非上場株式を相続したり、譲渡したりする際に「時価はいくらになるの?」と疑問に思う方は多いのではないでしょうか。上場株式のように明確な株価がないため、非上場株式の時価は税金の種類(相続税、法人税、所得税)や、誰から誰へ渡すのかによって計算方法が大きく変わります。この記事では、それぞれの税金における評価の仕組みを、優しくわかりやすく解説していきます。
非上場株式の「時価」の基本的な考え方
非上場株式は証券取引所で取引されていないため、新聞やインターネットで今日の株価を調べることができません。そのため、税金計算上の時価は、会社の資産や利益、類似する上場企業の株価などを参考にして計算します。また、税金の種類によって目的が違うため、同じ株式でも相続税、所得税、法人税で異なる時価が算出されることがあります。
相続税・贈与税における時価(財産評価基本通達)
相続や贈与で非上場株式を受け取った場合、国税庁が定める「財産評価基本通達」に基づいて株価を計算します。これは、納税者間の公平性を保つためのルールです。株式を受け取る人が会社の経営を支配できる「同族株主」なのか、それとも経営権を持たない「少数株主」なのかによって、評価方法が原則的評価方式と特例的評価方式(配当還元方式)に分かれます。
所得税・法人税における時価
個人が法人へ株式を譲渡した場合など、所得税や法人税が関わる取引では、原則として「客観的交換価値(第三者同士が自由に取引した場合につく適正な値段)」を時価と考えます。実際の取引価格がこの時価の2分の1未満(所得税の場合)など、著しく低い金額で売買された場合は、「みなし譲渡課税」や「受贈益」といった思わぬ税金がかかることがあるので注意が必要です。
評価方法の判定と会社の規模
株式の評価額を計算する際、会社を総資産額や従業員数、年間の取引金額によって「大会社」「中会社」「小会社」の3つに区分します。従業員数が70人以上の場合は無条件で大会社に分類されるなど、具体的な基準が設けられており、この規模によって適用される評価方式が異なります。
相続税・贈与税での非上場株式の評価方法
相続税や贈与税の計算では、会社の規模や株主の立場によって評価方法が細かく決められています。具体的にどのような方法があるのかを見ていきましょう。
原則的評価方式(類似業種比準方式・純資産価額方式)
会社の経営権を握る同族株主が株式を取得した場合は、原則的評価方式を使います。会社の規模(大会社・中会社・小会社)に応じて、以下のいずれか、または組み合わせで計算します。
・類似業種比準方式:事業内容が似ている上場企業の株価や配当、利益、純資産(1株当たり資本金50円換算の純資産価額)を比較して計算します。最近の業績が良いと株価が高くなる傾向があります。
・純資産価額方式:会社が持つすべての資産から負債と法人税等相当額(評価差額の37%)を差し引いた純資産を、発行済株式数で割って計算します。過去の利益の蓄積や含み益が大きいと株価が高くなります。
| 会社の規模 | 評価方式 |
|---|---|
| 大会社 | 原則として類似業種比準方式 |
| 中会社 | 類似業種比準方式と純資産価額方式の併用 |
| 小会社 | 原則として純資産価額方式 |
特例的評価方式(配当還元方式)
経営に口出しできない少数株主(同族株主以外の株主)が株式を取得した場合は、特例的評価方式である「配当還元方式」を使います。少数株主にとっては配当をもらうことが主な目的なので、過去2年間の平均配当金額を10%の利率で割り戻して(還元して)株価を計算します。配当金額が2円50銭以下の場合は、2円50銭として計算します。この方式は、原則的評価方式に比べて評価額がかなり低くなるのが特徴です。
個人間の株式譲渡にかかる税金と時価
親子や親戚など、個人から個人へ非上場株式を譲渡した場合の税金について解説します。
適正な時価で売買した場合の所得税
個人間で適正な時価で株式を売買した場合、売った側(譲渡した人)に譲渡所得税がかかります。売却代金から、その株式を取得した時の費用(取得費が不明な場合は売却代金の5%)と手数料を引いた利益に対して、所得税・住民税あわせて20.315%の税金がかかります。買った側(譲り受けた人)には税金はかかりません。
著しく低い価格(低額譲渡)で売買した場合の贈与税
親から子へ適正な時価よりも著しく低い価格で譲渡した場合、買った側(子)にみなし贈与税がかかる可能性があります。例えば、時価1,000万円の株式を100万円で譲った場合、差額の900万円は親から子へ贈与されたものとみなされ、贈与税の対象となります。ここでの時価は、原則として相続税評価額(財産評価基本通達)に基づいて計算されます。
