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預金の引き出しができない!?銀行での相続手続きの全流れを徹底解説

2025-09-03
目次

ご家族が亡くなられた後、故人の銀行口座から預金を引き出そうとしたら「できません」と言われて驚いた経験はありませんか?大切な方を亡くされた悲しみの中で、お金の手続きまで滞ってしまうと、本当に困ってしまいますよね。実は、銀行は口座名義人が亡くなったことを知ると、その口座を「凍結」するため、簡単には預金の引き出しができなくなります。この記事では、なぜ口座が凍結されるのか、そしてどうすれば預金を引き出せるのか、銀行での相続手続きの流れをステップごとに分かりやすく解説していきます。

なぜ亡くなった人の預金は引き出せなくなるの?

まず、大前提として知っておいていただきたいのが、銀行は意地悪で預金の引き出しを拒否しているわけではない、ということです。故人の大切な財産を、相続トラブルから守るために必要な措置なのです。

口座凍結とは?

口座凍結とは、その口座での一切の取引ができなくなる状態を指します。具体的には、ATMでの引き出しや預け入れ、窓口での手続き、公共料金などの自動引き落とし、他口座からの振り込みの受け取りなどがすべてストップします。これは、一部の相続人が勝手に預金を引き出してしまったり、相続人ではない人が不正に財産を動かしたりするのを防ぐための重要な仕組みです。

銀行はいつ死亡を知るの?

銀行が口座名義人の死亡を知るタイミングは、主に遺族からの連絡によるものです。ご家族が取引銀行の窓口や電話で「口座名義人が亡くなりました」と伝えた時点で、その口座は凍結されます。その他にも、新聞のお悔やみ欄や、地域の方からの情報などで銀行が死亡の事実を把握し、口座を凍結することもあります。

口座凍結を解除するには相続手続きが必要

一度凍結された口座を元に戻し、預金を引き出すためには、正式な相続手続きを踏む必要があります。「誰が正当な相続人で、どのように遺産を分けるのか」を銀行に対して公的な書類で証明し、確認してもらう作業、それが銀行での相続手続きなのです。少し手間がかかりますが、故人の財産をきちんと引き継ぐために、一つずつ進めていきましょう。

銀行での預金相続手続きの基本的な流れ

銀行での相続手続きは、どの金融機関でもおおむね同じような流れで進みます。ここでは、一般的な手続きのステップを解説します。金融機関によって多少異なる場合があるので、詳細は必ず取引銀行に確認してくださいね。

【銀行での相続手続き 5つのステップ】

  1. ステップ1:相続発生の連絡と残高証明書の発行依頼
    まず、故人が口座を持っていた金融機関に連絡し、亡くなった旨を伝えます。この時点で口座が凍結されます。同時に、相続財産を正確に把握するために、死亡日時点の残高証明書の発行を依頼しましょう。この証明書は、後の遺産分割協議や相続税の申告で必要になります。
  2. ステップ2:必要書類の案内を受ける
    金融機関から、相続手続きに必要な書類の一覧や、所定の申請用紙(相続手続依頼書など)を受け取ります。最近では、Webサイトからダウンロードできる金融機関も増えています。
  3. ステップ3:必要書類の収集
    案内に従って、戸籍謄本や印鑑証明書などの必要書類を集めます。特に、故人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本は、本籍地を何度も変更している場合、集めるのに時間がかかることがありますので、早めに準備を始めましょう。
  4. ステップ4:書類の提出と金融機関の確認
    収集した書類と、記入・捺印した申請用紙を金融機関の窓口に提出します。提出された書類に不備がないか、金融機関側で1〜2週間ほどかけて確認が行われます。
  5. ステップ5:払い戻し・名義変更
    書類の確認が完了すると、いよいよ預金の払い戻しです。指定した相続人の口座に振り込まれるか、現金で受け取ることができます。また、預金口座を解約せず、相続人がそのまま引き継ぐ(名義変更する)ことも可能です。

