税理士法人プライムパートナーズ

自宅とアパートの相続税対策!
小規模宅地等の特例の併用方法を解説

2025-06-07
目次

ご両親が住んでいたご自宅と、家賃収入を得ていた投資用アパート。この二つの不動産を相続することになった場合、「相続税がいくらになるんだろう…」と不安に感じていらっしゃるかもしれません。実は、このようなケースで相続税の負担を大きく軽減できる「小規模宅地等の特例」という制度があります。しかし、ご自宅とアパートでは特例の扱いが異なり、併用する場合には少し複雑な計算が必要です。この記事では、ご自宅(特定居住用宅地)投資用アパート(貸付事業用宅地)がある場合の小規模宅地等の特例の適用方法について、具体例を交えながら分かりやすく解説していきます。

小規模宅地等の特例とは?まずは基本をおさらいしましょう

小規模宅地等の特例は、亡くなった方(被相続人)が住んでいた土地や事業をしていた土地などを相続した場合に、その土地の評価額を最大で80%も減額できる、とても節税効果の高い制度です。これは、相続によって生活の基盤や事業の継続が困難になることを防ぐ目的で設けられています。まずは、この特例がどのような土地に使えるのか、基本を確認しておきましょう。

特例の対象となる主な宅地の種類

小規模宅地等の特例が適用できる土地は、その利用状況によっていくつかの種類に分けられます。今回は特に、ご自宅と投資用アパートに関係する「特定居住用宅地等」と「貸付事業用宅地等」が重要になります。

宅地の種類 どのような土地か
特定居住用宅地等 亡くなった方がお住まいだったご自宅の敷地などです。
貸付事業用宅地等 亡くなった方が賃貸アパートや月極駐車場など、不動産貸付業のために使っていた土地です。
特定事業用宅地等 亡くなった方が個人商店や工場など、不動産貸付業以外の事業で使っていた土地です。

それぞれの限度面積と減額割合

宅地の種類によって、特例を適用できる面積の上限(限度面積)と、評価額をどれだけ減額できるか(減額割合)が決まっています。ご自宅とアパートでは、この割合が大きく異なる点がポイントです。

宅地の種類 限度面積 減額割合
特定居住用宅地等 330㎡まで 80%
貸付事業用宅地等 200㎡まで 50%

見ていただくと分かる通り、ご自宅(特定居住用宅地等)の方が、より広い面積で、より大きな割合の減額を受けられるようになっています。

自宅と投資用アパートの特例併用!限度面積の計算方法

「自宅は330㎡まで、アパートは200㎡まで、両方使えるの?」と思われるかもしれませんが、残念ながらそう単純ではありません。ご自宅(特定居住用宅地等)と投資用アパート(貸付事業用宅地等)のように、複数の種類の土地で特例を併用する場合、特に「貸付事業用宅地等」が含まれるケースでは、全体の限度面積に特別なルールが設けられています。

貸付事業用宅地等を含む場合の併用ルール

ご自宅と投資用アパートの敷地に特例を併用する場合、適用できる面積は次の計算式で求められる上限の範囲内となります。

(特定居住用宅地等の適用面積 × 200/330) + (貸付事業用宅地等の適用面積) ≦ 200㎡

この計算式が少しややこしいですよね。簡単に言うと、「自宅の面積は一定の調整計算をした上で、アパートの面積と合計して200㎡の枠に収めなければならない」ということです。それぞれの限度面積である330㎡と200㎡を単純に合計した530㎡まで適用できるわけではない、という点が最も重要なポイントです。

具体例で計算してみましょう

それでは、具体的な例で見ていきましょう。ここに、亡くなったお父様が遺した次の2つの土地があるとします。

  • ご自宅(特定居住用宅地等):165㎡
  • 投資用アパート(貸付事業用宅地等):100㎡

この2つの土地に特例を適用する場合、上記の計算式に当てはめてみましょう。

(自宅の面積 165㎡ × 200/330) + (アパートの面積 100㎡)
= 100㎡ + 100㎡
= 200㎡

計算結果は200㎡となり、上限である200㎡の枠にちょうど収まりました。このケースでは、ご自宅165㎡とアパート100㎡の両方について、それぞれの面積すべてに特例を適用することができます。

もし、ご自宅の面積が330㎡だった場合はどうでしょう。

(自宅の面積 330㎡ × 200/330) = 200㎡

この時点で上限の200㎡に達してしまうため、投資用アパートの敷地には特例を併用できなくなってしまいます。

どっちを優先?有利な選択をするためのポイント

先ほどの計算ルールから、「どの土地に、どれくらいの面積を適用するか」という選択によって、トータルの減額金額が変わってくることが分かります。相続税を最も安くするためには、どちらを優先して特例を適用するべきか、慎重に判断する必要があります。

基本は「減額割合が高い」ご自宅から

一般的には、減額割合が80%と高いご自宅(特定居住用宅地等)を優先的に適用した方が、節税効果は大きくなりやすいです。しかし、土地の評価額によっては、この限りではありません。

土地の評価額(1㎡あたりの単価)も考慮しよう

重要なのは、「1㎡あたりの評価額」です。例えば、ご自宅の土地単価は低いけれど、アパートは都心にあって土地単価が非常に高い、というケースも考えられます。このような場合は、減額割合が50%でも、アパートの土地を優先した方が有利になる可能性があります。

シミュレーションで有利な選択を見つけよう

どちらが有利になるかは、実際の土地の面積と評価額で計算してみないと分かりません。ここで、有利な選択が逆転するケースをシミュレーションしてみましょう。

【シミュレーション条件】

  • ご自宅(特定居住用宅地等):330㎡、評価額3,300万円(1㎡あたり10万円)
  • 投資用アパート(貸付事業用宅地等):200㎡、評価額1億円(1㎡あたり50万円)

