「大切な家族に想いを確実に残したい」「相続でのトラブルは避けたい」そうお考えではありませんか?遺言公正証書は、そんなあなたの想いを形にするための、最も確実で安心な方法の一つです。でも、「手続きが難しそう」「費用はどれくらいかかるの?」といった疑問もありますよね。この記事では、遺言公正証書とは何か、そのメリット・デメリットから、具体的な作成手順、費用まで、わかりやすく解説していきます。
遺言公正証書とは?公証人が作成する信頼性の高い遺言書
遺言公正証書(いごんこうせいしょうしょ)とは、法律の専門家である公証人(こうしょうにん)が、遺言をしたいご本人(遺言者)の意思を確認しながら作成し、その内容を証明してくれる公的な文書のことです。作成された遺言書の原本は公証役場で厳重に保管されるため、紛失や改ざんの心配がなく、法的に非常に高い信頼性を持っています。相続が起こった際に、ご自身の最期の意思を最も確実に実現できる方法と言えるでしょう。
遺言書は3種類!それぞれの特徴を比較
遺言書には、主に「公正証書遺言」「自筆証書遺言」「秘密証書遺言」の3種類があります。それぞれに特徴があり、メリット・デメリットも異なりますので、ご自身の状況に合ったものを選ぶことが大切です。違いを下の表にまとめましたので、比べてみてくださいね。
| 種類 | 概要 |
| 公正証書遺言 | 公証人が作成に関与し、原本を公証役場で保管する最も確実な遺言。無効になるリスクが極めて低く、検認も不要。ただし、費用と手間がかかり、証人が2名必要。 |
| 自筆証書遺言 | 遺言者が全文・日付・氏名を自筆し、押印して作成する遺言。手軽で費用がかからないが、形式不備で無効になるリスクや、紛失・改ざんのリスクがある。家庭裁判所の検認が必要(法務局の保管制度を利用した場合は不要)。 |
| 秘密証書遺言 | 遺言内容を秘密にしたまま、遺言書の存在だけを公証人に証明してもらう方法。内容は秘密にできるが、形式不備のリスクは残り、検認も必要。利用されるケースは少ないです。 |
なぜ遺言書が必要なの?
もし遺言書がない場合、民法で定められた相続人(法定相続人)が、決められた割合(法定相続分)に基づいて財産を分けることになります。しかし、そのためには相続人全員での「遺産分割協議」が必要となり、これがなかなかまとまらずに、家族間での争い(いわゆる「争族」)に発展してしまうケースが少なくありません。遺言書があれば、誰にどの財産を渡したいかというご自身の意思を明確に示すことができ、このようなトラブルを未然に防ぐことにつながります。
特に遺言公正証書がおすすめなケース
ほとんどのケースで遺言書を作成しておくことは有益ですが、特に以下のような状況の方には、確実性の高い公正証書遺言がおすすめです。
- 夫婦の間に子どもがいない(配偶者に全財産を遺したい場合)
- 再婚していて、先妻の子と後妻がいるなど、相続関係が複雑な場合
- 長年連れ添った内縁の妻(夫)に財産を遺したい場合
- 個人事業や農業などを特定の子どもに継がせたい場合
- 相続人同士の仲があまり良くなく、将来トラブルになる可能性が高い場合
- 障害のある子の将来のために、他の子より多く財産を遺したい場合
- 相続人ではないけれど、特にお世話になった人(長男のお嫁さんなど)に財産を分けたい場合
公正証書遺言の5つの大きなメリット
公正証書遺言には、他の方法にはない大きなメリットがたくさんあります。費用や手間がかかっても選ばれる理由を、一つずつ見ていきましょう。
形式不備で無効になる心配がほぼない
最大のメリットは、無効になるリスクが極めて低いことです。自筆証書遺言では、日付の書き忘れや押印漏れなど、法律で定められた形式を守れていないために無効となってしまうことがあります。公正証書遺言は、法律のプロである公証人が内容を確認しながら作成するため、このような形式上のミスが起こる心配はまずありません。
偽造・変造・紛失のリスクがない
作成された遺言公正証書の原本は、公証役場で厳重に保管されます。遺言者が亡くなるまで、あるいは遺言者が120歳になるまで保管されることが一般的です。そのため、誰かが勝手に書き換えたり(変造)、破棄したり、隠してしまったりする心配がありません。また、自宅で保管していてどこに置いたか分からなくなる(紛失)といったリスクも防げます。
家庭裁判所の「検認」が不要で手続きがスムーズ