相続手続きに必要な書類は?ケース別に解説

銀行での相続手続きで最も大変なのが、必要書類の収集です。どのような遺産の分け方をするかによって、必要な書類が変わってきます。ここでは、代表的な3つのケースに分けて、必要書類を解説します。

【共通】必ず必要になる書類

どのケースでも、基本的には以下の書類が必要になります。

書類名 入手先・備考
金融機関所定の相続手続依頼書 金融機関の窓口やWebサイトで入手します。
被相続人(故人)の出生から死亡までの連続した戸籍謄本(除籍・改製原戸籍謄本) 故人の本籍地の市区町村役場で取得します。
相続人全員の戸籍謄本(現在のもの) 各相続人の本籍地の市区町村役場で取得します。
相続人全員の印鑑登録証明書 各相続人の住所地の市区町村役場で取得します(発行後3ヶ月または6ヶ月以内のもの)。
被相続人の通帳・証書・キャッシュカードなど 手元にあるものをすべて用意します。紛失していても手続きは可能です。
手続きをする代表相続人の本人確認書類 運転免許証やマイナンバーカードなどです。

※戸籍謄本一式の代わりに、法務局が発行する「法定相続情報一覧図の写し」を提出できる場合もあります。これ一枚で戸籍謄本の代わりになるため、複数の金融機関で手続きする際に非常に便利です。

ケース1:遺言書がある場合

故人が遺言書を残していた場合は、その内容に従って手続きを進めます。共通の書類に加えて、以下のものが必要になります。

  • 遺言書(公正証書遺言の場合は謄本、自筆証書遺言や秘密証書遺言の場合は家庭裁判所の検認済証明書付きのもの)
  • 遺言執行者がいる場合は、その方の印鑑登録証明書と実印

ケース2:遺産分割協議書がある場合

遺言書がなく、相続人全員で話し合って遺産の分け方を決めた場合は、「遺産分割協議書」を作成します。共通の書類に加えて、以下のものが必要になります。

  • 遺産分割協議書(相続人全員が署名し、実印を押したもの)

ケース3:遺言書も遺産分割協議書もない場合

遺言書も遺産分割協議書もない場合は、法定相続分に従って分けるか、相続人の代表者が一括して預金を受け取ることになります。この場合、金融機関所定の書類に相続人全員の署名と実印の押印が求められます。手続きが最も煩雑になる可能性があるため、相続人間でよく話し合っておくことが大切です。

葬儀費用はどうする?預金の仮払い制度とは

「口座が凍結されると、当面の生活費や葬儀費用が支払えなくて困る」という声に応えるため、2019年7月から新しい制度がスタートしました。それが「遺産分割前の相続預金の払戻し制度(仮払い制度)」です。

仮払い制度の概要と上限額

この制度を利用すると、遺産分割協議が終わる前でも、他の相続人の同意なしに、相続人が単独で一定額までの預金を引き出すことができます。引き出せる金額には上限があり、以下のいずれか低い方の金額となります。

  • (相続開始時の預貯金残高)× 1/3 ×(払戻しを求める相続人の法定相続分)
  • 1つの金融機関につき150万円

例えば、預金残高が900万円で、相続人が配偶者と子2人(法定相続分は配偶者1/2、子1/4ずつ)の場合、子がこの制度で引き出せる上限額は「900万円 × 1/3 × 1/4 = 75万円」となり、150万円より低い75万円が上限となります。

