相続で「雑種地」を受け継いだけれど、どうやって評価すればいいかわからない…とお困りではありませんか?雑種地の評価はとても複雑で、専門家でも判断が難しいことがあります。それは、土地の場所や状況によって評価方法がガラッと変わるからです。この記事では、雑種地の評価方法を、初心者の方にも分かりやすいように、ステップを踏んで丁寧に解説していきますね。
そもそも雑種地とは?
まず、「雑種地(ざっしゅち)」という言葉自体、あまり聞きなれないかもしれませんね。土地には「地目(ちもく)」という種類分けがあって、相続税を計算する上では9つの種類に分けて考えられています。雑種地は、その中のひとつなんです。
雑種地の定義って?
相続税の計算をする上では、土地の地目を、宅地、田、畑、山林、原野、牧場、池沼、鉱泉地という8つの種類に分けます。そして、雑種地とは、この8つのどれにも当てはまらない土地のことを指します。いわば「その他の土地」というイメージですね。
具体的にはどんな土地?
雑種地に当てはまる土地は本当にさまざまです。実務でよく見られるのは、次のような土地です。
- 駐車場(青空駐車場、アスファルト敷きの駐車場など)
- 資材置き場
- ゴルフ場
- 遊園地
- テニスコート
- 太陽光発電設備の敷地(事業用のもの)
- 利用していない空き地
このように、建物の敷地(宅地)でもなく、農地や山林でもない、いろいろな用途で使われている土地が雑種地になります。
地目は「現況」で判断されるのがポイント
相続税評価で一番大切なポイントは、土地の地目は登記簿に書かれている地目ではなく、相続が始まった時点(被相続人が亡くなった日)の「現況」で判断するということです。
例えば、登記簿上は「宅地」となっていても、実際には月極駐車場として使われていれば、それは「雑種地」として評価します。逆に、登記簿上は「畑」でも、何年も耕作されずに資材置き場になっていれば、それも「雑種地」です。まずは、その土地が今、どのように使われているかを確認することがスタートになります。
雑種地の評価の基本方針
雑種地の評価方法は、一言で「こうです」と言えないのが難しいところです。土地の状況によって、どの評価方法を使うかが変わってきます。まずは、その基本となる考え方を見ていきましょう。
評価方法は大きく2つ
雑種地の評価方法は、国税庁によって主に2つの方法が定められています。
| 近傍地比準方式(きんぼうちひじゅんほうしき) | 評価したい雑種地の近くにある、状況が似ている土地の価格を参考にして評価する方法です。これが原則的な評価方法になります。 |
| 倍率方式 | ごく一部の地域で、雑種地に評価倍率が定められている場合に使う方法です。固定資産税評価額に、国税庁が定める倍率を掛けて評価します。ただし、この方法が使える地域は非常に限られています。 |
ほとんどのケースでは「近傍地比準方式」が使われる、と覚えておいてくださいね。
評価を始める前の2つの重要チェックポイント
雑種地の評価を正しく行うためには、計算を始める前に必ず確認すべき2つのポイントがあります。この2つを間違えると、評価額が大きく変わってしまうこともあるので、とても重要です。
- その雑種地が都市計画法上のどの区域にあるか
- その雑種地が路線価地域と倍率地域のどちらにあるか
次の章から、この2つのチェックポイントについて、詳しく見ていきましょう。
【チェックポイント1】都市計画法上の区域を確認しよう
まず、評価したい雑種地が、都市計画法という法律で定められたどのエリアにあるかを確認します。これにより、土地の利用に関する規制が異なり、評価方法も変わってくるんです。主に次の3つの区域に分かれています。
市街化区域
市街化区域とは、「すでに市街地になっている、または、おおむね10年以内に優先的かつ計画的に市街化を図るべき区域」のことです。簡単に言うと、家やお店を建てて、街として発展させていこうというエリアですね。建物の建築などに対する規制が比較的緩やかです。
市街化調整区域
市街化調整区域とは、「市街化を抑制すべき区域」のことです。こちらは市街化区域とは逆で、無秩序な市街地の拡大を防ぐため、原則として建物を建てるなどの開発行為が制限されているエリアです。農地や山林などを守る目的があります。
非線引き区域
非線引き区域とは、市街化区域と市街化調整区域のどちらにも区分されていない区域のことです。都市計画区域ではあるものの、まだ区域の線引きが決まっていないエリアを指します。
どこで確認できるの?