自筆証書遺言や秘密証書遺言が見つかった場合、相続人は家庭裁判所で「検認」という手続きをしなければなりません。これは遺言書の状態を確認し、偽造などを防ぐための手続きで、完了までに1ヶ月~2ヶ月ほどかかります。その間は、預貯金の解約や不動産の名義変更などの相続手続きを進めることができません。一方、公正証書遺言は検認が不要なため、相続開始後、速やかに手続きを始めることができます。
証拠能力が高く、相続トラブルを防ぎやすい
公正証書遺言は、遺言者本人が公証人と証人2名の前で遺言内容を口頭で伝え、意思能力があることを確認した上で作成されます。そのため、「本人が書いたものではない」「無理やり書かされた」「当時は認知症で判断能力がなかった」といった主張がされにくく、遺言の有効性をめぐる争いが起こりにくいという大きな利点があります。
文字が書けなくても作成できる
病気や高齢などの理由でご自身で文字を書くことが難しい場合でも、公正証書遺言なら作成が可能です。公証人に口頭で遺言の内容を伝えれば、公証人がそれを文章にしてくれます。また、話すことが難しい方や耳が不自由な方でも、筆談や通訳を介して作成することができます。
知っておきたい公正証書遺言の3つのデメリット
多くのメリットがある一方で、知っておくべきデメリットもあります。ご自身の状況と照らし合わせて検討することが大切です。
作成に費用がかかる
自筆証書遺言が紙とペンさえあれば作成できるのに対し、公正証書遺言は公証人に支払う手数料が必要になります。手数料は、遺言で遺す財産の価額によって変動します。詳しい費用については、後の章で具体的に解説しますね。
証人が2人必要になる
公正証書遺言を作成する際には、証人2名以上の立ち会いが法律で義務付けられています。この証人には、推定相続人(将来相続人になる人)や遺贈を受ける人(遺言で財産をもらう人)、その配偶者や直系血族などはなれません。もし、適当な証人が見つからない場合は、公証役場で紹介してもらうことも可能です。その場合、証人1人あたり5,000円~15,000円程度の日当が必要となります。
手間と時間がかかる
公正証書遺言は、思い立ったその日にすぐ作成できるわけではありません。事前に遺言内容を考え、必要書類を集め、公証役場に予約をして打ち合わせを行う、といった手順を踏む必要があります。準備から完成まで、数週間から1ヶ月以上かかることもありますので、余裕を持ったスケジュールで進めることが大切です。
公正証書遺言の作成手順を6ステップで解説
では、実際に公正証書遺言はどのように作成するのでしょうか。一般的な流れを6つのステップでご紹介します。
ステップ1:遺言内容の検討と決定
まずは、ご自身の財産をすべてリストアップし、「誰に」「どの財産を」「どれくらい」相続させたいのかを具体的に考えます。財産分けの理由や家族への感謝の気持ちなどを「付言事項」として残すこともできます。考えた内容はメモにまとめておくと、後の打ち合わせがスムーズに進みます。
ステップ2:必要書類の準備
次に、作成に必要な書類を集めます。事案によって異なりますが、一般的には以下のような書類が必要です。事前に公証役場に確認すると確実です。
| 必要書類 | 入手場所 |
| 遺言者の印鑑登録証明書(発行後3ヶ月以内) | 市区町村役場 |
| 遺言者と相続人の続柄がわかる戸籍謄本 | 市区町村役場 |
| 財産を相続人以外に渡す場合、その人の住民票 | 市区町村役場 |
| 不動産がある場合:登記事項証明書と固定資産評価証明書 | 法務局、市区町村役場(都税事務所) |
| 預貯金や有価証券のメモ(通帳のコピーなど) | ご自身で準備 |
ステップ3:証人2名の依頼
信頼できる友人や知人に証人を依頼します。前述のとおり、利害関係者は証人になれないので注意が必要です。適当な人が見つからない場合は、公証役場に相談して紹介してもらいましょう。
ステップ4:公証役場の予約と打ち合わせ
必要書類の準備と証人の目処が立ったら、お近くの公証役場に電話をして相談日時を予約します。当日は、準備した書類や遺言内容のメモを持参し、公証人と打ち合わせを行います。公証人が内容を確認し、法的に問題がないかなどをチェックしながら遺言書の案を作成してくれます。
ステップ5:遺言公正証書の作成当日
予約した日時に、遺言者本人と証人2名が公証役場へ行きます。公証人が作成した遺言書の案を読み聞かせ、または閲覧して内容に間違いがないか最終確認します。内容に問題がなければ、遺言者、証人2名、公証人がそれぞれ署名・押印し、公正証書遺言が完成します。
ステップ6:正本・謄本の受け取りと保管