パターンA:ご自宅を優先して適用する場合

ご自宅330㎡に特例を適用します。調整計算をすると、
330㎡ × 200/330 = 200㎡
となり、これだけで上限の200㎡を使い切ってしまいます。そのため、アパートには特例を適用できません。
評価額の減額金額:3,300万円 × 80% = 2,640万円

パターンB:投資用アパートを優先して適用する場合

アパート200㎡に特例を適用します。すると、上限の200㎡を使い切ってしまうため、ご自宅には特例を適用できません。
評価額の減額金額:1億円 × 50% = 5,000万円

【結論】
このケースでは、パターンB(投資用アパートを優先)の方が、減額金額が2,360万円も大きくなり、断然有利という結果になりました。このように、土地の評価額によっては有利な選択が変わるため、必ず複数のパターンでシミュレーションすることが大切です。

特例適用のための重要な注意点

小規模宅地等の特例は非常に強力な節税制度ですが、適用を受けるためには守らなければならないルールがいくつかあります。これらを見逃すと、特例が使えなくなってしまうこともあるので注意しましょう。

相続税の申告期限までに遺産分割を終えること

この特例を適用するためには、原則として相続税の申告期限(相続開始を知った日の翌日から10ヶ月以内)までに、誰がどの土地を相続するのかを決める「遺産分割協議」を終え、合意している必要があります。もし期限内に分割が決まらない場合は、一度特例を適用しないで納税し、後から分割が決まった際に更正の請求という手続きをすることになり、一時的に大きな負担が生じます。

相続人全員の同意が必要

どの土地に特例を適用するかは、相続人全員で話し合って決める必要があります。先ほどのシミュレーションのように、全体の相続税が最も安くなる選択をした結果、特定の相続人の税負担だけが重くなってしまうケースも考えられます。後々のトラブルを避けるためにも、全員が納得できる形で分割方法と特例の適用方法を決めることが重要です。

申告期限まで事業や居住を続けること

特例の適用を受ける相続人は、その土地を相続税の申告期限まで保有し続け、さらに事業や居住も継続している必要があります。例えば、アパートの敷地を相続した方が、相続後すぐにアパート経営をやめてしまったり、土地を売却してしまったりすると、特例の対象から外れてしまうので注意してください。

参考文献

まとめ

ご自宅と投資用アパートを相続した場合の小規模宅地等の特例について解説しました。ポイントをもう一度おさらいしましょう。

  • ご自宅(特定居住用宅地等)と投資用アパート(貸付事業用宅地等)には、小規模宅地等の特例を併用できる。
  • ただし、貸付事業用宅地等が含まれるため、適用できる面積には調整計算(合計で200㎡まで)という上限が設けられる。
  • 減額割合はご自宅が80%、アパートが50%と異なるため、どちらを優先して適用するかで節税額が大きく変わる可能性がある。
  • 有利な選択をするには、土地の面積だけでなく評価額も考慮したシミュレーションが不可欠。
  • 特例を確実に適用するためには、申告期限内の遺産分割など、手続き上のルールを守ることが大切。

このように、ご自宅と投資用アパートがある場合の小規模宅地等の特例の適用は、判断が非常に複雑になります。どの選択がご家族にとって最も良い結果になるかを見極めるためには、専門的な知識が欠かせません。少しでも不安な点があれば、ぜひお早めに相続に詳しい税理士にご相談ください。

自宅とアパート所有者のための小規模宅地等の特例 よくある質問まとめ

Q. 自宅と投資用アパートの両方に小規模宅地等の特例は使えますか?

A. はい、使えます。自宅の「特定居住用宅地等の特例」とアパートの「貸付事業用宅地等の特例」は併用できます。ただし、適用できる面積には上限があり、定められた計算式で限度面積を計算する必要があります。

Q. 自宅(特定居住用宅地)とアパート(貸付事業用宅地)の特例を併用する場合、限度面積はどう計算しますか?

A. 「特定居住用宅地の適用面積 + (貸付事業用宅地の適用面積 × 330 ÷ 200) ≦ 330㎡」の式で計算します。この計算式を満たす範囲内で、それぞれの土地に特例を適用することができます。

Q. 具体的な計算例を教えてください。例えば、自宅が150㎡、アパートが200㎡の場合はどうなりますか?

A. まず自宅150㎡(特定居住用)をすべて適用します。残りのアパート(貸付事業用)に適用できる面積は、「(330㎡ – 150㎡) × 200 ÷ 330 ≒ 109㎡」となります。この場合、アパートは200㎡のうち109㎡まで特例を適用できます。

Q. 自宅とアパート、どちらの特例を優先して適用した方が有利ですか?

A. 一般的に、減額割合が大きい自宅の「特定居住用宅地等の特例(80%減額)」を最大限適用する方が有利になるケースが多いです。貸付事業用宅地は50%減額のため、評価額や状況によりますが、まずは自宅から検討するのがセオリーです。

Q. 特例を受けるために、特に注意すべき要件はありますか?

A. はい。自宅は配偶者や同居親族が相続し、申告期限まで居住・所有を継続すること、アパートは相続人が事業を申告期限まで継続することなどが主な要件です。相続人の状況によって要件が細かく異なるため、専門家への相談をおすすめします。

Q. この特例を使うには、何か手続きが必要ですか?

A. はい、自動で適用されるわけではありません。相続税の申告書にこの特例の適用を受ける旨を記載し、計算明細書や住民票、戸籍の附票といった必要書類を添付して税務署に提出する必要があります。申告がなければ適用は受けられません。

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