会社のオーナー経営者の方にとって、事業承継や相続はとても大きな課題ですよね。特に、ご自身の会社の株式(非上場株式)の評価額が思ったより高くて、相続税の負担が心配…という方も多いのではないでしょうか。そんな時に知っておきたいのが「37%控除」というキーワードです。これは、非上場株式の相続税評価額を計算するときに登場する、とても大切な仕組みなんです。今回は、この「37%控除」が一体何なのか、どうして重要なのかを、わかりやすく解説していきますね。
37%控除とは?非上場株式の相続税評価で使われる仕組み
37%控除とは、かんたんに言うと、非上場株式の価値を計算するときに、会社の資産に含まれる「含み益」から、将来支払うことになるであろう法人税などの税金分をあらかじめ差し引いてくれる制度のことです。この制度は、非上場株式の評価方法のひとつである「純資産価額方式」で使われます。
会社が持っている土地や有価証券は、買った時(帳簿価額)よりも価値が上がっている(時価)ことが多いですよね。この価値が上がった部分を「含み益」と呼びます。もし会社を解散してこの資産を売却したら、この含み益に対して法人税がかかります。37%控除は、その税金分をあらかじめ評価額から引いてくれる、というわけです。
なぜ「37%」なの?
「37%」という数字は、会社が資産を売却して利益が出た場合にかかる法人税、地方法人税、住民税、事業税といった税金の実効税率を考慮して定められています。これはあくまで計算上の「みなし税率」で、実際にこの税率で課税されるわけではありませんが、株式の評価においては、この37%という数字を使って計算することになっています。
| 控除率 | 37% |
| 根拠 | 法人税・地方法人税・住民税・事業税などの実効税率を基にしたみなしの税率 |
どんな時に使えるの?純資産価額方式の計算式
37%控除は、会社の純資産(資産から負債を引いたもの)を基準に株価を計算する「純資産価額方式」で使われます。計算式は以下の通りです。
1株あたりの純資産価額 = (相続税評価額による総資産 - 負債総額 - 評価差額に対する法人税額等相当額) ÷ 発行済株式数
この計算式の中の「評価差額に対する法人税額等相当額」が、まさに37%控除のことです。具体的には、「評価差額(含み益)× 37%」で計算されます。
評価差額(含み益)は、「相続税評価額で計算した純資産価額」から「帳簿価額の純資産価額」を差し引いて求めます。この含み益が大きければ大きいほど、37%控除の効果も大きくなるんです。
37%控除の目的は「二重課税の防止」
もしこの37%控除がなかったら、どうなるでしょうか。会社の資産の含み益に対して、将来的に法人税が課税される可能性があります。その含み益が含まれたままの株式の評価額に対して、さらに相続税が課税されてしまうと、同じ利益に対して二重に税金がかかってしまうことになります。37%控除は、このような二重課税を防ぐために設けられている、とても合理的な制度なんですね。
非上場株式の評価方法をおさらいしよう
37%控除をより深く理解するために、非上場株式の主な評価方法について簡単におさらいしておきましょう。評価方法は、主に会社の規模によってどの方式を使うかが決まります。
類似業種比準方式とは?
あなたの会社と事業内容が似ている上場企業の株価を参考にして、自社の株価を評価する方法です。主に、会社の「配当」「利益」「純資産(簿価)」の3つの要素を、類似業種の上場企業と比較して計算します。業績が好調な会社ほど、評価額は高くなる傾向があります。
純資産価額方式とは?
「もし今、会社を解散したら株主の手元にいくら残るか?」という清算価値に着目した評価方法です。会社の資産をすべて相続税評価額に置き換え、そこから負債を差し引いて純資産を計算します。そして、この記事のテーマである37%控除が使われるのが、この純資産価額方式です。資産を多く持っている会社や、含み益の大きい資産を持っている会社は評価額が高くなりがちです。
会社の規模で評価方法は変わる(併用方式)
実際には、会社の規模(従業員数や総資産額、取引金額など)に応じて、上記2つの方式を組み合わせて評価することがほとんどです。これを「併用方式」と呼びます。一般的に、会社規模が大きいほど類似業種比準方式の割合が高くなります。
| 会社の規模 | 評価方式 |
| 大会社 | 類似業種比準方式 |
| 中会社 | 類似業種比準方式と純資産価額方式の併用(割合は会社の規模で変動) |
| 小会社 | 類似業種比準方式と純資産価額方式の併用、または純資産価額方式 |
37%控除を最大限に活用する相続税対策
37%控除は、会社の資産の「含み益」が大きいほど控除額も大きくなり、節税効果が高まります。この仕組みを上手に利用することで、相続税対策につなげることが可能です。
対策の基本:含み益の存在を意識する
まず大切なのは、自社の資産にどれくらいの含み益があるのかを把握することです。特に、昔から所有している土地や、購入時から価値が上がった有価証券などは、大きな含み益を抱えている可能性があります。この含み益こそが、37%控除を活用する上でのポイントになります。
具体策①:持株会社(ホールディングス)化する
相続税対策としてよく用いられるのが、持株会社を設立する方法です。事業を行っている会社の株式を、新しく設立した持株会社に移し、オーナーは持株会社の株主になります。こうすることで、オーナーが直接事業会社の株式を持っているのではなく、持株会社を通して間接的に保有する形になります。
この場合、オーナーの相続財産は「持株会社の株式」です。その持株会社の株式を純資産価額方式で評価する際に、持株会社が保有する「事業会社の株式」の含み益に対して37%控除が適用できます。結果として、事業会社の成長による株価の上昇を直接受けずに、株価評価を抑制する効果が期待できるのです。
具体策②:含み益のある資産を子会社に移転する
