遺言書を作成するとき、「付言事項(ふげんじこう)」という言葉を聞いたことはありますか?実はこの付言事項、財産の分け方と同じくらい、もしかしたらそれ以上に大切な役割を果たすことがあるんです。法的な効力はないけれど、残された家族への想いを伝えることで、円満な相続の助けになります。この記事では、付言事項の基本から、具体的な書き方、注意点まで、わかりやすく解説していきますね。
そもそも付言事項って何?基本を優しく解説します
遺言書というと、誰にどの財産を渡すかを書く、法的な書類というイメージが強いですよね。もちろんその通りなのですが、それだけだと少し事務的で、冷たい印象を与えてしまうことも。そこで登場するのが「付言事項」です。まずは、付言事項がどのようなものなのか、基本から見ていきましょう。
法的効力はない「最後の手紙」です
付言事項の一番の特徴は、法的な効力がないことです。「え、効力がないなら書く意味あるの?」と思うかもしれませんが、ここがポイントなんです。法的効力がないからこそ、形式にとらわれず自由に、ご自身の言葉で家族への想いを綴ることができます。感謝の気持ち、財産をそのように分けた理由、これからの人生への願いなど、まるで最後の手紙のように、温かいメッセージを残せるのが付言事項の魅力なんですよ。
なぜ書くの?「争族」を防ぐ大切な役割
遺言書があるのに、なぜ相続トラブルが起きてしまうのでしょうか。その原因の一つに、「なぜこのような分け方になったのか分からない」という相続人の不満や疑問があります。例えば、長男に多くの財産を相続させる内容だった場合、他の兄弟は不公平だと感じてしまうかもしれません。そんなとき、付言事項で「長男は長年、家業を支えてくれたから」といった理由や、「これからは皆で協力してほしい」という想いを伝えることで、相続人の納得感を得やすくなり、無用な争いを防ぐことにつながるのです。
法定遺言事項との違い
遺言書に書かれる内容には、法的な効力を持つ「法定遺言事項」と、効力を持たない「付言事項」の2種類があります。その違いを表にまとめてみました。
法定遺言事項 | 法律で定められた、法的な効力を持つ事項です。相続分の指定や遺贈、子の認知などがこれにあたります。書き方が厳密に決まっています。 |
付言事項 | 法的な効力はありません。遺言者の想いやメッセージを伝えるための部分です。自由に書くことができますが、法定遺言事項の後に書くのが一般的です。 |
付言事項にはどんなことを書けばいいの?【文例付き】
「付言事項が大切なのはわかったけど、具体的に何を書けばいいの?」と迷いますよね。ここでは、よく書かれる内容を具体的な文例とあわせてご紹介します。ご自身の状況に合わせてアレンジしてみてくださいね。
家族への感謝の気持ち
やはり一番多いのは、家族への感謝の言葉です。普段は照れくさくて言えない気持ちも、付言事項なら素直に伝えられます。
(文例)
「妻の花子へ。長い間、いつもそばで支えてくれて本当にありがとう。あなたのおかげで、私の人生はとても幸せなものでした。子どもたちも、健やかに育ってくれて感謝しています。これからも家族みんなで力を合わせて、仲良く暮らしていってください。」
財産の分け方を決めた理由
法定相続分と異なる分け方をする場合には、その理由を丁寧に説明することが、トラブル回避の鍵になります。
(文例)
「長男の太郎には、私の事業を継いでもらうため、自宅と会社の株式を相続させることにしました。次男の次郎には、生前に住宅購入資金として1,000万円を贈与しています。どうかこの分け方を理解し、兄弟仲良く助け合ってくれることを願っています。」
葬儀やお墓に関する希望
葬儀の形式やお墓についての希望も、付言事項に書いておくことができます。ただし、これらも法的な拘束力はないため、あくまで「お願い」として伝える形になります。
(文例)
「私の葬儀は、家族だけでささやかに行ってください。お墓は、先祖代々のお墓がある〇〇寺に納骨をお願いします。あまり大げさにせず、静かに見送ってくれると嬉しいです。」
残される家族へのメッセージ
財産のことだけでなく、これからの人生を歩む家族へのエールやメッセージを伝えることもできます。
(文例)
「私が亡くなった後も、どうか家族みんなで支え合ってください。お母さんのことをよろしく頼みます。それぞれが自分の人生を大切に、幸せに歩んでいくことを、心から願っています。」
注意!付言事項に書かない方がいいこと
自由に書ける付言事項ですが、内容によってはかえってトラブルの火種になってしまうこともあります。ここでは、書く際に気をつけたいポイントを解説します。
特定の相続人への不満や悪口
「長男は全然面倒を見てくれなかった」といった、特定の相続人に対するネガティブな感情を書くのは避けましょう。たとえそれが事実であったとしても、残された家族の間に深い溝を作ってしまいます。恨み言を書くのではなく、「次男の妻には、介護で本当にお世話になったので感謝している」というように、感謝の気持ちに言い換えるのが円満の秘訣です。
法定遺言事項と矛盾する内容
遺言書の本文(法定遺言事項)と付言事項の内容が食い違っていると、遺言全体の有効性が疑われる可能性があります。例えば、本文で「全財産を妻に相続させる」と書いているのに、付言事項で「預金の一部は孫に使ってほしい」と書くと、どちらが本当の意思なのか混乱を招きます。内容に一貫性を持たせることが大切です。
遺留分についての書き方には配慮が必要
遺留分とは、兄弟姉妹以外の法定相続人に保障された最低限の遺産の取り分です。遺言によって遺留分を侵害してしまう場合、「遺留分を請求しないでほしい」と付言事項でお願いすることはできます。しかし、書き方には注意が必要です。高圧的な表現は反感を招きますし、そもそも相続人が遺留分という権利を知らない場合、わざわざ知らせてしまうことにもなりかねません。相手の性格なども考慮し、丁寧にお願いする形で伝えるか、あえて触れないでおくか、慎重に判断しましょう。
付言事項を書くときのQ&A
ここでは、付言事項に関してよくある質問にお答えします。
どんな形式で書けばいいの?
