会社のオーナー様やそのご家族にとって、相続や事業承継の際に気になるのが「非上場株式」の評価ではないでしょうか。評価額を計算するとき、会社の財産や利益の状況を示す決算書は欠かせません。でも、「一体何期分の決算書があればいいの?」と疑問に思いますよね。実は、どの評価方法を使うかによって、必要な決算書の期間が変わってくるんです。この記事では、非上場株式の評価に必要な決算書の期間について、評価方法ごとに分かりやすく解説していきます。
非上場株式の評価に必要な決算書は評価方法で変わる
非上場株式の評価額を計算するとき、会社の財産や利益の状況を示す決算書は欠かせません。でも、「一体何期分の決算書があればいいの?」と疑問に思いますよね。実は、どの評価方法を使うかによって、必要な決算書の期間が変わってくるんです。主に使われる評価方法と、それぞれで何期分の決算書が必要になるのかを見ていきましょう。
評価方法は大きく3種類
非上場株式の評価方法は、国税庁のルールに基づいて決められていて、主に次の3つの方法があります。
| 評価方法 | 概 要 |
| 類似業種比準方式 | 事業内容が似ている上場企業の株価を参考にする方法です。 |
| 純資産価額方式 | 会社の資産と負債を相続税評価額に置き換えて、会社の純資産から株価を計算する方法です。 |
| 配当還元方式 | 過去の配当実績をもとに株価を計算する方法で、主に少数株主の場合に使われます。 |
どの方法を使うかは、会社の規模や株主の状況によって決まります。そして、それぞれの方法で参照する決算書の期間が異なるのがポイントです。
会社の規模で評価方法が決まる
どの評価方法を使うかは、会社の規模(大会社・中会社・小会社)によって決まります。会社の規模は、「従業員数」「総資産価額」「取引金額」の3つの要素で判定されます。従業員が70人以上なら大会社、それ未満なら他の要素も考慮して判定されます。
| 会社の規模 | 主な評価方法 |
| 大会社 | 類似業種比準方式 |
| 中会社 | 類似業種比準方式と純資産価額方式の併用 |
| 小会社 | 純資産価額方式 |
このように、ご自身の会社がどの規模に分類されるかによって、どの評価方法がメインになるか、ひいては必要な決算書の期間も変わってくるんですよ。
【評価方法別】必要な決算書の期間
それでは、それぞれの評価方法で具体的に何期分の決算書が必要になるのか、詳しく見ていきましょう。
類似業種比準方式の場合
類似業種比準方式は、事業内容が似ている上場企業の株価を参考に、評価会社の「配当」「利益」「純資産」の3つの要素(比準要素)を比較して株価を計算します。この3つの要素を計算するために、過去の決算書が必要になります。
結論から言うと、類似業種比準方式では原則として直前期末と直前々期末の2期分の決算書が必要です。ただし、利益の計算で有利な方を選べるため、実務上は最大で3期分の法人税申告書(決算書含む)を用意しておくと安心です。
具体的にどの要素で何期分使うのか見てみましょう。
| 比準要素 | 必要な決算書の期間 |
| 1株当たりの配当金額 | 直前期末以前2年間の平均配当額を計算するため、2期分の決算書が必要です。 |
| 1株当たりの利益金額 | 直前期末以前1年間の利益、または直前期と直前々期の2年間の平均利益のどちらか低い方を使えるため、2期分の決算書が必要です。(※法人税申告書別表四の所得金額を参照します) |
| 1株当たりの純資産価額(簿価) | 直前期末の純資産価額を使うため、1期分の決算書が必要です。(※法人税申告書別表五(一)の利益積立金額などを参照します) |
このように、各要素の計算に直前期と直前々期の数値が必要になるため、最低でも2期分、利益の有利選択を考えると3期分の決算書(と法人税申告書一式)があるとスムーズに計算できます。
純資産価額方式の場合
純資産価額方式は、会社の資産と負債を相続税評価額に置き換えて株価を計算する方法です。この方法は、いわば「今、会社を清算したらいくらになるか」という考え方に基づいています。
そのため、原則として評価時点(課税時期)の資産・負債で評価します。これを「仮決算方式」と言いますが、実務上は評価のたびに決算を組むのは大変です。そこで、簡便的な方法として直前期末の決算書を基に評価することが認められています。これを「直前期末方式」と言います。
結論として、純資産価額方式では原則として直前期末の1期分の決算書があれば評価が可能です。
ただし、注意点があります。直前期末から評価時点までの間に、資産や負債に大きな変動(例えば、高額な不動産の売買や多額の借入など)があった場合は、直前期末の決算書を使うことが認められないケースもあります。その場合は、やはり評価時点での仮決算が必要になります。
配当還元方式の場合
配当還元方式は、過去の配当実績を基に株価を評価する方法です。主に、会社の経営に関与しない少数株主が株式を取得した場合に使われます。
この方式では、「1株当たりの年平均配当金額」を計算する必要があります。この計算には、直前期末以前2年間の配当金額の実績を使います。
したがって、配当還元方式で評価するためには、最低でも2期分の決算書(と株主総会議事録などの配当実績がわかる資料)が必要になります。
評価方法ごとの必要期間まとめ
ここまで見てきた内容を、評価方法ごとに表でまとめてみましょう。
| 評価方法 | 必要な決算書の期間(原則) |
| 類似業種比準方式 | 2期分(直前期・直前々期)※実務上は3期分あると良い |
| 純資産価額方式 | 1期分(直前期) |
| 配当還元方式 | 2期分(直前期・直前々期) |
会社の規模が中会社の場合は、類似業種比準方式と純資産価額方式を併用するため、両方の計算が必要になります。そのため、中会社の場合は2期分(実務上は3期分)の決算書が必要になると考えておくと良いでしょう。
決算書以外にも必要な書類がある?
