ご家族が亡くなられた後の相続手続きで「被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本を一式集めてください」と言われ、戸惑っていませんか?普段あまり馴染みのない戸籍集めは、多くの方がつまずきやすいポイントです。この記事では、なぜこの一連の戸籍が必要なのか、どうやって取得すればいいのか、その目的と具体的な手順を、初心者の方にも分かりやすく解説していきます。
出生から死亡までの戸籍とは?
「出生から死亡までの戸籍」とは、文字通り、亡くなった方(被相続人)が生まれてから亡くなるまでの身分事項(出生、結婚、離婚、養子縁組、転籍、死亡など)がすべて記載された一連の戸籍書類のことを指します。戸籍は法律の改正や、結婚・本籍地の移動(転籍)などによって新しいものに作り替えられていきます。そのため、1人の方でも複数の戸籍が存在することがほとんどです。これらを過去に遡ってすべて集めたものが「出生から死亡までの一連の戸籍」となります。
なぜ「出生から死亡まで」の戸籍が必要なの?
相続手続きでこの一連の戸籍が必ず必要になる最大の理由は、「法的に相続人となる人を全員確定させるため」です。遺産分割協議は、相続人全員の合意がなければ成立しません。もし、ご家族も知らなかった相続人(例えば、前妻との間の子や認知した子など)がいた場合、その人を除いて進めた手続きはすべて無効になってしまいます。そうしたトラブルを防ぎ、すべての相続人を正確に把握するために、出生から死亡までの連続した戸籍を辿って、子や親、兄弟姉妹などの関係性を公的に証明する必要があるのです。
どんな種類があるの?
一連の戸籍集めでは、主に以下の3種類の戸籍謄本を取得することになります。それぞれ役割が異なります。
証明書の種類 | 内容 |
戸籍謄本(全部事項証明書) | 現在効力のある戸籍です。コンピュータ化された後の戸籍は「戸籍全部事項証明書」と呼ばれます。 |
除籍謄本(除籍全部事項証明書) | 結婚や死亡、転籍などによって、戸籍に記載されている人が全員いなくなった状態の戸籍です。 |
改製原戸籍謄本(かいせいげんこせき・はらこせき) | 法律の改正によって戸籍の様式が新しく作り替えられる前の、古い様式の戸籍です。法改正前の情報(離婚や認知など)が記載されていることがあります。 |
誰の戸籍まで集める必要がある?
基本的には、亡くなった被相続人の出生から死亡までの戸籍を集めます。しかし、相続のパターンによっては、さらに他の親族の戸籍が必要になるケースがあります。
- 子が相続人の場合:被相続人の出生から死亡までの戸籍のみで相続人を確定できます。
- 親が相続人の場合:被相続人の出生から死亡までの戸籍が必要です(子がいないことを証明するため)。
- 兄弟姉妹が相続人の場合:被相続人の出生から死亡までの戸籍に加えて、被相続人の両親それぞれの出生から死亡までの戸籍も必要になることがあります。また、亡くなっている兄弟姉妹がいれば、その方の出生から死亡までの戸籍(代襲相続人を確認するため)も必要です。
誰が相続人になるかによって集める範囲が変わるため、注意が必要です。
出生から死亡までの戸籍の取得方法
戸籍集めは、慣れていないと時間と手間がかかる作業です。ここでは、具体的な取得方法をステップごとに見ていきましょう。
取得できる人(請求権者)は誰?
戸籍は重要な個人情報のため、誰でも取得できるわけではありません。請求できるのは、原則として以下の人たちです。
- 戸籍に記載されている本人
- その配偶者
- その直系の血族(祖父母、父母、子、孫など)
- 委任状を持った代理人
- 弁護士、司法書士などの専門家(職務上の請求)
- 正当な権利や義務がある第三者(例:相続人、債権者など)
相続手続きのために相続人が請求する場合は、正当な権利があるため問題なく取得できます。
どこで取得できるの?
戸籍は、その戸籍が編製された時点での「本籍地」の市区町村役場で取得します。本籍地は住所と異なる場合が多いので注意しましょう。
- 窓口で取得:本籍地の市区町村役場の窓口で直接請求します。
- 郵送で取得:本籍地が遠い場合は、郵送で請求することも可能です。
- 戸籍の広域交付制度(2024年3月1日開始):この制度により、本籍地以外の市区町村役場の窓口でも、他の自治体の戸籍謄本等(除籍謄本、改製原戸籍謄本を含む)をまとめて請求できるようになりました。これにより、複数の役所を回ったり、郵送請求をしたりする手間が大幅に軽減されました。ただし、請求できる人が限られる(本人、配偶者、直系血族のみ)などの注意点があります。
取得に必要なものは?
取得方法によって必要なものが異なります。
窓口で請求する場合 | 郵送で請求する場合 |
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取得にかかる費用は?