付言事項には決まった形式はありません。手紙のように、自由に書いて大丈夫です。自筆証書遺言の場合は、本文と同じく全文を自筆で書く必要があります。日付や署名・押印の前に記載するのが一般的です。公正証書遺言の場合は、公証人に伝えたい内容を口述し、文書にまとめてもらいます。
長さはどれくらいがいい?
長さに決まりはありませんが、あまり長すぎると要点が伝わりにくくなります。伝えたいことを簡潔に、分かりやすくまとめるのが良いでしょう。想いがたくさんある場合は、遺言書とは別に手紙(エンディングノートなど)を用意するのも一つの方法です。
専門家に相談した方がいい?
遺言書全体に関わることですが、法的に有効な遺言書を作成し、かつ相続トラブルを未然に防ぐためには、専門家(弁護士、司法書士、行政書士など)に相談することをおすすめします。特に、付言事項で相続人の感情に配慮した表現を考える際にも、客観的なアドバイスをもらえると安心です。
税務調査との関係は?
あまり知られていませんが、遺言書は相続税申告の際に税務署に提出されます。そのため、付言事項の内容が税務調査のきっかけになる可能性もゼロではありません。
税務署に疑われやすい表現とは?
例えば、「長男には事業資金として生前に多額の援助をしてきた」といった記述があると、税務署は「その生前贈与は正しく申告されているか?」と関心を持つ可能性があります。また、「妻名義の預金〇〇円は、実質的には私のものだから、生活費にあててほしい」のような記述は、名義預金を疑われる原因になります。事実を書くことは大切ですが、税務的な観点から問題がないか、専門家に確認してもらうとより安心でしょう。
まとめ
付言事項は、法的な効力はありませんが、遺言者の最後の想いを伝え、残された家族の「争族」を防ぐための、非常に有効な手段です。財産の分け方を記した本文だけでは伝わらない、その背景にある理由や家族への感謝の気持ちを、ご自身の言葉で綴ってみてください。ただし、書き方によってはトラブルの原因にもなり得るので、特定の相続人への非難は避け、感謝の気持ちを中心に、温かいメッセージを心がけましょう。円満な相続を実現するために、この記事が少しでもお役に立てれば幸いです。
参考文献
自筆証書遺言書保管制度
民法(相続関係)等の改正
付言事項のよくある質問まとめ
Q.付言事項とは何ですか?
A.付言事項とは、遺言書の中で法的な効力はないものの、遺言者の想いや願い、遺産分割の理由などを家族に伝えるためのメッセージのことです。
Q.付言事項は何のために書くのですか?
A.家族への感謝の気持ちを伝えたり、なぜそのような遺産分割にしたのか理由を説明したりすることで、相続人間の争いを防ぎ、円満な相続を実現するために書きます。
Q.付言事項を書かないとどうなりますか?
A.必ずしも問題が起こるわけではありませんが、遺産分割の内容によっては相続人が不満を抱き、トラブルに発展する可能性があります。付言事項で遺言者の真意を伝えることで、それを防ぐ効果が期待できます。
Q.付言事項に法的な効力はありますか?
A.いいえ、付言事項には法的な拘束力や強制力はありません。あくまで遺言者の気持ちを伝えるためのもので、相続内容を法的に変更する効力はありません。
Q.付言事項には具体的にどのようなことを書けばよいですか?
A.家族への感謝の言葉、財産を築いた経緯、特定の相続人に多くの財産を残す理由、葬儀や納骨に関する希望、残された家族へのメッセージなどを書くのが一般的です。
Q.付言事項を書く際の注意点はありますか?
A.特定の相続人を非難したり、相続人間の不和を招くような内容は避けましょう。前向きで、感謝の気持ちが伝わるような温かい言葉で書くことが大切です。