ご家族が経営されている会社の株式を相続する際、その評価額の計算はとても複雑ですよね。特に、会社が不動産を持っていると、「この建物の評価はどうなるんだろう?」と疑問に思うことも多いのではないでしょうか。中でも、「会社が建物を買ってから3年経っていない場合、相続税の計算では帳簿価額(簿価)で評価していいの?」というご質問をよくいただきます。今回は、この疑問に焦点を当てて、同族会社が保有する建物の相続税評価額のルールについて、優しく解説していきますね。
同族会社株式の相続税評価の基本
まず、相続税の話をする前に、前提となる同族会社の株式(法律上は「取引相場のない株式」といいます)の評価方法について、簡単におさらいしましょう。会社の株式を評価する方法は、会社の規模などによって変わりますが、主に「純資産価額方式」という方法が重要になります。
純資産価額方式ってどんな計算?
純資産価額方式とは、とてもシンプルに言うと、「もし、今この会社を解散したら、株主の手元にいくら残るか?」という考え方で株価を計算する方法です。具体的には、会社の持っているすべての資産を相続税のルールで評価し直し、そこから負債を差し引いて、残った純資産額を株式数で割って1株あたりの価額を算出します。
この「資産を相続税のルールで評価し直す」という点が、今回のテーマの重要なポイントになります。
通常、建物の相続税評価額はどうやって決まるの?
会社が保有している建物も、もちろん資産の一つです。純資産価額方式で計算する場合、この建物の評価額は、原則として固定資産税評価額を使います。これは、毎年市町村から送られてくる固定資産税の納税通知書に記載されている金額のことですね。多くの場合、実際に購入した金額(取得価額)よりも低い金額になる傾向があります。
| 評価の原則 | 固定資産税評価額 |
| 評価額の傾向 | 一般的に、実際の購入価額より低くなることが多いです。 |
【本題】取得から3年以内の建物の評価はどうなる?
ここからが本題です。もし、会社が建物を取得してから相続が発生するまでの期間が3年以内だった場合、評価のルールが変わります。この場合、残念ながら固定資産税評価額を使うことはできません。
答え:簿価ではなく「通常の取引価額(時価)」で評価します
結論から言うと、相続開始前3年以内に取得した建物は、固定資産税評価額ではなく、「通常の取引価額」で評価しなければならない、という特別なルールが定められています。
「通常の取引価額」とは、いわゆる「時価」のことです。もし第三者とその建物を売買するとしたらいくらになるか、という客観的な価値を指します。
では、建物の時価はどうやって計算するのでしょうか?実務上は、その建物の取得価額から、取得時から相続開始時までの減価償却費相当額を差し引いた金額を目安とすることが一般的です。これは会計上の簿価と近い金額になることが多いですが、あくまで税法上の「時価」を算定している、という点が異なります。
なぜ3年以内だとルールが変わるの?
「どうしてそんな面倒なルールがあるの?」と思いますよね。このルールが設けられた背景には、相続税の節税対策への配慮があります。
先ほどお伝えしたように、建物の固定資産税評価額は、実際の購入価額より低くなることが多いです。もし、亡くなる直前に会社が高額な建物を購入し、すぐに低い固定資産税評価額で株価を計算できてしまうと、会社の純資産が大きく下がり、結果として株式の評価額も不当に低くなってしまいます。このような相続税の過度な節税(租税回避)を防ぐために、「取得から3年以内」という期間を設けて、その間は時価で評価することになっているのです。
評価方法の違いで株価はどれくらい変わる?
では、評価方法が違うと、会社の純資産額、ひいては株価にどれくらい影響が出るのでしょうか。簡単な例で見てみましょう。
例えば、ある同族会社が1億円で建物を購入し、その建物の固定資産税評価額が7,000万円だったとします。
| ケース | 建物の評価額 |
| 取得から3年経過後に相続発生 | 7,000万円(固定資産税評価額) |
| 取得から3年以内に相続発生 | 約1億円(通常の取引価額) |
この場合、建物の評価額だけで3,000万円もの差が生まれます。この差額がそのまま会社の純資産額に反映されるため、株式の評価額も大きく変わってくることがお分かりいただけるかと思います。もしこのルールを知らずに固定資産税評価額で申告してしまうと、後から税務調査で指摘され、追加の税金(過少申告加算税や延滞税)が発生するリスクがあります。
「3年以内」のカウント方法と注意点
この特別なルールを適用するにあたって、いくつか知っておきたい注意点があります。
いつからいつまでが「3年以内」?
