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遺留分侵害額請求の時効はいつ?知らないと損する2つの期限

2025-04-14
目次

「遺言書を見たら、自分以外の兄弟に全財産を相続させる内容だった…」。こんな時、法律で保障された最低限の取り分である「遺留分」を請求できます。しかし、この遺留分侵害額請求権には時効があることをご存知でしょうか?気づいたときには手遅れ、なんてことにならないように、いつまでに請求すればいいのか、時効の仕組みと止め方を分かりやすく解説しますね。

遺留分侵害額請求権とは?まずは基本を知ろう

時効の話をする前に、まずは「遺留分」がどのような権利なのか、簡単におさらいしておきましょう。遺留分とは、亡くなった方(被相続人)の配偶者や子など、一定の相続人に法律で保障されている、最低限の遺産の取り分のことです。遺言によってこの遺留分が侵害された場合に、侵害された分のお金を請求できる権利が「遺留分侵害額請求権」です。

遺留分ってそもそも何?

遺言は故人の意思を尊重するものですが、「長年連れ添った配偶者の生活が立ち行かなくなる」「特定の子供だけが極端に優遇されて不公平」といった事態を防ぐために、遺留分という制度が設けられています。これは、残された家族の生活を保障し、相続人間の公平を図るための大切な権利なんですね。

遺留分を請求できる人(遺留分権利者)

遺留分が認められているのは、配偶者、子(またはその代襲相続人である孫など)、直系尊属(父母や祖父母)です。注意点として、被相続人の兄弟姉妹には遺留分はありません。誰に権利があるのか、下の表で確認してみてください。

権利がある人 配偶者、子、孫(子が先に亡くなっている場合)、父母、祖父母(父母が先に亡くなっている場合)
権利がない人 兄弟姉妹、甥・姪

遺留分の割合はどれくらい?

遺留分として請求できる割合は、相続財産全体に対して、誰が相続人になるかによって変わります。全体の遺留分割合(総体的遺留分)と、各相続人がもらえる個別の割合を見ていきましょう。

相続人の組み合わせ 全体の遺留分割合
配偶者のみ、子のみ、配偶者と子 相続財産の2分の1
直系尊属(父母など)のみ 相続財産の3分の1

この全体の割合を、法定相続分に応じてさらに分け合うことになります。例えば、配偶者と子2人が相続人の場合、全体の遺留分は2分の1です。これを法定相続分(配偶者1/2、子それぞれ1/4)で分けるので、配偶者は1/4(1/2 × 1/2)、子はそれぞれ1/8(1/2 × 1/4)が個別の遺留分となります。

遺留分侵害額請求の時効は2種類ある!

ここからが本題です。遺留分侵害額請求権には、2つの時効(期間制限)があります。短いものと長いものがあり、どちらか一方でも過ぎてしまうと権利を主張できなくなるので、しっかり理解しておきましょう。

短い時効:知ってから1年(消滅時効)

1つ目は、「相続の開始および遺留分を侵害する贈与または遺贈があったことを知った時から1年間」という短い時効です。これを「消滅時効」といいます。

ポイントは、「知った時」からカウントが始まるという点です。具体的には、以下の3つすべてを知った時点を指します。

  1. 被相続人が亡くなったこと(相続の開始)
  2. 自分が相続人であること
  3. 自分の遺留分を侵害するような遺言や生前贈与があったこと

例えば、お父様が亡くなった後、遺言書が見つかり、その内容が「全財産を長男に相続させる」というものだと知った時点から、1年のカウントダウンが始まります。葬儀や法要で忙しくしていると、1年はあっという間です。「まだ大丈夫」と思わずに、早めに行動することが大切です。

長い時効:相続開始から10年(除斥期間)

2つ目は、「相続開始の時から10年間」という長い期間制限です。これを「除斥期間(じょせききかん)」といいます。

こちらは、遺留分が侵害されていることを知っているかどうかに関わらず、被相続人が亡くなった日から一律で進行します。例えば、疎遠だった親が亡くなったことを10年以上知らなかった場合、残念ながらその時点で遺留分を請求する権利はなくなってしまいます。この10年の期間は、後で説明する「時効の更新(中断)」もできません。

2つの時効の関係を整理

「消滅時効」と「除斥期間」は、どちらか早い方が到来した時点で権利が消滅します。2つの違いを表で整理しておきましょう。

種類 消滅時効
期間 1年
カウント開始時点(起算点) 相続開始と遺留分侵害の事実を知った時から
時効の更新(中断) 可能
種類 除斥期間
期間 10年
カウント開始時点(起算点) 相続が開始した時(亡くなった時)から
時効の更新(中断) 不可能

請求した後にも時効がある?金銭債権の時効に注意

「よし、1年以内に請求の意思表示をしたから安心!」と思うのは、まだ早いかもしれません。遺留分侵害額請求の意思表示をすると、権利は「遺産を取り戻す権利」から「侵害額に相当するお金を支払ってもらう権利(金銭債権)」に変わります。そして、この金銭債権にも時効があるのです。

金銭支払請求権の時効は5年

遺留分侵害額請求の意思表示をした後、相手方との話し合いがまとまらずに時間が経過した場合、その金銭を請求する権利は原則として5年で時効にかかってしまいます(民法166条1項1号)。せっかく1年の時効をクリアしても、その後5年間何もしなければ、お金を請求する権利がなくなってしまう可能性があるのです。請求後も、速やかに話し合いや法的手続きを進める必要があります。

