「血圧が高めですね」と健康診断で言われたけれど、特に症状もないし…と、そのままにしていませんか?実は、その高血圧が、ある日突然命を脅かす「脳梗塞」や「脳出血」の引き金になるかもしれません。高血圧は「サイレントキラー(静かなる殺人者)」とも呼ばれ、自覚症状がないまま血管を傷つけ、重大な病気を引き起こす怖い状態です。この記事では、血圧と脳梗塞・脳出血の密接な関係を、優しく、そして分かりやすく解説していきます。ご自身の健康を守るために、ぜひ最後までお読みくださいね。
血圧と脳の血管の基本的な関係
まずは、なぜ血圧が高いと脳の血管に影響が出るのか、その基本的な仕組みから見ていきましょう。心臓が血液を全身に送り出すときの圧力、それが「血圧」です。この圧力が常に高い状態が続くと、血管の壁はいつも張り詰めた状態になり、少しずつダメージが蓄積されていきます。特に、脳の血管は非常に繊細なため、高血圧の影響を受けやすいのです。
高血圧が「サイレントキラー」と呼ばれる理由
高血圧の最も怖いところは、自覚症状がほとんどないことです。頭痛やめまいを感じることもありますが、多くの場合、何の症状もないまま進行します。しかし、水面下では血管の壁が傷つき、硬くなる「動脈硬化」が着々と進んでいます。そして、ある日突然、血管が詰まったり(脳梗塞)、破れたり(脳出血)して、深刻な事態を招くことがあるため、「サイレントキラー」と呼ばれているのです。
あなたの血圧はどのレベル?血圧の基準値
ご自身の血圧がどのレベルにあるか、把握していますか?日本高血圧学会のガイドラインでは、以下のように分類されています。診察室で測定した血圧(診察室血圧)の基準です。家庭で測る血圧(家庭血圧)は、これより5mmHg低い基準で考えます。
| 分類 | 収縮期血圧(上の血圧) / 拡張期血圧(下の血圧) |
| 正常血圧 | 120mmHg未満 かつ 80mmHg未満 |
| 正常高値血圧 | 120~129mmHg かつ 80mmHg未満 |
| 高値血圧 | 130~139mmHg かつ/または 80~89mmHg |
| Ⅰ度高血圧 | 140~159mmHg かつ/または 90~99mmHg |
| Ⅱ度高血圧 | 160~179mmHg かつ/または 100~109mmHg |
| Ⅲ度高血圧 | 180mmHg以上 かつ/または 110mmHg以上 |
高値血圧の段階から、生活習慣の改善が推奨されます。Ⅰ度以上の高血圧では、医師の指導のもとで治療が必要になることがほとんどです。
動脈硬化の仕組みとは?
動脈硬化は、高血圧が引き起こす血管の老化現象のようなものです。高い圧力に常にさらされることで、血管の内側の壁が傷つきます。その傷ついた部分から、血液中の悪玉コレステロールなどが入り込み、おかゆのようなドロドロした塊(プラーク)を作ります。このプラークが血管を狭くし、弾力性を失わせることで、血液の流れが悪くなったり、血の塊(血栓)ができやすくなったりするのです。
血圧が引き起こす「脳梗塞」
脳梗塞は、脳の血管が詰まることで、その先の脳細胞に酸素や栄養が届かなくなり、脳細胞が壊死してしまう病気です。日本の脳卒中全体の約7割を占めており、高血圧は脳梗塞の最大の危険因子とされています。
脳梗塞の主な3つのタイプ
脳梗塞は、血管が詰まる原因によって大きく3つのタイプに分けられます。いずれも高血圧が深く関わっています。
| 脳梗塞のタイプ | 特徴と高血圧との関係 |
| ラクナ梗塞 | 脳の深い部分にある細い血管が、長年の高血圧による動脈硬化で詰まるタイプです。比較的小さな梗塞ですが、繰り返すと認知症や歩行障害の原因になります。 |
