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遺言書があれば遺産分割協議書は不要?原則と例外を徹底解説!

2025-07-22
目次

故人が遺言書を残してくれた場合、相続手続きはどうなるのでしょうか。「遺言書があるから、相続人同士の話し合い(遺産分割協議)やその合意書(遺産分割協議書)はいらないはず」と考える方も多いかもしれません。実は、必ずしもそうとは限らないのです。この記事では、遺言書がある場合の遺産分割協議書の必要性について、基本から分かりやすく解説していきます。

そもそも遺産分割協議書とは?

遺産分割協議書について理解するために、まずは基本から押さえておきましょう。「遺産分割協議書」と「遺言書」、この二つの書類の違いを知ることがポイントです。

遺産分割協議書は「相続人全員の合意書」

遺産分割協議書とは、故人(被相続人)の遺産を「誰が」「何を」「どのくらい」相続するのかについて、相続人全員で話し合って合意した内容をまとめた公式な書類です。この話し合いを「遺産分割協議」と呼びます。この協議書があることで、相続人全員が分割内容に納得したという証明になり、後のトラブルを防ぐ大切な役割を果たします。

遺言書は「故人の最終意思」

一方、遺言書は故人が生前に「自分の財産を誰にどのように残したいか」という最終的な意思を記したものです。法律で定められた形式に則って作成された有効な遺言書は、相続において最も優先されるべきものとされています。そのため、遺産の分け方は原則として遺言書の内容に従うことになります。

遺言書があれば遺産分割協議書は原則不要

では、本題です。法的に有効な遺言書がある場合、遺産分割協議書は必要なのでしょうか。答えは「原則として不要」です。

なぜ不要なの?遺言書の効力

遺言書は故人の意思を法的に実現するためのものです。遺言書に全ての遺産の分け方が具体的に記されていれば、相続人はその内容に従って手続きを進めるだけです。相続人同士で分け方を話し合う必要がないため、遺産分割協議も、その合意書である遺産分割協議書も作成する必要がないのです。これにより、相続手続きがスムーズに進み、相続人間の争いを未然に防ぐ効果も期待できます。

遺産分割協議書が不要なケースの具体例

具体的にどのような場合に遺産分割協議書が不要になるか、表で見てみましょう。

ケース 説   明
遺言書に全財産の分割方法が明記されている 遺言書で「長男に不動産、長女に預貯金」といったように全ての財産の行き先が指定されている場合です。
相続人が一人しかいない そもそも話し合う相手がいないため、遺産分割協議は発生しません。相続放棄によって結果的に相続人が一人になった場合も同様です。

要注意!遺言書があっても遺産分割協議書が必要になる3つのケース

「原則不要」ということは、例外的に必要になるケースがあるということです。ここでは、遺言書があっても遺産分割協議書が必要になる代表的な3つのパターンをご紹介します。

遺言書に記載のない財産が見つかった場合

遺言書作成後に取得した財産や、うっかり記載し忘れた財産が見つかることがあります。遺言書に「その他一切の財産は〇〇に相続させる」といった包括的な記載がない限り、その記載漏れの財産については、相続人全員で分け方を話し合う必要があります。そして、その合意内容を遺産分割協議書にまとめる必要があるのです。

遺言書と異なる内容で遺産分割をする場合

相続人全員と受遺者(遺言で財産を受け取る人)が合意すれば、遺言書の内容とは異なる方法で遺産を分けることも可能です。例えば「遺言では長男が実家を相続することになっているが、実際に同居している次男が相続する方が良い」といった事情がある場合などです。この場合、全員の合意内容を証明するために、遺産分割協議書を作成する必要があります。

遺言書が無効だった場合

遺言書が法律で定められた要件を満たしていない場合、その遺言書は無効となってしまいます。例えば、自筆証書遺言で日付が書かれていない、署名がないといったケースです。遺言書が無効になると、それは「遺言書がなかった」のと同じ状態になります。そのため、相続人全員で遺産分割協議を行い、遺産分割協議書を作成しなければなりません。

遺産分割協議書がないと困る手続きは?

