ご家族が亡くなられると、悲しみに暮れる間もなく、たくさんの手続きに追われますよね。中でも特に大変なのが「相続税申告」です。申告には、亡くなった方(被相続人)の財産を正確に把握する必要があり、そのために「通帳」がとても重要になります。でも、「一体何年分の通帳を確認すればいいの?」「どんな種類の通帳が必要なの?」と疑問に思う方も多いのではないでしょうか。この記事では、相続税申告で必要になる通帳について、税務調査のポイントも交えながら分かりやすく解説していきます。この記事を読めば、安心して申告準備を進められますよ。
相続税申告で確認すべき通帳の期間は?
相続税は、亡くなった日の財産額を基に計算されますが、申告の際には過去の通帳履歴の確認が不可欠です。なぜなら、税務署は預金残高だけでなく、そのお金がどのように増減したのか、つまり「お金の流れ」を重視するからです。不自然なお金の動きがあると、財産隠しや申告漏れを疑われ、税務調査につながる可能性があります。
最低でも7年、できれば10年分が安心
では、具体的に何年分の通帳を確認すればよいのでしょうか。一つの目安として「最低でも7年、できれば10年分」と考えておくと安心です。
これには、主に2つの理由があります。
- 生前贈与加算の期間が延長されたから
2024年1月1日以降の贈与から、亡くなる前の一定期間内に行われた生前贈与を相続財産に加算する(持ち戻す)期間が、従来の3年から7年に段階的に延長されました。そのため、少なくとも7年分のお金の動きは確認しておく必要があります。 - 金融機関の取引履歴保存期間が10年だから
税務署は、必要があれば金融機関に照会して過去の取引履歴を入手できます。多くの金融機関では、法律上の取引履歴の保存期間が10年となっています。税務署が10年遡って調査できる以上、私たちも同じ期間を確認しておけば、質問されても慌てず対応できます。
通帳がない場合は「取引履歴明細書」を取得しよう
「古い通帳は捨ててしまった」「見当たらない」という場合でも大丈夫です。その場合は、金融機関の窓口で「取引履歴明細書」や「入出金明細」を発行してもらいましょう。これは通帳の代わりになる正式な書類です。
ただし、発行には1週間から数週間程度の時間がかかることや、金融機関によっては1ヶ月あたり数百円といった手数料がかかる場合があります。相続税の申告期限(亡くなったことを知った日の翌日から10ヶ月以内)に間に合うよう、早めに手続きを始めましょう。
なぜそんなに長期間の確認が必要なの?
税務署は、亡くなった方の生前の所得状況を把握しています。例えば、長年高収入だったにもかかわらず、相続財産が極端に少ない場合、「申告していない財産(タンス預金や名義預金)があるのではないか?」と疑いの目を向けます。過去の通帳を確認し、大きな出費(不動産の購入、多額の医療費など)の理由を説明できるようにしておくことで、こうした疑いを晴らすことができ、税務調査のリスクを下げることができます。
誰の通帳を確認する必要があるの?
相続税申告で確認が必要なのは、亡くなった方の通帳だけではありません。場合によっては、財産を受け取る相続人の方々の通帳も確認が必要になります。
亡くなった方(被相続人)のすべての通帳
まず基本となるのが、亡くなった方が持っていたすべての預金通帳です。普通預金や定期預金はもちろん、当座預金、貯蓄預金なども対象です。最近増えているインターネット銀行の口座も忘れずに確認しましょう。通帳やキャッシュカードが見つからなくても、金融機関からの郵便物やメールなどが手がかりになることがあります。
相続人(財産を受け取る人)の通帳
相続人の通帳は、主に「生前贈与」や「名義預金」の有無を確認するために必要となります。亡くなった方の口座から相続人の口座へ不自然なお金の移動がないか、税務署は厳しくチェックします。例えば、毎年110万円に近い金額が振り込まれていたり、亡くなる直前にまとまったお金が移動していたりすると、贈与とみなされ、相続税の課税対象となる可能性があります。
税務署は通帳のここをチェックしている!
