会社の将来を考えたとき、「後継者にスムーズに事業を引き継ぎたい」「会社の経営権をしっかり守りたい」といったお悩みはありませんか?そんなときに心強い味方となってくれるのが「黄金株(おうごんかぶ)」です。少し特別な株式ですが、その仕組みと設定方法を知ることで、事業承継や経営の安定化に大きく役立ちます。この記事では、黄金株の基本から具体的な設定方法、メリット・デメリットまで、わかりやすく丁寧にご説明しますね。
黄金株ってそもそも何?
まずは、「黄金株」がどのようなものなのか、基本から見ていきましょう。黄金株は、その名前から何か特別な価値があるように聞こえますが、正式には「拒否権付種類株式(きょひけんつきしゅるいかぶしき)」と呼ばれています。会社が発行する株式にはいくつかの種類があり、黄金株はその中の一つです。その最大の特徴は、名前の通り、株主総会や取締役会で決められた重要な議案に対して「NO!」と言える、とても強力な「拒否権」を持っている点にあります。
黄金株の強力な「拒否権」とは
黄金株が持つ拒否権は、会社の経営を左右するような非常に重要な事柄に対して行使できます。たとえば、以下のような決議を、たった1株の黄金株で止めることができてしまうのです。
- 取締役や代表取締役の選任・解任
- 役員報酬の決定
- 会社の合併や事業の売却(事業譲渡)
- 新しい株式の発行(増資)
- 定款の変更
- 会社の解散
これらの決議は、通常であれば多くの株式を持つ株主の賛成によって決まります。しかし、黄金株が発行されていると、たとえ他の株主全員が賛成したとしても、黄金株を持つ株主が反対すれば、その決議は成立しません。この絶大な力こそが、黄金株が「黄金」と呼ばれるゆえんなのです。
なぜ事業承継や会社防衛に役立つの?
この強力な拒否権があるからこそ、黄金株は特に中小企業の事業承継の場面で活用されています。例えば、社長が後継者である息子に会社の株式のほとんどを譲ったとします。しかし、後継者はまだ経営者として経験が浅く、少し心配な面もあるかもしれません。そんなとき、先代の社長が1株だけ黄金株を持っておけば、万が一後継者が経営判断を誤りそうになったときに、拒否権を発動して会社を守ることができます。後継者の成長を見守りながら、安全に経営のバトンタッチを進めるための「お守り」のような役割を果たしてくれるのです。
また、外部からの敵対的な買収に対する防衛策としても非常に有効です。買収者が会社の株式を買い集めて経営権を奪おうとしても、黄金株があれば重要な決議を阻止できるため、会社の乗っ取りを防ぐことができます。
普通株式や他の種類株式との違い
株式会社が発行する株式は、特に何も定めがなければ「普通株式」です。これに対し、普通株式とは異なる権利を持つ株式を「種類株式」と呼び、黄金株もその一つです。他にもいくつか種類株式があるので、黄金株との違いを簡単に見てみましょう。
| 株式の種類 | 主な特徴 |
| 黄金株(拒否権付種類株式) | 株主総会などの重要決議に対する拒否権を持つ。 |
| 普通株式 | 株主としての基本的な権利(議決権、配当を受ける権利など)を持つ。 |
| 議決権制限株式 | 株主総会での議決権の一部または全部が制限されている。 |
| 譲渡制限株式 | 株式を譲渡する際に、会社の承認が必要となる。 |
| 優先株式 | 普通株式よりも優先的に配当金を受け取れるなどの優遇がある。 |
黄金株を設定するメリット
黄金株を導入することには、会社の経営を守るための大きなメリットがあります。ここでは、代表的な2つのメリットについて詳しく見ていきましょう。
段階的で安全な事業承継ができる
最大のメリットは、やはり事業承継をスムーズかつ安全に進められる点です。後継者の育成には一般的に5年から10年かかると言われていますが、その期間中、先代経営者は不安が尽きないものです。株式を後継者に贈与・相続させて経営権を移しつつも、先代経営者が黄金株を保有することで、重要な経営判断に対して最終的な拒否権を持つことができます。これにより、後継者が独り立ちするまで経営を見守り、万が一の際には会社を正しい方向へ導くことが可能になります。いわば、後継者への「監督・指導役」として、経営に関与し続けることができるのです。
敵対的買収からの強力な防衛策になる
黄金株は、会社の意思に反して行われる「敵対的買収」に対する非常に強力な防衛策となります。もし買収を仕掛ける相手が市場などで株式を買い集め、過半数の議決権を手にしたとしても、会社経営の根幹に関わる事項(例えば、取締役の総入れ替えや会社の事業内容の変更など)は株主総会の決議が必要です。ここで黄金株の拒否権を発動すれば、買収者の意のままに会社が動かされるのを防ぐことができます。たった1株で会社の支配権を守れるため、中小企業にとって心強い盾となるのです。