| アテローム血栓性脳梗塞 | 脳や首の太い血管にできたプラークが大きくなって血管を塞いだり、プラークが破れてできた血栓が飛んで脳の血管を詰まらせるタイプです。高血圧に加え、脂質異常症や糖尿病も危険因子です。 |
| 心原性脳塞栓症 | 心房細動という不整脈などが原因で心臓の中にできた血栓が、血流に乗って脳まで運ばれ、太い血管を突然詰まらせるタイプです。高血圧は心臓に負担をかけ、心房細動を引き起こす原因の一つになります。 |
脳梗塞のサイン「FAST」を見逃さないで
脳梗塞は時間との勝負です。発症から4.5時間以内であれば、血栓を溶かす強力な治療(t-PA静注療法)が受けられる可能性があります。以下の「FAST」という合言葉を覚えて、一つでも当てはまったら、ためらわずに救急車を呼びましょう。
- F (Face):顔の麻痺。「イー」と笑ったときに顔の片方がゆがむ。
- A (Arm):腕の麻痺。両腕を前に上げたときに、片方の腕が下がってくる。
- S (Speech):言葉の障害。「今日は天気が良い」などの短い文がろれつが回らず言えない。
- T (Time):発症時刻。症状が始まった時刻を確認し、すぐに救急車を呼ぶ。
血圧が引き起こす「脳出血」
脳出血は、脳の中の細い血管が破れて出血し、流れ出た血液が塊(血腫)となって脳を圧迫することで脳細胞にダメージを与える病気です。脳出血の最大の原因は高血圧であり、特に長期間にわたってコントロールされていない高血圧は非常に危険です。
なぜ高血圧で血管は破れるのか?
長年の高血圧によって、脳の細い動脈はもろく、弾力性を失っていきます。そんな状態の血管に、ストレスや寒さ、急な運動などで血圧がさらに急上昇すると、その圧力に耐えきれずにプツリと破れてしまうのです。これが脳出血のメカニズムです。
脳出血の危険なサイン
脳出血は、脳梗塞と同様に突然発症しますが、特徴的な症状があります。
- 突然の激しい頭痛(「ハンマーで殴られたような」と表現されることも)
- 吐き気や嘔吐
- 意識がもうろうとする、呼びかけに反応しないなどの意識障害
- 片方の手足の麻痺やしびれ
- ろれつが回らない
これらの症状が現れた場合も、脳梗塞と同じく一刻も早く医療機関を受診する必要があります。
発症後の血圧管理はどうする?
もし脳梗塞や脳出血を発症してしまった場合、その後の血圧管理は予防とは少し異なるアプローチが必要になります。急性期と、症状が安定した後の慢性期(再発予防期)で目標とする血圧が変わることがあります。
急性期の血圧管理
発症直後の急性期では、病状によって血圧の管理方針が異なります。
- 脳梗塞の場合:脳の血流が滞っているため、急激に血圧を下げると、かえって脳への血流が悪化し、症状を悪化させる可能性があります。そのため、収縮期血圧が220mmHgを超えるような極端な高血圧でなければ、すぐには下げず、慎重に様子を見ることがあります。
- 脳出血の場合:出血がさらに広がるのを防ぐため、できるだけ速やかに血圧を下げる治療が行われます。収縮期血圧を140mmHg未満にコントロールすることが推奨されています。
慢性期(再発予防)の血圧管理
急性期を乗り越え、病状が安定した後は、再発予防が最も重要になります。脳卒中を一度経験した方は、再発のリスクが非常に高いため、厳格な血圧コントロールが必要です。一般的には、収縮期血圧130mmHg未満、拡張期血圧80mmHg未満を目標としますが、年齢や他に持っている病気などによって目標値は変わりますので、必ず主治医と相談して決めましょう。
今日からできる!血圧管理と予防策
脳梗塞や脳出血を予防するためには、日々の血圧管理が何よりも大切です。薬物治療とあわせて、生活習慣の見直しを今日から始めましょう。
食事の見直し:まずは減塩から
