大切な財産を、お世話になった人や団体へ確実に渡したいと考えたとき、「遺贈」という方法があります。でも、遺贈には「特定遺贈」と「包括遺贈」という2つの種類があり、どちらを選べばいいか迷ってしまう方も多いのではないでしょうか。この2つは似ているようで、実は財産の渡し方や受け取る側の権利・義務が大きく異なります。今回は、この2つの遺贈の違いについて、メリット・デメリットや税金の話も交えながら、わかりやすく解説していきますね。
そもそも遺贈とは?
遺贈(いぞう)とは、遺言書によって、ご自身の財産を特定の人や団体に無償で譲り渡すことをいいます。財産を渡す人を「遺贈者」、受け取る人を「受遺者」と呼びます。
遺贈と相続の大きな違い
相続は、法律で定められた相続人(法定相続人)だけが財産を受け取れるのに対し、遺贈は法定相続人以外の人や、法人(NPO法人など)にも財産を渡せるのが大きな違いです。例えば、内縁の配偶者や、特にお世話になったご友人、応援したい団体などに財産を残したい場合に活用できる制度なんですよ。
遺贈の効力はいつから?
遺贈は遺言書に基づいて行われるため、その効力は遺言者が亡くなったときに発生します。遺言書に書いたからといって、生きている間に財産の所有権が移るわけではないので、ご自身で自由に財産を使い続けることができます。
「特定遺贈」をわかりやすく解説
特定遺贈とは、「A銀行の預金100万円を」「自宅の土地建物を」というように、どの財産を誰に渡すのかを具体的に指定して遺贈する方法です。財産を特定して渡す、シンプルな方法だとイメージしてください。
特定遺贈のメリット
特定遺贈には、主に3つのメリットがあります。
1つ目は、借金などのマイナスの財産を引き継ぐ心配がないことです。指定されたプラスの財産だけを受け取れるので、受遺者にとって安心です。
2つ目は、渡す財産が明確なので、他の相続人との間でトラブルが起こりにくい点です。遺産分割協議に参加する必要もありません。
3つ目は、遺贈の放棄が比較的簡単なことです。もし遺贈を受け取りたくない場合、いつでも放棄の意思表示をするだけで手続きが済みます。
特定遺贈のデメリット
一方で、デメリットも存在します。
まず、遺言書を作成してから亡くなるまでの間に、指定した財産がなくなってしまう可能性があります。例えば、「A銀行の預金を」と指定しても、その預金が解約されていれば、受遺者は何も受け取れません。
また、他の相続人の遺留分(最低限保証される相続分)を侵害してしまうと、後から相続人に「遺留分侵害額請求」をされ、トラブルになる可能性もあります。
さらに、法定相続人以外の人が不動産を特定遺贈で受け取った場合、不動産取得税がかかる点も注意が必要です。
特定遺贈の放棄方法
特定遺贈を放棄する場合、特別な期限はありません。受遺者は、遺言者が亡くなった後、いつでも放棄することができます。手続きは、相続人や遺言執行者に対して「遺贈を放棄します」という意思を伝えるだけで大丈夫です。ただし、後々のトラブルを防ぐために、内容証明郵便などで書面として記録を残しておくことをおすすめします。
「包括遺贈」をわかりやすく解説
包括遺贈とは、「全財産の3分の1を」「すべての財産のうち半分を」というように、財産の割合を指定して遺贈する方法です。どの財産を渡すか具体的に決めず、全体に対する割合で渡すのが特徴です。
包括遺贈のメリット
包括遺贈のメリットは、遺言書を作成した後に財産の内容や金額が変わっても、柔軟に対応できる点です。財産が増減しても、指定した割合で遺贈することができます。
また、包括遺贈を受けた受遺者は、相続人と同様の権利義務を持つため、遺産分割協議に参加して、どの財産を受け取るか話し合うことができます。
包括遺贈のデメリット
最大のデメリットは、借金などのマイナスの財産も指定された割合で引き継いでしまうリスクがあることです。プラスの財産よりマイナスの財産が多い場合、受遺者が大きな負担を背負うことになりかねません。
また、遺贈を放棄する場合には、相続の開始を知った時から3ヶ月以内に家庭裁判所で手続きをしなければならず、期限が短く手続きも複雑です。
包括遺贈の放棄方法
包括遺贈を放棄したい場合は、注意が必要です。相続放棄と同じように、自分が遺贈を受けることを知った日から3ヶ月以内に、亡くなった方の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に「遺贈放棄の申述」という手続きを行わなければなりません。この期間を過ぎてしまうと、原則として放棄できなくなってしまいます。
特定遺贈と包括遺贈の違いを比較表でチェック!