知っておきたい黄金株のデメリットと注意点
非常に強力な黄金株ですが、その力ゆえにデメリットや注意すべき点も存在します。導入を検討する際には、良い面だけでなく、リスクもしっかりと理解しておくことが大切です。
拒否権の濫用による経営停滞リスク
黄金株を持つ先代経営者が、後継者の新しい経営方針に対してことごとく拒否権を発動してしまうと、会社の意思決定が滞り、経営が停滞してしまう恐れがあります。時代の変化に対応するための改革が進まなかったり、後継者のやる気を削いでしまったりする可能性も考えられます。拒否権はあくまで「伝家の宝刀」であり、その使い方を誤ると、会社の成長を妨げる足かせになりかねません。
相続トラブルの火種になる可能性
黄金株を持つ経営者が亡くなった場合、その黄金株も相続財産となります。もし、会社の経営に関心がない相続人や、後継者と意見が対立する相続人に黄金株が渡ってしまったら大変です。会社の重要な決議が、経営の専門家ではない人物の感情一つで否決されてしまう、といった事態も起こり得ます。こうした相続による経営の混乱を防ぐためには、あらかじめ対策を講じておく必要があります。
事業承継税制が使えなくなるケースがある
事業承継を円滑にするための税制上の優遇措置として「事業承継税制」があります。これは、後継者が株式を相続または贈与された際の税負担を大幅に軽減できる制度ですが、この制度を利用するためにはいくつかの要件があります。その一つに、「後継者以外の者が黄金株を保有していないこと」という条件があるのです。したがって、先代経営者が黄金株を持ち続けたままでは、この税制の恩恵を受けることができません。税制の活用を考えている場合は、黄金株をどのタイミングで後継者に渡すか、あるいは普通株式に転換するかなど、専門家と相談しながら慎重に計画を立てる必要があります。
黄金株の具体的な設定方法(作り方)
それでは、実際に黄金株を設定するための手続きについて見ていきましょう。方法は大きく分けて、「今ある株式を黄金株に変える方法」と「新しく黄金株を発行する方法」の2つがあります。どちらの方法でも、会社のルールブックである「定款」の変更と、法務局への「登記」が必要になります。
ケース1:今ある株式を黄金株に変える方法
すでに発行している普通株式の一部を黄金株に変更する手続きです。例えば、社長が持っている普通株式100株のうち1株を黄金株に変える、といったケースです。手順は以下のようになります。
- 株主総会で定款変更の特別決議を行う
まず、会社の定款に「黄金株(拒否権付種類株式)を発行できる」という旨の条項を追加します。どのような事項に拒否権を持たせるのか、その内容も具体的に定めます。この定款変更には、株主総会での特別決議(議決権の3分の2以上の賛成)が必要です。 - 対象株主と会社との間で合意書を締結する
株式の内容が黄金株に変わることについて、その株式を保有する株主と会社の間で合意書を取り交わします。 - 法務局で変更登記を申請する
定款の内容と発行済み株式の内容が変わったことを、法務局に届け出て登記します。
ケース2:新しく黄金株を発行する方法
既存の株式とは別に、新たに黄金株を発行する(第三者割当増資など)方法です。手順は以下の通りです。
- 株主総会で定款変更と募集事項の決定を行う
ケース1と同様に、まずは株主総会の特別決議で定款を変更します。それに加えて、新たに発行する黄金株の数、1株あたりの払込金額、払込期日などの「募集事項」も決議します。 - 引受人からの申し込みと株式の割り当て
黄金株を引き受ける人(例えば先代経営者)から申し込みを受け、会社が株式を割り当てます。 - 出資金の払い込み
引受人は、定められた期日までに会社に出資金を払い込みます。 - 法務局で変更登記を申請する
発行済みの株式数や資本金の額が変わったことなどを、法務局に届け出て登記します。
トラブル防止のために定款に盛り込みたい重要事項
黄金株は非常に強力なため、将来のトラブルを防ぐために、設定時に定款へいくつかのルールを定めておくことが非常に重要です。特に以下の点は検討しておきましょう。
- 譲渡制限:会社の承認なしに黄金株を他人に譲渡できないようにします。これにより、意図しない人物に黄金株が渡るのを防ぎます。
- 取得条項:「保有者が死亡した場合」や「保有者が認知症などで意思表示ができなくなった場合」など、特定の条件が発生したときに、会社がその黄金株を強制的に買い取れる(取得できる)ように定めておきます。これにより、相続による経営の混乱リスクを回避できます。
- 拒否権の範囲と有効期限:拒否権を行使できる事項を限定したり、「事業承継から5年間」のように有効期限を設けたりすることで、拒否権の濫用を防ぐことができます。
黄金株の相続税評価はどうなる?