戸籍の証明書の発行には手数料がかかります。一般的には以下の通りです。
証明書の種類 | 手数料(1通あたり) |
戸籍謄本(全部事項証明書) | 450円 |
除籍謄本・改製原戸籍謄本 | 750円 |
出生まで遡ると、平均して4〜6通程度、多い方だと10通以上になることもあります。手数料の合計は数千円になることを見込んでおくと良いでしょう。
取得の流れをステップで解説
戸籍を遡って集める作業は、以下の流れで進めます。
- 【Step1】最新の戸籍(除籍謄本)を取得する
まずは、被相続人の最後の本籍地で「除籍謄本」を取得します。もし本籍地がわからない場合は、被相続人の最後の住所地の役所で「住民票の除票(本籍地記載あり)」を取得すれば確認できます。 - 【Step2】取得した戸籍の内容を確認し、一つ前の本籍地を特定する
取得した戸籍謄本には、「どこから転籍してきたか(従前戸籍)」という情報が記載されています。この情報を元に、一つ前の本籍地と筆頭者を確認します。 - 【Step3】一つ前の本籍地の役所で戸籍を請求する
Step2で特定した一つ前の本籍地の役所に対して、戸籍(除籍謄本または改製原戸籍謄本)を請求します。 - 【Step4】出生時の戸籍にたどり着くまで繰り返す
Step2とStep3の作業を、被相続人の「出生」の記載がある戸籍にたどり着くまで何度も繰り返します。これでようやく「出生から死亡までの戸籍」一式が揃います。
出生から死亡までの戸籍が必要になる主な目的
集めた戸籍は、様々な相続手続きで「相続関係を証明する公的書類」として提出を求められます。
相続手続き(遺産分割協議、相続登記など)
相続人全員で遺産の分け方を話し合う「遺産分割協議」を行う前提として、戸籍による相続人の確定が必須です。また、不動産の名義を被相続人から相続人へ変更する「相続登記」の手続きでは、法務局への提出が法律で義務付けられています。
相続税の申告
遺産総額が基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を超える場合、相続税の申告が必要になります。この法定相続人の数を正確に証明するために、税務署へ一連の戸籍を提出する必要があります。
金融機関での手続き(預貯金の解約・名義変更)
銀行や証券会社などの金融機関で、被相続人名義の預貯金の解約や払い戻し、名義変更を行う際に、相続人であることを証明するために提出を求められます。金融機関はトラブル防止のため、厳格に相続関係を確認します。
その他の手続き(保険金の請求、年金手続きなど)
上記以外にも、生命保険金の請求、遺族年金の手続き、自動車の名義変更など、様々な場面で出生から死亡までの戸籍の提出が必要になることがあります。
戸籍集めでよくある疑問・注意点
初めて戸籍集めをする方がつまずきやすいポイントと、その対処法について解説します。
本籍地がわからない場合はどうする?
被相続人の本籍地がわからない場合は、被相続人の最後の住所地の役所で「住民票の除票」を「本籍地の記載あり」で請求してください。そこに記載されている本籍地が、戸籍集めのスタート地点になります。
戸籍を読み解くのが難しい…
特に古い「改製原戸籍」は手書きで、達筆な草書体で書かれていることが多く、現代人には非常に読みにくい場合があります。また、戸籍の様式も複雑です。どうしても読み解けない場合は、役所の窓口で質問したり、無理せず司法書士などの専門家に相談したりすることをおすすめします。
専門家(司法書士や行政書士)に依頼するメリットは?
「自分で集めるのは時間も手間もかかって大変そうだ」と感じた場合は、司法書士や行政書士といった専門家に戸籍収集を依頼することも有効な選択肢です。専門家は職務上請求権を持っているため、委任状なしでスムーズに戸籍を取得できます。費用はかかりますが、遠方の役所とのやり取りや複雑な戸籍の読み解きも含めてすべて任せられるため、時間と労力を大幅に節約でき、その後の相続手続きも円滑に進められるという大きなメリットがあります。
まとめ
「出生から死亡までの戸籍」は、相続人を法的に確定させ、あらゆる相続手続きをスムーズに進めるための、いわば「相続のパスポート」のような非常に重要な書類です。取得には本籍地を一つずつ遡っていく地道な作業が必要で、時間と手間がかかることも少なくありません。しかし、本記事で解説した手順に沿って一つずつ進めていけば、ご自身で集めることも十分可能です。もし手続きが難しいと感じたり、時間がなかったりする場合には、専門家の力を借りることも検討してみてください。まずは第一歩として、最新の戸籍(除籍謄本)の取得から始めてみましょう。
【参考文献】
出生から死亡までの戸籍に関するよくある質問まとめ
Q. 出生から死亡までの戸籍(戸籍一式)とは何ですか?
A. 故人が生まれてから亡くなるまでの身分事項(出生、結婚、離婚、転籍、死亡など)がすべて記載された、一連の戸籍謄本・除籍謄本・改製原戸籍謄本のことです。
Q. なぜ出生から死亡までの戸籍が必要なのですか?
A. 主に相続手続き(遺産分割協議、不動産の名義変更、預貯金の解約など)で、法律上の相続人を確定するために必要となります。他に、遺言書の検認や相続放棄の手続きでも使われます。
Q. 出生から死亡までの戸籍はどのように集めればよいですか?
A. まず、故人の最後の本籍地で戸籍謄本(除籍謄本)を取得します。次に、その戸籍に記載されている「従前戸籍(ひとつ前の本籍地)」をたどり、出生時の戸籍にたどり着くまで遡って請求を繰り返します。
Q. 誰でも出生から死亡までの戸籍を取得できますか?
A. 取得できるのは、原則として故人の配偶者、直系尊属(父母、祖父母)、直系卑属(子、孫)です。それ以外の人が請求する場合は、正当な理由や委任状が必要になります。
Q. 戸籍の取得にはどれくらいの費用がかかりますか?
A. 手数料は市区町村によって定められています。一般的に、戸籍謄本は1通450円、除籍謄本・改製原戸籍謄本は1通750円です。何通必要になるかは故人の経歴によって異なります。
Q. 本籍地が遠方だったり、集めるのが難しい場合はどうすればいいですか?
A. 全国の市区町村役場では郵送での請求が可能です。また、時間がない場合や手続きが複雑で難しいと感じる場合は、司法書士や行政書士などの専門家に依頼することもできます。