仮払い制度の手続きに必要な書類

仮払い制度の手続きは、正式な相続手続きよりも少ない書類で済むのが特徴です。一般的には以下の書類が必要となります。

  • 被相続人の除籍謄本(死亡が確認できるもの)
  • 申請する相続人の戸籍謄本
  • 申請する相続人の印鑑登録証明書
  • 申請する相続人の本人確認書類

急な出費で困った際には、この制度の利用を検討してみましょう。

銀行の相続手続きで注意すべきポイント

最後に、銀行での相続手続きをスムーズに進めるための注意点をいくつかご紹介します。

複数の金融機関に口座がある場合

故人が複数の銀行や信用金庫に口座を持っていた場合、それぞれの金融機関で個別に相続手続きが必要になります。手続きの流れは似ていますが、必要書類の書式や提出方法が微妙に異なることがあるため、一つずつ確認しながら進める必要があります。

手続きにかかる期間

相続手続きは、戸籍謄本の収集から払い戻しまで、すべてが順調に進んだとしても1ヶ月〜2ヶ月程度かかることが一般的です。もし書類に不備があったり、相続人間で揉めてしまったりすると、さらに時間がかかってしまいます。特に、相続税の申告期限は被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10ヶ月以内と決まっているので、余裕を持って早めに手続きを開始することが大切です。

相続税の申告も忘れずに

銀行での預金相続手続きが終わっても、それで完了ではありません。預金を含む相続財産の総額が基礎控除額(3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数)を超える場合は、相続税の申告と納税が必要です。預金の相続と並行して、他の財産(不動産、有価証券など)の評価も進めておきましょう。

まとめ

ご家族が亡くなられた際の銀行での相続手続きは、突然のことで戸惑うことも多いかと思います。口座が凍結されて預金の引き出しができなくなるのは、故人の大切な財産を守るためです。手続きの流れをしっかり理解し、必要書類を計画的に準備することで、スムーズに手続きを進めることができます。まずは故人が取引していた金融機関に連絡するところから始めてみましょう。もし手続きが複雑で難しいと感じる場合は、司法書士や税理士などの専門家に相談するのも一つの方法です。慌てず、一つひとつ着実に進めていきましょう。

参考文献

法務省: 戸籍法の一部を改正する法律について(令和6年3月1日施行)

国税庁: No.4152 相続税の計算

国税庁: 準確定申告

銀行の相続手続きに関するよくある質問まとめ

Q.家族が亡くなった後、なぜ銀行口座から預金を引き出せなくなるのですか?

A.銀行が口座名義人の死亡を知ると、相続財産を保全するため口座を凍結するからです。これにより、一部の相続人が勝手に預金を引き出すことを防ぎ、相続トラブルを未然に防ぐ目的があります。

Q.凍結された口座の相続手続きを始めるには、まず何をすればよいですか?

A.まずは、口座がある銀行の窓口やコールセンターに連絡し、口座名義人が亡くなったことを伝えてください。その際に、相続手続きに必要な書類の一覧や、手続きの流れについて案内してもらえます。

Q.銀行での相続手続きには、一般的にどのような書類が必要ですか?

A.故人の出生から死亡までの戸籍謄本、相続人全員の戸籍謄本と印鑑証明書、遺産分割協議書(または遺言書)、銀行所定の払戻請求書などが必要です。金融機関によって異なるため、必ず事前に確認しましょう。

Q.遺産分割協議書は必ず必要になりますか?

A.遺言書がなく、法定相続分とは異なる割合で預金を分ける場合や、特定の相続人が預金を代表して受け取る場合には、原則として必要です。相続人全員の合意を証明する重要な書類となります。

Q.書類を提出してから、預金が払い戻されるまでどれくらい時間がかかりますか?

A.書類に不備がなければ、一般的に2週間から1ヶ月程度で手続きが完了します。ただし、相続関係が複雑な場合や、金融機関の繁忙期などは、それ以上時間がかかることもあります。

Q.葬儀費用など、急な支払いのために凍結された口座から一部だけでも引き出すことはできますか?

A.はい、「預金の仮払い制度」を利用できます。この制度により、家庭裁判所の判断を経ずに、他の相続人の同意がなくても一定額(上限あり)を払い戻すことが可能です。詳しくは金融機関にお問い合わせください。

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