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非上場株式の相続と遺留分|時価計算の3つの方法を徹底解説

2024-11-22
目次

事業オーナーの方が亡くなられた際、遺産の多くを事業会社の株式、つまり「非上場株式」が占めるケースは少なくありません。後継者であるご家族が株式を相続する一方で、他の相続人には「遺留分」という最低限の権利があります。この遺留分を計算する際に、非上場株式の「時価」をどう評価するのかが、相続トラブルの大きな火種になりがちです。この記事では、遺留分の計算に不可欠な非上場株式の時価評価について、専門的な内容をできるだけ分かりやすく、優しく解説していきます。

遺留分計算の基礎と非上場株式の時価

まずは、なぜ非上場株式の時価評価が必要になるのか、その背景となる「遺留分」の基本から見ていきましょう。遺留分は、相続においてとても重要な権利ですので、しっかり押さえておきたいポイントです。

なぜ「時価」での評価が必要なの?

遺留分とは、兄弟姉妹以外の法定相続人に保障された、最低限の遺産取得分のことです。例えば、「全財産を長男に相続させる」という遺言があったとしても、他の相続人(配偶者や他の子など)は、自身の遺留分に相当する金額を請求できます。この遺留分を計算する大前提として、相続財産全体の価値を「相続開始時点の時価」で評価する必要があります。上場株式であれば市場の株価が時価となりますが、非上場株式には市場価格がありません。そのため、客観的な方法で時価を算定する必要があるのです。これは、相続人間の公平性を保つための大切なルールです。

遺留分侵害額請求とは?

遺言や生前贈与によって、ご自身の遺留分が侵害されている場合に、その不足分に相当する金銭の支払いを請求できる権利のことを「遺留分侵害額請求」といいます。この請求を行うためには、まずご自身の遺留分がいくらで、実際にどれだけ侵害されているのかを具体的に計算しなければなりません。遺産の中に非上場株式が含まれている場合、その時価評価が請求額を大きく左右するため、非常に重要なプロセスとなります。

非上場株式の時価を計算する3つのアプローチ

では、市場価格のない非上場株式の時価は、どのように計算するのでしょうか。専門的な評価にはなりますが、主に3つのアプローチが用いられます。実際には、これらの方法を単独で使うだけでなく、会社の状況に合わせて複数組み合わせる「ミックス法」が採用されることも多いです。

インカム・アプローチ(収益性に着目)

インカム・アプローチは、会社の将来的な収益力やキャッシュフロー(事業活動で生み出すお金)を基準に株価を評価する方法です。代表的な手法に「DCF法(ディスカウント・キャッシュ・フロー法)」があります。これは、会社が将来生み出すであろうキャッシュフローを予測し、それを現在の価値に割り引いて企業価値を算出するものです。会社の成長性を評価に反映できる優れた方法ですが、将来の事業計画に基づく予測が必要なため、その予測の客観性が問われることもあります。また、「配当還元法」という、将来受け取れる配当額から評価する方法もありますが、配当を出していない中小企業も多く、その場合は株価が極端に低くなる傾向があります。

マーケット・アプローチ(市場性に着目)

マーケット・アプローチは、事業内容などが類似する上場企業の株価や財務指標を参考に、株価を評価する方法です。代表的な手法に「類似業種比準方式」があります。これは、評価したい会社と似た事業を行っている上場企業の株価、配当、利益、純資産などを比較して、株価を類推する方法です。客観的な指標を用いるため説得力がありますが、中小企業の場合は事業内容が特殊で、適切な比較対象となる上場企業を見つけるのが難しいというデメリットがあります。

ネットアセット・アプローチ(純資産に着目)

ネットアセット・アプローチは、会社の純資産(総資産から負債を差し引いたもの)を基準に株価を評価する方法です。代表的な手法は「純資産価額方式」と呼ばれます。これは、会社の貸借対照表に記載されている資産や負債を、帳簿上の価格ではなく、相続開始時点の「時価」に置き換えて純資産を計算し、それを発行済株式数で割って一株あたりの株価を算出します。会社の資産価値を直接的に評価するため客観性が高く、特に不動産管理会社のような資産保有型の会社に適した評価方法といえます。

【重要】相続税評価額と時価の違い

ここで非常に重要な注意点があります。それは、「相続税申告で使う株式の評価額」と「遺留分計算で使う株式の時価」は、必ずしも同じではないということです。両者は計算の目的が異なるため、評価額に差が出ることがあります。この違いを理解しておかないと、後々トラブルになりかねません。

相続税の計算で用いる株価は、国税庁が定めた「財産評価基本通達」というルールに基づいて画一的に計算されます。これは、税金を公平かつ効率的に徴収するためのものです。一方、遺留分の計算で用いる時価は、相続人間の公平な財産分配を目的としており、より個別の会社の事情を反映した客観的な価値が求められます。当事者同士の合意があれば、相続税評価額を参考にすることもありますが、それはあくまで便宜的な方法であり、法的な「時価」とは異なることを覚えておきましょう。

項目 内  容
目的 【相続税評価額】相続税の公平な課税
【時価】遺産分割や遺留分の公平な分配
評価基準 【相続税評価額】国税庁の財産評価基本通達
【時価】個別の事情を考慮した客観的な企業価値

誰が非上場株式の時価を評価するの?