塩分の摂りすぎは、体内に水分を溜め込み、血液量を増やして血圧を上げる最大の原因です。日本高血圧学会では、高血圧の方の1日の食塩摂取量を6g未満にすることを推奨しています。
- ラーメンやうどんの汁は飲まない
- 漬物や加工食品を控える
- 醤油やソースは「かける」より「つける」
- 香辛料や香味野菜、だしを上手に利用して薄味に慣れる
また、野菜や果物に多く含まれるカリウムには、体内の余分な塩分を排出する働きがあります。積極的に摂るようにしましょう。
適度な運動習慣
ウォーキングや軽いジョギング、水泳などの有酸素運動は、血管を広げて血圧を下げる効果が期待できます。少し汗ばむ程度で、会話が楽しめるくらいの強さの運動を、1日30分以上、できれば毎日続けるのが理想です。運動を始める前には、主治医に相談することをおすすめします。
その他の生活習慣の改善
- 禁煙:喫煙は血管を収縮させ、動脈硬化を強力に促進します。
- 節酒:アルコールの飲み過ぎは血圧を上げます。適量を守りましょう。
- 体重管理:肥満は高血圧の大きな原因です。適正体重を維持しましょう。
- ストレス管理と十分な睡眠:心身をリラックスさせ、血圧の安定につなげましょう。
家庭での血圧測定のすすめ
毎日決まった時間(例:朝の起床後と夜の就寝前)に血圧を測定し、記録する習慣をつけましょう。家庭で測る血圧は、病院での緊張などがないため、普段の血圧の状態をより正確に知ることができます。記録した血圧手帳は、診察の際に医師に見せることで、治療方針を決めるための重要な情報になります。
まとめ
高血圧は自覚症状がないまま、静かにあなたの脳の血管をむしばみ、ある日突然、脳梗塞や脳出血といった深刻な病気を引き起こす可能性があります。しかし、高血圧は生活習慣の改善や適切な治療によって、きちんとコントロールすることができる病気です。健康診断の結果を軽視せず、日々の血圧測定と生活習慣の見直しを心がけ、大切なご自身の体を守っていきましょう。この記事が、あなたとあなたの大切な人の健康を守る一助となれば幸いです。
参考文献
血圧と脳卒中に関するよくある質問
Q. 高血圧だと、なぜ脳梗塞や脳出血になるのですか?
A. 高血圧が続くと血管の壁が傷ついて硬くなる「動脈硬化」が進行します。これにより血管が狭くなって詰まったり(脳梗塞)、もろくなった血管が血圧に耐えきれず破れたり(脳出血)するためです。
Q. 脳梗塞と脳出血の症状の主な違いは何ですか?
A. どちらも手足の麻痺や言語障害などが起こりますが、脳出血では「突然の激しい頭痛」や吐き気を伴うことが多いのが特徴です。ただし、症状だけで判断するのは危険なため、いずれの場合もすぐに救急車を呼ぶことが重要です。
Q. 血圧の正常値はいくつですか?
A. 診察室で測る場合、収縮期血圧(上)が120mmHg未満、かつ拡張期血圧(下)が80mmHg未満が正常血圧とされています。140/90mmHg以上が高血圧となります。
Q. 脳卒中を予防するために、食事で気をつけることは何ですか?
A. 最も重要なのは減塩です。1日の食塩摂取量を6g未満に抑えることを目標にしましょう。また、塩分の排出を助けるカリウム(野菜や果物)を多く含む食品を積極的に摂ることも効果的です。
Q. 脳卒中になってしまった後、血圧はどのくらいに保てばいいですか?
A. 再発予防のため、一般的には収縮期血圧130mmHg未満、拡張期血圧80mmHg未満を目標に、より厳格な管理が求められます。ただし、個人の状態によって目標値は異なるため、必ず主治医の指示に従ってください。
Q. 家庭で血圧を測るときのポイントはありますか?
A. 毎日、朝(起床後1時間以内)と夜(就寝前)の決まった時間に、座って1~2分安静にしてから測定するのが基本です。測定した数値は血圧手帳などに記録し、診察時に医師に見せましょう。