完成後、手数料を支払い、遺言書の「正本」と「謄本」を受け取ります。これらは原本と同じ効力を持つ写しです。正本と謄本はご自身で大切に保管し、原本は公証役場に保管されます。
気になる作成費用はどのくらい?公証人手数料の内訳
公正証書遺言の作成には、公証人手数料令という政令で定められた手数料がかかります。主に「基本手数料」と、状況によって追加される「加算料金」から構成されます。
基本手数料の計算方法
基本手数料は、財産を受け取る人(相続人・受遺者)ごとに、その人が受け取る財産の価額に応じて計算し、それらを合計します。
| 目的の価額 | 手数料 |
| 100万円以下 | 5,000円 |
| 100万円を超え200万円以下 | 7,000円 |
| 200万円を超え500万円以下 | 11,000円 |
| 500万円を超え1,000万円以下 | 17,000円 |
| 1,000万円を超え3,000万円以下 | 23,000円 |
| 3,000万円を超え5,000万円以下 | 29,000円 |
| 5,000万円を超え1億円以下 | 43,000円 |
(注)財産価額が1億円を超える場合も規定があります。
その他の費用(加算料金)
基本手数料に加えて、以下の費用がかかる場合があります。
- 遺言加算:全体の財産価額が1億円以下の場合は、上記で計算した手数料の合計に11,000円が加算されます。
- 出張費用:公証人に自宅や病院へ出張してもらう場合、基本手数料が50%加算されるほか、日当(1日2万円、4時間以内なら1万円)と交通費実費がかかります。
- 証人費用:公証役場に証人を紹介してもらう場合、1人あたり5,000円~15,000円程度の日当がかかります。
- 正本・謄本代:交付される遺言書の枚数に応じて、1枚あたり250円の手数料がかかります。
具体的な費用計算例
【例】妻に3,000万円、長男に2,000万円の財産を相続させる遺言の場合
- 妻の分の手数料:23,000円(1,000万円超3,000万円以下の区分)
- 長男の分の手数料:23,000円(1,000万円超3,000万円以下の区分)
- 基本手数料の合計:23,000円 + 23,000円 = 46,000円
- 遺言加算:財産総額が5,000万円(1億円以下)なので、11,000円を加算
- 手数料の合計:46,000円 + 11,000円 = 57,000円
※この他に、正本・謄本代などがかかります。
まとめ
遺言公正証書は、費用や手間はかかるものの、ご自身の最期の意思を最も安全かつ確実に残すことができる、非常に優れた方法です。残されたご家族が円満に相続手続きを進められるように、そして何よりご自身の想いをしっかりと伝えるために、とても大きな役割を果たしてくれます。元気なうちに、ご自身の状況に合った遺言の方法を考えておくことは、ご家族への最大の思いやりと言えるかもしれません。もし作成にあたって不安なことや分からないことがあれば、公証役場や弁護士などの専門家に相談してみるのも良いでしょう。
参考文献
遺言公正証書のよくある質問まとめ
Q.遺言公正証書とは何ですか?
A.公証人が遺言者から内容を聞き取り、法律に基づいて作成する公的な遺言書です。原本が公証役場に保管されるため、偽造や紛失のリスクが低いのが特徴です。
Q.遺言公正証書と自筆証書遺言の違いは何ですか?
A.自筆証書遺言が全文自筆で作成するのに対し、公正証書遺言は公証人が作成します。そのため、公正証書遺言は形式不備で無効になるリスクが極めて低く、相続開始後の家庭裁判所での「検認」手続きも不要です。
Q.遺言公正証書の作成にはどれくらいの費用がかかりますか?
A.遺言書に記載する財産の価額に応じて手数料が決まります。公証役場の手数料のほか、必要に応じて専門家への相談料などがかかる場合があります。具体的な金額は公証役場にご確認ください。
Q.遺言公正証書はどこで作成できますか?
A.全国の公証役場で作成できます。遺言者が高齢や病気で公証役場に行けない場合は、公証人が自宅や病院に出張して作成することも可能です。
Q.遺言公正証書を作成するメリットは何ですか?
A.主なメリットは、①無効になるリスクが低い、②偽造や紛失の心配がない、③相続開始後の検認手続きが不要、④相続手続きがスムーズに進む、といった点です。
Q.遺言公正証書の作成に必要な証人とは誰ですか?
A.作成時に2名以上の証人の立会いが必要です。推定相続人や受遺者など、利害関係のある人は証人になれません。信頼できる第三者か、専門家に依頼するのが一般的です。