税務署は通帳のどこを重点的に見るのでしょうか。ポイントを知っておけば、事前に対策を立てやすくなります。
亡くなる直前の高額な出金
入院費や葬儀費用の支払いに備えて、亡くなる直前にまとまった現金を引き出すことはよくあります。しかし、その引き出した現金が亡くなった時点で手元に残っていた場合、それは「手許現金(てもときんげん)」として相続財産に含めて申告しなければなりません。引き出したお金の使い道(何にいくら使ったか)を領収書などで明確に説明できるようにしておくことが大切です。
家族・親族間の不自然なお金の動き
これが最も厳しくチェックされるポイントです。特に「名義預金」と「生前贈与」が疑われる取引は注意が必要です。
チェック項目 | 具体例と注意点 |
---|---|
名義預金 | お子さんやお孫さん名義の口座でも、亡くなった方がお金を出し、通帳や印鑑を管理していた場合は、実質的に亡くなった方の財産(=名義預金)とみなされ、相続税の対象となります。 |
生前贈与 | 亡くなる前7年以内に行われた贈与は、相続財産に加算して申告する必要があります。毎年110万円以下の贈与でも、定期的に行われていると「連年贈与」として一つのまとまった贈与とみなされる可能性もあります。 |
使途が不明な高額な入出金
通帳に数百万円単位の大きな入出金がある場合、その理由を必ず確認されます。例えば、高額な出金があれば「何に使ったのか?不動産や貴金属など、別の財産に形を変えていないか?」と問われます。逆に入金があれば「そのお金はどこから来たのか?申告漏れの収入ではないか?」と調査されます。お金の出入りには、すべて理由があると考えて準備しておきましょう。
保険料や配当金、家賃収入などの定期的な取引
定期的な取引履歴も、申告漏れの財産を発見する手がかりになります。
- 保険料の支払い:申告漏れの生命保険契約がないか
- 配当金の入金:申告漏れの株式や投資信託がないか
- 家賃の入金:申告漏れの不動産がないか
- 貸金庫の利用料:貸金庫の中に現金や貴金属が隠されていないか
これらの取引を見つけたら、関連する財産がきちんと申告されているか再確認しましょう。
税務調査で指摘されやすい「申告漏れ預金」
通帳の確認を通じて、税務署は特に次のような「申告漏れ」となりやすい預金の発見に力を入れています。
名義預金
「名義預金」は、相続税の税務調査で最も指摘が多い項目の一つです。たとえ口座の名義が配偶者や子、孫であっても、以下の特徴に当てはまる場合は故人の財産とみなされる可能性が非常に高いです。
判断ポイント | 内容 |
---|---|
資金の出どころ | 口座に入っているお金は、亡くなった方の収入や財産から出されたものか。 |
通帳・印鑑の管理者 | 通帳や印鑑を、亡くなった方が管理していなかったか。 |
口座の利用状況 | 口座名義人本人が、その口座の存在を知り、自由にお金を使える状態だったか。 |
これらの条件に当てはまる預金は、相続財産として正しく申告する必要があります。
タンス預金(手許現金)
通帳から頻繁に現金が引き出されているにもかかわらず、その使い道がはっきりしない場合、税務署は「タンス預金」として自宅に保管されているのではないかと推測します。税務署は故人の所得水準からおおよその資産額を把握しているため、「これくらいはバレないだろう」という安易な考えは非常に危険です。亡くなる直前の出金だけでなく、数年間にわたる現金引き出しの合計額が調査対象になることもあります。
相続開始前7年以内の生前贈与
先述の通り、2024年から贈与税のルールが変わり、相続開始前7年以内に相続人に対して行われた贈与は、相続税の課税対象となりました(以前は3年)。この改正は段階的に適用され、最終的に2031年1月1日以降の相続から完全に7年間の持ち戻し期間が適用されます。この期間内の贈与については、たとえ贈与税の基礎控除(年間110万円)の範囲内であっても、相続財産に加算して申告する必要があるため、注意が必要です。
