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遺言書と違う遺産分割はできる?相続人全員の合意で円満解決へ

2026-05-21
目次

故人の遺志が記された遺言書。基本的にはその内容が最優先されますが、ご家族の状況によっては、遺言書とは違う分け方をしたいと考えることもありますよね。実は、ある条件を満たせば、遺言書の内容と異なる遺産分割も可能なんです。この記事では、その方法や注意点を分かりやすく解説します。

遺言書と異なる遺産分割協議は基本的に「可能」です

「遺言書があるから、絶対にその通りにしなくてはいけない」と思っていませんか?実は、法律では相続人全員が納得していれば、遺言書とは違う内容で遺産を分けることが認められているんです。これを「遺産分割協議」といいます。故人の遺志も大切ですが、残されたご家族が円満に相続を進めることも同じくらい大切ですよね。

なぜ遺言書と違う分割ができるの?

遺言書は、故人がご自身の財産をどう分けるかを示した大切な意思表示です。しかし、財産は最終的に相続人が受け取るもの。そのため、財産を受け取る権利のある相続人全員が合意するのであれば、その合意が尊重される、という考え方に基づいています。例えば、「長男に全財産」という遺言があっても、長男自身が「兄弟で分けたい」と考え、他の兄弟もそれに同意すれば、話し合いによる分割が可能になるわけです。

どんな時に遺言書と違う分割をするの?

実際に遺言書と異なる遺産分割が行われるのは、様々なケースが考えられます。

  • 相続税対策:遺言書通りの分割だと「小規模宅地等の特例」が使えず、相続税が高額になってしまう場合。
  • 二次相続を考慮:今回の相続だけでなく、次に起こる相続(例えば、母が亡くなった後の相続)まで見据えて、バランスの良い分割をしたい場合。
  • 相続人の生活状況の変化:遺言書作成時から相続人の生活状況が変わり、「不動産より現金が助かる」といった希望が出てきた場合。
  • より公平な分割のため:遺言書の内容が特定の相続人に偏っており、他の相続人との間で不公平感をなくしたい場合。

遺言書と異なる遺産分割ができるための4つの条件

ただ、誰でも自由に遺言書の内容を変えられるわけではありません。いくつかの重要な条件をクリアする必要があります。ここでは、その4つの条件を一つずつ確認していきましょう。

① 相続人全員の同意があること

これが最も重要な条件です。法定相続人(法律で定められた相続人)が一人でも反対すれば、遺言書と異なる遺産分割協議は成立しません。たとえ9人中8人が賛成でも、残り1人が「遺言書通りにすべきだ」と主張すれば、協議は無効になってしまいます。全員が内容をしっかり理解し、納得した上で合意することが大前提です。

② 受遺者(遺贈を受けた人)の同意があること

遺言書によって財産を受け取るのは、相続人だけとは限りません。「お世話になった友人Aさんに100万円を遺贈する」というように、相続人以外の人に財産を渡すことを「遺贈」といい、財産を受け取る人を「受遺者」と呼びます。もし受遺者がいる場合、その受遺者の同意も必要になります。相続人たちだけで勝手に受遺者の権利をなくすことはできません。受遺者が「遺贈を放棄します」と意思表示をしてくれれば、相続人だけで分割協議を進めることができます。

③ 遺言執行者がいる場合はその人の同意も必要

遺言書の内容をスムーズに実現するために、「遺言執行者」が指定されていることがあります。遺言執行者は、預金の解約や不動産の名義変更など、遺言を実現するための権限を持っています。そのため、遺言書と違う内容で分割する場合には、遺言執行者の同意も得ておくのが安心です。相続人全員が合意しているのに、遺言執行者が正当な理由なく反対することは考えにくいですが、事前に話を通しておくことがトラブル回避につながります。

④ 遺言で遺産分割が禁止されていないこと

これは少し特殊なケースですが、故人が遺言書の中で「相続開始から5年間は遺産分割を禁ずる」といったように、遺産分割そのものを禁止している場合があります(民法908条)。この場合、相続人全員が合意したとしても、その禁止期間中は遺産分割協議を行うことができません

遺言書と異なる遺産分割を行う際の注意点

条件をクリアすれば遺言書と異なる遺産分割が可能ですが、いくつか知っておくべき注意点があります。特に税金に関わることは重要ですので、しっかり確認しておきましょう。

税務上の取り扱い(贈与税はかかる?)

「遺言では長男がもらうはずだった財産を、協議で次男がもらうことになったら、長男から次男への贈与にならないの?」と心配になるかもしれませんね。ご安心ください。相続税の申告前であれば、相続人全員の合意による遺産分割協議の結果として扱われるため、基本的に贈与税はかかりません。国税庁も、これは遺贈の事実上の放棄と遺産分割協議にあたるとの見解を示しています。ただし、一度遺言書通りに登記や相続税申告を済ませた後に分割をやり直すと、贈与とみなされ贈与税がかかる可能性があるので注意が必要です。

不動産登記の手続きはどうなる?

