりますが、以下のようなメリットがあります。
- 面倒な戸籍収集をすべて代行してくれる。
- 専門的な知識で正確に戸籍を読み解き、相続人の漏れを防げる。
- その後の遺産分割協議書の作成や各種名義変更手続きまで、スムーズにサポートしてくれる。
無料相談を実施している事務所も多いので、一度話を聞いてみるのも良いでしょう。
まとめ
今回は、遺産分割協議の前提となる相続人の確定手続きについて詳しく見てきました。少し複雑に感じたかもしれませんが、ポイントは「被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本をすべて集めて、法的な相続人を正確に特定する」という点です。この最初のステップを丁寧に行うことが、後の手続きを円滑に進め、ご家族間の無用なトラブルを防ぐための鍵となります。大変な作業ではありますが、円満な遺産分割を実現するための大切な第一歩として、じっくり取り組んでみてくださいね。
参考文献
遺産分割協議前の相続人確定に関するよくある質問まとめ
Q.遺産分割協議の前に、なぜ相続人の確定が必要なのですか?
A.遺産分割協議は相続人全員の参加と合意がなければ成立しません。一人でも欠けていると、その協議は無効になってしまうため、手続きの最初に正確な相続人を全員確定させる必要があります。
Q.相続人を確定させるためには、具体的に何をすればよいですか?
A.まず、亡くなられた方(被相続人)の「出生から死亡まで」の連続した戸籍謄本(除籍謄本、改製原戸籍謄本を含む)をすべて収集します。これにより、誰が法律上の相続人であるかを網羅的に確認できます。
Q.戸籍謄本はどこで取得できますか?
A.被相続人の本籍地があった市区町村の役所で取得できます。本籍地を何度も変更している場合は、それぞれの役所に請求する必要があります。郵送での請求も可能です。
Q.戸籍を調べたら、会ったこともない相続人がいることが判明しました。どうすればよいですか?
A.前妻(夫)との間の子や、認知した子などが判明するケースがあります。その方も法律上の相続人であるため、遺産分割協議に参加してもらう必要があります。戸籍附票で住所を調べ、連絡を取ることになります。
Q.相続人になるはずの人がすでに亡くなっている場合はどうなりますか?
A.亡くなった相続人に子(被相続人の孫など)がいれば、その子が代わりに相続人となります。これを「代襲相続」といいます。代襲相続が発生している場合、その方の戸籍も取得して相続関係を証明する必要があります。
Q.相続人調査は自分でもできますか?専門家に依頼するメリットは何ですか?
A.ご自身でも可能ですが、戸籍の収集や読み解きには多くの時間と手間がかかります。特に、相続関係が複雑な場合は見落としのリスクもあります。専門家に依頼すれば、迅速かつ正確に相続人を確定でき、手続きをスムーズに進められるというメリットがあります。