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遺留分侵害請求後の相続税申告、10か月超えたら?協議書は不要?

2024-12-11
目次

遺言の内容が不公平で、遺留分侵害請求をしてやっとの思いで財産を取り戻した…ひと安心したのも束の間、「そういえば相続税申告ってどうなるんだろう?」と新たな不安が出てきますよね。特に、裁判が長引いて、相続が始まってから10か月以上経ってしまったケースでは、「期限は過ぎてるけど大丈夫?」「そもそも遺産分割協議書もないのに申告できるの?」と疑問だらけだと思います。

この記事では、そんなお悩みを抱えているあなたのために、遺留分侵害請求で財産を取得した場合の相続税申告について、手続きの流れや注意点を分かりやすく解説していきます。

遺留分侵害請求で取得した財産と相続税の関係

まず一番大切なポイントからお伝えしますね。遺留分侵害請求によって取得した財産は、相続税の課税対象になります。これは、遺留分が「本来あなたが相続できるはずだった最低限の権利」だからです。そのため、請求によって得たお金や不動産は、亡くなった方から相続や遺贈によって直接受け取ったものとして扱われるんです。

遺留分侵害請求で取得した財産は相続税の課税対象です

遺留分侵害請求は、不公平な遺言などによって侵害されたご自身の取り分を取り戻すための正当な権利です。この請求によって支払われた金銭(侵害額に相当するお金)は、もともと相続財産だったものと見なされます。そのため、贈与税がかかるのではなく、相続税の対象となることを覚えておきましょう。

一方で、遺留分侵害額を支払った側の相続人は、支払った金額分、取得した財産が減ることになります。そのため、すでに納めた相続税が多すぎたということになり、後から税金を返してもらう「更正の請求」という手続きを行うことができます。

相続税の申告が必要になるケースとは?

相続税は、必ず全員が申告しなければならないわけではありません。遺産の総額が「基礎控除額」を超える場合にのみ、申告と納税の義務が発生します。

基礎控除額の計算式は以下の通りです。

3,000万円 + (600万円 × 法定相続人の数)

例えば、法定相続人が奥様とお子様2人の合計3人だった場合、基礎控除額は「3,000万円+(600万円×3人)=4,800万円」となります。遺留分侵害請求で取得した財産も含めた遺産の総額がこの4,800万円を超える場合は、相続税の申告が必要です。

遺留分侵害額を支払った側の相続税申告

逆に、あなたが遺留分侵害額を支払う側だった場合、その支払額はご自身の相続財産から差し引かれます。その結果、当初申告した相続税額が過大になることがあります。その場合は、「更正の請求」という手続きを税務署に行うことで、払い過ぎた相続税を還付してもらうことができます。この手続きは、遺留分の支払いが確定したことなどを知った日の翌日から4か月以内に行う必要がありますので、忘れないようにしましょう。

相続開始から10か月を超えてしまった場合の相続税申告

相続税の申告と納税には、「被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内」という厳格な期限があります。しかし、遺留分侵害請求は話し合いや裁判が長引くことが多く、10か月以内に解決することは稀です。では、期限を過ぎてしまった場合はどうすればよいのでしょうか?ご安心ください、ちゃんと対処法があります。

まずは「未分割」の状態で期限内に申告をします

たとえ遺産の分け方が決まっていなくても、相続税の申告期限は待ってくれません。期限内に申告しないと、ペナルティとして無申告加算税や延滞税が課されてしまいます。

そこで、遺留分侵害請求中で財産が確定していない場合は、まず「法定相続分」で遺産を分割したものと仮定して相続税を計算し、期限内に申告・納税を行います。これを「未分割申告」と呼びます。

ただし、この未分割申告の段階では、「小規模宅地等の特例」や「配偶者の税額軽減」といった、相続税を大幅に減額できる特例を使うことができないというデメリットがあります。

特例適用のために「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出

未分割申告のデメリットである「特例が使えない」という点をカバーするために、とても重要な書類があります。それが「申告期限後3年以内の分割見込書」です。

この書類を未分割申告書と一緒に税務署へ提出しておくことで、「今はまだ分割できていませんが、3年以内に分割が終わる見込みです。その際には特例を使わせてください」という意思表示になります。これにより、後日、遺留分侵害請求が解決した際に、さかのぼって特例を適用し、払い過ぎた税金の還付を受けることが可能になるのです。

遺留分が確定したら「更正の請求」または「修正申告」を

裁判の判決や和解によって遺留分の金額が正式に確定したら、その内容に基づいて改めて正しい相続税額を計算し直します。そして、最初に行った未分割申告の内容を修正する手続きを行います。

  • 更正の請求:最初に納めた税額よりも、確定後の正しい税額のほうが少ない場合に行う手続きです。払い過ぎた税金が還付されます。
  • 修正申告:最初に納めた税額よりも、確定後の正しい税額のほうが多い場合に行う手続きです。不足分の税金を追加で納付します。

特に「更正の請求」は、遺留分の金額が確定したことを知った日の翌日から4か月以内という期限がありますので、速やかに行うようにしましょう。

遺留分侵害請求の場合、遺産分割協議書は必要?