遺言書に「長男にA不動産を相続させる」と書かれている場合、法律上は相続開始と同時にA不動産は長男のものになります。そのため、遺産分割協議で「次男がA不動産を相続する」と決めた場合、登記手続きが少し複雑になる可能性があります。原則としては、①遺言に基づき長男へ所有権移転登記 → ②遺産分割に基づき長男から次男へ所有権移転登記、という二段階の手続きが必要になることも。ただし、実務上は直接、次男への相続登記が認められるケースも多いので、専門家である司法書士に相談するのが確実です。

遺産分割協議書の作成は必須

口約束だけでは、後々「言った、言わない」のトラブルになりかねません。遺言書と異なる遺産分割を行う場合は、必ずその内容を「遺産分割協議書」という書面にまとめましょう。この協議書には、相続人全員が署名し、実印を押印します。この遺産分割協議書が、預金の解約や不動産の名義変更など、様々な相続手続きで必要になります。

どうしても合意できない場合の対処法

相続人のうち誰か一人でも納得せず、遺言書と異なる遺産分割協議ができない場合、どうすればよいのでしょうか。泣き寝入りするしかないのでしょうか。いいえ、いくつかの対抗策が考えられます。

遺言無効確認請求訴訟

「遺言書が偽造された疑いがある」「認知症だった父が書けるはずがない」など、遺言書そのものの有効性に疑問がある場合は、「遺言無効確認請求訴訟」を家庭裁判所に提起することができます。この訴訟で遺言が無効と認められれば、遺言書はなかったことになり、相続人全員で遺産分割協議を行うことになります。ただし、訴訟には時間も費用もかかるため、慎重な判断が必要です。

遺留分侵害額請求

遺言書が有効であっても、自分の取り分が法律で保障された最低限の割合(遺留分)を下回っている場合には、「遺留分侵害額請求」ができます。これは、財産を多く受け取った相続人や受遺者に対して、不足分を金銭で支払うよう請求する権利です。この請求権は、相続の開始と遺留分を侵害する贈与等があったことを知った時から1年で時効にかかってしまうため、早めに行動することが重要です。

請求の種類 内容
遺言無効確認請求訴訟 遺言書の有効性を争い、無効を求める訴訟。時間と費用がかかり、証拠集めが重要になります。
遺留分侵害額請求 最低限保障された相続分(遺留分)を金銭で請求すること。相続開始を知ってから1年以内に請求する必要があります。

遺言書と異なる遺産分割の具体例

ここで、具体的なケースを見てみましょう。
父が亡くなり、相続人は母、長男、長女の3人。遺産は自宅不動産(評価額4,000万円)と預貯金2,000万円。父は「自宅不動産と預貯金の全てを、同居していた長男に相続させる」という遺言書を残していました。
しかし、母は今後の生活のために現金を確保したい、長女も少しは財産を分けてほしいと考えています。長男も、母と妹の気持ちを汲んで、遺産分割協議に応じることにしました。

遺産分割協議による分割案

3人で話し合った結果、以下のような分割案で合意しました。

  • 母:預貯金 1,000万円
  • 長男:自宅不動産 4,000万円
  • 長女:預貯金 1,000万円

この内容で遺産分割協議書を作成し、全員が署名・押印しました。この場合、相続人全員が合意しているので、遺言書の内容と異なりますが、この分割は有効です。相続税の申告も、この遺産分割協議書に基づいて行います。

まとめ

今回は、遺言書の内容と異なる遺産分割について解説しました。故人の遺志が込められた遺言書は非常に重要ですが、それが必ずしも残されたご家族にとって最善の形とは限りません。相続人や受遺者全員が納得し、きちんと条件を満たせば、話し合いによってより円満な解決を目指すことが可能です。ただし、税金や登記など専門的な知識が必要な場面も多くあります。もし手続きに不安があったり、相続人間での話し合いが難航しそうだったりする場合には、弁護士や税理士、司法書士といった専門家に早めに相談することをおすすめします。大切なのは、ご家族が争うことなく、円満に相続を終えることですからね。

参考文献

遺言書と異なる遺産分割のよくある質問まとめ

Q.遺言書があるのに、内容と異なる遺産分割はできますか?

A.はい、相続人全員の同意があれば可能です。遺言書の内容と異なる内容で遺産分割協議を行い、全員が合意すれば、その協議内容が優先されます。

Q.遺言書と遺産分割協議、どちらが優先されるのですか?

A.法律上の効力は遺言書が優先されます。しかし、相続人全員が遺言書と異なる内容で合意した場合は、その遺産分割協議の内容が優先されることになります。

Q.なぜ遺言書と異なる内容で遺産分割をする必要があるのですか?

A.遺言書作成時から相続人の生活状況が変わったり、不動産を共有名義にせず特定の相続人が単独で相続したいと考えたりするなど、より実情に合った円満な分割を目指す場合に行われます。

Q.相続人のうち一人でも反対したら、遺言と違う分割はできませんか?

A.はい、できません。遺言書と異なる遺産分割を行うには、相続人「全員」の同意が絶対条件です。一人でも反対する人がいれば、原則として遺言書の内容に従うことになります。

Q.遺言執行者がいる場合でも、異なる遺産分割は可能ですか?

A.はい、可能です。ただし、遺言内容を実現する義務を負う遺言執行者の同意を得る必要があります。事情を説明し、遺言執行者の理解と協力を得ることが重要です。

Q.遺言書と違う遺産分割をする際の注意点は何ですか?

A.相続人全員の合意があったことを証明するため、必ず「遺産分割協議書」を作成し、全員が署名・押印してください。また、相続人以外の受遺者がいる場合は、その人の同意も必要になる点に注意が必要です。

事務所概要
社名
税理士法人プライムパートナーズ
住所
〒107-0052
東京都港区赤坂5丁目2−33
IsaI AkasakA 17階
対応責任者
税理士 島本 雅史

本記事は正確な情報提供を心掛けておりますが、執筆時点の情報に基づいているため、法改正や人的ミス、個別のケースにより適用が異なる可能性があります。最新の情報や具体的なご相談については、お気軽に弊法人の税理士までお問い合わせください。

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