これほど強力な権利を持つ黄金株ですが、相続が発生した際の税金計算(相続税評価)はどのようになるのでしょうか。実は、国税庁の見解によると、「黄金株の拒否権という特別な権利は、相続税評価額の計算上は考慮しない」とされています。つまり、黄金株は普通株式と全く同じ価値として評価されるのです。
| 黄金株の権利 | 非常に強力な経営への拒否権 |
| 黄金株の相続税評価 | 拒否権は評価に加味されず、普通株式と同じ価額で評価される |
このルールがあるため、経営権を確保するための黄金株を1株だけ残し、価値が高い他の普通株式を生前に後継者へ贈与しておくことで、相続税対策として活用されるケースもあります。ただし、税務に関する判断は非常に専門的ですので、必ず税理士などの専門家にご相談ください。
まとめ
今回は、黄金株の設定方法について、その基本からメリット・デメリット、具体的な手続きまで詳しく解説しました。黄金株は、円滑な事業承継や敵対的買収からの会社防衛において、非常に有効な手段となり得ます。たった1株で会社の未来を守る力を持つ、まさに「切り札」のような株式です。
しかし、その力が強すぎるゆえに、使い方を誤ると経営の停滞や親族間のトラブルを引き起こす可能性もはらんでいます。黄金株の導入を検討される際は、この記事の内容を参考にしつつ、弁護士や司法書士、税理士といった専門家と十分に相談しながら、自社の状況に合わせた最適な設計を行うことが成功のカギとなります。会社の未来のために、慎重に、そして戦略的に準備を進めていきましょう。
参考文献
黄金株(拒否権付種類株式)のよくある質問まとめ
Q.黄金株とは何ですか?
A.重要な議案に対して拒否権を持つ特別な株式(種類株式)のことです。正式には「拒否権付種類株式」といい、1株でも保有していれば株主総会の決議を覆すことができる強力な株式です。
Q.黄金株はどのような目的で使われますか?
A.主に事業承継やM&Aの場面で利用されます。経営者が後継者に株式譲渡後も、黄金株を保有することで会社の重要な意思決定に関与し続けることができます。
Q.黄金株を設定するメリット・デメリットは何ですか?
A.メリットは経営の安定化や敵対的買収の防止です。デメリットは、後継者の経営の自由度を奪ったり、黄金株を持つ株主が亡くなった際の相続で問題が発生する可能性がある点です。
Q.黄金株を発行するにはどうすればよいですか?
A.定款に黄金株に関する規定(発行可能株式総数、拒否権の内容など)を定め、株主総会の特別決議を経る必要があります。その後、法務局で変更登記の手続きを行います。
Q.黄金株の拒否権はどんなことに使えますか?
A.定款で定めた事項に対して行使できます。例えば、「取締役の選解任」や「会社の合併・分割」など、会社の根幹に関わる重要な議案を対象に設定できます。
Q.黄金株を廃止するにはどうすればよいですか?
A.黄金株を持つ株主から株式を買い取る、または定款を変更して黄金株の規定を削除するなどの方法があります。いずれも株主総会の決議など所定の手続きが必要です。