遺留分の時効を止める(更新する)方法

では、迫りくる時効を止めるにはどうすれば良いのでしょうか。時効の種類によって方法が異なりますので、それぞれ見ていきましょう。

1年の時効は「意思表示」でストップ

1年の消滅時効は、遺留分を侵害している相手方に対して「遺留分侵害額を請求します」という意思表示をすることで、その進行を止めることができます。これを「時効の完成猶予・更新」といいます。口頭で伝えても法律上は有効ですが、後から「言った、言わない」のトラブルになるのを防ぐため、証拠が残る方法で行うのが鉄則です。

最も確実なのは「配達証明付き内容証明郵便」

意思表示の方法として最も確実なのが、「配達証明付き内容証明郵便」を利用することです。これなら、「いつ、誰が、誰に、どのような内容の文書を送ったか」を郵便局が証明してくれるため、後々の裁判などでも強力な証拠となります。請求する相手が複数いる場合は、全員に送るのを忘れないようにしましょう。

5年の時効は「裁判上の請求」などでストップ

請求後に発生した金銭債権の5年の時効は、以下のような方法で完成を猶予・更新できます。

  • 裁判上の請求:遺留分侵害額請求調停の申し立てや、訴訟を提起する。
  • 支払督促:簡易裁判所に申し立てる手続き。
  • 相手方の承認:「支払います」という念書をもらうなど、相手方が債務の存在を認める。

話し合いが長引く場合は、時効が完成する前にこれらの法的な手続きを検討する必要があります。

遺留分の時効に関する注意点

最後に、遺留分の時効について、特に注意していただきたい点を2つお伝えします。

遺言の無効を争っている間も時効は進む

「父は認知症だったから、この遺言は無効なはずだ!」と考えて、遺言の無効を主張する裁判を起こすケースがあります。しかし、ここで注意が必要です。遺言の無効を争っている間も、原則として遺留分侵害額請求権の1年の時効は進行してしまいます。

もし、裁判で遺言が無効と認められなかった場合、その時には遺留分の時効も過ぎてしまっていて、結局何も請求できない…という最悪の事態になりかねません。遺言の有効性に疑問がある場合でも、念のため(法律用語で「予備的に」といいます)、時効が完成する前に遺留分侵害額請求の意思表示をしておくことが非常に重要です。

「知った時」の証明は難しい

1年の時効のスタート地点である「知った時」が具体的にいつだったのかは、後から証明するのが難しく、争いの原因になることがあります。相手方から「もっと前に知っていたはずだ。もう時効だ」と主張される可能性もゼロではありません。このような争いを避けるためにも、遺留分が侵害されている可能性があると分かったら、できるだけ早く、理想的には被相続人が亡くなってから1年以内に請求のアクションを起こすのが最も安全です。

まとめ

遺留分侵害額請求権の時効について、ご理解いただけましたでしょうか。最後にポイントをまとめます。

  • 遺留分の請求には「知ってから1年」「亡くなってから10年」の2つの時効がある。
  • 1年の時効は、相手方への「配達証明付き内容証明郵便」での意思表示で止められる。
  • 請求後に発生する金銭債権にも「5年」の時効があり、調停や訴訟で止める必要がある。
  • 遺言の無効を争う場合でも、念のため遺留分侵害額請求はしておくべき。

遺留分の時効は複雑で、期間も短く設定されています。ご自身の権利を確実に守るためにも、少しでも不安に感じたら、相続に詳しい弁護士などの専門家に早めに相談することをおすすめします。

参考文献

遺留分侵害額請求権の時効に関するよくある質問

Q.遺留分侵害額請求権の時効はいつですか?

A.「遺留分が侵害されていることを知った時から1年」または「相続開始の時から10年」のいずれか早い方が到来した時点で時効となり、請求できなくなります。

Q.時効の「1年」はいつからカウントされますか?

A.「相続の開始(被相続人が亡くなったこと)」と「遺留分を侵害する贈与や遺贈があったこと」の両方を知った時から1年間のカウントが始まります。

Q.遺留分について全く知らなかった場合でも時効は進みますか?

A.遺留分侵害の事実を知らなくても、相続開始の時から10年が経過すると権利は消滅します。これは「除斥期間」と呼ばれ、知っていたかどうかに関わらず適用されます。

Q.時効を止めるにはどうすれば良いですか?

A.相手方に対し、遺留分侵害額を請求する意思表示をすることで時効の完成が猶予されます。証拠を残すために、配達証明付きの内容証明郵便で通知するのが一般的です。

Q.時効の1年を過ぎてしまったら、もう請求できませんか?

A.原則として、1年の時効期間が過ぎると請求権は消滅します。しかし、相手が時効の利益を放棄した場合など、例外的に請求が認められる可能性もゼロではありません。

Q.内容証明郵便を送れば、それだけで時効は止まりますか?

A.内容証明郵便を送ることで、時効の完成が6か月間猶予されます。その間に話し合いがまとまらなければ、家庭裁判所への調停申立てや訴訟提起など、次の法的手続きに進む必要があります。

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