非上場株式の時価評価は、まず相続人全員で話し合って決めるのが基本です。会社の財務状況が分かる資料(決算書など)をもとに、どの評価方法が会社の状況に最も合っているかを検討し、合意を目指します。しかし、専門的な知識が必要な上、それぞれの立場によって有利な評価方法が異なるため、話し合いがまとまらないことも少なくありません。その場合は、中立的な立場の専門家(公認会計士や税理士など)に株価の鑑定を依頼するのが一般的です。それでも合意に至らない場合は、家庭裁判所での遺産分割調停や審判へと進み、最終的には裁判所が選任した鑑定人が評価を行うことになります。

非上場株式の時価評価で注意すべきポイント

最後に、非上場株式の時価を考える上で、評価額に影響を与える可能性のある重要なポイントをいくつかご紹介します。

支配権プレミアムと少数株主ディスカウント

相続する株式が、会社の経営権を左右するほどの割合(議決権の過半数など)である場合、その価値は高く評価されることがあります。これを「支配権プレミアム」と呼びます。逆に、経営に関与できないごくわずかな株式(少数株主)の場合は、その価値が割り引かれる「少数株主ディスカウント」が考慮されることがあります。

非流動性ディスカウント

非上場株式は、上場株式のように証券取引所ですぐに売買して現金化することができません。このように換金性が低い(流動性がない)というデメリットを考慮して、評価額が一定割合割り引かれることがあります。これを「非流動性ディスカウント」といいます。

専門家への相談の重要性

これまで見てきたように、非上場株式の時価評価は非常に複雑で、どの評価方法を選ぶか、どのような要素を考慮するかによって、評価額が数百万円、数千万円と大きく変わる可能性があります。評価額を巡る争いは、相続トラブルを長期化・深刻化させる大きな原因です。円満な解決とスムーズな事業承継のためにも、早い段階で相続や事業承継に詳しい税理士や弁護士などの専門家に相談することをおすすめします。

まとめ

事業オーナーの相続における非上場株式の扱いは、非常にデリケートで専門的な問題です。最後に、今回の重要なポイントを振り返っておきましょう。

  • 遺留分を計算するためには、非上場株式を「相続税評価額」ではなく「時価」で評価する必要があります。
  • 時価の計算には、主にインカム・アプローチ、マーケット・アプローチ、ネットアセット・アプローチの3つが使われます。
  • どの評価方法が適しているかは会社の状況によって異なり、評価額が大きく変わるため、相続トラブルの原因になりやすいです。
  • 当事者間での合意が難しい場合は、専門家による鑑定や、裁判所の手続きが必要になることもあります。
  • 非上場株式の評価は非常に複雑なため、相続に強い税理士や弁護士に早めに相談することが、円満な解決への近道です。

大切な会社とご家族を守るためにも、非上場株式の相続と遺留分の問題には、慎重かつ専門的な視点で対応することが大切です。

参考文献

国税庁  株式及び出資

事業承継時の非上場株式と遺留分に関するよくある質問まとめ

Q.なぜ遺留分の計算で非上場株式の時価を評価する必要があるのですか?

A.遺留分は相続財産の公正な価値で計算されるためです。非上場株式も重要な財産であり、その時価を算定しないと相続人間で不公平が生じる可能性があるため、客観的な評価が必要になります。

Q.遺留分計算で使う非上場株式の「時価」とは何ですか?

A.相続税評価額とは異なり、相続開始時点での客観的な交換価値(市場価値)を指します。具体的には、会社を第三者に売却した場合の価格に近い考え方で評価されることが一般的です。

Q.非上場株式の時価はどのように計算するのですか?

A.主に「純資産価額方式」「類似業種比準価額方式」「収益還元方式(DCF法など)」の3つのアプローチを会社の状況に応じて選択または併用して評価します。

Q.相続税の申告で使った株価を遺留分計算にそのまま使えますか?

A.原則として使えません。相続税評価額は課税のための画一的な評価であり、遺留分計算で求められる客観的な市場価値(時価)とは目的も評価方法も異なるため、金額が一致しないことがほとんどです。

Q.非上場株式の時価評価は誰に依頼すればよいですか?

A.企業の価値評価に精通した公認会計士や税理士などの専門家に依頼するのが一般的です。特に相続人間で争いになる可能性がある場合は、第三者による客観的な評価書が重要になります。

Q.遺留分対策として、非上場株式の評価額を意図的に低くできますか?

A.遺留分計算における株価は客観性が求められるため、意図的に低く評価することは困難です。ただし、生前に計画的な事業承継対策を行うことで、結果的に株価に影響を与えることは可能です。専門家への早期相談をお勧めします。

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