ここまで解説した内容を、表で比較してみましょう。どちらの方法がご自身の希望に合っているか、確認してみてくださいね。
| 比較項目 | 特定遺贈 / 包括遺贈 |
| 財産の指定方法 | 【特定】「A土地」など具体的に指定 【包括】「財産の3分の1」など割合で指定 |
| 負の財産(借金など) | 【特定】原則、引き継がない 【包括】割合に応じて引き継ぐ |
| 遺産分割協議への参加 | 【特定】参加できない 【包括】参加できる |
| 放棄の方法と期限 | 【特定】期限なし。相続人への意思表示で可 【包括】知った時から3ヶ月以内に家庭裁判所へ申述 |
| 不動産取得税(※) | 【特定】課税される 【包括】課税されない |
※法定相続人以外の人が不動産を取得した場合
遺贈にかかる税金について
遺贈によって財産を受け取った場合、基本的には相続税の対象となります。その他にも、不動産を受け取った場合には特有の税金がかかることがあります。
相続税
遺贈で財産を受け取った個人には相続税がかかります。ただし、法定相続人以外の方が遺贈で財産を取得した場合、相続税額が2割加算されるというルールがありますので注意が必要です(これを「相続税額の2割加算」といいます)。また、相続税の基礎控除額「3,000万円+600万円×法定相続人の数」を計算する際、受遺者は法定相続人の数には含まれません。
不動産取得税と登録免許税
不動産を遺贈で取得した場合、税金の扱いに違いが出てきます。
・不動産取得税:法定相続人以外の人が特定遺贈で不動産を取得した場合は、不動産取得税(固定資産税評価額の3%または4%)が課税されます。包括遺贈の場合は課税されません。
・登録免許税:不動産の名義変更(所有権移転登記)の際に登録免許税がかかります。法定相続人が相続する場合は税率が0.4%ですが、法定相続人以外の人が遺贈で取得した場合は税率が2.0%と高くなります。
まとめ
今回は、特定遺贈と包括遺贈の違いについて解説しました。それぞれの特徴をまとめると、以下のようになります。
・特定遺贈がおすすめな方:「この財産をこの人に」と決めていて、受遺者に借金などの負担をかけたくない場合。
・包括遺贈がおすすめな方:財産の変動が予想され、割合で渡したい場合や、受遺者にも遺産の分け方を話し合ってほしい場合。
どちらの方法にもメリットとデメリットがあります。ご自身の想いを確実に実現し、財産を受け取る方に余計な負担をかけないためにも、両者の違いをしっかり理解することが大切です。遺言書の作成にあたっては、ご自身の状況に合わせて最適な方法を選ぶために、専門家へ相談することも検討してみてくださいね。
参考文献
遺贈(特定遺贈・包括遺贈)のよくある質問まとめ
Q.遺贈とは何ですか?相続との違いは?
A.遺贈とは、遺言によって法定相続人以外の人や法人に財産を無償で譲ることです。相続は法律で定められた相続人が財産を受け継ぐ点で異なります。
Q.特定遺贈と包括遺贈の違いは何ですか?
A.特定遺贈は「〇〇の土地をAさんに」のように特定の財産を指定して譲ることです。一方、包括遺贈は「全財産の3分の1をBさんに」のように財産の割合を指定して譲る方法です。
Q.包括遺贈の注意点はありますか?
A.はい。包括遺贈では、預貯金などのプラスの財産だけでなく、借金などのマイナスの財産も指定された割合で引き継ぐことになります。そのため、財産の全体像を把握することが重要です。
Q.遺贈をしたい場合、どうすればいいですか?
A.遺贈は遺言によってのみ行うことができます。法的に有効な遺言書(自筆証書遺言や公正証書遺言など)を作成し、誰にどの財産を遺贈するのかを明確に記載する必要があります。
Q.遺贈された財産を放棄することはできますか?
A.はい、できます。特定遺贈はいつでも放棄できますが、包括遺贈の場合は、遺贈を知った時から3ヶ月以内に家庭裁判所で放棄の手続きが必要です。
Q.遺贈で財産を受け取ると税金はかかりますか?
A.はい。遺贈によって財産を受け取った人(受遺者)には相続税が課税されます。受遺者が法定相続人以外の場合、相続税額が2割加算される点に注意が必要です。