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養子がいると生命保険・死亡退職金の非課税枠が変わる?相続税の制限を解説

2025-03-30
目次

ご家族に養子がいらっしゃる場合、相続にどのような影響があるのか気になりますよね。特に、生命保険金や死亡退職金の受け取りは、遺されたご家族の生活に直結する大切なことです。これらの非課税枠は「法定相続人」の数によって金額が変わるため、養子がいる場合の特別なルールを知っておくことがとても重要になります。この記事では、養子がいる場合の相続税の制限、特に生命保険金と死亡退職金の非課税枠について、わかりやすく丁寧にご説明しますね。

養子がいると相続はどう変わる?基本のキ

養子縁組をすると、法律上、養子は実の子ども(実子)と全く同じ立場になります。そのため、養子も実子と同じように「法定相続人」として、遺産を相続する権利を持つことになります。ただし、相続税を計算する際には、いくつかの特別なルールが設けられているので、ここで基本をしっかり押さえておきましょう。

養子縁組には2つの種類がある

養子縁組には「普通養子縁組」と「特別養子縁組」の2種類があり、どちらを選ぶかによって、実の親(実親)との関係性が変わってきます。

種類 特  徴
普通養子縁組 養親との親子関係が生まれると同時に、実親との親子関係もそのまま続きます。そのため、養親が亡くなったときも、実親が亡くなったときも、両方の相続人になることができます。
特別養子縁組 実親との法的な親子関係が完全に解消されます。そのため、相続できるのは養親の財産のみとなります。

相続税の計算では養子の数に制限がある?

民法上では、何人でも養子にすることができますが、相続税法では、法定相続人の数に含められる養子の数に上限が設けられています。これは、相続税を不当に安くすることだけを目的とした養子縁組を防ぐためなんです。この人数制限が、このあとご説明する生命保険金や死亡退職金の非課税枠に大きく関わってきます。

人数制限の対象外になるケース

ただし、すべての養子がこの人数制限の対象になるわけではありません。例えば、配偶者の連れ子を養子にした場合や、家庭裁判所の審判を経て成立する特別養子縁組で迎えた養子の場合は、税法上「実子」と同じように扱われます。そのため、これらのケースでは人数制限のカウントには含まれず、何人いても法定相続人として数えることができるんですよ。

生命保険金・死亡退職金の非課税枠と養子の人数制限

ご家族が亡くなられた際に受け取る生命保険金や死亡退職金は、遺されたご家族の生活を支える大切な資金源です。これらは「みなし相続財産」として相続税の課税対象になりますが、ご家族の生活保障という側面から、一定額までは税金がかからない「非課税枠」という制度が設けられています。この非課税枠の計算に、先ほどの養子の人数制限が関係してくるのです。

非課税枠の計算方法

生命保険金と死亡退職金の非課税限度額は、それぞれ下記の計算式で求められます。計算式は同じですが、別々に枠があるのがポイントです。

非課税限度額 = 500万円 × 法定相続人の数

この計算式の「法定相続人の数」を決めるときに、相続税法で定められた養子の人数制限が適用されることになります。

養子の人数制限の具体的なルール

非課税枠の計算に含めることができる養子の数は、亡くなった方(被相続人)に実子がいるかどうかで次のように変わります。

被相続人の状況 法定相続人に含められる養子の数
実子がいる場合 1人まで
実子がいない場合 2人まで

例えば、実子が2人いて、さらに普通養子縁組の養子が2人いるご家庭の場合を考えてみましょう。民法上の法定相続人(子ども)は4人ですが、生命保険金や死亡退職金の非課税枠を計算する際の法定相続人の数は、実子2人+養子1人の合計3人として計算することになる、というわけです。

具体例で見る!養子がいる場合の非課税枠の計算

少し複雑に感じられるかもしれませんので、具体的な家族構成を例に挙げて、非課税枠がそれぞれいくらになるのか一緒に見ていきましょう。

【ケース1】実子1人、養子1人がいる場合

被相続人に配偶者、実子1人、普通養子縁組の養子1人がいるケースです。実子がいるため、法定相続人に含められる養子は1人までです。このケースでは養子が1人なので、そのままカウントできます。

法定相続人の数:配偶者(1人) + 実子(1人) + 養子(1人) = 3人

生命保険金の非課税枠:500万円 × 3人 = 1,500万円

死亡退職金の非課税枠:500万円 × 3人 = 1,500万円

【ケース2】実子なし、養子3人がいる場合

次に、被相続人に配偶者はいるものの実子はおらず、普通養子縁組の養子が3人いるケースです。実子がいない場合、法定相続人に含められる養子は2人までとなります。

法定相続人の数:配偶者(1人) + 養子(2人まで) = 3人

生命保険金の非課税枠:500万円 × 3人 = 1,500万円

死亡退職金の非課税枠:500万円 × 3人 = 1,500万円

民法上の相続人は配偶者と養子3人の合計4人ですが、相続税の計算上は3人となる点に注意が必要ですね。

【ケース3】実子1人、配偶者の連れ子(養子)1人がいる場合

被相続人に配偶者、実子1人、そして配偶者の連れ子と養子縁組をしているケースです。先ほどご説明したように、配偶者の連れ子(養子)は実子とみなされるため、養子の人数制限は受けません。