遺産分割協議書は、単なる話し合いの記録ではありません。様々な相続手続きで「誰がどの財産を相続したか」を証明する公的な書類として必要になります。

不動産の相続登記(名義変更)

遺言書がなく、法定相続分とは異なる割合で不動産を相続する場合、法務局での相続登記(名義変更)手続きに遺産分割協議書(相続人全員の実印と印鑑証明書付き)の提出が必須です。特に、2024年4月1日から相続登記が義務化されたため、この書類の重要性はさらに増しています。

預貯金の解約・名義変更

金融機関での預貯金の解約や名義変更手続きでも、遺産分割協議書の提出を求められることがほとんどです。遺言書がない場合、この書類がなければ「誰がこの預金を相続するのか」を金融機関が確認できず、手続きを進めることができません。

相続税の申告と特例の適用

相続税の申告が必要な場合、遺産分割協議書は税務署に提出する重要な書類です。特に、相続税額を大幅に軽減できる「配偶者の税額軽減」や「小規模宅地等の特例」といった制度を利用する際には、遺言書または遺産分割協議書の添付が必須条件となっています。これらの特例は、例えば配偶者の税額軽減なら最低でも1億6,000万円まで、小規模宅地等の特例なら自宅の土地の評価額を最大80%減額できるなど、非常に大きな節税効果があります。これらの恩恵を受けるためにも、遺産分割協議書は不可欠です。

遺言書と遺産分割協議書、どちらが優先される?

では、もし遺言書と遺産分割協議書の両方が存在する場合、どちらの内容が優先されるのでしょうか。これは状況によって異なります。

原則は「遺言書」が最優先

相続における大原則は「故人の意思の尊重」です。そのため、法的に有効な遺言書が存在する場合、その内容が何よりも優先されます。相続人は基本的に遺言書に従わなければなりません。

「相続人全員の合意」があれば遺産分割協議書が優先

ただし、前述したように、相続人および受遺者全員が合意すれば、遺言書とは違う分け方をすることが認められています。この場合、全員の合意によって作成された遺産分割協議書の内容が優先されることになります。これは、財産を受け取る権利を持つ人全員が納得しているのであれば、故人の意思とは異なる分割も認めるという考え方に基づいています。

まとめ

「遺言があったら、遺産分割協議書は不要?」という疑問について解説してきました。結論をまとめると以下のようになります。

原則 有効な遺言書があり、全ての財産の分け方が指定されていれば、遺産分割協議書は不要です。
例外 遺言書に記載のない財産がある場合や、相続人全員の合意で遺言と違う分け方をする場合は、遺産分割協議書が必要になります。

遺言書は相続をスムーズに進めるための強力なツールですが、万能ではありません。遺言書の内容によっては、遺産分割協議書の作成が必要になることもあります。ご自身の状況がどちらに当てはまるか不安な場合は、専門家に相談することをお勧めします。相続手続きを円滑に進め、後のトラブルを避けるためにも、正しい知識を身につけておきましょう。

【参考文献】

遺言と遺産分割協議書のよくある質問まとめ

Q. 遺言があったら、遺産分割協議書は本当に不要ですか?

A. はい、原則として不要です。遺言書の内容に従って遺産を分けるため、相続人全員で話し合う「遺産分割協議」自体が必要ありません。

Q. 遺言書に書かれていない財産が見つかった場合はどうなりますか?

A. その財産については、相続人全員で分け方を話し合う「遺産分割協議」を行い、遺産分割協議書を作成する必要があります。

Q. 遺言書と異なる内容で遺産を分けることはできますか?

A. はい、相続人全員と受遺者(遺言で財産を受け取る人)が合意すれば可能です。その場合は、合意した内容で遺産分割協議書を作成します。

Q. 不動産の名義変更(相続登記)に遺産分割協議書は必要ですか?

A. 遺言書があれば原則不要です。法務局での手続きは遺言書で行えます。ただし、遺言の内容が不明確な場合など、手続きをスムーズに進めるために作成するケースもあります。

Q. 遺言の内容が不公平だと感じた場合はどうすればいいですか?

A. 相続人には最低限の取り分である「遺留分」を請求する権利があります。遺言書がこの遺留分を侵害している場合、他の相続人や受遺者に対して遺留分侵害額請求ができます。

Q. どの種類の遺言でも遺産分割協議書は不要になりますか?

A. 公正証書遺言でも自筆証書遺言でも、法的に有効であれば遺産分割協議書は原則不要です。ただし、自筆証書遺言は形式不備で無効になるリスクがあり、無効になった場合は遺産分割協議が必要になります。

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