通常の相続手続きでは、誰がどの財産をどれだけ相続したかを証明するために「遺産分割協議書」を税務署に提出します。しかし、遺留分侵害請求は相続人同士の話し合い(協議)ではなく、一方的な権利行使です。そのため、遺産分割協議書は原則として不要です。

遺産分割協議と遺留分侵害請求は全くの別物です

この二つの手続きの違いを理解しておきましょう。

遺産分割協議 相続人全員の話し合いによって遺産の分け方を決める手続き。全員の合意と実印の押印が必要です。
遺留分侵害請求 遺言などで最低限の取り分を侵害された相続人が、その分を取り戻すために行う権利の行使。相手の合意は不要で、一方的に意思表示をします。

このように、遺留分侵害請求は協議ではないため、遺産分割協議書は作成されません。

相続税申告で必要になる証明書類

遺産分割協議書の代わりに、税務署には「なぜ、どのようにして財産を取得したのか」を客観的に証明する書類を提出する必要があります。具体的には、以下のような書類が該当します。

  • 裁判で争った場合:判決書の写し和解調書の写し
  • 話し合いで解決した場合:当事者間で作成した合意書の写し(公正証書にしておくとより証明力が高まります)

これらの書類を、更正の請求書や修正申告書に添付して提出することになります。

遺留分侵害請求後の相続税申告の流れまとめ

ここまでの内容を、時系列に沿って表にまとめてみました。全体像を把握するのに役立ててください。

時期 行う手続き
相続開始を知った日の翌日から10か月以内 ①まずは法定相続分で仮計算し、「未分割申告」を行う。
②その際、必ず「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付して提出する。
遺留分侵害請求の解決後 ③裁判の判決や和解内容に基づき、確定した財産額で相続税を再計算する。
解決(判決・和解)を知った日の翌日から4か月以内 ④当初の申告額との差額に応じて、「更正の請求(税金還付)」または「修正申告(追加納税)」を行う。その際に判決書や合意書を添付する。

相続税申告における3つの注意点

最後に、遺留分侵害請求が絡む相続税申告で特に注意していただきたい点を3つご紹介します。

ペナルティ(延滞税・加算税)のリスク

繰り返しになりますが、最も重要なのは「10か月以内の期限を守って未分割申告を行うこと」です。裁判中だからといって何もしないでいると、申告期限を過ぎたものと見なされ、本来納めるべき税金に加えて「無申告加算税」や「延滞税」といった重いペナルティが課されてしまいます。必ず期限内に第一段階の申告を済ませておきましょう。

取得した財産の種類による違い

遺留分侵害額は金銭で支払われるのが原則です。その場合は、受け取った金額がそのまま課税対象の財産額となります。しかし、相手方の事情で不動産や株式など、金銭以外の財産で支払いを受ける「代物弁済」というケースもあります。この場合、その不動産等の相続税評価額に基づいて税額を計算する必要があります。評価額の算定は複雑なため、専門家の助けが必要になることが多いです。また、支払った側には譲渡所得税がかかる可能性もあるため注意が必要です。

税理士など専門家への相談が安心です

遺留分侵害請求が関わる相続税申告は、未分割申告、分割見込書の提出、そして更正の請求(または修正申告)と、手続きが複数にわたり非常に複雑です。また、税額の計算や特例の適用判断など、専門的な知識がなければ間違えてしまうリスクも高くなります。申告漏れや計算ミスを防ぎ、スムーズに手続きを終えるためにも、相続案件に詳しい税理士に相談することをおすすめします。

まとめ

遺留分侵害請求で財産を取得した場合の相続税申告について、ポイントを振り返ってみましょう。

  • 遺留分侵害請求で取得した財産も相続税の課税対象です。
  • 裁判などで相続開始から10か月を過ぎてしまっても、まずは期限内に法定相続分で「未分割申告」をすることが鉄則です。
  • 未分割申告の際は「申告期限後3年以内の分割見込書」を忘れずに提出しましょう。
  • 遺留分が確定したら、4か月以内に「更正の請求」または「修正申告」を行います。
  • 遺産分割協議書は不要ですが、代わりに判決書や和解調書などの証明書類が必要です。

大変な思いをして取り戻した大切な財産です。税金の手続きで損をしたり、余計なトラブルになったりしないよう、この記事を参考に、落ち着いて手続きを進めてくださいね。もし不安な点があれば、一人で抱え込まずに専門家に相談してみてください。

参考文献

遺留分侵害請求と相続税申告のよくある質問まとめ

Q.遺留分侵害請求で財産を取得した場合、相続税申告は必要ですか?

A.はい、必要です。遺留分侵害請求によって取得した財産も相続税の課税対象となります。取得した財産の価額に基づいて相続税を計算し、申告・納税する必要があります。

Q.遺留分侵害請求の場合、遺産分割協議書は必要ですか?

A.通常は不要です。遺留分侵害請求は当事者間の合意(和解)や裁判所の判決によって解決されるため、その合意書や判決書が遺産分割協議書の代わりとなります。

Q.相続開始から10か月を過ぎて遺留分の財産を取得しました。申告期限はどうなりますか?

A.遺留分侵害請求の調停成立や判決が確定した日の翌日から10か月以内に申告・納税が必要です。通常の相続税申告期限(相続開始を知った日の翌日から10か月)とは異なるので注意が必要です。

Q.遺留分請求前に相続税申告を済ませてしまいました。どうすればよいですか?

A.遺留分が確定した後、税務署に対して「更正の請求」を行います。これにより当初の申告内容を修正し、税額の調整を行います。更正の請求は、遺留分が確定した日の翌日から4か月以内に行う必要があります。

Q.遺留分を支払った側(侵害した側)の相続税申告はどうなりますか?

A.支払った側も「更正の請求」を行うことで、納付した相続税の一部還付を受けられる可能性があります。遺留分として支払った財産の価額分、課税対象財産が減少するためです。こちらも遺留分確定の翌日から4か月以内が期限です。

Q.遺留分を現金(金銭)で受け取った場合も相続税の対象ですか?

A.はい、対象です。遺留分侵害額に相当する金銭(代償金)を受け取った場合も、遺産を相続したものとみなされ、相続税の課税対象となります。不動産などの現物でなく金銭で受け取っても扱いは同じです。

事務所概要
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