税理士法人プライムパートナーズ

非上場株式の遺留分計算は相続税評価?時価?正しい評価方法を解説

2025-02-02
目次

ご家族が亡くなり、相続財産の中に経営されていた会社の株式(非上場株式)が含まれているケースは少なくありません。特に、特定の相続人にすべての株式を相続させるような遺言があった場合、他の相続人の方は「遺留分」を請求することになります。このとき、一番の悩みの種となるのが「非上場株式をいくらと評価するか」という問題です。相続税の申告で使った評価額でいいのか、それとも別に計算が必要なのか、分かりやすく解説していきますね。

遺留分計算の基本と非上場株式の評価

まずは、遺留分そのものと、なぜ非上場株式の評価が難しくなるのか、基本から確認していきましょう。ここを理解することが、適切な遺留分を計算するための第一歩になります。

遺留分とは?

遺留分とは、兄弟姉妹以外の法定相続人(配偶者、子、親など)に法律で保障された、最低限の遺産取得分のことです。例えば、遺言書に「全財産を長男に相続させる」と書かれていても、配偶者や他の子供たちは、この遺留分に相当する金額を長男に請求することができます。これを遺留分侵害額請求といいます。
遺留分の割合は、法定相続分の原則として2分の1です。例えば、相続人が配-偶者と子2人の場合、全体の遺留分は遺産の2分の1で、それぞれの具体的な遺留分割合は配偶者が4分の1、子がそれぞれ8分の1となります。

なぜ非上場株式の評価が問題になるのか?

上場株式であれば、証券取引所で毎日株価が公表されているため、誰が見ても価値は明らかです。しかし、非上場株式には市場価格というものが存在しません。そのため、「この会社の株式はいくらの価値があるのか」を別途計算する必要があります。
この評価方法にはいくつもの種類があり、どの方法を選ぶかによって評価額が数百万円、場合によっては数千万円以上も変わることがあります。遺留分を請求する側は高く評価したい、請求される側は低く評価したいという思惑が働きやすいため、相続人間で深刻なトラブルに発展しやすいのです。

評価の基準時はいつ?

遺留分を計算する際の財産の評価は、「相続開始時(被相続人が亡くなった時点)」の価値が基準となります。遺産分割協議が長引いて会社の業績が変動したとしても、あくまで亡くなった日の価値で計算します。ちなみに、遺産分割協議で財産を評価する場合は「遺産分割時」が基準となるため、遺留分計算とは基準時が異なる点に注意が必要です。

遺留分計算における非上場株式の評価方法

では、本題である非上場株式の評価は、具体的にどう考えればよいのでしょうか。「相続税評価額」と「時価」の違いが重要なポイントになります。

原則は「時価」での評価

結論から言うと、遺産分割や遺留分の計算で用いる非上場株式の評価は、相続開始時点の「時価」で行うのが大原則です。時価とは、その株式の客観的な交換価値、つまり「もしその時に第三者に売却したらいくらになるか」という考え方に基づいた価額のことです。これは、相続人間の公平な財産分配を実現するために非常に重要な考え方です。

相続税評価額は使えないの?

相続税の申告をした方は、「税理士さんに計算してもらった相続税評価額があるじゃないか」と思われるかもしれません。しかし、相続税評価額と時価はイコールではありません。
相続税評価額は、あくまで税金を計算するために、国が定めた画一的なルール(財産評価基本通達)に基づいて算出された価額です。そのため、遺留分を計算する際に、相手方の同意なく相続税評価額を一方的に使うことは原則としてできません。

なぜ相続税評価額と時価は違うの?

二つの評価額が異なるのは、その目的と基準が根本的に違うからです。違いを簡単に表にまとめてみましょう。

時価(遺留分計算)
目的 相続人間の公平な財産分配
基準 会社の個別事情を反映した客観的な交換価値
相続税評価額
目的 公平な課税の実現
基準 国税庁が定めた画一的なルール(財産評価基本通達)

このように、相続税評価額は税金を徴収するための便宜的な評価額であり、必ずしも会社の真の価値を反映しているとは限らないのです。

非上場株式の「時価」を計算する具体的な方法

それでは、「時価」はどのように計算するのでしょうか。会社の規模や状況によって様々な方法がありますが、ここでは代表的な3つの方法をご紹介します。

純資産価額方式

これは、会社の持っている総資産(土地、建物、預金など)をすべて時価で評価し、そこから負債(借入金など)を差し引いた純資産額を基準に株価を計算する方法です。「もし会社が今解散したら、株主の手元にいくら残るか」という考え方に近く、特に資産を多く保有する会社(不動産管理会社など)の評価で重視されやすいです。計算式は「(総資産の時価評価額 - 負債の時価評価額)÷ 発行済株式数」となります。

類似業種比準方式

評価したい会社と事業内容が似ている上場企業の株価を参考にする方法です。上場企業の株価と、評価したい会社の「1株あたりの配当金」「1株あたりの利益」「1株あたりの純資産額」の3つの要素を比較して、株価を算出します。比較的大きな会社の評価に適しているとされています。

配当還元方式

その株式を保有することで、将来どれくらいの配当を受け取れるかという点に着目した評価方法です。「過去2年間の平均配当金額 ÷ 10%」という計算式で1株あたりの価額を算出します。会社の経営に関与しない少数株主の株式評価で用いられることが多く、一般的に評価額は低くなる傾向があります。