個人から法人への株式譲渡にかかる税金と時価
経営者が自分の会社の株式を別の法人に売却するなど、個人から法人へ譲渡する場合、税金の仕組みはさらに複雑になります。
所得税の「みなし譲渡課税」とは
個人が法人に対して、時価の2分の1未満の金額で非上場株式を譲渡した場合、所得税法上のみなし譲渡課税の対象となります。例えば、時価1億円の株式を1,000万円で法人に売却した場合、実際に受け取ったのは1,000万円でも、税金計算上は「時価の1億円で売却したもの」とみなされ、1億円を基準に所得税が課せられてしまいます。
法人側に発生する「受贈益」とは
時価よりも安い価格で株式を買い取った法人側にも税金がかかります。法人は、時価と実際の買い取り価格との差額を「得をした利益」と考え、これを受贈益として計上しなければなりません。先ほどの例で言えば、時価1億円の株式を1,000万円で買った法人は、差額の9,000万円を受贈益として法人税の課税対象に含める必要があります。
| 譲渡の状況 | 発生する税金 |
|---|---|
| 売った個人(時価の2分の1未満で譲渡) | 時価で売ったとみなされ、譲渡所得税がかかる |
| 買った法人(時価より低額で取得) | 時価との差額が受贈益となり、法人税がかかる |
発行会社へ株式を買い取ってもらう場合(自己株式の取得)
株主が、その株式を発行している会社自身に株式を買い取ってもらう(自社株買い)場合も、特別な税金のルールがあります。
みなし配当課税とその仕組み
会社に株式を買い取ってもらうと、売却代金のうち、会社の資本金等の額を超える部分は「過去に会社が稼いだ利益の払い戻し」とみなされます。これをみなし配当と呼びます。みなし配当は譲渡所得ではなく総合課税の配当所得となるため、最大で約55%(所得税・住民税の合計)という高い税率が適用される可能性があります。
相続した株式を譲渡する場合の特例
相続によって取得した非上場株式を、相続税の申告期限の翌日から3年以内(相続開始から3年10ヶ月以内)に発行会社へ譲渡した場合、みなし配当課税を避ける特例があります。この特例を使うと、売却代金のすべてが譲渡所得として扱われるため、税率は一律20.315%に抑えられます。高い税金を防ぐための非常に有効な手段です。
まとめ
非上場株式の時価は、一律に決まっているわけではなく、相続税、所得税、法人税のどのルールを当てはめるか、また誰と誰の取引なのかによって計算結果が変わります。とくに、親族間や法人への売買では「良かれと思って安く譲った結果、高額な税金が課されてしまった」というトラブルが起きやすいため注意が必要です。正しい株価の算定は非常に専門的で複雑なため、売買や相続を検討する際は、安全に進めるための事前の確認が大切です。
参考文献
国税庁:No.4423 個人から著しく低い価額で財産を譲り受けたとき
非上場株式の評価と時価に関するよくある質問まとめ
Q.非上場株式の時価とはどのように決まるのですか?
A.非上場株式には市場価格がないため、会社の純資産や利益、類似する上場企業の株価などをもとに、税金の種類(相続税や所得税など)に応じた計算ルールに従って時価を算出します。
Q.相続税における非上場株式の評価方法にはどのようなものがありますか?
A.経営を支配する同族株主の場合は「類似業種比準方式」や「純資産価額方式」などの原則的評価方式を使い、経営権のない少数株主の場合は、配当金額を基準とする「配当還元方式」を使います。
Q.個人間で非上場株式を安く譲渡した場合、税金はどうなりますか?
A.適正な時価よりも著しく低い価格で譲渡した場合、時価と売買価格の差額に対して、株式を買い取った側にみなし贈与税がかかる可能性があります。
Q.個人が法人へ非上場株式を安く売るとどうなりますか?
A.時価の2分の1未満で譲渡した場合、売った個人には「時価で売却した」とみなして所得税がかかり、買った法人には時価との差額に対して受贈益として法人税がかかります。
Q.発行会社に非上場株式を買い取ってもらう際の注意点は何ですか?
A.売却代金の一部が利益の払い戻しとみなされる「みなし配当」となり、最大約55%の総合課税がかかる場合があります。ただし、相続後一定期間内の売却であれば税率を約20%に抑える特例があります。
Q.非上場株式の評価や譲渡は自分で行っても大丈夫ですか?
A.非上場株式の評価や税務上の時価の算定は非常に複雑で、間違えると多額の追徴課税が発生するリスクがあります。事前に税理士などの専門家に相談することを強くおすすめします。