含み益が非常に大きい不動産などを会社が所有している場合、その不動産を切り出して子会社を設立し、そこに移転するという方法もあります。これを会社分割といいます。
親会社は不動産を直接保有する代わりに「子会社の株式」を保有することになります。この子会社株式の評価において37%控除を活用できるため、親会社の純資産評価額を下げ、結果的に親会社の株価を引き下げる効果が見込めます。ただし、この方法は税務上複雑な手続きが必要になるため、専門家との慎重な検討が不可欠です。
37%控除が使えない!注意すべきケース
とても便利な37%控除ですが、いつでも使えるわけではありません。特に注意が必要なケースをいくつかご紹介します。
評価差額がマイナス(含み損)の場合
37%控除は、あくまで資産の価値が上がっている「含み益」に対する控除です。もし、バブル期に購入した不動産が値下がりしているなど、資産の評価差額がマイナス、つまり「含み損」になっている場合は、控除額はゼロとなり、37%控除の適用はありません。
子会社や関連会社の株式を評価する場合
これはとても重要なポイントです。例えば、親会社の株価を純資産価額方式で評価する際に、その親会社が保有している子会社株式の含み益に対して37%控除を適用したとします。その後、その評価の過程で子会社の株価を純資産価額方式で計算する必要が出てきた場合、子会社の資産の含み益に対して、もう一度37%控除を適用することはできません。
つまり、37%控除は評価対象となる会社(この場合は親会社)を評価するときの一度きりしか使えず、その子会社や孫会社の評価で重ねて使うこと(二重控除)は認められていないのです。
特定の評価会社に該当する場合
総資産に占める株式や土地の割合が非常に高い会社は、「株式保有特定会社」や「土地保有特定会社」と呼ばれることがあります。これらの会社に該当すると、株価の評価方法が原則として純資産価額方式に限定されたり、37%控除の計算が通常と異なったりする場合があります。自社がこれらの会社に該当しないか、事前に確認しておくことが大切です。
37%控除に関するよくある質問
ここでは、37%控除についてよくいただくご質問にお答えします。
Q. 税制改正で37%という税率は変わりませんか?
A. はい、変わる可能性はあります。37%という数字は、その時々の法人実効税率を基に定められています。今後、法人税率が大きく変わるような税制改正があれば、この控除率も見直される可能性があります。常に最新の情報を確認することが大切です。
Q. 37%控除を活かした対策は自分でできますか?
A. 37%控除の仕組み自体はシンプルに感じられるかもしれませんが、ご紹介した持株会社化や会社分割といった組織再編が絡む対策は、会社法や税法の専門的な知識が不可欠です。税務上のリスクを避けるためにも、ご自身だけで判断せず、必ず事業承継に詳しい税理士などの専門家にご相談ください。
Q. 控除を適用するために何か特別な手続きは必要ですか?
A. 相続税の申告において、37%控除を適用するための特別な申請手続きというものはありません。相続税申告書に添付する「取引相場のない株式(出資)の評価明細書」を作成する過程で、純資産価額方式を選択した場合に、計算ルールに従って自動的に適用されるものです。
まとめ
今回は、非上場株式の相続税対策の鍵となる「37%控除」について詳しく解説しました。最後にポイントを振り返ってみましょう。
- 37%控除は、非上場株式を純資産価額方式で評価する際に、資産の含み益から法人税等相当額を差し引く制度です。
- 主な目的は、法人税と相続税の二重課税を防止することです。
- 含み益が大きいほど控除額も大きくなるため、この仕組みを活かした相続税対策が可能です。
- 持株会社の設立などの対策は有効ですが、子会社評価で二重に控除できないなど、注意すべき点もあります。
- 事業承継や株価対策は非常に専門的な分野ですので、実行する際は必ず税理士などの専門家にご相談ください。
37%控除を正しく理解し、計画的な生前対策を進めることで、スムーズな事業承継と、大切な会社を次世代に引き継ぐための一助となれば幸いです。
37%控除に関するよくある質問まとめ
Q. 37%控除とは何ですか?
A. 「37%控除」という正式な税制度はありません。一般的に、所得税率が高い方がふるさと納税などの控除を利用した際に、実質的に37%程度のメリットが得られるケースなどを指して使われることがある俗称です。
Q. なぜ「37%」という数字が出てくるのですか?
A. 所得税率と住民税率、そして利用する控除制度(例:ふるさと納税の返礼品)を組み合わせた際の実質的なメリット率が、特定の高所得者層において約37%に近くなる場合があるためです。個人の所得や利用する制度によってこの数値は変動します。
Q. 誰でも37%の控除(メリット)を受けられますか?
A. いいえ、誰でも受けられるわけではありません。メリットの大きさは、ご自身の所得税率や利用する控除制度によって大きく変わります。一般的に所得が高い方ほど、節税効果は大きくなる傾向にあります。
Q. 37%控除(メリット)を受けるには具体的に何をすれば良いですか?
A. 主に「ふるさと納税」の活用が考えられます。ご自身の年収に応じた控除上限額の範囲内で寄付を行うことで、税金の控除と返礼品を受け取れます。その他、iDeCo(個人型確定拠出年金)なども高い節税効果が期待できます。
Q. ふるさと納税の控除上限額はどうやって調べられますか?
A. 多くのふるさと納税ポータルサイトにあるシミュレーターで、年収や家族構成を入力することで簡単に目安を知ることができます。より正確な金額は、源泉徴収票などをもとに計算する必要があります。
Q. 37%控除(メリット)を受ける際の注意点はありますか?
A. ふるさと納税の場合、控除上限額を超えて寄付した分は自己負担となります。また、確定申告が必要になるケースもありますので、ご自身の状況を正しく把握し、制度を理解した上で活用することが重要です。