これらの区域は、その土地がある市区町村役場の都市計画課などの窓口で「都市計画図」を閲覧することで確認できます。また、最近では多くの自治体がホームページ上で都市計画図を公開していますので、「(市区町村名) 都市計画図」で検索してみるのがおすすめです。固定資産税の課税明細書に記載されていることもありますよ。
【チェックポイント2】路線価地域か倍率地域かを確認しよう
次に、その土地が「路線価」で評価する地域か、「倍率」で評価する地域かを確認します。これは相続税の土地評価における基本的な区分です。
路線価地域
路線価地域とは、主に市街地にあって、道路(路線)ごとに1㎡あたりの価格(路線価)が定められている地域です。土地の評価は、この路線価を基に計算します。
倍率地域
倍率地域とは、路線価が定められていない地域で、主に郊外や農村部などが該当します。この地域の土地は、固定資産税評価額に国税庁が定める一定の倍率を掛けて評価します。
国税庁のサイトでの確認方法
どちらの地域に該当するかは、国税庁のウェブサイトにある「財産評価基準書 路線価図・評価倍率表」で確認できます。調べたい土地の都道府県、市区町村と進んでいくと、評価倍率表が表示されます。その表の「宅地」の欄に「路線」と書かれていれば路線価地域、数字(例:「1.1」)が書かれていれば倍率地域です。
【実践編】雑種地の評価方法をケース別に解説
さて、2つのチェックポイントが確認できたら、いよいよ具体的な評価方法を見ていきましょう。雑種地の評価は、これまで確認した「区域」と「地域」の組み合わせで計算方法が変わります。
市街化区域にある雑種地の評価方法
市街化区域にある雑種地は、周りの土地も宅地であることが多いため、基本的には「宅地だとしたらいくらになるか」という考え方で評価します。これを「宅地比準」といいます。
路線価地域の場合
路線価地域の場合は、宅地の評価方法とほぼ同じです。評価額は以下の式で計算します。
(路線価 × 各種補正率 - 1㎡あたりの宅地造成費) × 地積(面積)
各種補正率とは、土地の形(不整形地補正)や奥行き、道路との接し方などを考慮して評価額を調整するためのものです。また、宅地造成費は、その雑種地を宅地にするために造成工事が必要な場合に差し引くことができます。ただし、駐車場のようにすでに平坦な土地は、造成の必要がないため宅地造成費は控除できないことが多いです。
倍率地域の場合
倍率地域の場合は、少し計算が複雑になります。単純に固定資産税評価額に倍率を掛けるわけではないので注意が必要です。
(近傍標準宅地の1㎡あたり固定資産税評価額 × 宅地の評価倍率 × 普通住宅地区の画地補正率 - 1㎡あたりの宅地造成費) × 地積
ポイントは、評価したい雑種地そのものではなく、近くにある標準的な宅地の固定資産税評価額を基準にする点です。この基準額に倍率と各種補正率を掛けて、1㎡あたりの価額を算出します。
市街化調整区域にある雑種地の評価方法
市街化調整区域は、建物の建築が制限されているため、評価方法もより慎重な判断が必要です。ここでも「近傍地比準方式」を使いますが、何を「近傍地」とするかが重要になります。
周辺が農地や山林の場合(農地比準など)
もし雑種地の周りが田んぼや畑、山林ばかりであれば、それらの土地(純農地や純山林)を基準に評価します。これを農地比準や山林比準といいます。計算式は市街化区域の倍率地域の場合と似ていますが、一点だけ大きな違いがあります。
(近傍農地等の1㎡あたり固定資産税評価額 × 農地等の倍率 + 1㎡あたりの宅地造成費) × 地積
宅地造成費を「足す」のがポイントです。これは、農地や山林に比べて、雑種地はすでにある程度造成されていると考えられるため、その価値分を上乗せするという考え方です。
周辺が宅地の場合(宅地比準)
市街化調整区域内でも、周辺に宅地が点在している場合は、宅地を基準に評価します(宅地比準)。計算方法は市街化区域の倍率地域の場合と似ていますが、市街化調整区域ならではの減額要素を加えます。
キーワードは「しんしゃく割合」