非上場株式の評価では、決算書の他にもいくつか必要な書類があります。スムーズに評価を進めるためにも、あらかじめ準備しておくと安心です。
法人税の申告書一式
決算書とセットで、法人税の申告書一式(別表を含む)も必要です。特に、類似業種比準方式の「利益」や「純資産(簿価)」の計算、純資産価額方式の「税務上の簿価」の計算には、法人税申告書の別表四や別表五(一)の数値を使います。決算書と同じく、評価方法に応じた期数分を用意しましょう。
会社の資産・負債に関する資料
純資産価額方式で評価する場合、会社の資産や負債を相続税評価額に置き換える作業が必要です。そのため、以下のような資料も必要になります。
- 不動産:固定資産税評価証明書、登記簿謄本、住宅地図など
- 生命保険:保険証券、解約返戻金額がわかる書類
- 有価証券:証券会社からの残高証明書など
- その他:預金残高証明書、借入金残高証明書など
これらの資料は、直前期末時点または評価時点(課税時期)のものが必要になります。
どの時点の決算書を使えばいいの?
評価に使う決算書は「どの時点のものか」も重要です。原則と例外があるので、しっかり押さえておきましょう。
原則は「課税時期」時点
相続税の申告では、相続が開始した日(被相続人が亡くなった日)を「課税時期」と呼びます。非上場株式の評価は、この課税時期時点の会社の財産状況で行うのが原則です。これを「仮決算方式」と呼びます。
しかし、課税時期に合わせてその都度決算を行うのは、会社にとって大きな負担になりますよね。そこで、実務では例外的な方法が認められています。
実務では「直前期末」時点が一般的
実務上、多くの場合で採用されているのが「直前期末方式」です。これは、課税時期の直前の事業年度末(直前期末)の決算書を基に評価する方法です。この方法なら、改めて決算を組む必要がないため、スムーズに評価を進めることができます。
ただし、この方法が使えるのは、直前期末から課税時期までの間に、会社の資産や負債に著しい変動がないという条件があります。もし大きな変動があった場合は、原則通り仮決算を行う必要がありますので注意してくださいね。
まとめ
今回は、非上場株式の評価に必要な決算書の期間について解説しました。ポイントをもう一度おさらいしましょう。
- 必要な決算書の期間は、会社の規模によって決まる評価方法によって異なります。
- 類似業種比準方式では、直近2期分の決算書が必要です。
- 純資産価額方式では、直近1期分の決算書で評価するのが一般的です。
- 配当還元方式では、直近2期分の配当実績を確認します。
- 中会社の場合は、両方の方式を併用するため、直近2期分(または3期分)を用意しておくと安心です。
- 決算書だけでなく、法人税申告書一式や、資産・負債に関する資料も併せて準備しましょう。
非上場株式の評価は非常に専門的で、どの評価方法を使うかの判定や実際の計算は複雑です。どの資料をどれだけ集めればいいか迷ったときや、評価額の計算に不安がある場合は、無理せず税理士などの専門家に相談することをおすすめします。正しい評価で、スムーズな相続や事業承継を進めていきましょう。
参考文献
非上場株式の評価と決算書に関するよくある質問まとめ
Q.非上場株式の評価には、何期分の決算書が必要ですか?
A.原則として、直前期末以前3期分の決算書(貸借対照表、損益計算書など)と関連する法人税申告書が必要です。会社の継続的な業績や財産状況を正確に把握するために複数期分が用いられます。
Q.なぜ非上場株式の評価には3期分の決算書が必要なのですか?
A.類似業種比準価額方式で評価する際に、比較要素である「配当」「利益」「純資産」を過去の決算数値から算出するためです。複数期のデータを用いることで、一時的な業績変動の影響を平準化し、より実態に近い評価を目指します。
Q.設立して3年未満の会社の場合、決算書は何期分必要ですか?
A.設立後3年に満たない会社の場合は、設立から直前期までのすべての決算書が必要です。例えば、設立2年目の会社であれば2期分の決算書を基に評価計算を行います。
Q.評価方法によって必要な決算書の期間は変わりますか?
A.はい、変わります。主に過去の利益を考慮する「類似業種比準価額方式」や「配当還元方式」では複数期分が必要ですが、評価時点の資産・負債で計算する「純資産価額方式」では理論上、直前期の決算書のみで計算可能です。
Q.決算書の他に、非上場株式の評価で必要な書類はありますか?
A.はい。決算書の他に、法人税の申告書(勘定科目内訳明細書を含む)、固定資産台帳、不動産の登記簿謄本、保険証券など、資産・負債の詳細がわかる資料が必要になる場合があります。
Q.赤字が続いている場合でも、3期分の決算書は必要ですか?
A.はい、必要です。赤字が続いている状況であっても、財産の状況や赤字額の推移を正確に把握するために過去の決算書は重要です。その情報をもとに、純資産価額方式など、会社の状況に適した評価方法を選択します。