「3年以内」の期間は、相続が開始した日(被相続人が亡くなった日)を基準に、そこから遡って3年以内に取得した不動産が対象となります。
例えば、相続開始日が2024年10月1日だった場合、2021年10月1日以降に会社が取得した建物がこのルールの対象になる、ということです。
建物だけでなく土地も対象です
この「3年以内ルール」は、建物だけでなく土地にも適用されます。土地の場合、通常の取引価額は一般的に取得価額そのものや、近隣の売買事例などを参考にした時価となります。土地も建物と同様に、取得後3年以内であれば、路線価や固定資産税評価額ではなく時価で評価する必要があるため、注意が必要です。
専門家への相談が何より大切です
ここまで見てきたように、同族会社が保有する不動産の評価、特に取得から間もない資産の評価には、専門的な知識が不可欠です。
個人の相続財産にも同様のルールがあります
ちなみに、この「3年以内」のルールは、会社が所有する資産だけでなく、亡くなった方が個人で所有していた不動産にも適用されます。例えば、相続税の軽減が受けられる「小規模宅地等の特例」の適用を考える際にも、このルールが関係してくる場合がありますので、覚えておくとよいでしょう。
迷ったら必ず税理士に相談を
非上場株式の評価は、相続税申告の中でも特に難易度が高い分野です。計算を一つ間違えるだけで、納税額が大きく変わってしまうことも少なくありません。ご自身で判断に迷う場合はもちろん、少しでも不安な点があれば、必ず相続に詳しい税理士などの専門家に相談することをおすすめします。
まとめ
今回は、「同族会社が取得後3年以内に保有する建物の相続税評価額」について解説しました。最後にポイントを振り返っておきましょう。
- 同族会社の株式を「純資産価額方式」で評価する際、会社が保有する建物の評価額が重要になります。
- 建物は原則として「固定資産税評価額」で評価しますが、相続開始前3年以内に取得した建物は例外です。
- 取得後3年以内の建物は、簿価や固定資産税評価額ではなく「通常の取引価額(時価)」で評価しなければなりません。
- このルールは、相続税の過度な節税を防ぐために設けられています。
- 評価方法を誤ると納税額に大きな影響が出るため、必ず専門家である税理士に相談しましょう。
大切なご家族が築き上げてきた会社を円満に引き継ぐためにも、正しい知識を持って、適切な相続税申告を行いましょう。
参考文献
国税庁 純資産価額方式により評価する場合の3年以内に取得した土地等の評価
同族会社の建物評価に関するよくある質問まとめ
Q. 同族会社が取得から3年以内に相続が発生した場合、その会社が持つ建物の相続税評価はどうなりますか?
A. 純資産価額の計算上、建物の評価額は固定資産税評価額ではなく、取得価額(簿価)となります。
Q. なぜ取得後3年以内の建物の評価額は、固定資産税評価額ではなく取得価額になるのですか?
A. 不動産の取得価額と固定資産税評価額の差額を利用した過度な相続税対策を防ぐため、税制改正でルールが変更されたからです。
Q. この「3年以内ルール」は土地にも適用されますか?
A. いいえ、このルールは建物のみに適用され、土地は原則通り路線価方式などで評価します。
Q. 純資産価額方式とは何ですか?
A. 非上場株式の相続税評価額を計算する方法の一つで、会社の資産を相続税評価に置き換えて株価を算出する方法です。
Q. 建物を取得してから3年を過ぎていれば、評価方法は変わりますか?
A. はい、取得から3年を超えていれば、原則通り建物の評価額は固定資産税評価額を基に計算します。
Q. このルールはいつから適用されていますか?
A. 平成30年(2018年)4月1日以後に取得された建物で、平成30年1月1日以後の相続または贈与から適用されています。