法定相続人の数:配偶者(1人) + 実子(1人) + 連れ子養子(1人) = 3人

生命保険金の非課税枠:500万円 × 3人 = 1,500万円

死亡退職金の非課税枠:500万円 × 3人 = 1,500万円

養子の人数は非課税枠以外にも影響する

養子の人数制限は、生命保険金や死亡退職金の非課税枠だけでなく、相続税全体の計算にも影響を与える重要なポイントです。

相続税の基礎控除額

相続税には、そもそも「この金額までなら税金はかかりませんよ」というボーダーラインがあり、これを「基礎控除額」といいます。この計算式にも法定相続人の数が使われます。

基礎控除額 = 3,000万円 + (600万円 × 法定相続人の数)

ここでも、生命保険金などと同じく、法定相続人の数に含められる養子の数には「実子ありなら1人、実子なしなら2人まで」という制限が適用されます。法定相続人が1人増えるだけで基礎控除額が600万円も増えるため、これは大きな違いになりますね。

相続税の総額の計算

相続税の税率を計算する際にも、法定相続人の数を使います。法定相続人が多いほど、一人あたりの法定相続分が少なくなり、結果として低い税率が適用されやすくなるため、相続税の総額が抑えられることがあります。この計算においても、同様の養子の人数制限が適用されることを覚えておきましょう。

養子縁組で注意すべきその他のポイント

相続税対策として養子縁組を考える方もいらっしゃいますが、税金面以外にも知っておきたい注意点がいくつかあります。

孫を養子にする場合(孫養子)

お孫さんを養子にすると、本来なら「親から子へ」「子から孫へ」と2回かかるはずの相続税が1回で済むため、一見すると節税効果が高いように思えます。しかし、それでは不公平だということで、お孫さんを養子にした場合、そのお孫さんが支払う相続税の額は2割増しになるというルールがあります。ただし、亡くなったお子さんの代わりにお孫さんが相続する「代襲相続」に該当する場合は、2割加算の対象にはなりません。

税務署に否認されるリスク

明らかに相続税対策だけを目的とした養子縁組だと税務署に判断された場合、その養子の数を法定相続人の数に含めることが認められない(否認される)可能性があります。例えば、亡くなる直前に養子縁組をしたのに、その養子には財産をまったく相続させない、といった実態が伴わないケースが考えられます。養子縁組は、親子としての関係性も大切になりますので、慎重に考える必要があります。

まとめ

今回は、養子がいる場合の生命保険金や死亡退職金の非課税枠についてご説明しました。一番のポイントは、相続税を計算する際に法定相続人に含められる養子の数には「実子がいる場合は1人、いない場合は2人まで」という制限があることです。このルールは、相続税の基礎控除額の計算にも適用されます。ただし、配偶者の連れ子を養子にした場合などは、実子と同じ扱いとなり人数制限はありません。養子縁組は相続税に大きな影響を与えるため、制度を正しく理解し、ご家族でよく話し合って進めることが大切ですね。

参考文献

国税庁「No.4170 相続人の中に養子がいるとき」

国税庁「No.4114 相続税の課税対象になる死亡保険金」

国税庁「No.4117 相続税の課税対象になる死亡退職金」

生命保険・死亡退職金の「養子」に関するよくある質問まとめ

Q.生命保険の死亡保険金受取人に養子を指定できますか?

A.はい、指定できます。養子は実子と同じく法定相続人であり、保険金の受取人になることに制限はありません。

Q.養子がいる場合、生命保険金の非課税枠(500万円×法定相続人の数)の計算に含められますか?

A.はい、含められます。ただし、相続税法上、法定相続人の数に含められる養子の数には制限があります。実子がいる場合は1人まで、実子がいない場合は2人までです。

Q.死亡退職金の非課税枠でも、養子の数に同じ制限はありますか?

A.はい、生命保険金と同様の制限が適用されます。相続税の計算上、法定相続人にカウントできる養子の数は、実子がいる場合は1人、いない場合は2人までとなります。

Q.普通養子と特別養子で、生命保険や死亡退職金の扱いに違いはありますか?

A.受取人になる権利や非課税枠の計算における養子の人数制限については、普通養子でも特別養子でも違いはありません。どちらも同様に扱われます。

Q.配偶者の連れ子(再婚相手の子)を養子にした場合も、非課税枠の対象になりますか?

A.はい、なります。配偶者の連れ子と養子縁組をすると法定相続人となるため、生命保険金や死亡退職金の非課税枠の計算に含めることができます。ただし、他の養子と同様の人数制限が適用されます。

Q.なぜ相続税の計算において養子の数に制限があるのですか?

A.相続税対策のためだけに養子縁組を行い、法定相続人の数を増やして基礎控除や非課税枠を不当に拡大することを防ぐためです。税の公平性を保つ目的で、税法上に特別な規定が設けられています。

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