市街化調整区域で宅地比準評価をする際に最も重要なのが「しんしゃく割合」です。市街化調整区域は建築が制限されているため、その不便さを評価額に反映させるための減額割合のことです。国税庁は、土地の状況に応じて以下の3つのしんしゃく割合を示しています。
| しんしゃく割合50% | 一般的な市街化調整区域の土地で、開発や建築が原則として許可されない場合。駐車場や資材置き場としての利用にとどまる土地などが該当します。 |
| しんしゃく割合30% | 幹線道路沿いなどで、沿道サービス施設(コンビニ、ガソリンスタンドなど)や日用品販売店舗など、一定の用途であれば建築が許可される可能性がある場合。 |
| しんしゃく割合0% | 郊外の店舗が立ち並ぶ地域や、条例で開発が許可されている区域(条例指定区域)などで、宅地とほぼ同じように取引されると認められる場合。 |
この割合を適用した計算式は以下のようになります。
(近傍標準宅地の評価額 × 各種補正率 × (1 - しんしゃく割合) - 1㎡あたりの宅地造成費) × 地積
どの割合を適用するかは専門的な判断が必要になるため、税理士などの専門家に相談するのが安心です。
非線引き区域にある雑種地の評価方法
非線引き区域については、明確な評価の決まりがありません。そのため、その土地の状況に合わせて、これまで説明した方法の中から最も適した方法を選んで評価することになります。例えば、路線価が設定されていれば路線価方式を、倍率地域であれば周辺の状況に応じて宅地比準や農地比準などを適用します。判断が難しいケースが多いため、専門家への相談が特に推奨される区域です。
まとめ
ここまで見てきたように、雑種地の評価方法は、その土地がどの区域・地域にあり、どのような状況なのかによって大きく異なります。特に市街化調整区域の「しんしゃく割合」の判断など、専門的な知識が必要な場面が多くあります。
もし評価を誤ってしまうと、相続税を払いすぎてしまったり、逆に少なく申告して後から追徴課税されたりするリスクもあります。雑種地を相続された場合は、ご自身で判断せずに、まずは土地評価に詳しい相続専門の税理士に相談することをおすすめします。正しい評価で、安心して相続手続きを進めてくださいね。
参考文献
国税庁 No.4627 貸駐車場として利用している土地の評価
雑種地の評価方法に関するよくある質問まとめ
Q. そもそも雑種地とはどのような土地ですか?
A. 雑種地とは、宅地、田、畑、山林など特定の用途に分類されない土地のことです。具体的には、駐車場、資材置き場、ゴルフ場などが該当し、土地の現況によって判断されます。
Q. 雑種地の相続税評価はどのように行われますか?
A. 雑種地の評価は、原則として「近傍地比準価額方式」または「倍率方式」で行います。土地の状況や周辺の土地の価額などを基に、個別に評価額を算出します。
Q. 「近傍地比準価額方式」とは何ですか?
A. 「近傍地比準価額方式」とは、評価する雑種地と状況が似ている近くの土地(宅地など)の価額を基に評価する方法です。その土地を宅地として評価した価額から、宅地に造成する場合にかかる費用(造成費)を差し引いて計算します。
Q. 雑種地が市街化調整区域にある場合、評価は変わりますか?
A. はい、変わります。市街化調整区域内の雑種地は、建築制限などがあるため、市街化区域内の土地と比べて評価額が低くなる傾向があります。周辺の状況を考慮して慎重に評価する必要があります。
Q. 駐車場として利用している雑種地の評価方法を教えてください。
A. 駐車場として利用されている雑種地も、基本的には「近傍地比準価額方式」で評価します。近くの宅地の価額を参考に、駐車場にするための造成費(アスファルト舗装費など)を考慮して評価額を算出します。
Q. 雑種地の評価額と固定資産税評価額は同じですか?
A. いいえ、必ずしも同じではありません。相続税評価額は財産評価基本通達に基づいて算出される一方、固定資産税評価額は市町村が固定資産評価基準に基づいて算出します。両者は目的も基準も異なるため、金額が一致しないことが一般的です。