DCF法などその他の評価方法

上記のほかにも、会社の将来の収益力(キャッシュフロー)を予測して現在の価値に割り引いて評価するDCF(ディスカウンテッド・キャッシュ・フロー)法など、様々な評価方法が存在します。どの方法が最も適切かは、会社の業種、規模、収益性、資産状況などを総合的に考慮して判断する必要があります。

相続税評価額が使われるケース

原則は時価評価ですが、例外的に相続税評価額を使って遺留分を計算することもあります。それはどのような場合でしょうか。

当事者間の合意がある場合

最もシンプルなケースは、相続人全員が「相続税評価額で計算しましょう」と合意した場合です。時価の計算は複雑で時間も費用もかかるため、当事者が納得しているのであれば、計算が簡単な相続税評価額を基準に話を進めることも可能です。この合意は、後々のトラブルを防ぐためにも、必ず書面に残しておくことが重要です。

合意するメリット・デメリット

相続税評価額で合意することには、メリットとデメリットの両方があります。

メリット デメリット
・株価の算定が簡単で、費用や時間がかからない。 ・実際の時価と大きく乖離している可能性がある。
・早期に遺留分の問題を解決できる可能性がある。 ・相続人の誰かが不利益を被る可能性がある(時価より低いと請求側が、高いと支払う側が不利)。

安易に合意するのではなく、専門家に相談して「時価だと大体いくらくらいになりそうか」という概算だけでも把握した上で判断することをおすすめします。

評価額で揉めた場合の対処法

話し合いで評価額の合意ができない場合は、次のような方法で解決を目指すことになります。

専門家(税理士・公認会計士)に評価を依頼する

まずは、中立的な立場の専門家である税理士や公認会計士に、株式の時価評価を依頼する方法があります。専門家による客観的な評価報告書は、当事者間の交渉を進める上で有力な資料となります。費用はかかりますが、争いを長引かせないための有効な手段です。

裁判所で鑑定を行う

当事者間の話し合いがまとまらず、家庭裁判所での遺留分侵害額請求調停や訴訟に発展した場合は、裁判所が選任した鑑定人(通常は公認会計士)が株価を鑑定することになります。鑑定結果は裁判所の判断に大きな影響を与えるため、これが最終的な評価額となるケースがほとんどです。鑑定費用は高額になることが多く、通常は当事者が分担して予納します。

まとめ

相続財産に非上場株式がある場合の遺留分計算について、ポイントを振り返ってみましょう。

  • 遺留分計算における非上場株式の評価は、原則として相続開始時の「時価」で行います。
  • 相続税申告で用いた「相続税評価額」は、時価とは異なるため、そのままでは使えません。
  • ただし、相続人全員が合意すれば、相続税評価額を基準に計算することも可能です。
  • 時価の算定方法は複雑で、どの方法を選ぶかで評価額が大きく変わるため、トラブルになりやすいです。
  • 当事者間で評価額の合意が難しい場合は、税理士などの専門家に評価を依頼したり、最終的には裁判所の鑑定手続きを利用したりすることになります。

非上場株式の評価は非常に専門的で、個人で対応するのは困難な場合がほとんどです。ご自身の権利を適切に主張するため、また、無用なトラブルを避けるためにも、相続に詳しい弁護士や税理士などの専門家に早めに相談することをおすすめします。

参考文献

国税庁 No.4638 取引相場のない株式の評価

非上場株式の遺留分計算に関するよくある質問まとめ

Q.遺留分の計算で、非上場株式の評価は相続税評価額を使えますか?

A.原則として、相続税評価額ではなく「時価」で計算する必要があります。相続税評価額は課税のための基準であり、遺留分算定の基礎となる財産の客観的な価値(時価)とは必ずしも一致しないためです。

Q.非上場株式の「時価」とは何ですか?

A.遺留分計算における「時価」とは、相続開始時点における客観的な交換価値を指します。当事者間で合意できればその価額になりますが、合意できない場合は、最終的に裁判所が鑑定などを通じて判断します。

Q.なぜ相続税評価額と時価は違うのですか?

A.相続税評価額は、課税の公平性や便宜のために定められた画一的な計算方法(財産評価基本通達)に基づきます。一方、時価は会社の収益性や純資産、将来性などをより実態に即して評価するため、金額が異なることが多くあります。

Q.非上場株式の時価はどのように計算するのですか?

A.会社の状況に応じて、純資産価額方式、類似業種比準価額方式、DCF法など、複数の専門的な評価方法の中から適切なものを選択して計算します。どの方法を用いるかで評価額が大きく変わることもあります。

Q.株価の評価について当事者間で合意できない場合はどうなりますか?

A.家庭裁判所での遺留分侵害額請求の調停や訴訟に移行します。その手続きの中で、裁判所が選任した公認会計士などの鑑定人が株価鑑定を行い、その結果を基に裁判所が時価を判断することが一般的です。

Q.非上場株式の遺留分計算で困ったら誰に相談すればよいですか?

A.株式評価に詳しい税理士や公認会計士、そして遺留分問題に精通した弁護士への相談をおすすめします。財産評価と法的手続きの両面から専門家のサポートを受けることが解決への近道です。

事務所概要
社名
税理士法人プライムパートナーズ
住所
〒107-0052
東京都港区赤坂5丁目2−33
IsaI AkasakA 17階
電話番号
対応責任者
税理士 島本 雅史

本記事は正確な情報提供を心掛けておりますが、執筆時点の情報に基づいているため、法改正や人的ミス、個別のケースにより適用が異なる可能性があります。最新の情報や具体的なご相談については、お気軽に弊法人の税理士までお問い合わせください。