税務調査を避けるための通帳準備のポイント
正確な申告を行い、税務調査のリスクを減らすために、以下のポイントを心がけましょう。
故人が利用していたすべての金融機関を洗い出す
まずは、亡くなった方が利用していた可能性のある金融機関をすべてリストアップすることから始めましょう。通帳やカード類だけでなく、古い手帳のメモ、カレンダーの書き込み、金融機関からの郵便物、パソコンのブックマークやメール履歴なども重要な手がかりになります。
不明な入出金はわかる範囲でメモを残す
取り寄せた取引履歴や通帳のコピーを見ながら、家族で記憶をたどり、わかる範囲で「〇〇の入院費」「△△へのお祝い金」など、入出金の目的をメモしておきましょう。税理士に相談する際や、万が一税務調査で質問された際に、スムーズに説明するための助けになります。
判断に迷ったら税理士に相談する
「このお金の動きは贈与にあたるの?」「名義預金かもしれない」など、ご自身での判断が難しい場合は、専門家である税理士に相談するのが最も安全で確実な方法です。専門家の視点で通帳をチェックしてもらうことで、申告漏れのリスクを大幅に減らし、精神的な負担も軽くなります。
まとめ
相続税申告における通帳の確認は、申告漏れを防ぎ、将来の税務調査に備えるための非常に重要な手続きです。最後にポイントを振り返りましょう。
- 確認する通帳の期間は、最低でも7年、できれば10年分を用意すると安心です。
- 確認対象は、亡くなった方のすべての通帳と、場合によっては相続人の通帳も含まれます。
- 税務署は、名義預金や生前贈与、使途不明金を厳しくチェックします。
- 古い通帳も大切な資料です。捨てずに保管しておきましょう。
- 通帳の確認や財産の評価で少しでも不安があれば、相続税に詳しい税理士に相談することが、円満な相続への一番の近道です。
大変な作業ですが、一つひとつ丁寧に進めていくことで、後のトラブルを防ぐことができます。この記事が、皆さまの相続手続きの一助となれば幸いです。
参考文献
相続税申告の通帳確認に関するよくある質問まとめ
Q.相続税申告で、亡くなった人の通帳は過去何年分を確認する必要がありますか?
A.明確な決まりはありませんが、税務署は少なくとも過去3~5年、場合によっては7~10年遡って調査することがあります。そのため、最低でも過去7年分は確認しておくと安心です。
Q.生前贈与の加算期間(3年、7年)と関係がありますか?
A.はい、密接に関係します。亡くなる前7年以内(2024年以降の贈与が対象)の贈与は相続財産に加算されるため、この期間の通帳確認は特に重要です。
Q.亡くなった人の通帳だけで大丈夫ですか?家族の通帳も見る必要がありますか?
A.はい、ご家族の通帳も確認が必要です。亡くなった方がご家族名義で管理していた預金(名義預金)は、実質的な相続財産とみなされる可能性があるためです。
Q.古い通帳が手元にない場合はどうすればいいですか?
A.金融機関で「取引履歴明細書」を取り寄せることができます。通常、過去10年程度まで遡って取得可能ですが、発行には手数料や時間がかかる場合があるため早めに手続きしましょう。
Q.なぜそんなに昔の通帳まで確認する必要があるのですか?
A.税務署が「申告漏れの生前贈与」や「名義預金」がないかを厳しくチェックするためです。不審な入出金があると、税務調査でさらに長期間の履歴を問われる可能性があります。
Q.通帳を確認するとき、特に何に注意すればいいですか?
A.「年間110万円を超える入出金」「家族へのまとまった金額の送金」「被相続人(故人)の筆跡での入出金」などを重点的に確認しましょう。これらは生前贈与や名義預金を疑われるポイントになります。